リンドバーグの視界
hide
居住地: 兵庫県
投稿数: 650
hideです。
私の世界一周は、やっとニューヨークまで来ました。リンドバーグがパリに
向けて飛び立った場所でもあり、今回はまずライアンNYP スピリット・オブ・
セントルイスに試乗します。その後、戦前のエアレースで名高い、エリー湖畔
のクリーブランドを経て、ライト兄弟の故郷デイトンにある、ライト・パター
ソン空軍基地まで進出することにしました。
セントルイス号はご存じの通り、胴体内に巨大なタンクを積み、コクピット
をその後ろに納めた「フロントグラスのない飛行機」ですが、これが実際問題
として、どの程度飛ばしにくかったのか、じっくり味わうことができました。
今回のサブテーマは「古典機の視界」です。
●左の窓から前を見る:
FlightGearのセントルイス号は、エマニュエル・バランジェさん作で、
スマートな機体形状を、かなり巧みに再現しています。コクピット右のドアは
開閉式で、外から機内をのぞくと、スミソニアン博物館と同じ角度でパネルが
ちらりと見えて、なかなか感動的です。滑走中は、サスが激しく上下動を見せ
てくれまして、機尾には、整備員が機体の向きを変える取っ手まで再現され、
コクピット左側面には、ちゃんとペリスコープが突き出しています。(ダミー
なので使えず、伸縮しないのは残念です)
このペリスコープは視界が狭いため、リンドバーグはあまり使わず、離着陸
時には左側面窓から、斜め前を見ていますので、私もパイロット視点を、左の
窓枠まで移動させてみました。
あれこれファイルを調べたところ、Ryan-SoSL/nas/views.xmlの26行目に、
<x-offset-m archive="y"> 0.0 </x-offset-m>
という記述がありました。中央の数値はパイロットの頭の左右位置で、私の
場合は-0.460として、左に寄せています。
バランジェさんも、側面窓から外を見ることを想定したようで、この行には
<!-- Right "0.803" -->というコメントが付いています。この通りに数値を
書き換えると、右窓から大きく顔を出した視点になります。
セントルイス号のパネルは、現在の標準配置と違って、主要計器が右寄りに
付いています。また左側は、ペリスコープが出たままで、やや邪魔になります
から、確かにFlightGearでは右から見る方が合理的です。ただし実機では
右に体を寄せると肩が苦しくて、操縦桿が操作しにくいと思いますので、私は
史実通りに左窓を使いました。
コクピットからの視界は、「世界が左半分だけ見える」といった印象です。
●真っ直ぐ飛べるようにする:
さてテスト飛行です。リンドバーグが飛び立った、ロングアイランドのルー
ズベルト飛行場は1951年に廃止され、今はショッピングセンターになっており
マップ上には再現されていません。そこで西南西約8nmにある、ジョン・F・ケ
ネディ空港を使うことにしました。
ところがこの機体、なかなか真っ直ぐ走ってくれません。私はジョイスティ
ックを持っておらず、独立したラダー操作が出来ないため、もともと3車輪で
ないと操縦しにくいのですが、機体も少々、グラウンド・ループの傾向が激し
いようです。そこでryan-sosl-yasim.xmlを調べたところ、主車輪と尾輪
の抵抗係数が同一になっていました。
これには異論ありです。セントルイス号は第一次大戦機と同様、テール・ド
ラッガー(尾輪の代りにソリがある機体)で、ソリの抵抗を地上ブレーキとし
て使っています。従って抵抗係数は、もう少し大きくていいと思い、主車輪の
4倍にしてみました。これで機体は、ぐっと直進性を増しました。
離陸してみると、また新たな問題が発生。何度試しても左へ大バンクして、
必ず墜落してしまうのです。調べてみますと上反角はゼロですが、これはセン
トルイス号の三面図を「直訳」したもので、異論があります。高翼機は上反角
がなくても、バンクしてサイドスリップすると、胴体に気流が当たり、主翼下
面の風圧が増えて復元力を生みます。yasim はこれを再現しないようですの
