空の巨船と零戦に導かれ…ハワイから硫黄島へ
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居住地: 兵庫県
投稿数: 650
hideです。
私の西回り世界一周も、ようやく松山空港へのゴールが近づいてきました。今回はハワイを出発し、はるか西方の孤島・ウェーク島に進出。さらに小笠原の硫黄島まで、推測航法にレーダーを併用して、ひたすら太平洋を飛び続けます。まず、コースをご覧に入れましょう。
◎オアフ島・ディリンガム飛行場(PHDH)21.34.45N-158.11.46W
▼135度21nm
◎ホノルル国際空港(PHNL) 21.19.31N-157.55.30W ★VORTAC114.80
▼266.5度1004.8nm
△レーダー標的と会合(コースの中点=20.18.16N-175.42.10Wか、その近く)
▼266.5度1004.8nm
◎ウェーク島空港(PWAK)19.16.56N-166.38.16E ★VOR113.50
(南北3nm、東西4nm。その外に環礁。滑走路標高20ft、南にエプロン)
偏東5.69度、俯角25.97度。
▼283.2度1445.4nm
◎硫黄島空港(RJAW)24.47.03N-141.19.24E ☆NDB360
(南北4nm、東西4nm)偏西2.87度、俯角32.97度
太平洋は、やはりムチャクチャに広い海です。この世界一周で過去に体験した、ノンストップの飛行距離は、コンコルドによる大西洋横断(1612nm)が最長記録でした。プロペラ小型機では、ブロンコ改のヒマラヤ・チベット高原横断(1081nm)がベストだと思います。しかし先日ご紹介しました、カリフォルニア=ホノルル飛行(2220nm)はこれらを軽く超え、今回ご紹介するフライトも、1区間が1500〜2000nmに及びます。
こうした長丁場をピラタスPC7改で飛ぶのは、倍速モードを活用しても半日仕事で、航法があまり複雑ではクタクタになりますし、逆にヒマすぎても苦痛で、旅を続けるモチベーションが低下します。いかに難易度のバランスを取り、より正確な航法を行うか、なかなか悩ましいところですね。
●いま一度、「磁気俯角・偏差航法」について考える:
当初は新開発の「磁気俯角・偏差航法」を、さらに改良して使うつもりでした。カリフォルニア=ホノルル飛行では、推測航法の補正手段として位置づけましたが、俯角と偏差をもっと積極的に活用すれば、ピンポイントで目的地を狙うことも出来そうです。
マイアルバムにアップした日米間の地図をご覧頂きますと、ハワイ諸島周辺では、磁気偏差の分布を示す等偏差線が「ハの字」に大きく拡がって、ほとんど変化しない(航法には使えない)ことが分かります。しかしウェーク島付近ではご覧のように、等偏差線はかなり密になり、赤道に対してほぼ平行に走る等俯角線と、深い角度で交差します。つまりこの海域では、等俯角線と等偏差線を一種の交差座標軸と見なして、位置の割り出しに使える可能性があるわけですね。そこで私は、次のようなワークシートを構想しました。
◎航法A:
(1)出発地と目的地の緯度・経度および、偏差と俯角を入力する。
すると、目的地への針路と距離が出る。また、偏差と俯角の
変化量1度あたりの距離も、自動的に算出する。
(2)飛行中に任意の時点で、自機パネルに表示される偏差と俯角を
入力すると、先の1度あたり距離を使った案分計算によって、
現在地の緯度と経度、そして目的地への針路と距離が出る。
…これは、便利そうですよね。
しかしこの方法では、等偏差線と等俯角線がそれぞれ、コースの全域にわたってほぼ等間隔で分布していないと、大きな誤差が出てしまいます。これを防ぐには、FlightGearが持っている偏差・俯角の分布データを、何らかの方法で分析できればいいのですが、私の手には余ります。そこで例えば、コース途中の数カ所でUFOを空中起動して、あらかじめ現地の偏差・俯角を実測し、案分計算の精度を上げる手もありますが、そこまで事前準備を必要とする航法など、およそリアルでも、実用的でもありませんよね。そこでもう一つ、はるかに簡単な方法も考えてみましょう。
◎航法B:
(1)事前に目的地で一度だけ、偏差と俯角を実測しておく。
(2)離陸して目的地へ向かう。針路は目分量で十分。
(3)パネルに設けた偏差計と俯角計を監視する。
どちらかの数値が、目的地の実測値と同じになったら、
その数値を保つように針路を取り、もう片方の数値も
実測値と同じになるまで飛び続ける。
…たったこれだけです。すごく単純でしょう?
