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極地の「グリッド航法」を再現

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なし 極地の「グリッド航法」を再現

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39
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2010-9-17 7:06 | 最終変更
hide  長老 居住地: 兵庫県  投稿数: 650
hideです、大変ご無沙汰しました。
 8月中に連載をもう一回、と思ったのですが、殺人的な猛暑もあって、とても果たせませんでした(^^;)。北極圏を飛ぶ「オーロラ・フライト2010」の第3回を、ようやくお届けします。

 かつての極地フライトには、様々な航法上の難問があり、これを克服するために、戦前から1950年代ごろに掛けて、「太陽コンパス」や「グリッド航法」など、様々な技術が生まれました。今回は、特殊な緯度経度の座標系を、特殊な設定のコンパスによって利用する「グリッド航法」の再現に挑戦し、1カ月あまり掛かって、何とか基盤技術の開発に成功しましたので、ご報告させていただきます。

●グリッド航法とは:
 冷戦時代には、西側のエアラインは旧ソ連領に乗り入れが困難で、極東からヨーロッパに向かうには、中東・インド方面へ大迂回する「南回り」を飛んでいました。そこでソ連の北側をショートカットしようと、1957年にスカンジナビア航空が、初めて北極航空路を開設し、間もなくエールフランスやJALがまねをして、探検や軍事目的でしか飛ばなかった北極圏を、盛んに旅客機が行き来するようになりました。これがいわゆる「北回り」のルートで、ほぼ10時間の節約が可能になったそうです。
 GPSやINS(慣性航法装置)がなく、まだ六分儀による天測が使われていた時代、北極航路の航法は、かなり難度の高いものでした。「北極点では、どっちを向いても南」と、よく言われますが…仮に極点を通らなくても、極地では方位の基準となる経度の線(いわゆる子午線)が、赤道付近のようにほぼ平行ではなく、極点から放射状に伸びていますので、単にまっすぐ飛ぶだけでも、コンパスが示す針路が刻々と変化します。また一般的な地図では歪みが大きく、正確な距離さえ計れません。さらに、航空機のナビゲーションは一般的に、針路もVORラジアルも磁気方位で表しますが、北極圏では、実際の北極のかなり近くに磁北極があるため、機体の位置によっては、「北に向かっているのに、コンパスは南を指す」といった、非常に厄介なことも起こります。要するに、パイロットとナビゲーターが、極めて混乱しやすい世界なのですね。

 そこで…たぶん。誰かが、「緯度と経度の線が、北極でも赤道付近みたいに、碁盤目になっていたら便利だろうなぁ。んで、単純に『地図の上が北』だったらなぁ!」と、つぶやいたのではないでしょうか。そして、緯度・経度の線を便宜上、碁盤目(グリッド)に変更した、特殊な地図が実際に作られました。
 マイアルバムの画像「グリッド航法」をご覧下さい。左上にあるのが、グリッド航法に使われる、ポーラー・ステレオグラフィック・チャート(北極中心の正軸平射平面投影図)の概念図です。この図法ですと、北緯70度以北では、おおむね方位も距離も正しく表示されるそうで、タテヨコに引いた青い直線が、便宜上の緯度・経度の線(この図では、間隔が15度)になっています。図上のどの場所でも、常に「上」が便宜上の「真北」で、この仮想方位を「グリッドノース」と呼びます。

●仮想の「北」を使い、大圏コースを直線にする:
 グリッドノースをゼロ度とした方位(以下「グリッド方位」)を利用するには、特殊な設定のジャイロコンパスを使います。実機では、出発地でジャイロを起動する際、通常は磁気方位の北に向けるところを、グリッドノースを指すように調整します。ここでマイアルバム左上図のA点をご覧下さい。北極の方角とグリッドノースの方角(真上)の間には、45度の開きがありますね。この角度を「コンバージェンス」と呼びまして、その地点の経度とほぼ等しくなります。例えばA点はご覧の通り東経45度にありますが、これは図上では、コンバージェンスと等しい角度です(実際は、極から離れるほど、誤差が生じると思います)。
 ついでながら、一般的な航法には磁気方位が使われますから、航空機が北極圏に入ってグリッド航法に切り替える時や、逆に通常の航法に戻る場合、方位の変換計算を行うには、コンバージェンスだけでなく、磁気偏差(真方位と磁気方位の差)も加える必要があります。通常の航空図には、例えば日本国内でしたら「7°W」(偏西7度)といった具合に、必ず偏差が等高線のように描いてありますが、グリッド航法専用の航空図には、先ほどのコンバージェンスに、その地域の偏差(ヴァリエーション)を足し引きした、「グリヴェーション」(グリッド+ヴァリエーション)という補正値のラインが描かれているそうです。

