天文航法でロビンソンの島へ(前編)
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居住地: 兵庫県
投稿数: 650
hideです。長らくご無沙汰をしておりました。
私の世界一周はアンデス横断後、チリの首都サンチャゴで一休み
しております。先日地図帳を眺めていましたら、ここから約400nm沖
の太平洋上に、「ロビンソン・クルーソー島」という、面白い名前
の孤島を見つけました。今回はこの島まで、初めて天文航法に頼って
往復飛行を試みようと、まず天測と計算の全面改良に取り組みます。
●天文航法を再構築し、ロビンソン島へ:
この島は、元々はマス・ア・ティエラ島と呼ばれ、1704年にスコ
ットランドの航海士、アレキサンダー・セルカークが、船長とケン
カして置き去りにされ、独りで4年4カ月を生き延びました。この
セルカークをモデルに書かれたのが、例のダニエル・デフォー作の
ロビンソン物語です。島は1966年に、現在のように改名されまして、
実世界では人口約600人。空港がありますが、FlightGear上では
NDBしかありません。
何年か前、日本の探検家がセルカークの居住地跡を突き止め、彼
のディバイダーの針を発掘したそうですね。金属の絶対年代測定は
困難なので、彼のものだと断定する根拠は、よく分かりませんが、
なかなかロマンあふれるお話です。こんな島が、わずか2時間弱の
飛行距離にあると思うと、もう、行ってみるしかありません。それ
もぜひ、航海に縁の深い天測を使って…と思い立った次第です。
しかし私の天文航法は、これまでのところ、最小でも十数nm程度、
下手をすると数十〜数百nmの誤差が出ます。なぜかと言いますと、
天文航法の計算法を忠実に再現するには、球面三角法の知識や、天
体の動きを時刻や季節変化、経年変化で正確に補正する航海暦(年
鑑式の天文データ集。非常に膨大)などが必要です。取りあえず自
己流で、ごく簡略化した地球モデルを想定し、緯度経度の計算式を
立ててみたのですが、これはさほど、うまく行きませんでした。
●航海士さんの作った、Excelアドオン集が突破口に:
そこで、天文航法計算のフリーウェアか何かが、簡単に手に入ら
ないか、執念深く探していましたところ、素晴らしいものが見つか
りました。本職の航海士さんが開発した、航法用Excelアドオン関数
集「Navigational Functions」です。DLはこちらから↓。
http://www4.ocn.ne.jp/~happoone/hfsoft-1.htm
本作品は計57の関数のセットで、私にとっては宝の山です。うれ
しいことに、航海暦なしには不可能と考えていた、「任意の年月日
時分秒、任意の緯度経度」における、太陽の赤緯やグリニッジ時角、
推測高度などを、いとも簡単に出してくれます。となりますと、もう
自己流の天文モデルは不要で、正攻法のプロ向け天測計算のうち、
私にも理解できるものを、試すばかりです。
そのためには、以下の技術開発を進める必要があります。
・より正確な、天体高度角の測定法を編み出す。
・FlightGearで使う航法計算の構造を決め、手順を考える。
・すべての手順を、Excelのワークシートにする。
…ずいぶん時間が掛かりましたが、何とか機能するものができまし
た。以下に順次ご紹介しましょう。
●六分儀を使わず、高精度の測定を実現:
まず、太陽高度角の測定です。以前ご紹介を頂いたFlightGear用
の気泡六分儀が使えれば、最高です。でもこれは残念ながら、現時
点ではVer1.0.0で使うのは無理、とのご指摘がありました。また旧
バージョンの六分儀の組み込みも試しましたが、結局は起動するこ
とが出来ませんでした。
となると「ヘリコプター・ビュー」で、機体越しに太陽を見上げ
Internal Properties/sim/current-view/pitch-offset-deg で高度
