ライン川を遡航、PC7改故郷に帰る
ライン川を遡航、PC7改故郷に帰る
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v2.4.0の正式リリース、おめでとうございます。
さっそくインストールしました。今回は、かなり大幅な機能向上が盛り込まれたようで、まだ分からない部分が多いものの、今後のフライトと、半年ごとに予告されているバージョンアップが楽しみです。
ただいま進めているロンドン=明石フライトは、当初の予定では今ごろ、ベルリンを通過してモスクワへ向かっているつもりでしたが、新バージョンが出たことで、手持ち機体の動作確認や調整が続き、しばらくは対応に追われそうです。特に今回はv2.4.0の機体リストに、愛機ピラタスPC7改の発展型にあたる、PC-9Mが新たに加わりました。これは以前から欲しかった機体の一つで、「ホントかっ!?」と、さっそくダウンロードして、現用機からの乗り換え準備に入りつつあります。見たところ非常に出来がよろしいので、あまり大改造はしないつもりですが、どっちみち
(1)天文航法用のフライト・コードラントを搭載
(2)軍用トレーナー塗装から、民間スポーツ機にリペイント
(3)視界や操縦性など、細かなチューニング
…は必要です。せっかくヨーロッパを飛んでいるので、遠回りにはなりますが、ピラタス社の本拠地へ行って作業することにしました。調べてみますと、スイス中央部の Buochs Stans(ブオクス・シュタンス)空港LSMUに、ピラタスの本社工場があります。ここは軍民両用の空港で、FlightGearのシーナリーでは、空軍基地のほうのICAOコード(LSZC)で登録されています。すぐそばには観光地・ピラトゥス山(2182m)があって、これがピラタス社の名前の由来です。
というわけで今回は、突然で恐縮ですが、前回到着したアムステルダムから、ライン川流域の大部分をさかのぼって、スイスへ向かう旅をご紹介します。ルートは以下の通りです。
◎アムステルダム・スキポール空港EHAM
▼128度97nm
◎デュッセルドルフ空港EDDL(ここからドイツ領)
▼150度29nm
◎ケルン・ボン空港EDDK
▼155度36nm
◎コブレンツEDRK(渓谷)
▼131度32nm
◎マインツ空港EDFZ(渓谷の出口の東。10nm手前の屈曲部がローレライの岩)
▼77度16nm
◎フランクフルト・アム・マイン空港EDDF
▼181度33nm
◎マンハイム空港EDFM(東にハイデルベルグNDB292)
▼202度45nm
◎カールスルーエ・バーデン・バーデン空港EDSB
▼197度75nm
◎バーゼル空港LFSB(ここからスイス領)
▼99度42nm
◎チューリヒ空港LSZH
▼191度30nm
◎Buochs Stans空港LSMU。磁気偏差=偏東1度 標高1475ft。
計435nm
大ざっぱに言いますと、初め3分の1が北海へ開けたオランダ・ドイツの平野、真ん中3分の1は川下り観光で有名な渓谷地帯、残りがスイスの山や谷、そして湖…といった世界になります。幸いヨーロッパは、まだ夏の上天気が続いていますので、基本的にはFlightGear非連動のAtlas画面を航空図に使い、景色と見比べて現在値を割り出しつつ進む、地文航法で飛びます。もちろん天文航法のテストも続けます。
●インストールと最初の感想、灯台の動作確認:
v2.0.0のアンインストール後、2.4.0を入れましたが、そのままでは起動しませんでした。私はあちこちに「待避」というサブフォルダを設けて、改造前のオリジナルファイルなどを入れていますが、Nasalフォルダ内に設けた「待避」フォルダがエラーを招いて、削除したところ解決しました。
起動後は、リアルウエザーが正常に働いたものの、
Error: connect() failed in make_client_socket()
SG_IO_OUT socket creation failed
NoaaMetarRealWxController::MetarLoadthread::requestMetar() more than 10 outstanding METAR reuests,dropping EHAM
と、繰り返し表示されました。これは旧バージョンのプロキシ設定が残っていたためで、記述を消したところ解決しました。他にあまり問題はなく、Saitekのジョイスティックも完全自動認識しています。
最初に、尾輪機としては操縦が非常に易しくなった(そして機体内外のディテールが、とてもリアルになった)パイパーカブを起動。アムステルダム空港EHAMから上がって、一回りして降りてみましたが、取りあえず感じたのは、以下の諸点です。
(1)AIトラフィックが目立って活発に。デフォルト滑走路でエンジン始動中、対向機が
離陸したり、着陸機が頭上をかすめることも多い(^^;)。
(2)METAR受信が安定した。
(3)色彩設計が変更され、特に逆光の物体が、やたらに黒っぽくなる不自然さが消えた。
v1.9.1によく似た、自然で鮮やかな発色に戻った。
(4)天球のライティングと色遣いが変わり、夕焼け・夕暮れの色彩変化が豊富になった。
いっぽう、薄暮・黎明が、ほぼ空の全周に広がったので、太陽を直接視認しない限り、
デフォルトでは方角が分からなくなった。
ただし、新しく設定されたSkydome Scattering機能のスライダを操作すると、天球の
明度や色調、明るさの分布とコントラストが調節可能で、太陽の位置も分かる。
今のところ、どこに合わせてもやや不自然だが
Mie factor=0.002 Rayleigh factor=0.0004 Density factor=0.6
あたりがベターか。
(ちなみに、Rendering optionの設定は、どうすれば保存されるのでしょう?)
