ラスベガスから、超巨大なエドワーズ空軍基地へ
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居住地: 兵庫県
投稿数: 650
hideです。
前回の「旅日記」は、新開発の長距離洋上飛行用「磁気俯角・偏差航法」を使って、ラスベガスに到着したところまででした。
その後、この航法に使う針路計算ワークシートを作り、長らく懸案だった、飛行中の風向風速測定・計算法も考案して、これらのテストを行いながら、モハベ砂漠にある、世界最大級の飛行実験センター・エドワーズ空軍基地に進出しました。
これは想像を大幅に超える巨大施設で、面白いフライトでした。例によってマイアルバムにも画像をお届けします。
●磁気俯角・偏差航法の計算ツール「まぐなび」:
まず、航法のお話から行きます。この磁気俯角・偏差航法は、簡単におさらいしますと次のようなものです。
(1)あらかじめ、目的地空港の磁気俯角を計っておく。
(2)俯角の世界分布図で、目的地を通る「等俯角線」が、
どんな角度で走っているか調べる=仮に285度としましょう。
(2)推測航法の誤差を見込んで、目的地からやや東西に離れた、
洋上の仮想の変針点に向かって飛ぶ。
(4)HSIに設けた俯角計を監視していると、どこかで針路が目標の
等俯角線と交差したことが分かる。
(5)ここで285度に変針すれば、1nm弱の精度で目的地にヒットする。
…というわけです。
飛行の準備としては、ほかに、
・出発地と目的地の緯度経度を調べる。
・変針点を、目的地から何nmくらい外すか決めて、この緯度経度を出す。
・出発地から変針点、変針点から目的地までの、方位と距離を出す。
…という作業が必要です。私は当初、航法計算ツール「Vertual E6-B」を使って計算しましたが、結構面倒でしたので、航海用アドオンを使ってワークシートを作り、出発地と目的地の緯度経度、等俯角線の傾斜角、目的地から変針点までの距離を入力すれば、必要な諸元が手に入るようにしました。磁気を使った航法にちなんで、このワークシートを「まぐなび」という愛称で呼んでいます。
●洋上で、風向風速を求める方法を確立:
実は私の環境では、リアルウエザーの設定がいい加減で、よく調べてみると、天候の変化が反映されていませんでした。以前気付いて修正したのですが、その後の再インストールなどで元に戻っており、これまではほぼ常に、出発時の風向・風速を維持して飛んでいたわけです。これじゃ私の推測航法が正確なのは、当たり前ですよね(^^;)。
そこで今回、改めて FlightGear jp Wikiにご紹介頂いている「現実の気象の反映方法」を参照し、ちゃんと天候がリフレッシュされるよう、再調整しました。となると今後の太平洋横断では、定期的に何らかの方法で風向風速を測定し、そのつど針路補正計算を修正しなくてはなりません。
むろん風のデータは、メニューバーから確認できます。いわば無線で、気象通報を受けるようなものですが、出来れば飛行中に実測したいものです。昔の実機では、洋上飛行中に変針して、2種類の針路の偏流角(機体が風に流される角度。ドリフト・アングル)を測定し、ここから風向風速を算出する「ダブル・ドリフト」という手法が使われていました。しかしこの計算をExcelでやろうとすると、想像以上に困難でした。
現実的には、紙の上に2本のベクトルを作図して、この2本の頂点を結ぶベクトルの、長さと角度を計るのが簡単なので、有名なE6-B航法計算盤も、複雑な目盛り盤の上に鉛筆で印を付けて、一種のベクトル作図をする仕組みのようです。私は2年前にご報告しましたように、Excelのグラフ機能を使って、ほぼ同様の作図ができるようにしましたが、正直あまり便利でも、正確でもありませんでした。
そこで今回は、攻め方を変えました。
天文航法の研究中に手に入れた、航海用Excelアドオン集を使いますと、出発地と目的地の緯度経度、針路・方位の相互関係が、簡単に計算できます。つまりExcelで地球楕円体上の、ベクトルの足し算・引き算が出来るわけです。であれば…