角を読む、という方法に戻ることになります。ただしこの機外視野
を使う測定法は、機体そのものが邪魔になります。そこで少し改良
を加えました。
まず測定前に/current-view/Z-offset-m を-10000に設定。tetsu
さんに教わった、機体を縮小して太陽を拡大し、太陽の中心を正確
に照準する方法ですが、tetsuさんのお薦め(カメラ位置500m後退)
よりも20倍、大きな数値にしています。
これで太陽を煎餅サイズに拡大しても、機体は豆粒大になります。
しかしマウスの角分解能が追い付かず、HUD画面中央の◇マーク
を、正確に太陽の中心に合わせることは不可能です。FlightGear用
六分儀では、カーソル微動機能を組み込んで、この問題を解決して
いるようですね。これに代わる方法はないか…と頭をひねった末、
太陽の中心と◇マーク中心の高度角差を、お馴染みのフリーウェア
「斜めものさし」で、精密に計ることにしました。
太陽の視直径は約31分ですので、これを基準に「斜めものさし」
の倍率を調節し、先の2点間の距離を分単位で出します。この数値
を pitch-offset-deg に足すか引くかすれば、分単位の約10分の1
あたりまで正確な、太陽高度角が分かります。
ここで、ちょっと気が引けましたが…太陽の中心点が見分けやす
いよう、太陽のテクスチャーに淡いグレーで、細めの十字線を描い
てしまいました。これで測定精度はバッチリです。
●推測位置を駆使する「高度方位角法」:
次に、航法計算の組み立て方を見直します。太陽を使う天文航法
には幾つかの考え方があります。一つは、太陽が南中する瞬間の高
度を測って、緯度を算出する方法ですが、チャンスが1日1回しか
なく、航空機向きではありません。
もう一つは、天測を行う時刻に自機がどこにいるか、あらかじめ
針路と速度、経過時間から推測位置を出しておき、その地点の太陽
の計算高度角と、実測高度角の差を調べ、これを数回繰り返して真
の現在地を割り出す「高度方位角法」です。観測も計算も割に簡単
で、なかなか巧妙な方法ですので、以下に測定法と位置決定プロセ
スの概略をご紹介します。
高度方位角法では、天測の予定時刻を決めておき、その時刻に
自機がどんな緯度経度にいるか、あらかじめ推測計算をしておきま
す。またその際、太陽がどんな方角に、どんな高度で見えるかも、
航海暦を元に、あらかじめ算出しておきます。
いま、予定時刻が来て天測を行い、太陽の高度角を測ったところ、
事前計算の高度角より、例えば5分だけ、角度が大きかったとしま
す。(このような、天体の推測高度と実測高度の差を、天文航法で
はインターセプトと呼びます)
高度角が、予想より大きいと言うことは…自機の実際の位置は、
事前計算で得た推定位置より、太陽に近い、ということですよね?
そこで、自機の推定位置から太陽の方位(これをアジマスと呼びま
す)に向けて直線を引きます。
次にこの線の上に、インターセプトをプロットしましょう。今回
のインターセプトは、角度にして5分ですから、自機は地球の中心
角で5分に相当する距離だけ、推測位置からアジマス上を移動した
位置にいる、と言えます。地球の中心角で5分(赤道上の投影角5
分)と言えば、つまり距離の5nmと意味は同じですから、「自機は
推測位置よりも、太陽の方位へ5nm離れている」と言えます。
ただし、ご注意ください。これでドンピシャリの現在地が出たわ
けでは、ないのです。いま太陽を使って実測したのは、あくまでも
「推測位置からのずれ」です。お手数ながら、今申し上げた「推測
位置よりも、太陽の方向へ5nm離れている」地点に、アジマスと直
角に交わる線を描き入れてください。自機はこの線上の、どこかに
います。
つまり「高度方位角法」では、1回の天体観測で、1本の位置の
線が手に入るのです。夜間ですと、3つの天体の高度をほぼ同時に
測ることも可能で、3本の位置の線が同時に得られ、この交点(正