(5)Shader関係が一層充実。私の環境では誤表示を起こしていた、Urban effectsが正常に
働くようになり、市街地テクスチャーのビルがそのまま立体化された。やや簡略な専用
パターンを使っていた前バージョンより、一段とリアルになった。
(私の環境では、チェックマークを入れるだけでは作動しませんでした。少し下にある
Performance vs Qualityスライダを動かす必要があります)
…ざっと印象をつかんだ後、まず地文航法を楽にするため、ABN(飛行場灯台)関係のファイルを改造品に取り替えて、遠くからでも視認可能に変更しました。
ところが、どういじってもなかなか、改造結果が反映されません。私は従来通り、Data/Models/Airport 内のファイルを操作したのですが、Ver.2.4.0ではどうやら、Terrasyncフォルダのパス内にもあるbeacon.xmlを、優先的に使っているようです。これが判明するまで、惨憺たる試行錯誤を重ねましたが、あとは簡単で、なぜか不透明になっていたHalo(光芒)を透過率9割の白い円錐形にして、調整完了です。これでやっと、スイスへ向かうことが出来ます…。
●新バージョンでも、天測に成功:
フライトシミュレーターの天文航法は引き続き、私の大きなテーマですので、v2.4.0でも太陽の天測に問題はないか、非常に気になっていました。
ピラタスPC7改を使って、アムステルダムのスキポール空港で地上テストをしたところ、正午の太陽高度角と南中時刻を計る、ベーシックな「子午線高度緯度法」で求めた緯度経度の誤差は、緯度が+9秒とGPS並み、経度は+8分45秒と出ました。緯度は相変わらず驚異的精度で、経度も「10分角だけ過大に出るので、機械的に修正すべし」という経験則を当てはめると、マイナス1分15秒(=1.15nm)の狂いにとどまり、たぶん航海実習生並みの精度はクリアしたと思われまして、大変満足しました。
ただし、非常に残念なことに…これは、倍速モードを使ったときに、時計と天体の動きや燃料消費もシンクロして加速してくれる、daytime.nas(Tatさん作)を外した場合の誤差なのです。かつて、経度の測定誤差が縮まらないため、試行錯誤で daytime.nas を外してみたところ、大幅に精度が上がりました。きちんとした比較実験ではなかったので、ご報告しませんでしたが、今回改めて組み込んだ上、同条件で地上に機体を置いて天測テストをしたところ、緯度の誤差は+9秒と、引き続きすごい精度ながら、経度は-1度9分40秒(距離にして69.6nm)と、v2.0.0使用時とよく似た傾向の、大きな誤差が現れました。
恐らく日周運動に何らかの影響が出ているものと思いますが、天測は起動直後に行い、倍速モード自体は使用していないので、なぜこうなるのか腑に落ちません。飛行距離が500マイルを超える長距離フライトでは通常、倍速モードの使用が欠かせず、従ってdaytime.nasは、非常に強力な味方なのですが、天文航法に限って問題が出るのは、とても残念です。ただしv2.4.0は、デフォルト状態でも倍速モードの使用中、単位時間あたりの燃料消費量は、何倍速であるかに比例しますので、航続力だけはリアルに再現されます。飛行時間のほうはメチャメチャになりますが、これも倍速モードの使用時間をざっと計っておき、あとで修正計算をすれば、おおむね解決します。以後は取りあえず、この方法で行こうかと思っています。
最終的にはもちろん、FlightGearの側で設計ドクトリンを変更し、飛行時間と天体の動きを、倍速モードにシンクロさせてくれたらベストです。しかしこれまでのところ、設計者のお考えでは、倍速モードはあくまでも「飛行速度を加速する機能」のようです。私は「時間経過を加速する機能」と捉えた方が、ずっと合理的だと思うのですが、いかがでしょうか。
●灯台の群れを見下ろして:
いよいよ、v2.4.0の旅の始まりです。
スキポール空港でピラタスPC7改を起動し、燃料を半分の2000Lbs搭載。UTCの1115時(現地1315時)にエンジンを始動しました。雲量は4000ftにscatterd、20000ftにfew。風は南から約5Ktと、ほぼ航法計算上は無視できるレベルでした。南に向かって離陸し、高度5000ftで250KIASにセットして、ライン川を確認。雲がまばらなので、あちこちにABNが点滅するのがよく見え、チャート代わりのAtlas画面(フライト非連動)と照らし合わせると、面白いように現在位置が確認できます。こりゃ、ゴキゲンだぜ〜っ(^^)/
正面に、デュッセルドルフの大市街地が見えてきました。間もなく周辺の3空港を視認。TerraSyncを使っているためか、フレームレートは22程度と、かなり遅いのですけれど、実用上は十分です。v2.0.0までは、私の環境ではTerraSyncを使いますと安定が悪く、画面の動きが途切れたり、ひどい時にはFlightGear自体が落ちてしまいました。新バージョンでは、今のところ安定していて非常に助かります。このまま問題がなければ、シーナリーのダウンロードをすっかりお任せし、常に最新の地上オブジェクトを見たいものです。(TerraSyncモードのアムステルダム市街は、海側に約40基の発電風車が並んで壮観でした)