(1)飛行中にAtlas画面上でツールを使い、偏流角を実測する。
(2)TAS(真対気速度)とGS(対地速度)を求め、この2本の
ベクトルが底辺と斜辺、偏流角が頂角となる三角形を考える。
(3)残る1辺の長さと向きが、すなわち風のベクトルである。
…となるはずです。
幸いGSの数値は、Internal Properties の中で発見し、すでにピラタスPC7改のパネルにデジタル表示しています。あとはTASがあればOKです。これもやっと発見しまして、速度計のデジタル窓に表示しました。
ただ一つ、問題がありました。なぜかTASの表示はゼロのままで、動いてくれないのです。さんざん調べた結果、pc7-set.xmlの中に、この機能をオンにする記述が必要だと分かり、以下のスクリプトを加えて解決しました。
<instrumentation>
<tas-indicator>
<serviceable type="bool" archive="y">true</serviceable>
<indicated-speed-fps alias="/fdm/jsbsim/velocities/vt-fps"/>
</tas-indicator>
</instrumentation>
TASが手に入れば、こっちのものです。さっそく「まぐなび」に、TASとGSの値、真方位による針路、偏流角を打ち込めば、風向風速が出る機能を追加しました。いやぁ、これでやっと、2年越しの宿題が解けました(^^)/。
ただ。注意深い方はお気づきと思いますが、この方法はリアリティーの面で、実は問題があります。GSは本来、この計算手順とは逆に、風向風速から算出するものです。GSを直接測定するには、DMEやGPSを使わない場合、ドップラー・レーダーが必要ですが、PC7クラスの初等練習機は、まず積まないでしょう。ですので、この方法は飽くまでも、先に述べたダブル・ドリフト計算の代用である…とご理解頂けましたら幸いです(^^;)。
ともかく、これでやっと、太平洋横断の基本航法ツールが整いました。
●エドワーズ空軍基地へ:
これらの実証試験を兼ねて、ピラタスPC7改を使って、ラスベガスからエドワーズ空軍基地に向かいます。「まぐなび」で算出した、磁気俯角・偏差航法によるコースは以下の通りです。文中Dipは磁気の俯角、Varは偏差です。いったん南西に飛んで、59.77度の等俯角線をインターセプトし、エドワーズへ直航する計画です。
◎ラスベガス
▼233.2度130nm
△変針点344612N-1171657W
▼287度30nm
◎エドワーズRWY22(現地で計ったDip=59.77 Var=12.89)
ショートコースですので、燃料は満タン4分の1、1000Lbsを搭載。頭上は雲量ゼロの快晴です。風向風速はあえて調べず、離陸後に実測することにします。
1939時(ローカル1239時)にエンジン始動。1946時、空港VOR上空で所定のコースに乗りました。今回はバックアップにVORを併用します。10000ftに達し、270KIAS(318KTAS)に加速したところで、大失敗を発見。基本的なミスながら、真方位と磁気方位を間違えていました。航法精度を測るのが目的ですのでUターンして、1952時に空港上空からやり直し、片道15nmの損をしました。まあ、急ぎ旅ではないし…。
定針後、すぐ偏流角を測定。Atlas画面を拡大して、トラック(航跡)にカーソルを当て、フリーウェア「斜めものさし」で角度を読み、180度引いて反方位に換算すると、実針路は246.8度。コンパス針路と比較すると、偏流角は0.7度。これをもとに「Virtual E6-B」で計算すると、風向風速は234度12Ktと出ました。メニューバーから確認した「正解」は250度12Kt。まぁ大体…合ってるじゃん!と安心しました。
この測定値で風力修正計算をすると、修正針路と対地速度は、233度306Ktと出ました。コースは無修正でよく、対地速度はTAS計器と1Kt違うだけ。到着予定時刻を計算しますと、変針点までの飛行時間は26分、到着予定は2018時と出ました。