で、若干の上反角を付けるのが正しいと思います。
試しに上反角を3度与えると、わずかに安定性が発生しました。まだロール
方向に暴れるので、5度まで増やしたところ、ようやくまともに飛べるように
なりました。
●ロングアイランド上空を散策:
やっと、JFK空港を離陸。満タンに近い燃料が入っており、機体は過荷重で
なかなか浮かず、ドンドコ過ぎゆく滑走路を見ていると、リンドバーグの出発
時の不安が、少し分かる気がします。重い機体をだましだまし上昇させ、高度
を稼いで緩やかに旋回。ロングアイランド南岸の景色を楽しみました。
マイアルバムに広角気味の、コクピット視界のスナップをアップロードして
おきます。セントルイス号のキャビンは幅94センチ、前後81センチですので、
実際はもっと、パネルが近く感じられるはずですが、まあ大体こんな感じだっ
たのでしょう。
着陸時は燃料を減らしましたが、外部視界に切り替えるまでもなく、無事に
降りることが出来ました。何度か発着を練習して、かなり慣れたものの、仮に
実機で飛ぶなら、この視界の悪さは相当、気になると思います。
リンドバーグの成功から45日後、実は毎日新聞社が、同型機を発注していま
す。これはライアン社が作った、29機目の同型機だったそうで、J−BACC
の機体記号を取得。長距離通信機(連絡機のこと)に使う目的でしたが、視界
の悪さに音を上げて、本州一周の無着陸飛行を試した後、前方に操縦席のある
3座機に改造したそうです。
ニューヨークの航空史は、掘り出せばたくさんありそうですが、あと1つだ
け。ルーズベルト飛行場のすぐ南隣には、陸軍のミッチェル飛行場があったの
ですが、ここでジミー・ドゥーリットルは1929年、コンソリデーテッドNY-2
複葉機の操縦席に、外が見えないカバーを掛け、誘導電波を使って、世界初の
計器離着陸に成功しています。最大の課題は高度の測定精度ですが、NY-2は
鈍足のうえ頑丈で、脚をかなり強化してあり、フレアを掛けず接地しても大丈
夫だったそうです。この実験のため、ドゥーリットルのアイディアを出発点と
して、旋回計の発明者エルマー・スペリーが、初の精巧な人工水平儀とジャイ
ロ定針儀を開発しました。
(FlightGearのセスナ172も、700ftくらいの降下率を保ったまま、安全に
接地できます。この飛行を再現したいのですが、フロントグラスの視界を塞ぐ
うまい手を思いつきません)
さて私はセントルイス号で、クリーブランドまで、クロスカントリーをやっ
てみたいと思いました。次のようなコースです。
■NYからクリーブランドへ:
◎ケネディ国際空港KJFK VOR-115.90 403758N-734616W 偏西13度
▼288度302nm
◎エリー・トム・リッジ空港KERI 420451N-801033W
▼243度76nm
◎バーク・レークフロント空港KBKL 413106N-814100W
▼230度10nm
◎クリーブランド・ホプキンズ国際空港KCLE 412448N-815059W
最初の中継地の、エリー・トム・リッジ空港は、エリー湖南岸の、ちょうど
中央付近にあります。セントルイス号はVORもNDBも使えませんし、視界が悪い
上、このコースは大半が平たい山地で、地文航法は困難です。残る手は推測航
法ですが、鈍足のため風の影響が大で、かなりの誤差が予想されます。そこで
エリー湖にぶち当たって西に変針し、湖岸に沿って飛べば迷いっこない…とい
う作戦を立てました。
●「わき見禁止」の赤いヴェガ:
残念なことにセントルイス号は、オートパイロットが全く使えないことが判
明。ウイングレベラーさえ利かず、これで長距離は大変と思いまして、今回は
1930年に開発された、ロッキード・ヴェガを選びました。鬼才ジョン・ノース
ロップ設計の高速軽旅客機で、今ならさしずめビジネスジェットですね。長距
離レーサーの顔も持ち、ウィリー・ポストの単独早回り世界一周と高々度実験
飛行、アメリア・イアハートの大西洋横断などに使われ、当時の民間機には
珍しく、100機以上造られました。FlightGear用の機体は真っ赤で、ドア