空と大地に見とれている間に、もうお昼です。六分儀代わりのフライト・コードラントを、あわてて真南に回したら、太陽の南中までわずか十数秒でした。高度角は50.29度、時刻は1136時(ローカル1336時)25秒。計算上の位置は北緯51度30分12秒、東経6度38分14秒と出ました。過去のデータにより、東経は10分修正して6度28分と判断。テスト中なので直ちに正解を確認したところ、北緯51度30分50秒(誤差38秒)、東経6度29分1秒(誤差1分1秒)で、またまたゴキゲンな精度です。これがv2.4.0で最初の空中天測テストとなりましたが、射撃で言えば、標的中央の黒点に入るか、その外周をかすったようなレベル…でしょうか。
●おお、ライン川:
HUDをつけて飛んでいる場合、現バージョンでは画面中央やや上に、オートパイロットの設定データが表示されるようになりました。GPSのFIX方位を示す画面矢印と同様、文句なしに便利です。
1140時、デュッセルドルフ空港EDDJアビーム(真横通過)。コードラントで計った灯台の俯角は19.3度、電波高度計の数値は9725ftなので、
距離d=高度h×cot俯角θ
の式に当てはめますと、距離は4.6nm程度と分かりました。こんな計算は、飛行中には面倒ですので、手元にある軽飛行機の操縦教科書では、以下の大ざっぱな数値を当てはめて暗算することを勧めています。
俯角 距離
45度 h
27度 2h
17度 3h
14度 4h
デュッセルドルフ空港EDDLを通過し、ケルン・ボン空港に向けてコースを150度に修正。蛇行するライン川を右手に見下ろしながら、快適な巡航が続きます。1143時、ケルン市街地へ急降下してみましたが、あいにく有名な大聖堂は見あたりませんでした。コブレンツに向けて変針。
平野を走っていたライン川が、ごく浅い渓谷の様相を見せ始め、降下して真上を這う態勢に。グランドキャニオン以来の、楽しい川下り…じゃなくて遡上の旅です。両側の山々には、実世界では非常にたくさんお城が並んでいて、これは行き交う船から税金を取るためだったとか。速度を200Ktに、次いで150Ktに減速して、川の蛇行に沿って急旋回を重ねながら、さらに降下。最低で川面の上100ftくらいまで降ろしてみましたが、なかなかスリルがあります。
1210時、あらかじめGoogleEarthなどで調べておいた、ローレライの岩を発見。ここはライン川がもっとも狭くなる地点で、左90度コーナーのクリッピングポイントに、高さ100mあまりの断崖がありますが、これがご存じの伝説の…絶世の美女だか魔女だかが座って歌い、耳を傾けた船乗りは死んでしまう、という岩なのでした。なにぶんタイトコーナーですので、慎重に機翼を傾け、かなりGを掛けながら無事通過。
狭い渓谷巡りも、ここで大体おしまいです。ほっとして加速し上昇を始めると、すぐ正面の地平線にフランクフルト市街地が見えてきました。着陸してみると、ここも結構ていねいに作り込まれた大空港です。ルフトハンザのハブ空港らしく、巨大な整備工場があって「大艦隊」が駐機しており、圧倒されます。空港ビルの狭間を、何かかぶっ飛んで行ったので、じっくり眺めていると、モノレールみたいな交通システムの車両だと分かりました。新幹線が数秒おきに、1両だけ通るような感じです。
1225時、ランプインしてエンジン停止。燃料残は1412Lbs(112gal)。楽しいフライトでした。
●アウトバーン上空を南へ:
日を改めて、同じ分量の燃料を設定し、旅を再開します。
この日も4000ftにscatterd、20000ftはfewといった雲量で、風はおおむね180度から5Ktと、いかにもヨーロッパのバカンス・シーズンらしい好条件で安定していました。1104時、離陸。視界を確保するため、シーリング(雲底高度)ぎりぎりの4000ftで南へ。
フランクフルトからスイス国境までは、ライン川の堆積で出来たらしい幅数十キロの平野が、おおむね南へ延びており、「道なりに飛べば」スイスです。引き続きABNと、所々にあるライン川の屈曲部を地図と照合すれば、正確な位置がすぐに確認できます。離陸後、簡単な推測航法を併用して、支流ネッカー川との合流点を見つけ出しました。そのすぐ近く、平野の東端にある山々に開いた谷に入り口に、ちょっとした丘があって、小都市が張り付いています。ヨーロッパ最古の大学所在地として知られる、ハイデルベルグです。私も観光に来たことがあり、谷に入ってローパスしました。特にオブジェクトはありませんが、実世界にあった立派な古城が思い出されます。
…ここから南は、はるか大昔、父の車でアウトバーンをぶっ飛んだコースです。当時は路面が荒れていてロードノイズがひどく、約160km/hで巡航中は大声を出さないと、前後席で話が出来ないほどでした。試しに路面近くまで降下してみますと、小さな森を幾つも突き抜けてゆく感じが、当時のドライブとちょっと似ていました。このルートは、フランス作家ピエール・ド・マンディアルグの幻想小説「オートバイ」にも登場。スイスに住むヒロインが、真っ黒なハーレーの燃料タンクに伏せて、ドイツの恋人の元へ、フルスロットルで北上するシーンが思い出されます。まぁそのくらい…ひたすら、まっすぐな道であります。
カールスルーエから、バーデンバーデンを過ぎて、どんどこ南へ。左手に、黒い帯状の森が広がりました。これはv2.4.0で登場した Rendering option のShader effectsにある Transition effectsをオンにしていたためで、一部の森林テクスチャーが、すごく黒っぽく見えます。v2.0.0ですと、どうってことない、淡い緑だったはずですが、このエフェクトのお陰で、シュヴァルツヴァルトらしく見えました。