ドタバタ計算をしている間に景色が変わり、山岳地帯の上空です。まだまだ変針点は遠いのですが一応、1958時に俯角計をチェックすると60.99度でした。これが59.77度になったら、ピタリ変針点です。磁気俯角・偏差航法で飛行中は、この俯角計を忘れず点検する必要があります。またTAS計とGS計も頻繁に監視し、GSが変化していれば、風が変わったと判断して、すぐにAtlas画面で偏流を計ることになります。まあ今回は、VORも見ていますので、偏流角が変わればすぐ分かります…これで万事よし。「自分が持つスキルを、総動員して航法をしている」という満足感の中、快調に飛び続けます。
●くるくる変わる、山岳地帯の風向風速:
2003時、対地速度が2Kt変化しました。「それっ!」と偏流を測定。航跡の角度は51.8度、つまり真針路は反方位の231.8度。偏流角は1.4度。計算表で風を求めると、203度15Ktになっています。メニューバーから確認した「正解」は260度15Kt。方位の誤差が相当大きいのですが、これをどう考えるかですね。
2年前の私の検証では、FlightGearはもともと、風による飛行経路の変化を、必ずしも正しく再現しません。まあここは、測定値通りに再計算することにして、GSは305Kt、真針路は231.6度、修正値1.4度左と出ました。コンパス針路は真方位で231.8度。到着予定時刻はそのままにして、コースだけ修正します。
2006時。あれれ…風向が229度に変化し、対地速度は308Ktになっています。どうせあと10分で変針点。面倒なので、放っておくことにしました。山岳地帯では風がクルクル変化しまして、推測飛行をきちんとやると多忙を極めます。太平洋上ではまさか、こんなに風が変化しないでしょうけれど、ちょっと心配になってきました。
2009時、GSが317Ktに変化。航跡の角度は45.5度なので、真針路は225.5度。くそぉ忙しいぞ。偏流角は-5.6度。風向風速を計算すると…321度31Ktって、本当かな?
本当でした。「正解」は320度38Ktで、めったにない強風の中にいます。また計算をやり直して、コンパス真針路を240度に修正。その後も風は1Kt程度変わりましたが、もうすぐ変針点。ほっておくことにします。以下、煩雑になるので略しますが、変針点には計画の4nmという僅差で到着し、エドワーズに機首を向けました。後は俯角計を確認していれば、そのままゴールですが、さらに風力計算を続けました。
(測定があんまり煩雑なので、その後「斜めものさし」の角度基準点を180度変更し、トラックから真針路が直読できるよう修正しました)
2020時、真針路283度、317KIAS、GS287Kt。計算上は315度37Ktの強風です。これでは着陸に困りますが、メニューバーから確認した「正解」は320度37Ktで、残念ながら非常によく合っています。またまた修正計算。
さて2023時には、エドワーズに着くはずなんですが。あと30秒というのに、前方は砂漠ばかりで気配なし。毎度のことながら、だんだん心配になってきます。
●飛行テストの聖地:
…見えた! 不意に地平線のもやの中から、肌色の大地…ロジャース乾湖が姿を現しました。続いて数秒後、これまでに目にしたことのない、広くて長大な滑走路が、厳かに視界に入りました。エドワーズです!!! 初の音速突破や数々の新型機開発、シャトルの初着陸など、ここの話題は無数にありますが、皆さんもよくご存じですね。
なんという、すごい飛行場でしょう。総計13本もの巨大滑走路が、そこかしこで激しく交差しています。最長のものはスペースシャトルが着陸可能で、全長約12キロ。滑走路やエプロンが南北約20キロに拡がる、東京・山手線の内側より大きな飛行場です。安全面と保安上の理由から、基地の敷地(立入り禁止区域)は更に広大で、ゲートから主要施設までは50キロもあるとか。ひたすら感心しました。