確には三角形になるので、その中心)が現在地となります。
(以上について、説明図があるといいですね。船舶の天測例でした
ら、下記のサイトに、分かりやすい説明と図があります↓)
http://www.nexyzbb.ne.jp/~j_sunami76/fr_ichi_ten.html
<注>「天測航法に挑む・後編」では、前記の「5nm離れている」
地点が、すなわち自機の現在地である…という趣旨のご説明をしま
した。これは誤りで、位置の線が出るだけでした。ごめんなさい。
●Navigational Functionsで、ワークシートを再設計:
さて、この計算のワークシート化です。実際の関数を書いても、
アドオンを組み込まないと使えませんので、ここでは入力作業及び
演算手順をご説明します。☆印は、シートに入力する数値。★印は
返してくる数値です。
【出発点関係の演算】
☆出発点の緯度を入力。
☆同じく経度を入力。
☆出発時刻(UTC=世界時の年月日時分秒)を入力。
☆最終目的地の緯度を入力。
☆同じく経度を入力。
★すると、ラームライン(等角航路、航程線)を使った真方位の
針路と、総飛行距離が返ってくる。
【観測予定点に関する演算】
☆観測予定点への真針路を入力。
☆同じく、対地飛行速度を入力。
(針路は、すでに出た演算結果を使うが、風力補正計算が必要)
☆所要時間(出発後、何時間何分経ったら天測したいか)を入力。
…すると、以下のデータが返ってくる。
★観測予定時刻(年月日時分秒)。
★観測予定地点の推定緯度。
★同じく経度。
★観測予定時刻の太陽赤緯。
★同じくグリニッジ時角(経度ゼロ点からの時差を示す数値)。
★予測される太陽高度(これら4項目から算出できる)。
★予測される太陽方位(同上。これをアジマスと呼ぶ)。
【実測値と、比較計算】
☆太陽高度角の実測値(pitch-offset-deg を正の値にして)入力。
☆「斜めものさし」高度補正値(単位:度)入力。
…すると、以下のデータが返る。
★インターセプト(単位:度)。
★緯度の実測値、経度の実測値。
…この緯度経度を新たな出発点として、以下のデータも出る。
★目的地への修正針路(真方位。風力補正計算が必要)。
★残り飛行距離。
★残り飛行時間(風力補正が必要)。
★目的地到着予定時刻(年月日時分秒)。
…というわけです。ただし Navigational Functions は、緯度経
度の表示については、小数点以下2けたを60進数に、それ以下のけ
たは60進数の小数点以下を表す…という、「変型60進数」を使って
います。これは要するに、緯度経度を「○度○.○分」の形式で表す
と言うだけのことですが、Excelの標準的な関数とは混用できないた
め、ワークシートのあちこちで、通常の小数との相互コンバートが
必要です。この点、バグ取りに苦心しました。
●さまざまな緯度経度で、テストを重ねる:
FlightGearを起動して、ブロンコ改を南北アメリカ大陸の数カ所
と、日本国内の空港に出現させ、実際に太陽を見上げて高度角を計
測しました。結果は前記ワークシートに入力しますが、ここで「観
測予定点への所要時間」にゼロを入力しておけば、現在地の緯度経
度が出ます。これとHUD画面に表示される、FlightGear上の「実
際の」緯度経度を比較すれば、天測及び計算の精度が判明します。
初めのうちは少々、飛んでもない値も出ましたが…ワークシート
のバグが枯れますと、インターセプトが角度3分(誤差3nm)以内、
という測定結果が続出。ベスト記録は、高知空港における0.8nmで、
これは実に、プロの航海士の天測の腕前(誤差1nm以内)に匹敵する
精度です。FlightGearにおける私の天文航法は、滑走路が視界に入る
範囲(距離10nm)の誤差を許容するつもりでしたので、これで少なく
とも実験上は、十分に実用レベルに到達したことになります。
○
このあと実際に、サンチャゴからロビンソン・クルーソー島へ、