以外の客席窓がすべて塞いであり、イアハート機のようです。
さて、ヴェガの視界ですが。主翼の前縁部にコクピットがあり、イアハート
の実機を見学した際も別段、視界が悪そうには見えませんでした。しかし飛ば
してみると、意外な落とし穴がありました。
これも、マイアルバムをご参照頂きたいのですが、実はパイロットの側面、
ちょうど目の高さに、主翼前縁の断面が位置しており、真横が全然見えないの
です。ベースレグからファイナル・アプローチに入る時など、滑走路がまった
く見えません。側面下方にわずかな視野がありますが、役立たずです。まるで
わき見防止の目隠しを付けた、馬車馬になった気分で、しばらく飛ばしている
とストレスが溜まってきます。
ヴェガもテール・ドラッガーですので、独立ラダーが使えない私は、滑走に
手間取ります。そこでまた少々、テールスキッドの抵抗を増しました。
(ついでにバラしますと、主車輪のトレッドも若干拡張しました。この機体は
地上で結構、派手にロールするのです)
JFK空港で現地時間1302時、UTC1702時に始動。風は250度9Kt。broken
とscattered の雲が4層ありました。
燃料を1000Lbs積んで西向きに離陸。薄雲越しにぼんやり見える、マンハ
ッタンのビル群を振り返りながら、エリー・トム・リッジ空港へ。約130Kt
しか出ませんので、風速9Ktでも、かなり偏流(横風成分)を食いそうです。
きっちり風力補正計算をして、左に3度修正。そろそろニューアーク空港が
真横すぐ下にあるはずですが、「側面目隠し飛行機」ですので見えません。
●アパラチア山脈を越えて:
やがて街と平野が切れ、眼下は森林一色に。この機体の長所は、オートパイ
ロットで倍速飛行時に、大変安定していることです。低く拡がったアパラチア
山脈と、それに続くアレゲニー台地の上を、4倍速でひたすら飛び続けます。
やがて山地がせり上がり、私は5000ftへ上昇しました。
そろそろペンシルベニア州かな、と思いますが、景色はまったく同じ。なん
だか非常に大きな、どこまで食べても同じ味の淡泊なパンを、ひたすらかじり
続けている気分です。アメリカは、広いですね。
やっと山々の標高が下がってきました。すぐエリー湖が見えるはず。1912時、
ハーフスロットルにして、3000ftに向けて降下。1914時、前方に水面が拡がり
まして、やれやれエリー湖です。
左には都会が…エリー市ですね。Atlasで確認すると、コースは計画より右
に8nmずれていますが、まぁよしとします。1920時にエリー・トム・リッジ空
港の上空をフライパス。到着時刻はドンピシャリでした。針路を変更し、風力
補正計算をすると、ほぼ修正角はゼロ。さあクリーブランドへ、ヨーソロ(直
進)と行きましょう。
湖岸に沿って飛び続けると、やがて大都会が出現。ビルと共に、太い煙突や
送電線の鉄塔が見え、いかにも工業都市です。湖岸に沿って横たわる、バーク
・レークフロント空港の上空を通過。変針して10nm飛び、クリーブランド・ホ
プキンズ国際空港を発見。風下へフライパスして反転し、かなり上手く降りた
つもりでしたが、大きなタイヤがポンポン跳ねて、パルーニング気味となり、
ちょっとグラウンド・ループしたのが残念でした。
●赤と白のクマンバチ:
クリーブランドは、五大湖の工業地帯にあり、早くから航空も盛んで、確か
1930年ごろ、全米初の管制塔が設けられました。1929年にクリーブランド・ナ
ショナル・エアレース(数十競技の総合大会)が始まり、1931年には同レース
に有名な、周回競技のトンプソン杯レースが加わりました。
ドゥーリットルは、1931年に大陸横断のベンディックス杯レースに優勝後、
トンプソン杯も狙いましたが、直前に愛機の脚故障で胴体着陸。出場を断念し
かけますが、ここでグランビル・ブラザース・エアクラフトが、自社GeeBee
・R1型レーサーを提供しました。例のクマンバチみたいな、巨大な空冷エンジ
ンを包む短い胴体に、ごく小さな翼が付いた飛行機で、操縦・安定性は悪く、