一つの滑走路交差点そばの地表に、これまた巨大な、円形・放射状のマーキングがあります。直径約1キロの方位盤、通称「世界最大のコンパスローズ」です。何のための施設なのか、よく分かりませんが…Google Earthでも同じものが見え、100m以上ありそうな文字で、磁気方位が書き込んであります。着陸に必要とは思えませんし、中央で発煙筒でも焚いて「世界最大の風向風力計」に使うのかと思いましたが、無線で風を知らせれば済むので、これも変。多分、ジャイロコンパスか何かの較正用でしょう。
2024時、計画から2分遅れ、左右誤差は1nmで、予定点の滑走路端をフライパス。「まぐなび」を使った航法は、取りあえず大成功です。コンパスローズの真上へ行って、ビクトリー・ロールと宙返りを打ちました。
320度21Ktの強風ですが、何しろ滑走路はたくさんあります。ほぼピタリの方位を選んで南から進入。本来はATISを聴取すべきですが、滑走路方位をアナウンスされても、これではどれがどれやら分かりません。私が選んだのは2番目に長い滑走路で、強い向かい風はあったものの、全長のわずか1割を使っただけで停止しました。着陸は2033時。その後Uターンして強風の中、ブレーキで方向制御しながらタキシーウェイを走り、エプロンの一角に入れて、2039時にエンジン停止。燃料は半分残っていました。
●鈍足のじゃじゃ馬、X-3を飛ばす:
ここへ来たからには、やはり高速実験機を飛ばさなくては、面白くありません。
最初はX-15を、グランドキャニオン上空あたりで空中発進させ、速度記録を試してから滑空着陸するつもりでした。しかしFlightGearのX-15は正直、あまりいい出来ではありませんので、X-3スティレットに変更しました。その名の通り、細身の剣のような精悍な姿をしており、プラモデルもあるようです。
これはダグラス社のテスト機で、ジェットとロケットエンジンを併用する機体です。ダグラスはこの直前、海軍と共同で、同じくジェット・ロケットを併用する、D558スカイロケット実験機を作りました。スカイロケットはベルX-1と競い合い、ロケット専用に改造された後で、X-1シリーズより早く、史上初のマッハ2を記録しています。ロケットだけでは滞空時間が短いので、X-3では再びジェット併用として、出来れば操縦性も、スカイロケットより大幅に改善したい…といった狙いの飛行機だったようです。
しかしジェットエンジンの開発がうまく行かず、予定より小出力のエンジンを積んだ結果、ダイブしてやっと音速を超える、という失敗作に終わりました。それって…チェイサー(観察・誘導用の追跡機)役を勤めたF-86と、ほぼ同じ速度ですよね。
FlightGear版のX-3も、かなり見事に「駄っ作機」でありまして、まず地上のロール安定が悪く、すぐ横転して翼端を引きずりながら疾走します。やっと離陸し、どうやら20000ftまで持ち上げましたが、水平で300Kt台という鈍足ぶり。燃料が半分に減るとようやく身軽になり、何とか30000ftまで上がって500Ktを超えました。操縦性は悪いし、あまり楽しい飛行機ではありません。シャトル滑走路に降ろしたところ、またも横転して傾いたまま突っ走り、事故だけは免れて、滑走路外で停止しました。
あえて長所を挙げますと、Dキーを押すと、実物通りに射出座席がエレベーターになって降下し、搭乗位置の機体下方に現れる、という一発芸が楽しめます。なんだか「サンダーバード」のテーマ曲でも、聞こえてきそうな眺めです。
私は先日来、この広大なエドワーズで、TatさんのYS-11やMRJの試乗を楽しんでおりますが、結果は関連スレッドにご紹介しましたので、ここでは省略します。さて次回は…西海岸に進出するか、もう少し各種の飛行テストを試みるか、今のところ未定です。仕事が忙しくなってきましたので、月明けになるかも知れません。ではまた、エドワーズでお目に掛かりましょう。
追伸:tigerさんが、マイアルバムでご紹介下さった「新しい夏バージョンのTexture」はなかなかきれいですね。さっそくダウンロードしましたが、このデータ集では乾湖が普通の湖になるようで、残念ながらエドワーズの滑走路やエプロンは、見事に水中に沈んでしまいました。滑走路まで水色になった理由は分かりませんが、また他の地方で試してみることにします。ありがとうございました。