 グリッド方位自体は、磁気偏差を含まない真方位ですので、飛行中に通常の航法との切り替えをせず、単にグリッド航法で飛ぶだけでしたら、やっかいな偏差関係の計算は不要です。またマイアルバムの図に、B点からC点への赤い直線で示した通り、ポーラー・ステレオグラフィック・チャートでは、大圏コースが直線で示されます。このコースの針路を、通常の緯度経度座標で表現しますと、図でご覧になるとおり、B地点出発時は315度ですが、コースの中点では270度になり、C地点ゴール時は225度に変化します。通常の方位を使って大圏コースを精密に飛ぶには、一般的には、オートパイロットに自動計算してもらって連続的に変針するしかありません。しかしグリッドノースですと、専用コンパス上で一定針路を保つだけで、いとも簡単に大圏コースが飛べます。なんとすごい航法でしょう。
 もっとも、課題は幾つかあります。グリッド方位コンパスの基礎原理は分かりましたが、FlightGearでこのまま試すと、アース・レートと言いまして、地球の自転に伴って、次第に方位表示がずれるはずです。飛行中、定期的に調節ノブをクリックして調整すればいいのですが…4分間に1.0度ずつ、忘れず補正するのは大変で、倍速モードの飛行も使えなくなり、実用的とは思えません。実機のグリッド方位コンパスは当然、アースレートを自動補正していたでしょうが、プログラム能力のない私が、この点をどう回避するかは今回、最大の難問でした。

●グリッドノースの「極点」は、地球のどこにあるのか:
 北極の地図と地球儀を思い浮かべ、必死に考えていたら、ヒントが見えました。通常の緯度経度座標では、北は言わば「北極星の方向」ですよね。仮に天球を、地球の表面に投影すると、北極星は(実際は誤差がありますが)北極点に投影されます。では、グリッドノースを地球の表面に投影すると、どこになるのでしょう。これが分かれば、FlightGearのGPSで、その地点を指して表示することができます。
 グリッド地図上では、大圏コースは直線で示されます。上下方向に平行線を描く、グリッド地図の子午線(経度の線)も直線ですから、やはり大圏コース(別名は大円。いずれも、英語で言うグレート・サークル)であり、これを切り口にして地球を輪切りにすると、切断面は必ず地球の中心点を通るはずです。ということは、グリッド地図上のあらゆる子午線は、地球上のどこか2点で、必ず相互に交差しているはずで、その2点がすなわち「グリッド北極点」と「グリッド南極点」に当たるはずです。その地点は一体、どこに?

 マイアルバム「グリッド航法」説明図の、左中図をご覧下さい。北極右側に描いた子午線(グリッド座標では東経15度線)と、左側の子午線(グリッド西経15度線)を、それぞれ無限に延長してみますと、アフリカ沖赤道上の緯度ゼロ・経度ゼロ点および、地球の裏側の緯度ゼロ・経度180度点で交差することが分かります。つまりグリッドノースの「北極」は、日付変更線と赤道の交点にあるのです。別の言い方をしますと、グリッド航法の緯度経度座標系は、通常の緯度経度座標系(もしくは地軸)を、日付変更線に沿って、太平洋側へ90度倒したものだと思われます。これは思いもよらぬ発見で、私は大変わくわくしました。
 従ってFlightGearのGPSに、通常の座標で「北緯0度・東経180度」を入力すれば、GPSは「グリッド北極」の方角を表示し、距離も示してくれます。HUD上の「GPS BRG」表示がこれで、メニューからGPS Settingsを開いて、NAV Slaveモードをオンにすると、HSIの針がグリッドノースを指してくれます。私はGPSが使用するFIXのデータベースに、新たにグリッドノースを意味する「GRIDN」(北緯0度・東経180度)という点を追加し、これを入力すると、実際にHSI指針がグリッドノースを指すことを確認しました。
 ただし、このままでは「通常の方位を使って、グリッド北極の方角を表示している」に過ぎません。私がやりたいのは「グリッド方位を使って、機首方位を表示する」という、一種の座標変換です。そのためには、例えばHSIのローカライザ・バー(コース設定指針)を外して、代わりに360度方位目盛りの画像を貼り付ける手があります。