このシリーズは死亡事故が相次いだようですね。
著名な女性レーサー、ジャクリーン・コクランは、本機のストレッチ型(航
法士が同乗)で、なんとロンドン=シドニー間レースに出ていますが、ルーマ
ニアでリタイア。「この飛行機に失速速度はない。どんな速度でも失速する」
と自伝で語っています。ドゥーリットルが試乗した際は、勝手に2回、スナッ
プロールしたそうですが、何とか乗りこなし、トンプソン杯を得ました。
せっかくクリーブランドに来たのですから、GeeBeeに乗らない手はありま
せん。まず視界ですが、目の前と左右はよく見えます。キャノピーが大変小さ
いため、頭の近くに死角がないのですね。ただ機首は太く長いので、地上では
前方が、空中では下方が大きく塞がります。
視野をやや広角気味に引くと、何とか滑走路の側線が見えますが、直進性は
不良。苦心して滑走し、滑走路の末端に近い、接地点標識のあたりで離陸しま
した。上がってしまえば癖は少なく、パワーは十分。低空で220Ktを発揮し、
連続宙返りが可能です。
エルロンロールも出来ますが、背面付近では機首が振れやすく、修正の舵も
敏感なので、ブラックアウトやレッドアウトを食って視界を奪われ、いま墜ち
るか、もうダメかと、かなり焦りましたが、何とかリカバーしました。
●GeeBeeでデイトンへ:
全開の燃費は2mn/gal、ハーフスロットルで3nm/gal程度ですが、タンクには
13.2gal(約50Lbs)しか積めません。クリーブランド・ホプキンズ空港から、
市の反対側の、レークフロント空港まで往復したら燃料が尽き、ホプキンズに
デッドスティック・ランディング(滑空着陸)しました。全開ですと、たった25nm
くらいしか飛べません。
着陸は110Kt進入、80Kt程度で接地。蛇行するけれど、尾輪がステアします
ので、修正できなくはありません。「癖はあるが、飛ばせないことはないな」
と思いまして、ちょっと可愛くなり。デフォルトの燃料79Lbsを1500Lbsに
拡張して、デイトンのライト・パターソン空軍基地まで、クロスカントリーを
試みました。以下がフライトプランです。
■クリーブランド=デイトン:
◎クリーブランド・ホプキンズ国際空港KCLE 412448N-815059W
▼224度131nm
★スプリングフィールド・バークレー(KSGH)VOR 113.20 395013N-835041W
▼264度10nm
◎ライト・パターソン空軍基地KFFO 394935N-840251W
約190度4Ktの風。220Kt出すと仮定し、針路を計算します。1度左、4Kt減
の補正値を得て1735時、上げ舵を一杯に引いて離陸し、南東へ。眼下には優し
い色合いをした、田園地帯が拡がります。小都市と小空港がたくさん点在し、
心なごむ風景です。
5000ftを、計画より少し遅い207KIAS前後で飛びましたので、TASは230Kt
くらいでしょう。1810時に、スプリングフィールド・バークレー着予定とみて
巡航を続けます。1802時に燃費を計ると2.98nm/gal。燃料残は1300Lbsです。
1813時、そろそろ高度を下げて3000ftへ。1815時、左に都市を発見しましたが
デイトンにしては小さいなあ…。
適当なランドマークがないため、Atlasを参照し、中継地のスプリングフィ
ールドを北へ外したものの、ライト・パターソン空軍基地に、ぴたりと向かっ
ていることを確認。そのままストレートに着陸しました。
GeeBeeは、適度にじゃじゃ馬で面白いですが、またも着陸でグラウンド・
ループ気味になったのは残念です。私は空戦はしないものの、スタント時の
操舵や、テール・ドラッガーとヘリの操縦を考えると、やはりラダー軸独立
のジョイスティックが欲しくなってきます。
どなたかお勧め製品、及び注文先がありましたら、どうかご教示下さい。
或いは手持ちのMSサイドワインダーの、ゲームポート用コネクタを、USBに変
換する方法が見つかれば、XPでも使えそうで、それでもOKなのですが。
私の世界一周は、やっとニューヨークまで来ました。リンドバーグがパリに