ドイツの景色の特色として、あちこちの山のてっぺんに時々、のっぽビルが1棟だけ建っています。近づいてみると実はビルではなく、グレーの墓石のようなものでした。たぶん、お城のドンジョン(天守閣というか、城の中心の望楼。地下牢などを示す「ダンジョン」の語源だが、別の意味)を簡略に示したオブジェクトだろうと思います。天と地の間に立ち、じっと孤独に耐えているような雰囲気が、いかにも西洋の城塞らしくて、なかなかよろしいです…。
●ピラタスPC7改、故郷に帰る:
1148時、チューリヒ空港の灯台真上に到着。この区間では、すっかり天測を忘れていました。あわててクロックを15分ばかり巻き戻し、太陽を南中直前にして水平飛行を続け、高度角と時刻を観測。計算してみると今回に限って、なぜか緯度も10nm余りの誤差が出ました。原因が分からず、面白くありません。
1143時、バーゼル空港を通過。南へ旋回すると前方に、いかにもスイスっぽい山々が、どっさり広がりまして、もうたまらん。一転してハイな気分です。Atlas地図を見ながら慎重にコースを探し、いったんは谷筋を西に一本、間違えてしまいましたが、1150時に本日のゴール、Buochs Stans空港を発見しました。東西7nm、南北3nmほどの盆地で、東西は高い山、南北に低い丘があり、盆地中央の少し南に滑走路2本の小空港が横たわって、その東が小さな湖といった地形です。これが名機ピラタス・シリーズを開発した場所か、とわくわくしましたが。しかしまぁ、えらく狭いところにある空港だなぁ…と、ため息も半分。ここをテスト基地とする飛行機は、いやでも一定レベル以上の上昇力と、小さな旋回半径、そしてSTOL性能を要求されます。ピラタス社が、アルプスやヒマラヤの高所に発着可能な「山岳機」PC-6ターボポーターを生んだのは、まさに必然だったわけですね。
さてその滑走路に着陸を、きれいに決めようとしたところ。スロットルが開度47%で固着していることが判明しました。まれに起きることですが、よりによってこんな、難しい場面でなぁ…。
盆地の西に連なるカール谷へ入って、約6nm離れた隣の小飛行場まで行き、ピラタス社の命名の元になった「ピラトゥス山」ギリギリに旋回して反転。この機動でやや速度が落ちたのを幸い、高度を下げ、フルフラップでギアを出し、空気抵抗で何とか100Ktまで落としました。接地寸前に、燃料タンクのチェックマークを外したのですが、エンジンは止まりません。やむを得ずゴーアラウンドして、Buochs Stans空港の東にある湖の上空で反転し、今度は東から再進入。こうなると燃料の残量スライダーをゼロまで動かして、強制的にエンジンを止めるしかなさそうです。
その通りにして、ちょっとアンダーシュート気味に着地し、惰性で走ってエプロンに進入。うっかり南側の軍用らしい区画に入れましたが、本当は敷地の北西端がピラタス社の本社工場です。時計はちょうど1200ごろでした。やれやれ、わがPC7改は、ようやく「生まれ故郷」に到着です。
●新たな訓練地、新たな機体…:
日を改め、いよいよBuochs Stans空港で、次の主な常用機となる、ピラタスPC-6Mの慣熟飛行を始めようと思ったのですが、思わぬ問題が持ち上がりました。この空港は、なぜか起動ウィザードの空港リストに出現せず、従ってここで機体を起動することは出来ないのです。
シベリアでは、同じ問題を何度か体験しましたが、まさか西欧のど真ん中で起きるとは。焦っても後の祭りで、訓練基地を移すことにしました。60nmほど東北東にある、コンスタンツ湖畔のSt.Gallen-Altenrhein(ザンクトガレン=アルテンルハイン)空港LSZRにも、ピラタス社の施設があります。ここは幸い、大きな湖(ドイツ風に言うとボーデン湖)に面していて、滑走路の前後も平野だし、ILSはあるし、開発や練習には向いていそうです。そこで近隣の空港で機体を起動し、いちおうBuochs Stans空港へ移動して、ここを出発する体裁を取って、ボーデン湖方面へ出ることにしました。
このショートフライトには、ピラタスPC-6ターボポーターを選んだのですが、使った機体は下記の、
http://www.jpcheney.org/article.php3?id_article=298
…から入手したもので、かなりディテールアップされています。着陸灯を使って真下を照らすことが出来たり、タービンを壊さないよう常にトルク計を監視する必要があるなど、ていねいに作り込まれた面白い機体です。ただし、尾輪式だからと言って、スティックを引いたまま離陸をすると、あっという間に翼端失速を起こして自転・墜落したり、うっかり強めのGを掛けると壊れるなど、なかなか難しい飛行機でもあります。結局のところ、St.Gallen-Altenrhein空港には、再びPC7改を使って移動しました。
こうして、わがPC7改「エーデルワイス」号は…かつて世界一周フライトの途中、2009年2月に南米で本連載にデビューして以来、2年半にわたり、地球を半周し、南極点と北極点をきわめ、いま母国スイスに帰ってきました。長旅の主役としては、恐らく今回がラスト・フライトですけれども、私の大事な「相棒」であることに変わりはなく。また本連載やマイアルバムに登場する機会もあるでしょう。
では次回から、PC-9Mの訓練と改造に入ります。
v2.4.0の正式リリース、おめでとうございます。