●推測航法+レーダーに、方針変更する:
この航法Bは、16世紀末〜19世紀の帆船が盛んに利用した、「まず目的地と同じ緯度に到達し、次いで東西方向に走る」という、いわゆる「距等圏航法」に、極めて近い飛び方です。私は3年ほど前に、初めてFlightGearを入手したころ、この距等圏航法を使って、UFOで地球を半周ほど飛び回りました。本連載の第3回でもご紹介しましたが、必要な道具はHUDの緯度・経度表示のみ。初期針路は世界地図をにらんで、目測すれば十分という、或る意味では究極の(?)イージー・ナビゲーションです。
しかし、出たとこ勝負で誤差を踏み倒すような飛び方ですから、欠点も多く。予定のコースを正確にたどることは不可能なこと、かなり遠回りになること、厳密には有視界飛行とも計器飛行とも言い切れず、ちっともリアリティーがないこと、従って熱中すると飽きて、フライトシムそのものまで面白くなくなってしまうこと…などが問題です。
磁気俯角・偏差航法は、「緯度経度に代わる、第2の座標系を発見した」という点が、ユニークな着眼だったと自画自賛しておりますけれど、現状ではその座標系を十分に使いこなせていません。また仮に使いこなしますと、飛行中にHUDで緯度・経度を直読するのと、非常によく似た状態になります。フライトシムの航法の魅力は、「仮想の機上で得た測定結果を、現実世界の計算式やデータにあてはめると、本当に正しい現在地と針路が算出できる」ことだと思いますが、この面白さから少々外れて、私があまり好んでいない、GPS的な「原理的に正解で、迷子になり得ない」世界に転がり込む恐れを感じます。
私は、もう少しナマの身体感覚に近い「コクピットから、風を読む。目を皿のようにして、目標を発見する」という感性を大事にして、はらはらドキドキと航法を楽しみたいのです。そこで今回から思い切って磁気俯角・偏差航法を離れ、前回お話しした、マウイ島往復の飛行テストで試した、誤差をていねいに修正する推測航法と、レーダーを併用することにしました。
●レーダーのターゲットに、どんな機体を使うか:
今回の飛行距離は長いので、レーダーのターゲット(となる、何らかの航空機)を、目的地だけでなく、コースの中点付近にも置いて、空中で会合を楽しむことにします。太平洋の真ん中にセスナが旋回している…のでは、いかにも不自然ですし、かといって旅客機を高速で直進させても位置決めに不便ですので、今回は飛行船をホバリングさせることにしました。(では、なぜそんなとこに飛行船がいるか、ですって? さあ…海洋観測でしょうか)(^^;)
さっそく、当サイトの「機体データのサイト集」にご紹介のある
http://www.gidenstam.org/FlightGear/JSBSim-LTA/
へ行きまして、空気より軽い機体を片っ端からダウンロード。まず現代版・ハイテク飛行船の「ZLT-NT」を使ってみましたが、私の環境では残念ながら、AI機としては起動できませんでした。試行錯誤の末、試しにディリンガム飛行場の上空に、元祖ツェッペリン硬式飛行船のうち、最後に建造されて史上最大のサイズとなった「LZ 129」ヒンデンブルグ号を出現させ、レーダーに映ることを確認しました。
ついでながら、同時にダウンロードした成層圏気球「Excelsior」を、ディリンガムでちょっとだけ、飛ばしてみました。なかなか、面白かったですよ。実機は1960年に高度10万フィートを超え、ここから乗員がパラシュート降下に成功。降下開始高度や、「乗り物を使わない最大大気中速度」などの世界記録を作ったそうです。
FlightGearの機体は、起動すると開放型ゴンドラに、高度計と昇降計、時計、無線パネルがあり、操作はもちろんバラスト投下とガス放出のみ。外観を見ると、地上ではまだエンベロープ(ガス袋)が縮んで、ナスビ型をしておりまして、高々度に昇るとガスが膨張し、初めて球状に膨らむようです。リアルですね。