向けて飛び立った場所でもあり、今回はまずライアンNYP スピリット・オブ・
セントルイスに試乗します。その後、戦前のエアレースで名高い、エリー湖畔
のクリーブランドを経て、ライト兄弟の故郷デイトンにある、ライト・パター
ソン空軍基地まで進出することにしました。
セントルイス号はご存じの通り、胴体内に巨大なタンクを積み、コクピット
をその後ろに納めた「フロントグラスのない飛行機」ですが、これが実際問題
として、どの程度飛ばしにくかったのか、じっくり味わうことができました。
今回のサブテーマは「古典機の視界」です。
●左の窓から前を見る:
FlightGearのセントルイス号は、エマニュエル・バランジェさん作で、
スマートな機体形状を、かなり巧みに再現しています。コクピット右のドアは
開閉式で、外から機内をのぞくと、スミソニアン博物館と同じ角度でパネルが
ちらりと見えて、なかなか感動的です。滑走中は、サスが激しく上下動を見せ
てくれまして、機尾には、整備員が機体の向きを変える取っ手まで再現され、
コクピット左側面には、ちゃんとペリスコープが突き出しています。(ダミー
なので使えず、伸縮しないのは残念です)
このペリスコープは視界が狭いため、リンドバーグはあまり使わず、離着陸
時には左側面窓から、斜め前を見ていますので、私もパイロット視点を、左の
窓枠まで移動させてみました。
あれこれファイルを調べたところ、Ryan-SoSL/nas/views.xmlの26行目に、
<x-offset-m archive="y"> 0.0 </x-offset-m>
という記述がありました。中央の数値はパイロットの頭の左右位置で、私の
場合は-0.460として、左に寄せています。
バランジェさんも、側面窓から外を見ることを想定したようで、この行には
<!-- Right "0.803" -->というコメントが付いています。この通りに数値を
書き換えると、右窓から大きく顔を出した視点になります。
セントルイス号のパネルは、現在の標準配置と違って、主要計器が右寄りに
付いています。また左側は、ペリスコープが出たままで、やや邪魔になります
から、確かにFlightGearでは右から見る方が合理的です。ただし実機では
右に体を寄せると肩が苦しくて、操縦桿が操作しにくいと思いますので、私は
史実通りに左窓を使いました。
コクピットからの視界は、「世界が左半分だけ見える」といった印象です。
●真っ直ぐ飛べるようにする:
さてテスト飛行です。リンドバーグが飛び立った、ロングアイランドのルー
ズベルト飛行場は1951年に廃止され、今はショッピングセンターになっており
マップ上には再現されていません。そこで西南西約8nmにある、ジョン・F・ケ
ネディ空港を使うことにしました。
ところがこの機体、なかなか真っ直ぐ走ってくれません。私はジョイスティ
ックを持っておらず、独立したラダー操作が出来ないため、もともと3車輪で
ないと操縦しにくいのですが、機体も少々、グラウンド・ループの傾向が激し
いようです。そこでryan-sosl-yasim.xmlを調べたところ、主車輪と尾輪
の抵抗係数が同一になっていました。
これには異論ありです。セントルイス号は第一次大戦機と同様、テール・ド
ラッガー(尾輪の代りにソリがある機体)で、ソリの抵抗を地上ブレーキとし
て使っています。従って抵抗係数は、もう少し大きくていいと思い、主車輪の
4倍にしてみました。これで機体は、ぐっと直進性を増しました。
離陸してみると、また新たな問題が発生。何度試しても左へ大バンクして、
必ず墜落してしまうのです。調べてみますと上反角はゼロですが、これはセン
トルイス号の三面図を「直訳」したもので、異論があります。高翼機は上反角
がなくても、バンクしてサイドスリップすると、胴体に気流が当たり、主翼下
面の風圧が増えて復元力を生みます。yasim はこれを再現しないようですの
で、若干の上反角を付けるのが正しいと思います。
試しに上反角を3度与えると、わずかに安定性が発生しました。まだロール