天測のみに頼る往復飛行を試みました。うまく行った部分と、予想
外の課題が浮かび上がった点がありまして、実戦では精度面でも正
直まだ、改良の余地があります。この日は時間がなく、フライトは
取りあえず、片道を終えた時点でセーブしました。
航法を改良すべき点は、ある程度見当が付いていますので、答を
出して復路のフライトを続け、まとめてご報告したかったのですが、
私は10日ほど前から入院してしまい、果たせずにいます。
かなり体調が回復したので、今日はとりあえず、開発編のみ書か
せて頂きました。週明けに退院できそうですが、その後は1カ月ほ
ど仕事に追われますので、フライトのご紹介や改良編は、なおしば
らく先になってしまいそうです。
●新たな航法技術へ発展も:
今回独習した天文航法計算は、さすがにプロ向けの計算式を使い、
内部に推測航法を取り込んでいることもあって、かなり広範囲に応
用が利くと感じます。
例えば、今回のワークシートを改良すれば、偏流の補正計算を自
動化し、風向・風速を意識せずに、遠距離航法がこなせるようにす
るのは簡単です。また天体の高度角計算の代りに、VORの受信データ
を加えれば、最近エアラインが取り入れている「RNAV」(VOR直航の
既存航空路に依存しない「広域航法」)に近い飛び方も、実現でき
るであろうと期待しています。
私の世界一周はアンデス横断後、チリの首都サンチャゴで一休み
しております。先日地図帳を眺めていましたら、ここから約400nm沖
の太平洋上に、「ロビンソン・クルーソー島」という、面白い名前
の孤島を見つけました。今回はこの島まで、初めて天文航法に頼って
往復飛行を試みようと、まず天測と計算の全面改良に取り組みます。
●天文航法を再構築し、ロビンソン島へ:
この島は、元々はマス・ア・ティエラ島と呼ばれ、1704年にスコ
ットランドの航海士、アレキサンダー・セルカークが、船長とケン
カして置き去りにされ、独りで4年4カ月を生き延びました。この
セルカークをモデルに書かれたのが、例のダニエル・デフォー作の
ロビンソン物語です。島は1966年に、現在のように改名されまして、
実世界では人口約600人。空港がありますが、FlightGear上では
NDBしかありません。
何年か前、日本の探検家がセルカークの居住地跡を突き止め、彼
のディバイダーの針を発掘したそうですね。金属の絶対年代測定は
困難なので、彼のものだと断定する根拠は、よく分かりませんが、
なかなかロマンあふれるお話です。こんな島が、わずか2時間弱の
飛行距離にあると思うと、もう、行ってみるしかありません。それ
もぜひ、航海に縁の深い天測を使って…と思い立った次第です。
しかし私の天文航法は、これまでのところ、最小でも十数nm程度、
下手をすると数十〜数百nmの誤差が出ます。なぜかと言いますと、
天文航法の計算法を忠実に再現するには、球面三角法の知識や、天
体の動きを時刻や季節変化、経年変化で正確に補正する航海暦(年
鑑式の天文データ集。非常に膨大)などが必要です。取りあえず自
己流で、ごく簡略化した地球モデルを想定し、緯度経度の計算式を
立ててみたのですが、これはさほど、うまく行きませんでした。
●航海士さんの作った、Excelアドオン集が突破口に:
そこで、天文航法計算のフリーウェアか何かが、簡単に手に入ら
ないか、執念深く探していましたところ、素晴らしいものが見つか
りました。本職の航海士さんが開発した、航法用Excelアドオン関数
集「Navigational Functions」です。DLはこちらから↓。
http://www4.ocn.ne.jp/~happoone/hfsoft-1.htm
本作品は計57の関数のセットで、私にとっては宝の山です。うれ
しいことに、航海暦なしには不可能と考えていた、「任意の年月日
時分秒、任意の緯度経度」における、太陽の赤緯やグリニッジ時角、