飛行機と違って、自力では前進せずに高度だけ上がり、雲を間近からじっくり見る感覚は新鮮で、微風に乗って15分ほどの間に1〜2nm移動しました。浮力調整は相当難しく、最後はかなり乱暴に、ディリンガム飛行場の裏山に降り(落ち?)ました。バラストやガスはそれなりの微調整が可能で、地上では浮力と重量のバランスを測定する機能もあるため、熟練すれば、非常にデリケートな操縦も出来そうです。風を自在に読んでクロスカントリー飛行ができたら、さぞ楽しいでしょうね。もちろんヨットと同様、無風ではどこにも行きませんので、短気な人には、絶対に向かない航空機ではありますが…(^^;)。
●遙かなるウェーク島へ:
様々な実験を楽しんだ、ハワイのディリンガム飛行場を出発します。駐機場に並べた、多くの飛行機に別れを惜しみ、ホノルル国際空港へ移動。このショートフライト中、はるか東方の高度13000ftにレーダー反応があり、前回の飛行で設定した、マウナケア山頂を旋回するセスナだと分かって懐かしく、見送られているような気分になりました。これらの機体を記述したシナリオは、以後フライトの負荷を軽くするため、この時点をもってお蔵入り。またハワイに来たら、ぜひ使いたいものです…。
ホノルル国際空港では、いったんドラゴンフライを起動。ろくに見る暇がなかった、ワイキキビーチとダイヤモンドヘッド、アラモアナ・ショッピングセンター周辺を、慌ただしく見物してきました。空港に戻るとピラタスPC7改に増槽を取り付け、夜明けを選んで起動し、出発準備に掛かります。
NOAAのサイトを確認しますと、あまり天気が良くありません。特に500mb等圧高度(標準大気で約18000ft相当)の実況天気図は、向かい風がばんばん吹いています。24時間予報図では、どうも前線が通過する気配。高々度飛行に支障はないでしょうが、途中で大きく風が変わって、慌ただしい航法になるかも。しかしホノルルとウェークの、シミュレーター内の天候を確認すると、わずかながら追い風成分が勝っています。よーし、行こう!!
燃料満タン、やや後ろに傾いて沈み込んだ機体を始動し、1712時(現地0712時)に離陸。愛機はさすがに重く、上昇率は1200ft/分がやっとです。がんばって高度30000ftへ。
●「東経」の世界へ帰還し、空の巨船と遭遇:
左後方に太陽が昇る中、ひたすら偏流の修正を続け、速度や燃費を確認しながら巡航。長い道中が、少々しんどくなってきた1948時ごろ、レーダースクリーンの真正面、同高度に感度がありました。コース中点を基点に、50Ktでウェーク島に向かう、航法ターゲットのヒンデンブルグ号です。
当方は針路を維持したまま進み、2022時に飛行船の左アビームを追い越しました。レーダー測定では、PC7改との横間隔は5.6nmです。飛行船の速度と時刻から、ここまでの総飛行距離を1220nmと確定し、推測航法の左右誤差を計算したところ0.4%で、我ながらすごい精度だと思いました。飛行中に0.2度単位で、綿密な針路修正を重ねた成果が出たようです。実機の航法の許容誤差は、古い「航空宇宙工学便覧」によりますと、クロストラック(左右方向)で2%。大戦中の日本海軍機の推測航法では5%だったと思います。実機では精密な偏流測定や保針が、パソコン上に比べて格段に難しいためで、私が本職よりうまいわけではありません。
ともかく今回は、レーダーによるAI機探知が、位置確認手段として非常に有効であり、また面白いことが分かりました。驚いたのは、飛行船との会合の難しさです。ぜひ近くで見たかったのですが、いったん旋回中に見失うと、機外視野でワイドに引いても見つからず、とうとう間近には行けませんでした。あんなに大きなものが、しかもレーダーにも映っているのに、なぜ見えなくなるのか。私の探し方がよほど間抜けなのか(大いにありそうですが)、或いは何かシステム上の理由で消えたのかと、しばし考え込んでしまいました。