前回の「旅日記」は、新開発の長距離洋上飛行用「磁気俯角・偏差航法」を使って、ラスベガスに到着したところまででした。
その後、この航法に使う針路計算ワークシートを作り、長らく懸案だった、飛行中の風向風速測定・計算法も考案して、これらのテストを行いながら、モハベ砂漠にある、世界最大級の飛行実験センター・エドワーズ空軍基地に進出しました。
これは想像を大幅に超える巨大施設で、面白いフライトでした。例によってマイアルバムにも画像をお届けします。
●磁気俯角・偏差航法の計算ツール「まぐなび」:
まず、航法のお話から行きます。この磁気俯角・偏差航法は、簡単におさらいしますと次のようなものです。
(1)あらかじめ、目的地空港の磁気俯角を計っておく。
(2)俯角の世界分布図で、目的地を通る「等俯角線」が、
どんな角度で走っているか調べる=仮に285度としましょう。
(2)推測航法の誤差を見込んで、目的地からやや東西に離れた、
洋上の仮想の変針点に向かって飛ぶ。
(4)HSIに設けた俯角計を監視していると、どこかで針路が目標の
等俯角線と交差したことが分かる。
(5)ここで285度に変針すれば、1nm弱の精度で目的地にヒットする。
…というわけです。
飛行の準備としては、ほかに、
・出発地と目的地の緯度経度を調べる。
・変針点を、目的地から何nmくらい外すか決めて、この緯度経度を出す。
・出発地から変針点、変針点から目的地までの、方位と距離を出す。
…という作業が必要です。私は当初、航法計算ツール「Vertual E6-B」を使って計算しましたが、結構面倒でしたので、航海用アドオンを使ってワークシートを作り、出発地と目的地の緯度経度、等俯角線の傾斜角、目的地から変針点までの距離を入力すれば、必要な諸元が手に入るようにしました。磁気を使った航法にちなんで、このワークシートを「まぐなび」という愛称で呼んでいます。
●洋上で、風向風速を求める方法を確立:
実は私の環境では、リアルウエザーの設定がいい加減で、よく調べてみると、天候の変化が反映されていませんでした。以前気付いて修正したのですが、その後の再インストールなどで元に戻っており、これまではほぼ常に、出発時の風向・風速を維持して飛んでいたわけです。これじゃ私の推測航法が正確なのは、当たり前ですよね(^^;)。
そこで今回、改めて FlightGear jp Wikiにご紹介頂いている「現実の気象の反映方法」を参照し、ちゃんと天候がリフレッシュされるよう、再調整しました。となると今後の太平洋横断では、定期的に何らかの方法で風向風速を測定し、そのつど針路補正計算を修正しなくてはなりません。
むろん風のデータは、メニューバーから確認できます。いわば無線で、気象通報を受けるようなものですが、出来れば飛行中に実測したいものです。昔の実機では、洋上飛行中に変針して、2種類の針路の偏流角(機体が風に流される角度。ドリフト・アングル)を測定し、ここから風向風速を算出する「ダブル・ドリフト」という手法が使われていました。しかしこの計算をExcelでやろうとすると、想像以上に困難でした。
現実的には、紙の上に2本のベクトルを作図して、この2本の頂点を結ぶベクトルの、長さと角度を計るのが簡単なので、有名なE6-B航法計算盤も、複雑な目盛り盤の上に鉛筆で印を付けて、一種のベクトル作図をする仕組みのようです。私は2年前にご報告しましたように、Excelのグラフ機能を使って、ほぼ同様の作図ができるようにしましたが、正直あまり便利でも、正確でもありませんでした。
そこで今回は、攻め方を変えました。
天文航法の研究中に手に入れた、航海用Excelアドオン集を使いますと、出発地と目的地の緯度経度、針路・方位の相互関係が、簡単に計算できます。つまりExcelで地球楕円体上の、ベクトルの足し算・引き算が出来るわけです。であれば…
(1)飛行中にAtlas画面上でツールを使い、偏流角を実測する。
(2)TAS(真対気速度)とGS(対地速度)を求め、この2本の
ベクトルが底辺と斜辺、偏流角が頂角となる三角形を考える。