●グリッド方位コンパスを作る:
 実際に、HSIのコンパスカード(方位盤)を加工して、少し小さい直径のものを作り、本来の目盛りに内接させて、ローカライザ・バーの代わりに組み込んでみました。GPSに、新設の「GRIDN」フィクスをセットし、NAV Slaveモードで使ってみると、ちゃんとコンパスカードがグリッド機首方位を指します。しかし、この方位盤はあまりにも小さく、最小目盛りが5度単位と荒すぎて不便です。おまけに画像を貼り付ける際、画像の一辺のサイズが偶数ピクセル数だった関係で、うまくセンタリングできず、回転むらが生じてしまい、2〜3度の誤差は当たり前でした。これでは到底、今回の北極飛行には、使えません。
 そこで一辺がオリジナルの約2倍、511ピクセルの特大コンパスカードを自作し、1度単位の目盛りを打ちました。ピクセル数を奇数としたのは、正確にセンタリングを行うためです。このカードの上に透明なレイヤーを1枚重ねて、最小幅1ピクセルのLubber Line(機首方位マーク)を描き込み、目測では0.1度単位の精密な読み取りも出来るようにしました。あとはHSIのプログラムを参考に、カードを回転させるxmlファイルを書いて、出来上がりです。
 このコンパスカードは、まともにピラタスPC7改のパネルに設置すると、直径がトラックのハンドルくらいある、巨大な邪魔物ですので…パネルの奥に隠して設置し、最上部の目盛りだけが上に飛び出るようにしました。これがなかなか大変で、最初はコンパスを機体の前後方向に動かす方法が分からず、苦心しました。結局新たなサブパネルを設けることにしましたが、うまく認識されず悪戦苦闘。Models/pc7.xmlファイル内に、パネルの3次元位置情報の記述を見つけて、サブパネル分も新たに定義し、一部の属性も変更して、ようやく表示可能になりました。離陸して動作を試すと、旋回につれて滑らかにカードが回転し、ばっちりとグリッド機首方位を表示してくれまして、非常に嬉しい思いをしました。
 しかし、方位盤をHUD指針として駆動すると、実は起動時しか正確なグリッドノースを指さないことが分かり、internal propertiesから、GPSの目標方位データである、/instrumentation/gps/wp/wp[1]/bearing-true-degを直読するように変更しました。

●コンバージェンスとグリヴェーションの表示器も開発:
 グリッド航法の針路計算には、先にご紹介した、コンバージェンスやグリヴェーションを知る必要があります。これも簡単で、GPSにセットした目標(この場合はグリッド北極)方位角を、真方位で示したものがコンバージェンスであり、磁気方位で表したのがグリヴェーションです。従ってコンバージェンスは、先ほどと同様にinternal propertiesから
<property>/instrumentation/gps/wp/wp[1]/bearing-true-deg</property>
という引用を行い、またヴァリエーションは、
<property>/instrumentation/gps/wp/wp[1]/bearing-mag-deg</property>
を引用して、それぞれ数値表示を行うことにより、デジタル式の「GPS-Grivation計」が完成。これには距離データも併記しておきました。この計器は本質的に、HUD上の「GPS BRG」表示と同じものですので、通常のGPS使用時も、目的地への方位・距離計として重宝しそうです。

●グリッド航法における、飛行計画の立て方:
 ここまで読んでくださった方は、「グリッド航法では、緯度経度をどう表すのか。グリッド座標を使うのか、それとも一般的な極軸の座標系か?」と、疑問を持たれたことと思います。結論から言いますと、手元にある空中航法の教科書には、そこまで書いてありませんでした。しかしよく考えてみますと、一般的な座標系によって、手慣れた計算方法で、精密にコースの距離・方位を出しておき、最後に針路だけ、コンバージェンスを使ってグリッド座標系に置き換えれば、わざわざ新規の座標系を併用しなくても、十分に高精度で飛行することができます。従って、実際のグリッド航法ではどうやったか、現時点では分かりませんが、私の試みでは機体の位置は、従来の緯度経度座標で取り扱います。
 次にグリッド航法のための、飛行計画の立て方を考えます。ここではベーシックな推測航法で、2地点間を飛ぶ場合を想定しました。
(1)出発地と目的地の正確な緯度経度を、従来の座標系で調べる。
(2)緯度経度の数値から、コースの針路と距離を算出する。
(3)コンバージェンスを使って、これをグリッド方位に書き換える。
(4)風向風速を加味して、コンパス針路を算出する。