方向に暴れるので、5度まで増やしたところ、ようやくまともに飛べるように
なりました。
●ロングアイランド上空を散策:
やっと、JFK空港を離陸。満タンに近い燃料が入っており、機体は過荷重で
なかなか浮かず、ドンドコ過ぎゆく滑走路を見ていると、リンドバーグの出発
時の不安が、少し分かる気がします。重い機体をだましだまし上昇させ、高度
を稼いで緩やかに旋回。ロングアイランド南岸の景色を楽しみました。
マイアルバムに広角気味の、コクピット視界のスナップをアップロードして
おきます。セントルイス号のキャビンは幅94センチ、前後81センチですので、
実際はもっと、パネルが近く感じられるはずですが、まあ大体こんな感じだっ
たのでしょう。
着陸時は燃料を減らしましたが、外部視界に切り替えるまでもなく、無事に
降りることが出来ました。何度か発着を練習して、かなり慣れたものの、仮に
実機で飛ぶなら、この視界の悪さは相当、気になると思います。
リンドバーグの成功から45日後、実は毎日新聞社が、同型機を発注していま
す。これはライアン社が作った、29機目の同型機だったそうで、J−BACC
の機体記号を取得。長距離通信機(連絡機のこと)に使う目的でしたが、視界
の悪さに音を上げて、本州一周の無着陸飛行を試した後、前方に操縦席のある
3座機に改造したそうです。
ニューヨークの航空史は、掘り出せばたくさんありそうですが、あと1つだ
け。ルーズベルト飛行場のすぐ南隣には、陸軍のミッチェル飛行場があったの
ですが、ここでジミー・ドゥーリットルは1929年、コンソリデーテッドNY-2
複葉機の操縦席に、外が見えないカバーを掛け、誘導電波を使って、世界初の
計器離着陸に成功しています。最大の課題は高度の測定精度ですが、NY-2は
鈍足のうえ頑丈で、脚をかなり強化してあり、フレアを掛けず接地しても大丈
夫だったそうです。この実験のため、ドゥーリットルのアイディアを出発点と
して、旋回計の発明者エルマー・スペリーが、初の精巧な人工水平儀とジャイ
ロ定針儀を開発しました。
(FlightGearのセスナ172も、700ftくらいの降下率を保ったまま、安全に
接地できます。この飛行を再現したいのですが、フロントグラスの視界を塞ぐ
うまい手を思いつきません)
さて私はセントルイス号で、クリーブランドまで、クロスカントリーをやっ
てみたいと思いました。次のようなコースです。
■NYからクリーブランドへ:
◎ケネディ国際空港KJFK VOR-115.90 403758N-734616W 偏西13度
▼288度302nm
◎エリー・トム・リッジ空港KERI 420451N-801033W
▼243度76nm
◎バーク・レークフロント空港KBKL 413106N-814100W
▼230度10nm
◎クリーブランド・ホプキンズ国際空港KCLE 412448N-815059W
最初の中継地の、エリー・トム・リッジ空港は、エリー湖南岸の、ちょうど
中央付近にあります。セントルイス号はVORもNDBも使えませんし、視界が悪い
上、このコースは大半が平たい山地で、地文航法は困難です。残る手は推測航
法ですが、鈍足のため風の影響が大で、かなりの誤差が予想されます。そこで
エリー湖にぶち当たって西に変針し、湖岸に沿って飛べば迷いっこない…とい
う作戦を立てました。
●「わき見禁止」の赤いヴェガ:
残念なことにセントルイス号は、オートパイロットが全く使えないことが判
明。ウイングレベラーさえ利かず、これで長距離は大変と思いまして、今回は
1930年に開発された、ロッキード・ヴェガを選びました。鬼才ジョン・ノース
ロップ設計の高速軽旅客機で、今ならさしずめビジネスジェットですね。長距
離レーサーの顔も持ち、ウィリー・ポストの単独早回り世界一周と高々度実験
飛行、アメリア・イアハートの大西洋横断などに使われ、当時の民間機には
珍しく、100機以上造られました。FlightGear用の機体は真っ赤で、ドア
以外の客席窓がすべて塞いであり、イアハート機のようです。
さて、ヴェガの視界ですが。主翼の前縁部にコクピットがあり、イアハート