諦めて先を急ぎ、天気予報通りに風向・風速の変化をかいくぐって飛び続けたところ、2117時ごろAtlas画面に、実際の航跡に加えて、画面を左右に横切る、架空の航跡が現れました。西経から東経に移行したため、地球を半周するノイズが発生したのでしょう。ついに、東半球に帰ってきました。
2256時、再びレーダーに感度がありました。ウェーク島のエプロンに駐めた、ターゲット用セスナのエコーです。測定によると、この時点の航法誤差は1.4%に拡がりましたが、これは長距離飛行の際、後半戦に入ると疲れてきて、つい(針路が少々ずれるのに)ウイングレベラーに切り替えて、倍速モードを使いまくる癖のためです。やがてVORも入感し、針路保持をCDIロックに切り替えて空港へ。高度を下げ、風を知ろうとATIS周波数を探しましたが、ここには無線が全然ないことが分かりました。吹き流しを確認すると、ちょいと嫌な横風です。幸い最終進入を行う時点では、向かい風に振ってくれました。2328時に着陸。
ウェーク島は、珊瑚礁の上に空港が乗っかっているだけの、それこそなーんにもない小島です。19世紀は海底電線の、20世紀には飛行機の中継地として注目され、大戦中は日本が占領しました。戦後もしばらく、太平洋を横断する軍民の航空機の給油地でしたが、長距離ジェット機の普及に加え、ベトナム戦争や冷戦が終結したため、基地としては衰退しました。もっと北にあるミッドウェー島も事情は似ており、戦後長らく重要な米軍基地の一つで、なかなか民間機には着陸許可が下りなかったようですが、10年ほど前に米軍が撤退し、今はウェーク島よりも人口が少ないと聞くと、いささか驚きです。
洋上では、ヒンデンブルグ号をじっくり眺められなかったのが残念で、着陸後に改めて空港上空に出現・旋回させて、至近距離を飛んで見物しました。私が実世界で飛ぶのを見たのは、グッドイヤー社の軟式飛行船だけですが、ヒンデンブルグ号は同じ飛行船と言っても、まったく別の印象を受けました。非現実的なほど巨大で、威風堂々としてしており、どんな角度から見ても、不思議な感動を覚えました。大阪の海遊館で、初めてジンベエザメを見たときの印象と似ています。さすがに現代に通用する乗り物だとは思いませんが、ある種のロストワールドからやってきた生き物みたいな「恐竜的なオーラ」を感じます。
●ついに日本領へ…零戦の出迎えを受ける:
日を改めて、小笠原の硫黄島に向け、夜明けのウェーク島を出発します。
高度6000ftは110度20.5Ktの風。結構なことに追い風です。この航程は1445nmしかない(とはいえ、遠い!)ので、増槽を一応付けているものの、燃料は機内タンクだけに入れました。これまでの実績では、この距離で航法が大きく外れる不安はありませんので、今回は中間地点のレーダー・ターゲットAI機は省略です。
1926時(現地0726時)に始動。正面の空がオレンジに染まる中を離陸し、反転して硫黄島へ機首を向けました。さすがに機体が軽く、パワーが余っている感じで、快調に上昇します。前日と同様の航法で、ひたすら針路修正と、記録メモの打ち込みを進めながら航行。2117時には、南鳥島のNDBを受信しました。太平洋戦争の古戦場・サイパンも遠くはありません。
風向が時々変化する中、さらに航法を続けて飛ぶうちに、HSIに組み込んだ偏差計の表示が、偏東から偏西に切り替わって、ますます日本が近く感じられました。
2257時、硫黄島の周波数に合わせたADFが、いつの間にか正面を指しています。その4分後、レーダーに待望のエコーを発見。160nm先を旋回する、誘導役のターゲット機です。機影は正面から左1度くらい逸れていますが、ちょうど左に機首を向けているためで、おおむね予定通りの位置に出現したと言えます。約30分掛けて接近し、同高度を取って、目を皿のようにして捜索しますと、かすかな黒点が移動するのが見え、旋回方向の頭を抑えるように操舵。私は減速してフラップを1段降ろし、ゆっくり左後方から誘導機に接近しました。
機種は零戦です。ちゃんとプロペラも回してあります(笑)。硫黄島上空で出迎えてもらうなら、やはりこの飛行機しかありません。