(3)残る1辺の長さと向きが、すなわち風のベクトルである。
…となるはずです。
幸いGSの数値は、Internal Properties の中で発見し、すでにピラタスPC7改のパネルにデジタル表示しています。あとはTASがあればOKです。これもやっと発見しまして、速度計のデジタル窓に表示しました。
ただ一つ、問題がありました。なぜかTASの表示はゼロのままで、動いてくれないのです。さんざん調べた結果、pc7-set.xmlの中に、この機能をオンにする記述が必要だと分かり、以下のスクリプトを加えて解決しました。
<instrumentation>
<tas-indicator>
<serviceable type="bool" archive="y">true</serviceable>
<indicated-speed-fps alias="/fdm/jsbsim/velocities/vt-fps"/>
</tas-indicator>
</instrumentation>
TASが手に入れば、こっちのものです。さっそく「まぐなび」に、TASとGSの値、真方位による針路、偏流角を打ち込めば、風向風速が出る機能を追加しました。いやぁ、これでやっと、2年越しの宿題が解けました(^^)/。
ただ。注意深い方はお気づきと思いますが、この方法はリアリティーの面で、実は問題があります。GSは本来、この計算手順とは逆に、風向風速から算出するものです。GSを直接測定するには、DMEやGPSを使わない場合、ドップラー・レーダーが必要ですが、PC7クラスの初等練習機は、まず積まないでしょう。ですので、この方法は飽くまでも、先に述べたダブル・ドリフト計算の代用である…とご理解頂けましたら幸いです(^^;)。
ともかく、これでやっと、太平洋横断の基本航法ツールが整いました。
●エドワーズ空軍基地へ:
これらの実証試験を兼ねて、ピラタスPC7改を使って、ラスベガスからエドワーズ空軍基地に向かいます。「まぐなび」で算出した、磁気俯角・偏差航法によるコースは以下の通りです。文中Dipは磁気の俯角、Varは偏差です。いったん南西に飛んで、59.77度の等俯角線をインターセプトし、エドワーズへ直航する計画です。
◎ラスベガス
▼233.2度130nm
△変針点344612N-1171657W
▼287度30nm
◎エドワーズRWY22(現地で計ったDip=59.77 Var=12.89)
ショートコースですので、燃料は満タン4分の1、1000Lbsを搭載。頭上は雲量ゼロの快晴です。風向風速はあえて調べず、離陸後に実測することにします。
1939時(ローカル1239時)にエンジン始動。1946時、空港VOR上空で所定のコースに乗りました。今回はバックアップにVORを併用します。10000ftに達し、270KIAS(318KTAS)に加速したところで、大失敗を発見。基本的なミスながら、真方位と磁気方位を間違えていました。航法精度を測るのが目的ですのでUターンして、1952時に空港上空からやり直し、片道15nmの損をしました。まあ、急ぎ旅ではないし…。
定針後、すぐ偏流角を測定。Atlas画面を拡大して、トラック(航跡)にカーソルを当て、フリーウェア「斜めものさし」で角度を読み、180度引いて反方位に換算すると、実針路は246.8度。コンパス針路と比較すると、偏流角は0.7度。これをもとに「Virtual E6-B」で計算すると、風向風速は234度12Ktと出ました。メニューバーから確認した「正解」は250度12Kt。まぁ大体…合ってるじゃん!と安心しました。
この測定値で風力修正計算をすると、修正針路と対地速度は、233度306Ktと出ました。コースは無修正でよく、対地速度はTAS計器と1Kt違うだけ。到着予定時刻を計算しますと、変針点までの飛行時間は26分、到着予定は2018時と出ました。