の実機を見学した際も別段、視界が悪そうには見えませんでした。しかし飛ば
してみると、意外な落とし穴がありました。
これも、マイアルバムをご参照頂きたいのですが、実はパイロットの側面、
ちょうど目の高さに、主翼前縁の断面が位置しており、真横が全然見えないの
です。ベースレグからファイナル・アプローチに入る時など、滑走路がまった
く見えません。側面下方にわずかな視野がありますが、役立たずです。まるで
わき見防止の目隠しを付けた、馬車馬になった気分で、しばらく飛ばしている
とストレスが溜まってきます。
ヴェガもテール・ドラッガーですので、独立ラダーが使えない私は、滑走に
手間取ります。そこでまた少々、テールスキッドの抵抗を増しました。
(ついでにバラしますと、主車輪のトレッドも若干拡張しました。この機体は
地上で結構、派手にロールするのです)
JFK空港で現地時間1302時、UTC1702時に始動。風は250度9Kt。broken
とscattered の雲が4層ありました。
燃料を1000Lbs積んで西向きに離陸。薄雲越しにぼんやり見える、マンハ
ッタンのビル群を振り返りながら、エリー・トム・リッジ空港へ。約130Kt
しか出ませんので、風速9Ktでも、かなり偏流(横風成分)を食いそうです。
きっちり風力補正計算をして、左に3度修正。そろそろニューアーク空港が
真横すぐ下にあるはずですが、「側面目隠し飛行機」ですので見えません。
●アパラチア山脈を越えて:
やがて街と平野が切れ、眼下は森林一色に。この機体の長所は、オートパイ
ロットで倍速飛行時に、大変安定していることです。低く拡がったアパラチア
山脈と、それに続くアレゲニー台地の上を、4倍速でひたすら飛び続けます。
やがて山地がせり上がり、私は5000ftへ上昇しました。
そろそろペンシルベニア州かな、と思いますが、景色はまったく同じ。なん
だか非常に大きな、どこまで食べても同じ味の淡泊なパンを、ひたすらかじり
続けている気分です。アメリカは、広いですね。
やっと山々の標高が下がってきました。すぐエリー湖が見えるはず。1912時、
ハーフスロットルにして、3000ftに向けて降下。1914時、前方に水面が拡がり
まして、やれやれエリー湖です。
左には都会が…エリー市ですね。Atlasで確認すると、コースは計画より右
に8nmずれていますが、まぁよしとします。1920時にエリー・トム・リッジ空
港の上空をフライパス。到着時刻はドンピシャリでした。針路を変更し、風力
補正計算をすると、ほぼ修正角はゼロ。さあクリーブランドへ、ヨーソロ(直
進)と行きましょう。
湖岸に沿って飛び続けると、やがて大都会が出現。ビルと共に、太い煙突や
送電線の鉄塔が見え、いかにも工業都市です。湖岸に沿って横たわる、バーク
・レークフロント空港の上空を通過。変針して10nm飛び、クリーブランド・ホ
プキンズ国際空港を発見。風下へフライパスして反転し、かなり上手く降りた
つもりでしたが、大きなタイヤがポンポン跳ねて、パルーニング気味となり、
ちょっとグラウンド・ループしたのが残念でした。
●赤と白のクマンバチ:
クリーブランドは、五大湖の工業地帯にあり、早くから航空も盛んで、確か
1930年ごろ、全米初の管制塔が設けられました。1929年にクリーブランド・ナ
ショナル・エアレース(数十競技の総合大会)が始まり、1931年には同レース
に有名な、周回競技のトンプソン杯レースが加わりました。
ドゥーリットルは、1931年に大陸横断のベンディックス杯レースに優勝後、
トンプソン杯も狙いましたが、直前に愛機の脚故障で胴体着陸。出場を断念し
かけますが、ここでグランビル・ブラザース・エアクラフトが、自社GeeBee
・R1型レーサーを提供しました。例のクマンバチみたいな、巨大な空冷エンジ
ンを包む短い胴体に、ごく小さな翼が付いた飛行機で、操縦・安定性は悪く、
このシリーズは死亡事故が相次いだようですね。
著名な女性レーサー、ジャクリーン・コクランは、本機のストレッチ型(航
法士が同乗)で、なんとロンドン=シドニー間レースに出ていますが、ルーマ