私は編隊飛行が極端に苦手ですが、ディリンガム飛行場で重ねた練習が実って、何とか一緒に緩旋回を続け、あれこれツーショットを撮影しました。少しでも気を抜くと、零戦はスルリと身をかわして、浮いたり沈んだり、はるか遠くへ離れたり。もちろん私が、フラフラしているだけなんですが(笑)、まるでAI機にもパイロットがいて、機体のわずかな挙動で、あいさつを送っているような気分がして、擬似的な「親近感」さえ覚えたほどです。そんな錯覚が起こりうるほど、フライトシムの大空は孤独だ、と言うことでしょうか…(^^;)。いずれにせよ、仮想の空にも「他機」が存在するのは、とても楽しいものですね。
2345時着陸。勾配の大きな滑走路で、東から着地すると、かなりの登りでした。滑走路は1本しかなく、島の全長の約4分の1を占めています。大戦中は島内に3カ所も飛行場があったのですから、当時と比べると現代の滑走路が、いかに大規模になったか分かります。
次回は小笠原諸島伝いに、取りあえず羽田を目指すことになりそうです。
私の西回り世界一周も、ようやく松山空港へのゴールが近づいてきました。今回はハワイを出発し、はるか西方の孤島・ウェーク島に進出。さらに小笠原の硫黄島まで、推測航法にレーダーを併用して、ひたすら太平洋を飛び続けます。まず、コースをご覧に入れましょう。
◎オアフ島・ディリンガム飛行場(PHDH)21.34.45N-158.11.46W
▼135度21nm
◎ホノルル国際空港(PHNL) 21.19.31N-157.55.30W ★VORTAC114.80
▼266.5度1004.8nm
△レーダー標的と会合(コースの中点=20.18.16N-175.42.10Wか、その近く)
▼266.5度1004.8nm
◎ウェーク島空港(PWAK)19.16.56N-166.38.16E ★VOR113.50
(南北3nm、東西4nm。その外に環礁。滑走路標高20ft、南にエプロン)
偏東5.69度、俯角25.97度。
▼283.2度1445.4nm
◎硫黄島空港(RJAW)24.47.03N-141.19.24E ☆NDB360
(南北4nm、東西4nm)偏西2.87度、俯角32.97度
太平洋は、やはりムチャクチャに広い海です。この世界一周で過去に体験した、ノンストップの飛行距離は、コンコルドによる大西洋横断(1612nm)が最長記録でした。プロペラ小型機では、ブロンコ改のヒマラヤ・チベット高原横断(1081nm)がベストだと思います。しかし先日ご紹介しました、カリフォルニア=ホノルル飛行(2220nm)はこれらを軽く超え、今回ご紹介するフライトも、1区間が1500〜2000nmに及びます。
こうした長丁場をピラタスPC7改で飛ぶのは、倍速モードを活用しても半日仕事で、航法があまり複雑ではクタクタになりますし、逆にヒマすぎても苦痛で、旅を続けるモチベーションが低下します。いかに難易度のバランスを取り、より正確な航法を行うか、なかなか悩ましいところですね。
●いま一度、「磁気俯角・偏差航法」について考える:
当初は新開発の「磁気俯角・偏差航法」を、さらに改良して使うつもりでした。カリフォルニア=ホノルル飛行では、推測航法の補正手段として位置づけましたが、俯角と偏差をもっと積極的に活用すれば、ピンポイントで目的地を狙うことも出来そうです。
マイアルバムにアップした日米間の地図をご覧頂きますと、ハワイ諸島周辺では、磁気偏差の分布を示す等偏差線が「ハの字」に大きく拡がって、ほとんど変化しない(航法には使えない)ことが分かります。しかしウェーク島付近ではご覧のように、等偏差線はかなり密になり、赤道に対してほぼ平行に走る等俯角線と、深い角度で交差します。つまりこの海域では、等俯角線と等偏差線を一種の交差座標軸と見なして、位置の割り出しに使える可能性があるわけですね。そこで私は、次のようなワークシートを構想しました。
◎航法A:
(1)出発地と目的地の緯度・経度および、偏差と俯角を入力する。