ドタバタ計算をしている間に景色が変わり、山岳地帯の上空です。まだまだ変針点は遠いのですが一応、1958時に俯角計をチェックすると60.99度でした。これが59.77度になったら、ピタリ変針点です。磁気俯角・偏差航法で飛行中は、この俯角計を忘れず点検する必要があります。またTAS計とGS計も頻繁に監視し、GSが変化していれば、風が変わったと判断して、すぐにAtlas画面で偏流を計ることになります。まあ今回は、VORも見ていますので、偏流角が変わればすぐ分かります…これで万事よし。「自分が持つスキルを、総動員して航法をしている」という満足感の中、快調に飛び続けます。
●くるくる変わる、山岳地帯の風向風速:
2003時、対地速度が2Kt変化しました。「それっ!」と偏流を測定。航跡の角度は51.8度、つまり真針路は反方位の231.8度。偏流角は1.4度。計算表で風を求めると、203度15Ktになっています。メニューバーから確認した「正解」は260度15Kt。方位の誤差が相当大きいのですが、これをどう考えるかですね。
2年前の私の検証では、FlightGearはもともと、風による飛行経路の変化を、必ずしも正しく再現しません。まあここは、測定値通りに再計算することにして、GSは305Kt、真針路は231.6度、修正値1.4度左と出ました。コンパス針路は真方位で231.8度。到着予定時刻はそのままにして、コースだけ修正します。
2006時。あれれ…風向が229度に変化し、対地速度は308Ktになっています。どうせあと10分で変針点。面倒なので、放っておくことにしました。山岳地帯では風がクルクル変化しまして、推測飛行をきちんとやると多忙を極めます。太平洋上ではまさか、こんなに風が変化しないでしょうけれど、ちょっと心配になってきました。
2009時、GSが317Ktに変化。航跡の角度は45.5度なので、真針路は225.5度。くそぉ忙しいぞ。偏流角は-5.6度。風向風速を計算すると…321度31Ktって、本当かな?
本当でした。「正解」は320度38Ktで、めったにない強風の中にいます。また計算をやり直して、コンパス真針路を240度に修正。その後も風は1Kt程度変わりましたが、もうすぐ変針点。ほっておくことにします。以下、煩雑になるので略しますが、変針点には計画の4nmという僅差で到着し、エドワーズに機首を向けました。後は俯角計を確認していれば、そのままゴールですが、さらに風力計算を続けました。
(測定があんまり煩雑なので、その後「斜めものさし」の角度基準点を180度変更し、トラックから真針路が直読できるよう修正しました)
2020時、真針路283度、317KIAS、GS287Kt。計算上は315度37Ktの強風です。これでは着陸に困りますが、メニューバーから確認した「正解」は320度37Ktで、残念ながら非常によく合っています。またまた修正計算。
さて2023時には、エドワーズに着くはずなんですが。あと30秒というのに、前方は砂漠ばかりで気配なし。毎度のことながら、だんだん心配になってきます。
●飛行テストの聖地:
…見えた! 不意に地平線のもやの中から、肌色の大地…ロジャース乾湖が姿を現しました。続いて数秒後、これまでに目にしたことのない、広くて長大な滑走路が、厳かに視界に入りました。エドワーズです!!! 初の音速突破や数々の新型機開発、シャトルの初着陸など、ここの話題は無数にありますが、皆さんもよくご存じですね。
なんという、すごい飛行場でしょう。総計13本もの巨大滑走路が、そこかしこで激しく交差しています。最長のものはスペースシャトルが着陸可能で、全長約12キロ。滑走路やエプロンが南北約20キロに拡がる、東京・山手線の内側より大きな飛行場です。安全面と保安上の理由から、基地の敷地(立入り禁止区域)は更に広大で、ゲートから主要施設までは50キロもあるとか。ひたすら感心しました。
一つの滑走路交差点そばの地表に、これまた巨大な、円形・放射状のマーキングがあります。直径約1キロの方位盤、通称「世界最大のコンパスローズ」です。何のための施設なのか、よく分かりませんが…Google Earthでも同じものが見え、100m以上ありそうな文字で、磁気方位が書き込んであります。着陸に必要とは思えませんし、中央で発煙筒でも焚いて「世界最大の風向風力計」に使うのかと思いましたが、無線で風を知らせれば済むので、これも変。多分、ジャイロコンパスか何かの較正用でしょう。