推測高度などを、いとも簡単に出してくれます。となりますと、もう
自己流の天文モデルは不要で、正攻法のプロ向け天測計算のうち、
私にも理解できるものを、試すばかりです。
そのためには、以下の技術開発を進める必要があります。
・より正確な、天体高度角の測定法を編み出す。
・FlightGearで使う航法計算の構造を決め、手順を考える。
・すべての手順を、Excelのワークシートにする。
…ずいぶん時間が掛かりましたが、何とか機能するものができまし
た。以下に順次ご紹介しましょう。
●六分儀を使わず、高精度の測定を実現:
まず、太陽高度角の測定です。以前ご紹介を頂いたFlightGear用
の気泡六分儀が使えれば、最高です。でもこれは残念ながら、現時
点ではVer1.0.0で使うのは無理、とのご指摘がありました。また旧
バージョンの六分儀の組み込みも試しましたが、結局は起動するこ
とが出来ませんでした。
となると「ヘリコプター・ビュー」で、機体越しに太陽を見上げ
Internal Properties/sim/current-view/pitch-offset-deg で高度
角を読む、という方法に戻ることになります。ただしこの機外視野
を使う測定法は、機体そのものが邪魔になります。そこで少し改良
を加えました。
まず測定前に/current-view/Z-offset-m を-10000に設定。tetsu
さんに教わった、機体を縮小して太陽を拡大し、太陽の中心を正確
に照準する方法ですが、tetsuさんのお薦め(カメラ位置500m後退)
よりも20倍、大きな数値にしています。
これで太陽を煎餅サイズに拡大しても、機体は豆粒大になります。
しかしマウスの角分解能が追い付かず、HUD画面中央の◇マーク
を、正確に太陽の中心に合わせることは不可能です。FlightGear用
六分儀では、カーソル微動機能を組み込んで、この問題を解決して
いるようですね。これに代わる方法はないか…と頭をひねった末、
太陽の中心と◇マーク中心の高度角差を、お馴染みのフリーウェア
「斜めものさし」で、精密に計ることにしました。
太陽の視直径は約31分ですので、これを基準に「斜めものさし」
の倍率を調節し、先の2点間の距離を分単位で出します。この数値
を pitch-offset-deg に足すか引くかすれば、分単位の約10分の1
あたりまで正確な、太陽高度角が分かります。
ここで、ちょっと気が引けましたが…太陽の中心点が見分けやす
いよう、太陽のテクスチャーに淡いグレーで、細めの十字線を描い
てしまいました。これで測定精度はバッチリです。
●推測位置を駆使する「高度方位角法」:
次に、航法計算の組み立て方を見直します。太陽を使う天文航法
には幾つかの考え方があります。一つは、太陽が南中する瞬間の高
度を測って、緯度を算出する方法ですが、チャンスが1日1回しか
なく、航空機向きではありません。
もう一つは、天測を行う時刻に自機がどこにいるか、あらかじめ
針路と速度、経過時間から推測位置を出しておき、その地点の太陽
の計算高度角と、実測高度角の差を調べ、これを数回繰り返して真
の現在地を割り出す「高度方位角法」です。観測も計算も割に簡単
で、なかなか巧妙な方法ですので、以下に測定法と位置決定プロセ
スの概略をご紹介します。
高度方位角法では、天測の予定時刻を決めておき、その時刻に
自機がどんな緯度経度にいるか、あらかじめ推測計算をしておきま
す。またその際、太陽がどんな方角に、どんな高度で見えるかも、
航海暦を元に、あらかじめ算出しておきます。
いま、予定時刻が来て天測を行い、太陽の高度角を測ったところ、
事前計算の高度角より、例えば5分だけ、角度が大きかったとしま
す。(このような、天体の推測高度と実測高度の差を、天文航法で
はインターセプトと呼びます)
高度角が、予想より大きいと言うことは…自機の実際の位置は、
事前計算で得た推定位置より、太陽に近い、ということですよね?