ニアでリタイア。「この飛行機に失速速度はない。どんな速度でも失速する」
と自伝で語っています。ドゥーリットルが試乗した際は、勝手に2回、スナッ
プロールしたそうですが、何とか乗りこなし、トンプソン杯を得ました。
せっかくクリーブランドに来たのですから、GeeBeeに乗らない手はありま
せん。まず視界ですが、目の前と左右はよく見えます。キャノピーが大変小さ
いため、頭の近くに死角がないのですね。ただ機首は太く長いので、地上では
前方が、空中では下方が大きく塞がります。
視野をやや広角気味に引くと、何とか滑走路の側線が見えますが、直進性は
不良。苦心して滑走し、滑走路の末端に近い、接地点標識のあたりで離陸しま
した。上がってしまえば癖は少なく、パワーは十分。低空で220Ktを発揮し、
連続宙返りが可能です。
エルロンロールも出来ますが、背面付近では機首が振れやすく、修正の舵も
敏感なので、ブラックアウトやレッドアウトを食って視界を奪われ、いま墜ち
るか、もうダメかと、かなり焦りましたが、何とかリカバーしました。
●GeeBeeでデイトンへ:
全開の燃費は2mn/gal、ハーフスロットルで3nm/gal程度ですが、タンクには
13.2gal(約50Lbs)しか積めません。クリーブランド・ホプキンズ空港から、
市の反対側の、レークフロント空港まで往復したら燃料が尽き、ホプキンズに
デッドスティック・ランディング(滑空着陸)しました。全開ですと、たった25nm
くらいしか飛べません。
着陸は110Kt進入、80Kt程度で接地。蛇行するけれど、尾輪がステアします
ので、修正できなくはありません。「癖はあるが、飛ばせないことはないな」
と思いまして、ちょっと可愛くなり。デフォルトの燃料79Lbsを1500Lbsに
拡張して、デイトンのライト・パターソン空軍基地まで、クロスカントリーを
試みました。以下がフライトプランです。
■クリーブランド=デイトン:
◎クリーブランド・ホプキンズ国際空港KCLE 412448N-815059W
▼224度131nm
★スプリングフィールド・バークレー(KSGH)VOR 113.20 395013N-835041W
▼264度10nm
◎ライト・パターソン空軍基地KFFO 394935N-840251W
約190度4Ktの風。220Kt出すと仮定し、針路を計算します。1度左、4Kt減
の補正値を得て1735時、上げ舵を一杯に引いて離陸し、南東へ。眼下には優し
い色合いをした、田園地帯が拡がります。小都市と小空港がたくさん点在し、
心なごむ風景です。
5000ftを、計画より少し遅い207KIAS前後で飛びましたので、TASは230Kt
くらいでしょう。1810時に、スプリングフィールド・バークレー着予定とみて
巡航を続けます。1802時に燃費を計ると2.98nm/gal。燃料残は1300Lbsです。
1813時、そろそろ高度を下げて3000ftへ。1815時、左に都市を発見しましたが
デイトンにしては小さいなあ…。
適当なランドマークがないため、Atlasを参照し、中継地のスプリングフィ
ールドを北へ外したものの、ライト・パターソン空軍基地に、ぴたりと向かっ
ていることを確認。そのままストレートに着陸しました。
GeeBeeは、適度にじゃじゃ馬で面白いですが、またも着陸でグラウンド・
ループ気味になったのは残念です。私は空戦はしないものの、スタント時の
操舵や、テール・ドラッガーとヘリの操縦を考えると、やはりラダー軸独立
のジョイスティックが欲しくなってきます。
どなたかお勧め製品、及び注文先がありましたら、どうかご教示下さい。
或いは手持ちのMSサイドワインダーの、ゲームポート用コネクタを、USBに変
換する方法が見つかれば、XPでも使えそうで、それでもOKなのですが。
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手探り航法・旅日記(その2)
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