●ノルウェー北部で実証フライト:
 実際にこの手順を使って、グリッド航法によるショートフライトを試みます。コースは次の通りです。
◎アルタ空港(ENAT)(69°58'34"N 23°22'18"E)、
    ▼Great Circle Mapper 7度43nm
     vertual E6-B    7.95度(●GH=マイナス6.95度=353度)42.64nm
     FlightGear GPS -01(359.16)度42.6(42.59)nm
◎ハンメルフェスト空港(ENHF)(70°40'47"N 23°40'08"E)
    ▼Great Circle Mapper 143度45nm
     vertual E6-B    143.73度(●GH= 度)45.1nm
◎バナック(ENNA)(70°04'08"N 24°58'25"E)
    ▼Great Circle Mapper 261度33nm
     vertual E6-B    261.13度(●GH= 度)33.31nm
◎アルタ空港(ENAT)

 …グリッド航法特有の用語も混じっていますので、これでは何のことか、分かりませんね。ごめんなさい。お読み下さる皆さんの中には、或いは「フライトシミュレーターで世界一周したい」といった方もおられるかと思いまして、以下に少々詳しく解説させて頂くことにします。

(1)出発地と目的地の緯度経度:
空港名のICAOの国際コードの後ろにそれぞれ、カッコ書きで緯度経度を入れました。FlightGearでこれを調べるには、Atlas画面を起動して、カーソルを出発地や目的地の主滑走路の中央に合わせて、画面に表示された緯度経度をメモするのが、もっとも簡単です。VORを併用する場合は、滑走路を目標にせず、空港に設けられたVORを目標として緯度経度を測ると、より正確です。またFlightGearの空港選択画面に「ICAO id」(空港別の国際識別記号)がありますが、この4桁コードを、次のサイトの検索画面に入れますと、緯度経度を含む詳しい空港情報が得られます。
 http://worldaerodata.com/
また次のサイトでは、滑走路やILSの配置図も表示されます。
 http://www.fscharts.com/

(2)緯度経度から、針路と距離を算出:
 今回のフライトは、ノルウェー北端に近い高緯度地方ですので、前記の飛行計画は、計算上の誤差を調べるため、針路と距離を二つの方法で算出し、結果を比較しています。Great Circle Mapperというのは、オンラインの計算サービスです。またvertual E6-Bは、私が愛用するフリーウェアで、いずれもほぼ同一の計算結果が出ています。船舶ナビゲーション用のExcelアドオンで計算しても、ほぼ一致しますので、いずれの計算手段も地球を回転楕円体と見なして、ちゃんと計算している模様です。
 フライト・シミュレーターのナビゲーションを、基礎から身に付けたい方には、フリーウェア「Virtual E6-B Flight Computer」(ve6b.zip)を入手されることを、強くお勧め致します。出発地と目的地の緯度経度を入れると、Great Circle(大圏コース)とRhumb Line(ラームライン=航程線。通常の航法はこっち)の両方で、距離と方位が表示されますが、他にも針路データに風向・風速を加えて補正したり、重心位置の計算や度量衡の変換など、ほとんどあらゆる操縦・航法計算をこなす、バーチャルフライトの必須アイテムです。フライトシムのナビゲーションを、実機に近いレベルで、基礎からわかりやすく解説したサイト「Flight Simulator Navigation」(英文)の「Dounloads」コーナーで、現在も公開中。同サイトのトップページのアドレスは、以下の通りです。
 http://www.navfltsm.addr.com/index.htm
 Virtual E6-Bの操作は簡単で、一通りヘルプが付いていますが、本連載でもかなり前、ほとんどの機能をご紹介したことがあります。2006年1月17日付けですが、現在連載中の「その2」スレッドではなくて、最初の「手探り航法・旅日記」スレッドですので、フォーラムメニュー「各種設定について」の過去ログの、かなり奥の方を見る必要があります…ごめんなさい(^^;)。
 いっぽう、Great Circle Mapperというサイトは、任意の2空港のICAOコードか名称を入力すると、針路・距離を出してくれますが、大圏コースだけです。従って表示針路は、出発の瞬間のコンパス方位であって、北極圏のような高緯度で長距離を飛ぶと、コースを外れます。しかし今回のテスト飛行では、飛行距離が40nmくらいしかないので、誤差がありません。Great Circle Mapperのアドレスは、以下の通りです。
 http://gc.kls2.com/