そこで、自機の推定位置から太陽の方位(これをアジマスと呼びま
す)に向けて直線を引きます。
次にこの線の上に、インターセプトをプロットしましょう。今回
のインターセプトは、角度にして5分ですから、自機は地球の中心
角で5分に相当する距離だけ、推測位置からアジマス上を移動した
位置にいる、と言えます。地球の中心角で5分(赤道上の投影角5
分)と言えば、つまり距離の5nmと意味は同じですから、「自機は
推測位置よりも、太陽の方位へ5nm離れている」と言えます。
ただし、ご注意ください。これでドンピシャリの現在地が出たわ
けでは、ないのです。いま太陽を使って実測したのは、あくまでも
「推測位置からのずれ」です。お手数ながら、今申し上げた「推測
位置よりも、太陽の方向へ5nm離れている」地点に、アジマスと直
角に交わる線を描き入れてください。自機はこの線上の、どこかに
います。
つまり「高度方位角法」では、1回の天体観測で、1本の位置の
線が手に入るのです。夜間ですと、3つの天体の高度をほぼ同時に
測ることも可能で、3本の位置の線が同時に得られ、この交点(正
確には三角形になるので、その中心)が現在地となります。
(以上について、説明図があるといいですね。船舶の天測例でした
ら、下記のサイトに、分かりやすい説明と図があります↓)
http://www.nexyzbb.ne.jp/~j_sunami76/fr_ichi_ten.html
<注>「天測航法に挑む・後編」では、前記の「5nm離れている」
地点が、すなわち自機の現在地である…という趣旨のご説明をしま
した。これは誤りで、位置の線が出るだけでした。ごめんなさい。
●Navigational Functionsで、ワークシートを再設計:
さて、この計算のワークシート化です。実際の関数を書いても、
アドオンを組み込まないと使えませんので、ここでは入力作業及び
演算手順をご説明します。☆印は、シートに入力する数値。★印は
返してくる数値です。
【出発点関係の演算】
☆出発点の緯度を入力。
☆同じく経度を入力。
☆出発時刻(UTC=世界時の年月日時分秒)を入力。
☆最終目的地の緯度を入力。
☆同じく経度を入力。
★すると、ラームライン(等角航路、航程線)を使った真方位の
針路と、総飛行距離が返ってくる。
【観測予定点に関する演算】
☆観測予定点への真針路を入力。
☆同じく、対地飛行速度を入力。
(針路は、すでに出た演算結果を使うが、風力補正計算が必要)
☆所要時間(出発後、何時間何分経ったら天測したいか)を入力。
…すると、以下のデータが返ってくる。
★観測予定時刻(年月日時分秒)。
★観測予定地点の推定緯度。
★同じく経度。
★観測予定時刻の太陽赤緯。
★同じくグリニッジ時角(経度ゼロ点からの時差を示す数値)。
★予測される太陽高度(これら4項目から算出できる)。
★予測される太陽方位(同上。これをアジマスと呼ぶ)。
【実測値と、比較計算】
☆太陽高度角の実測値(pitch-offset-deg を正の値にして)入力。
☆「斜めものさし」高度補正値(単位:度)入力。
…すると、以下のデータが返る。
★インターセプト(単位:度)。
★緯度の実測値、経度の実測値。
…この緯度経度を新たな出発点として、以下のデータも出る。
★目的地への修正針路(真方位。風力補正計算が必要)。
★残り飛行距離。
★残り飛行時間(風力補正が必要)。
★目的地到着予定時刻(年月日時分秒)。
…というわけです。ただし Navigational Functions は、緯度経
度の表示については、小数点以下2けたを60進数に、それ以下のけ
たは60進数の小数点以下を表す…という、「変型60進数」を使って
います。これは要するに、緯度経度を「○度○.○分」の形式で表す
と言うだけのことですが、Excelの標準的な関数とは混用できないた
め、ワークシートのあちこちで、通常の小数との相互コンバートが
必要です。この点、バグ取りに苦心しました。
●さまざまな緯度経度で、テストを重ねる:
FlightGearを起動して、ブロンコ改を南北アメリカ大陸の数カ所
と、日本国内の空港に出現させ、実際に太陽を見上げて高度角を計
測しました。結果は前記ワークシートに入力しますが、ここで「観
測予定点への所要時間」にゼロを入力しておけば、現在地の緯度経
度が出ます。これとHUD画面に表示される、FlightGear上の「実
際の」緯度経度を比較すれば、天測及び計算の精度が判明します。
初めのうちは少々、飛んでもない値も出ましたが…ワークシート
のバグが枯れますと、インターセプトが角度3分(誤差3nm)以内、
という測定結果が続出。ベスト記録は、高知空港における0.8nmで、
これは実に、プロの航海士の天測の腕前(誤差1nm以内)に匹敵する
精度です。FlightGearにおける私の天文航法は、滑走路が視界に入る
範囲(距離10nm)の誤差を許容するつもりでしたので、これで少なく
とも実験上は、十分に実用レベルに到達したことになります。
○
このあと実際に、サンチャゴからロビンソン・クルーソー島へ、
天測のみに頼る往復飛行を試みました。うまく行った部分と、予想
外の課題が浮かび上がった点がありまして、実戦では精度面でも正
直まだ、改良の余地があります。この日は時間がなく、フライトは
取りあえず、片道を終えた時点でセーブしました。
航法を改良すべき点は、ある程度見当が付いていますので、答を
出して復路のフライトを続け、まとめてご報告したかったのですが、
私は10日ほど前から入院してしまい、果たせずにいます。
かなり体調が回復したので、今日はとりあえず、開発編のみ書か
せて頂きました。週明けに退院できそうですが、その後は1カ月ほ
ど仕事に追われますので、フライトのご紹介や改良編は、なおしば
らく先になってしまいそうです。
●新たな航法技術へ発展も:
今回独習した天文航法計算は、さすがにプロ向けの計算式を使い、
内部に推測航法を取り込んでいることもあって、かなり広範囲に応
用が利くと感じます。
例えば、今回のワークシートを改良すれば、偏流の補正計算を自
動化し、風向・風速を意識せずに、遠距離航法がこなせるようにす
るのは簡単です。また天体の高度角計算の代りに、VORの受信データ
を加えれば、最近エアラインが取り入れている「RNAV」(VOR直航の
既存航空路に依存しない「広域航法」)に近い飛び方も、実現でき
るであろうと期待しています。
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Re: 手探り航法・旅日記(その2)
(Tat, 2008-7-10 3:08)
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Re: 手探り航法・旅日記(その2)
(toshi, 2009-2-17 2:28)
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Re: 手探り航法・旅日記(その2)
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コロンブス初上陸の島へ
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小説「航空救難隊」を再現する・前編
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グラウンド・ゼロ
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リンドバーグの視界
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ILS自動着陸に挑む
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ILS自動着陸を洗練する
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YS−11でアメリカ中西部を行く
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
(Tat, 2009-7-28 0:25)
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