さっそくインストールしました。今回は、かなり大幅な機能向上が盛り込まれたようで、まだ分からない部分が多いものの、今後のフライトと、半年ごとに予告されているバージョンアップが楽しみです。
ただいま進めているロンドン=明石フライトは、当初の予定では今ごろ、ベルリンを通過してモスクワへ向かっているつもりでしたが、新バージョンが出たことで、手持ち機体の動作確認や調整が続き、しばらくは対応に追われそうです。特に今回はv2.4.0の機体リストに、愛機ピラタスPC7改の発展型にあたる、PC-9Mが新たに加わりました。これは以前から欲しかった機体の一つで、「ホントかっ!?」と、さっそくダウンロードして、現用機からの乗り換え準備に入りつつあります。見たところ非常に出来がよろしいので、あまり大改造はしないつもりですが、どっちみち
(1)天文航法用のフライト・コードラントを搭載
(2)軍用トレーナー塗装から、民間スポーツ機にリペイント
(3)視界や操縦性など、細かなチューニング
…は必要です。せっかくヨーロッパを飛んでいるので、遠回りにはなりますが、ピラタス社の本拠地へ行って作業することにしました。調べてみますと、スイス中央部の Buochs Stans(ブオクス・シュタンス)空港LSMUに、ピラタスの本社工場があります。ここは軍民両用の空港で、FlightGearのシーナリーでは、空軍基地のほうのICAOコード(LSZC)で登録されています。すぐそばには観光地・ピラトゥス山(2182m)があって、これがピラタス社の名前の由来です。
というわけで今回は、突然で恐縮ですが、前回到着したアムステルダムから、ライン川流域の大部分をさかのぼって、スイスへ向かう旅をご紹介します。ルートは以下の通りです。
◎アムステルダム・スキポール空港EHAM
▼128度97nm
◎デュッセルドルフ空港EDDL(ここからドイツ領)
▼150度29nm
◎ケルン・ボン空港EDDK
▼155度36nm
◎コブレンツEDRK(渓谷)
▼131度32nm
◎マインツ空港EDFZ(渓谷の出口の東。10nm手前の屈曲部がローレライの岩)
▼77度16nm
◎フランクフルト・アム・マイン空港EDDF
▼181度33nm
◎マンハイム空港EDFM(東にハイデルベルグNDB292)
▼202度45nm
◎カールスルーエ・バーデン・バーデン空港EDSB
▼197度75nm
◎バーゼル空港LFSB(ここからスイス領)
▼99度42nm
◎チューリヒ空港LSZH
▼191度30nm
◎Buochs Stans空港LSMU。磁気偏差=偏東1度 標高1475ft。
計435nm
大ざっぱに言いますと、初め3分の1が北海へ開けたオランダ・ドイツの平野、真ん中3分の1は川下り観光で有名な渓谷地帯、残りがスイスの山や谷、そして湖…といった世界になります。幸いヨーロッパは、まだ夏の上天気が続いていますので、基本的にはFlightGear非連動のAtlas画面を航空図に使い、景色と見比べて現在値を割り出しつつ進む、地文航法で飛びます。もちろん天文航法のテストも続けます。
●インストールと最初の感想、灯台の動作確認:
v2.0.0のアンインストール後、2.4.0を入れましたが、そのままでは起動しませんでした。私はあちこちに「待避」というサブフォルダを設けて、改造前のオリジナルファイルなどを入れていますが、Nasalフォルダ内に設けた「待避」フォルダがエラーを招いて、削除したところ解決しました。
起動後は、リアルウエザーが正常に働いたものの、
Error: connect() failed in make_client_socket()
SG_IO_OUT socket creation failed
NoaaMetarRealWxController::MetarLoadthread::requestMetar() more than 10 outstanding METAR reuests,dropping EHAM
と、繰り返し表示されました。これは旧バージョンのプロキシ設定が残っていたためで、記述を消したところ解決しました。他にあまり問題はなく、Saitekのジョイスティックも完全自動認識しています。
最初に、尾輪機としては操縦が非常に易しくなった(そして機体内外のディテールが、とてもリアルになった)パイパーカブを起動。アムステルダム空港EHAMから上がって、一回りして降りてみましたが、取りあえず感じたのは、以下の諸点です。
(1)AIトラフィックが目立って活発に。デフォルト滑走路でエンジン始動中、対向機が
離陸したり、着陸機が頭上をかすめることも多い(^^;)。
(2)METAR受信が安定した。
(3)色彩設計が変更され、特に逆光の物体が、やたらに黒っぽくなる不自然さが消えた。
v1.9.1によく似た、自然で鮮やかな発色に戻った。
(4)天球のライティングと色遣いが変わり、夕焼け・夕暮れの色彩変化が豊富になった。
いっぽう、薄暮・黎明が、ほぼ空の全周に広がったので、太陽を直接視認しない限り、
デフォルトでは方角が分からなくなった。
ただし、新しく設定されたSkydome Scattering機能のスライダを操作すると、天球の
明度や色調、明るさの分布とコントラストが調節可能で、太陽の位置も分かる。
今のところ、どこに合わせてもやや不自然だが
Mie factor=0.002 Rayleigh factor=0.0004 Density factor=0.6
あたりがベターか。
(ちなみに、Rendering optionの設定は、どうすれば保存されるのでしょう?)