2024時、計画から2分遅れ、左右誤差は1nmで、予定点の滑走路端をフライパス。「まぐなび」を使った航法は、取りあえず大成功です。コンパスローズの真上へ行って、ビクトリー・ロールと宙返りを打ちました。
320度21Ktの強風ですが、何しろ滑走路はたくさんあります。ほぼピタリの方位を選んで南から進入。本来はATISを聴取すべきですが、滑走路方位をアナウンスされても、これではどれがどれやら分かりません。私が選んだのは2番目に長い滑走路で、強い向かい風はあったものの、全長のわずか1割を使っただけで停止しました。着陸は2033時。その後Uターンして強風の中、ブレーキで方向制御しながらタキシーウェイを走り、エプロンの一角に入れて、2039時にエンジン停止。燃料は半分残っていました。
●鈍足のじゃじゃ馬、X-3を飛ばす:
ここへ来たからには、やはり高速実験機を飛ばさなくては、面白くありません。
最初はX-15を、グランドキャニオン上空あたりで空中発進させ、速度記録を試してから滑空着陸するつもりでした。しかしFlightGearのX-15は正直、あまりいい出来ではありませんので、X-3スティレットに変更しました。その名の通り、細身の剣のような精悍な姿をしており、プラモデルもあるようです。
これはダグラス社のテスト機で、ジェットとロケットエンジンを併用する機体です。ダグラスはこの直前、海軍と共同で、同じくジェット・ロケットを併用する、D558スカイロケット実験機を作りました。スカイロケットはベルX-1と競い合い、ロケット専用に改造された後で、X-1シリーズより早く、史上初のマッハ2を記録しています。ロケットだけでは滞空時間が短いので、X-3では再びジェット併用として、出来れば操縦性も、スカイロケットより大幅に改善したい…といった狙いの飛行機だったようです。
しかしジェットエンジンの開発がうまく行かず、予定より小出力のエンジンを積んだ結果、ダイブしてやっと音速を超える、という失敗作に終わりました。それって…チェイサー(観察・誘導用の追跡機)役を勤めたF-86と、ほぼ同じ速度ですよね。
FlightGear版のX-3も、かなり見事に「駄っ作機」でありまして、まず地上のロール安定が悪く、すぐ横転して翼端を引きずりながら疾走します。やっと離陸し、どうやら20000ftまで持ち上げましたが、水平で300Kt台という鈍足ぶり。燃料が半分に減るとようやく身軽になり、何とか30000ftまで上がって500Ktを超えました。操縦性は悪いし、あまり楽しい飛行機ではありません。シャトル滑走路に降ろしたところ、またも横転して傾いたまま突っ走り、事故だけは免れて、滑走路外で停止しました。
あえて長所を挙げますと、Dキーを押すと、実物通りに射出座席がエレベーターになって降下し、搭乗位置の機体下方に現れる、という一発芸が楽しめます。なんだか「サンダーバード」のテーマ曲でも、聞こえてきそうな眺めです。
私は先日来、この広大なエドワーズで、TatさんのYS-11やMRJの試乗を楽しんでおりますが、結果は関連スレッドにご紹介しましたので、ここでは省略します。さて次回は…西海岸に進出するか、もう少し各種の飛行テストを試みるか、今のところ未定です。仕事が忙しくなってきましたので、月明けになるかも知れません。ではまた、エドワーズでお目に掛かりましょう。
追伸:tigerさんが、マイアルバムでご紹介下さった「新しい夏バージョンのTexture」はなかなかきれいですね。さっそくダウンロードしましたが、このデータ集では乾湖が普通の湖になるようで、残念ながらエドワーズの滑走路やエプロンは、見事に水中に沈んでしまいました。滑走路まで水色になった理由は分かりませんが、また他の地方で試してみることにします。ありがとうございました。
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