(Tat, 2009-7-29 12:23)
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
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新開発の航法でバリンジャー隕石孔へ
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ラスベガスから、超巨大なエドワーズ空軍基地へ
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空の巨船と零戦に導かれ…ハワイから硫黄島へ
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帰還…富士山と松山に再会
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Re: 帰還…富士山と松山に再会
(toshi, 2010-2-1 23:32)
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Re: 帰還…富士山と松山に再会
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夢の視界100マイル、そして南極からの帰還
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Re: 夢の視界100マイル、そして南極からの帰還
(toshi, 2010-5-21 2:37)
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Re: 夢の視界100マイル、そして南極からの帰還
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北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
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Re: 北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
(sambar, 2011-2-16 22:03)
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Re: 北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
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子午線への挑戦(1)
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GMTからJSTへ グリニッジ=明石間 子午線の旅
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Re: GMTからJSTへ グリニッジ=明石間 子午線の旅
(toshi, 2011-7-14 1:09)
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Re: GMTからJSTへ グリニッジ=明石間 子午線の旅
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オランダ天測の旅
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オランダ天測の旅
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Re: GMTからJSTへ グリニッジ=明石間 子午線の旅
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Re: GMTからJSTへ グリニッジ=明石間 子午線の旅
(toshi, 2011-7-14 1:09)
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GMTからJSTへ グリニッジ=明石間 子午線の旅
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子午線への挑戦(1)
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Re: 北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
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Re: 北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
(sambar, 2011-2-16 22:03)
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北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
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Re: 夢の視界100マイル、そして南極からの帰還
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Re: 夢の視界100マイル、そして南極からの帰還
(toshi, 2010-5-21 2:37)
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夢の視界100マイル、そして南極からの帰還
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Re: 帰還…富士山と松山に再会
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Re: 帰還…富士山と松山に再会
(toshi, 2010-2-1 23:32)
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帰還…富士山と松山に再会
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空の巨船と零戦に導かれ…ハワイから硫黄島へ
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オアフ島でAI機研究
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KSFOからホノルルへ太平洋横断
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新開発の航法でバリンジャー隕石孔へ
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
(Tat, 2009-7-29 12:23)
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
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Re: YS−11でアメリカ中西部を行く
(Tat, 2009-7-28 0:25)
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YS−11でアメリカ中西部を行く
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ILS自動着陸を洗練する
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コロンブス初上陸の島へ
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Re: 手探り航法・旅日記(その2)
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