(5)Shader関係が一層充実。私の環境では誤表示を起こしていた、Urban effectsが正常に
働くようになり、市街地テクスチャーのビルがそのまま立体化された。やや簡略な専用
パターンを使っていた前バージョンより、一段とリアルになった。
(私の環境では、チェックマークを入れるだけでは作動しませんでした。少し下にある
Performance vs Qualityスライダを動かす必要があります)
…ざっと印象をつかんだ後、まず地文航法を楽にするため、ABN(飛行場灯台)関係のファイルを改造品に取り替えて、遠くからでも視認可能に変更しました。
ところが、どういじってもなかなか、改造結果が反映されません。私は従来通り、Data/Models/Airport 内のファイルを操作したのですが、Ver.2.4.0ではどうやら、Terrasyncフォルダのパス内にもあるbeacon.xmlを、優先的に使っているようです。これが判明するまで、惨憺たる試行錯誤を重ねましたが、あとは簡単で、なぜか不透明になっていたHalo(光芒)を透過率9割の白い円錐形にして、調整完了です。これでやっと、スイスへ向かうことが出来ます…。
●新バージョンでも、天測に成功:
フライトシミュレーターの天文航法は引き続き、私の大きなテーマですので、v2.4.0でも太陽の天測に問題はないか、非常に気になっていました。
ピラタスPC7改を使って、アムステルダムのスキポール空港で地上テストをしたところ、正午の太陽高度角と南中時刻を計る、ベーシックな「子午線高度緯度法」で求めた緯度経度の誤差は、緯度が+9秒とGPS並み、経度は+8分45秒と出ました。緯度は相変わらず驚異的精度で、経度も「10分角だけ過大に出るので、機械的に修正すべし」という経験則を当てはめると、マイナス1分15秒(=1.15nm)の狂いにとどまり、たぶん航海実習生並みの精度はクリアしたと思われまして、大変満足しました。
ただし、非常に残念なことに…これは、倍速モードを使ったときに、時計と天体の動きや燃料消費もシンクロして加速してくれる、daytime.nas(Tatさん作)を外した場合の誤差なのです。かつて、経度の測定誤差が縮まらないため、試行錯誤で daytime.nas を外してみたところ、大幅に精度が上がりました。きちんとした比較実験ではなかったので、ご報告しませんでしたが、今回改めて組み込んだ上、同条件で地上に機体を置いて天測テストをしたところ、緯度の誤差は+9秒と、引き続きすごい精度ながら、経度は-1度9分40秒(距離にして69.6nm)と、v2.0.0使用時とよく似た傾向の、大きな誤差が現れました。
恐らく日周運動に何らかの影響が出ているものと思いますが、天測は起動直後に行い、倍速モード自体は使用していないので、なぜこうなるのか腑に落ちません。飛行距離が500マイルを超える長距離フライトでは通常、倍速モードの使用が欠かせず、従ってdaytime.nasは、非常に強力な味方なのですが、天文航法に限って問題が出るのは、とても残念です。ただしv2.4.0は、デフォルト状態でも倍速モードの使用中、単位時間あたりの燃料消費量は、何倍速であるかに比例しますので、航続力だけはリアルに再現されます。飛行時間のほうはメチャメチャになりますが、これも倍速モードの使用時間をざっと計っておき、あとで修正計算をすれば、おおむね解決します。以後は取りあえず、この方法で行こうかと思っています。
最終的にはもちろん、FlightGearの側で設計ドクトリンを変更し、飛行時間と天体の動きを、倍速モードにシンクロさせてくれたらベストです。しかしこれまでのところ、設計者のお考えでは、倍速モードはあくまでも「飛行速度を加速する機能」のようです。私は「時間経過を加速する機能」と捉えた方が、ずっと合理的だと思うのですが、いかがでしょうか。
●灯台の群れを見下ろして:
いよいよ、v2.4.0の旅の始まりです。
スキポール空港でピラタスPC7改を起動し、燃料を半分の2000Lbs搭載。UTCの1115時(現地1315時)にエンジンを始動しました。雲量は4000ftにscatterd、20000ftにfew。風は南から約5Ktと、ほぼ航法計算上は無視できるレベルでした。南に向かって離陸し、高度5000ftで250KIASにセットして、ライン川を確認。雲がまばらなので、あちこちにABNが点滅するのがよく見え、チャート代わりのAtlas画面(フライト非連動)と照らし合わせると、面白いように現在位置が確認できます。こりゃ、ゴキゲンだぜ〜っ(^^)/
正面に、デュッセルドルフの大市街地が見えてきました。間もなく周辺の3空港を視認。TerraSyncを使っているためか、フレームレートは22程度と、かなり遅いのですけれど、実用上は十分です。v2.0.0までは、私の環境ではTerraSyncを使いますと安定が悪く、画面の動きが途切れたり、ひどい時にはFlightGear自体が落ちてしまいました。新バージョンでは、今のところ安定していて非常に助かります。このまま問題がなければ、シーナリーのダウンロードをすっかりお任せし、常に最新の地上オブジェクトを見たいものです。(TerraSyncモードのアムステルダム市街は、海側に約40基の発電風車が並んで壮観でした)
空と大地に見とれている間に、もうお昼です。六分儀代わりのフライト・コードラントを、あわてて真南に回したら、太陽の南中までわずか十数秒でした。高度角は50.29度、時刻は1136時(ローカル1336時)25秒。計算上の位置は北緯51度30分12秒、東経6度38分14秒と出ました。過去のデータにより、東経は10分修正して6度28分と判断。テスト中なので直ちに正解を確認したところ、北緯51度30分50秒(誤差38秒)、東経6度29分1秒(誤差1分1秒)で、またまたゴキゲンな精度です。これがv2.4.0で最初の空中天測テストとなりましたが、射撃で言えば、標的中央の黒点に入るか、その外周をかすったようなレベル…でしょうか。