(3)コンバージェンスを使って、コンパス針路を出す:
 ご紹介した針路計算手段は、いずれも真方位とノーティカル・マイル(海里=表記はnm)で計算結果を返します。例えば、アルタ空港からハンメルフェスト空港へ向かう第1レグは、7.9度42.6nmです。真方位の針路をグリッド方位に変換するには、
        グリッド針路=真方位-コンバージェンス
 となります。今回のご説明では、コンバージェンスは大ざっぱに言って、その土地の経度と同じ数値になるとお話ししましたが、この方法は緯度が下がるにつれて、かなり誤差が出ます。北極圏で12カ所のサンプル地点を選んで実測したところ、北緯70度線上では、コンバージェンスの実測値は、その土地の経度から1.6度以内のずれを見せました。また北緯80度線上では、誤差は0.3度以内でした。アルタ空港の場合、滑走路の東端の緯度は69度58分、経度は東経22度23分ですが、新設の「GPS-Grivation計」が表示する、コンバージェンス(赤道上の経度ゼロ点への真方位針路)の実算値は24.7度です。実際の航法計算には、むろん後者を使います。そこでグリッド針路は、
        7.9度-24.7度=-16.8度 となりますが、360度形式の方位へ換算が必要ですから、
       -16.8度+360度=343.2度
 としまして、これが答です。今回は概念実証試験ですので、飛行テストは無風で行います。従ってアルタを離陸し、新しく装備したグリッド方位コンパスで343.2度を狙い、そのまま飛び続ければ、正確にゴールするはずです。いざゆかん!
 実際に試してみますと…最初は、ものの見事に失敗しました。目的地から10度くらい、針路がずれてしまうのですね。原因が分からなくて、まずジョイスティックのキャリブレーション・ミスによる、飛行コースのドリフトを疑い、次いであれこれ再計算し、最後にどうも偏差(アルタでは偏東9.8度)の分だけ、針路が狂っていることを突き止めました。本稿では最初から「グリッド航法は真方位を使い、偏差が関係しない」と明記しましたが、実は飛行テスト段階では、私は針路計算には、(真方位の)コンバージェンスではなく、てっきり(偏差を含む)グリヴェーションを使うものと誤解しておりました。分かってみれば簡単だが、なかなかトラブルの出口が分からない、というのが素人の悲しさだと、毎度ながら痛感します。

 数回の飛行試験を経て、グリッド航法仕様に生まれ変わった愛機・ピラタスPC7改は、アルタ=ハンメルフェスト=バナック=アルタ…の三角コースを、各レグとも、左右誤差0.5nm未満程度の高精度で飛びました。約40分を費やした最終フライトでは、出発時にアルタ空港の滑走路中央に残したAtlas画面の航跡を、ゴール時にはほぼ正確に横切る形となり、非常に嬉しかったです。
 とは言え、これは無風状態の概念実証試験ですので、ピンポイントでヒットして当たり前。次回はいよいよリアルウエザー・モードで、グリッド航法を試します。でなければ、シミュレーションであっても「北極圏を飛んだ」とは、とても言えないでしょうし…ね。

 ■蛇足■ グリッド航法を現在も訓練しているのは、国内ではJALとNCA(日本貨物航空)だけだそうで、今回は天文航法の時と同様、資料探しと勉強に、かなり苦心しました。すでに過去の技術では、あるのでしょうね。しかしアメリカには現在もなお、間違いやすいグリッド航法の針路計算を、略図によって整理する方法の解説ビデオを、シリーズで公開しているサイトさえあって、衝撃を受けました。アメリカ人は「テクノロジーは、わが歴史だ、文化だ」とはっきり自覚し、その上で「先人が、苦心して考案した技が忘れられてしまうなんて、耐えられない!」という強い思いを持って、いまだにグリッド航法とか六分儀、或いはT型フォードを、きちんと大切にするのでしょう。日本だって、テクノロジーが生命線で、一応は「近代化遺産」という文化概念も持っていますが、厚みの点ではまだまだかなと、ちょっと残念に思います。
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