●おお、ライン川:
HUDをつけて飛んでいる場合、現バージョンでは画面中央やや上に、オートパイロットの設定データが表示されるようになりました。GPSのFIX方位を示す画面矢印と同様、文句なしに便利です。
1140時、デュッセルドルフ空港EDDJアビーム(真横通過)。コードラントで計った灯台の俯角は19.3度、電波高度計の数値は9725ftなので、
距離d=高度h×cot俯角θ
の式に当てはめますと、距離は4.6nm程度と分かりました。こんな計算は、飛行中には面倒ですので、手元にある軽飛行機の操縦教科書では、以下の大ざっぱな数値を当てはめて暗算することを勧めています。
俯角 距離
45度 h
27度 2h
17度 3h
14度 4h
デュッセルドルフ空港EDDLを通過し、ケルン・ボン空港に向けてコースを150度に修正。蛇行するライン川を右手に見下ろしながら、快適な巡航が続きます。1143時、ケルン市街地へ急降下してみましたが、あいにく有名な大聖堂は見あたりませんでした。コブレンツに向けて変針。
平野を走っていたライン川が、ごく浅い渓谷の様相を見せ始め、降下して真上を這う態勢に。グランドキャニオン以来の、楽しい川下り…じゃなくて遡上の旅です。両側の山々には、実世界では非常にたくさんお城が並んでいて、これは行き交う船から税金を取るためだったとか。速度を200Ktに、次いで150Ktに減速して、川の蛇行に沿って急旋回を重ねながら、さらに降下。最低で川面の上100ftくらいまで降ろしてみましたが、なかなかスリルがあります。
1210時、あらかじめGoogleEarthなどで調べておいた、ローレライの岩を発見。ここはライン川がもっとも狭くなる地点で、左90度コーナーのクリッピングポイントに、高さ100mあまりの断崖がありますが、これがご存じの伝説の…絶世の美女だか魔女だかが座って歌い、耳を傾けた船乗りは死んでしまう、という岩なのでした。なにぶんタイトコーナーですので、慎重に機翼を傾け、かなりGを掛けながら無事通過。
狭い渓谷巡りも、ここで大体おしまいです。ほっとして加速し上昇を始めると、すぐ正面の地平線にフランクフルト市街地が見えてきました。着陸してみると、ここも結構ていねいに作り込まれた大空港です。ルフトハンザのハブ空港らしく、巨大な整備工場があって「大艦隊」が駐機しており、圧倒されます。空港ビルの狭間を、何かかぶっ飛んで行ったので、じっくり眺めていると、モノレールみたいな交通システムの車両だと分かりました。新幹線が数秒おきに、1両だけ通るような感じです。
1225時、ランプインしてエンジン停止。燃料残は1412Lbs(112gal)。楽しいフライトでした。
●アウトバーン上空を南へ:
日を改めて、同じ分量の燃料を設定し、旅を再開します。
この日も4000ftにscatterd、20000ftはfewといった雲量で、風はおおむね180度から5Ktと、いかにもヨーロッパのバカンス・シーズンらしい好条件で安定していました。1104時、離陸。視界を確保するため、シーリング(雲底高度)ぎりぎりの4000ftで南へ。
フランクフルトからスイス国境までは、ライン川の堆積で出来たらしい幅数十キロの平野が、おおむね南へ延びており、「道なりに飛べば」スイスです。引き続きABNと、所々にあるライン川の屈曲部を地図と照合すれば、正確な位置がすぐに確認できます。離陸後、簡単な推測航法を併用して、支流ネッカー川との合流点を見つけ出しました。そのすぐ近く、平野の東端にある山々に開いた谷に入り口に、ちょっとした丘があって、小都市が張り付いています。ヨーロッパ最古の大学所在地として知られる、ハイデルベルグです。私も観光に来たことがあり、谷に入ってローパスしました。特にオブジェクトはありませんが、実世界にあった立派な古城が思い出されます。
…ここから南は、はるか大昔、父の車でアウトバーンをぶっ飛んだコースです。当時は路面が荒れていてロードノイズがひどく、約160km/hで巡航中は大声を出さないと、前後席で話が出来ないほどでした。試しに路面近くまで降下してみますと、小さな森を幾つも突き抜けてゆく感じが、当時のドライブとちょっと似ていました。このルートは、フランス作家ピエール・ド・マンディアルグの幻想小説「オートバイ」にも登場。スイスに住むヒロインが、真っ黒なハーレーの燃料タンクに伏せて、ドイツの恋人の元へ、フルスロットルで北上するシーンが思い出されます。まぁそのくらい…ひたすら、まっすぐな道であります。
カールスルーエから、バーデンバーデンを過ぎて、どんどこ南へ。左手に、黒い帯状の森が広がりました。これはv2.4.0で登場した Rendering option のShader effectsにある Transition effectsをオンにしていたためで、一部の森林テクスチャーが、すごく黒っぽく見えます。v2.0.0ですと、どうってことない、淡い緑だったはずですが、このエフェクトのお陰で、シュヴァルツヴァルトらしく見えました。
ドイツの景色の特色として、あちこちの山のてっぺんに時々、のっぽビルが1棟だけ建っています。近づいてみると実はビルではなく、グレーの墓石のようなものでした。たぶん、お城のドンジョン(天守閣というか、城の中心の望楼。地下牢などを示す「ダンジョン」の語源だが、別の意味)を簡略に示したオブジェクトだろうと思います。天と地の間に立ち、じっと孤独に耐えているような雰囲気が、いかにも西洋の城塞らしくて、なかなかよろしいです…。
●ピラタスPC7改、故郷に帰る:
1148時、チューリヒ空港の灯台真上に到着。この区間では、すっかり天測を忘れていました。あわててクロックを15分ばかり巻き戻し、太陽を南中直前にして水平飛行を続け、高度角と時刻を観測。計算してみると今回に限って、なぜか緯度も10nm余りの誤差が出ました。原因が分からず、面白くありません。
1143時、バーゼル空港を通過。南へ旋回すると前方に、いかにもスイスっぽい山々が、どっさり広がりまして、もうたまらん。一転してハイな気分です。Atlas地図を見ながら慎重にコースを探し、いったんは谷筋を西に一本、間違えてしまいましたが、1150時に本日のゴール、Buochs Stans空港を発見しました。東西7nm、南北3nmほどの盆地で、東西は高い山、南北に低い丘があり、盆地中央の少し南に滑走路2本の小空港が横たわって、その東が小さな湖といった地形です。これが名機ピラタス・シリーズを開発した場所か、とわくわくしましたが。しかしまぁ、えらく狭いところにある空港だなぁ…と、ため息も半分。ここをテスト基地とする飛行機は、いやでも一定レベル以上の上昇力と、小さな旋回半径、そしてSTOL性能を要求されます。ピラタス社が、アルプスやヒマラヤの高所に発着可能な「山岳機」PC-6ターボポーターを生んだのは、まさに必然だったわけですね。
さてその滑走路に着陸を、きれいに決めようとしたところ。スロットルが開度47%で固着していることが判明しました。まれに起きることですが、よりによってこんな、難しい場面でなぁ…。
盆地の西に連なるカール谷へ入って、約6nm離れた隣の小飛行場まで行き、ピラタス社の命名の元になった「ピラトゥス山」ギリギリに旋回して反転。この機動でやや速度が落ちたのを幸い、高度を下げ、フルフラップでギアを出し、空気抵抗で何とか100Ktまで落としました。接地寸前に、燃料タンクのチェックマークを外したのですが、エンジンは止まりません。やむを得ずゴーアラウンドして、Buochs Stans空港の東にある湖の上空で反転し、今度は東から再進入。こうなると燃料の残量スライダーをゼロまで動かして、強制的にエンジンを止めるしかなさそうです。
その通りにして、ちょっとアンダーシュート気味に着地し、惰性で走ってエプロンに進入。うっかり南側の軍用らしい区画に入れましたが、本当は敷地の北西端がピラタス社の本社工場です。時計はちょうど1200ごろでした。やれやれ、わがPC7改は、ようやく「生まれ故郷」に到着です。
●新たな訓練地、新たな機体…:
日を改め、いよいよBuochs Stans空港で、次の主な常用機となる、ピラタスPC-6Mの慣熟飛行を始めようと思ったのですが、思わぬ問題が持ち上がりました。この空港は、なぜか起動ウィザードの空港リストに出現せず、従ってここで機体を起動することは出来ないのです。
シベリアでは、同じ問題を何度か体験しましたが、まさか西欧のど真ん中で起きるとは。焦っても後の祭りで、訓練基地を移すことにしました。60nmほど東北東にある、コンスタンツ湖畔のSt.Gallen-Altenrhein(ザンクトガレン=アルテンルハイン)空港LSZRにも、ピラタス社の施設があります。ここは幸い、大きな湖(ドイツ風に言うとボーデン湖)に面していて、滑走路の前後も平野だし、ILSはあるし、開発や練習には向いていそうです。そこで近隣の空港で機体を起動し、いちおうBuochs Stans空港へ移動して、ここを出発する体裁を取って、ボーデン湖方面へ出ることにしました。
このショートフライトには、ピラタスPC-6ターボポーターを選んだのですが、使った機体は下記の、
http://www.jpcheney.org/article.php3?id_article=298
…から入手したもので、かなりディテールアップされています。着陸灯を使って真下を照らすことが出来たり、タービンを壊さないよう常にトルク計を監視する必要があるなど、ていねいに作り込まれた面白い機体です。ただし、尾輪式だからと言って、スティックを引いたまま離陸をすると、あっという間に翼端失速を起こして自転・墜落したり、うっかり強めのGを掛けると壊れるなど、なかなか難しい飛行機でもあります。結局のところ、St.Gallen-Altenrhein空港には、再びPC7改を使って移動しました。
こうして、わがPC7改「エーデルワイス」号は…かつて世界一周フライトの途中、2009年2月に南米で本連載にデビューして以来、2年半にわたり、地球を半周し、南極点と北極点をきわめ、いま母国スイスに帰ってきました。長旅の主役としては、恐らく今回がラスト・フライトですけれども、私の大事な「相棒」であることに変わりはなく。また本連載やマイアルバムに登場する機会もあるでしょう。
では次回から、PC-9Mの訓練と改造に入ります。
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(hide, 2009-5-19 3:30)
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空の夢、星の夢
(hide, 2009-4-25 21:55)
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小説「航空救難隊」を再現する・後編
(hide, 2009-4-6 18:56)
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小説「航空救難隊」を再現する・前編
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コロンブス初上陸の島へ
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Re: 手探り航法・旅日記(その2)
(hide, 2009-2-18 20:17)