すると、目的地への針路と距離が出る。また、偏差と俯角の
変化量1度あたりの距離も、自動的に算出する。
(2)飛行中に任意の時点で、自機パネルに表示される偏差と俯角を
入力すると、先の1度あたり距離を使った案分計算によって、
現在地の緯度と経度、そして目的地への針路と距離が出る。
…これは、便利そうですよね。
しかしこの方法では、等偏差線と等俯角線がそれぞれ、コースの全域にわたってほぼ等間隔で分布していないと、大きな誤差が出てしまいます。これを防ぐには、FlightGearが持っている偏差・俯角の分布データを、何らかの方法で分析できればいいのですが、私の手には余ります。そこで例えば、コース途中の数カ所でUFOを空中起動して、あらかじめ現地の偏差・俯角を実測し、案分計算の精度を上げる手もありますが、そこまで事前準備を必要とする航法など、およそリアルでも、実用的でもありませんよね。そこでもう一つ、はるかに簡単な方法も考えてみましょう。
◎航法B:
(1)事前に目的地で一度だけ、偏差と俯角を実測しておく。
(2)離陸して目的地へ向かう。針路は目分量で十分。
(3)パネルに設けた偏差計と俯角計を監視する。
どちらかの数値が、目的地の実測値と同じになったら、
その数値を保つように針路を取り、もう片方の数値も
実測値と同じになるまで飛び続ける。
…たったこれだけです。すごく単純でしょう?
●推測航法+レーダーに、方針変更する:
この航法Bは、16世紀末〜19世紀の帆船が盛んに利用した、「まず目的地と同じ緯度に到達し、次いで東西方向に走る」という、いわゆる「距等圏航法」に、極めて近い飛び方です。私は3年ほど前に、初めてFlightGearを入手したころ、この距等圏航法を使って、UFOで地球を半周ほど飛び回りました。本連載の第3回でもご紹介しましたが、必要な道具はHUDの緯度・経度表示のみ。初期針路は世界地図をにらんで、目測すれば十分という、或る意味では究極の(?)イージー・ナビゲーションです。
しかし、出たとこ勝負で誤差を踏み倒すような飛び方ですから、欠点も多く。予定のコースを正確にたどることは不可能なこと、かなり遠回りになること、厳密には有視界飛行とも計器飛行とも言い切れず、ちっともリアリティーがないこと、従って熱中すると飽きて、フライトシムそのものまで面白くなくなってしまうこと…などが問題です。
磁気俯角・偏差航法は、「緯度経度に代わる、第2の座標系を発見した」という点が、ユニークな着眼だったと自画自賛しておりますけれど、現状ではその座標系を十分に使いこなせていません。また仮に使いこなしますと、飛行中にHUDで緯度・経度を直読するのと、非常によく似た状態になります。フライトシムの航法の魅力は、「仮想の機上で得た測定結果を、現実世界の計算式やデータにあてはめると、本当に正しい現在地と針路が算出できる」ことだと思いますが、この面白さから少々外れて、私があまり好んでいない、GPS的な「原理的に正解で、迷子になり得ない」世界に転がり込む恐れを感じます。
私は、もう少しナマの身体感覚に近い「コクピットから、風を読む。目を皿のようにして、目標を発見する」という感性を大事にして、はらはらドキドキと航法を楽しみたいのです。そこで今回から思い切って磁気俯角・偏差航法を離れ、前回お話しした、マウイ島往復の飛行テストで試した、誤差をていねいに修正する推測航法と、レーダーを併用することにしました。
●レーダーのターゲットに、どんな機体を使うか:
今回の飛行距離は長いので、レーダーのターゲット(となる、何らかの航空機)を、目的地だけでなく、コースの中点付近にも置いて、空中で会合を楽しむことにします。太平洋の真ん中にセスナが旋回している…のでは、いかにも不自然ですし、かといって旅客機を高速で直進させても位置決めに不便ですので、今回は飛行船をホバリングさせることにしました。(では、なぜそんなとこに飛行船がいるか、ですって? さあ…海洋観測でしょうか)(^^;)
さっそく、当サイトの「機体データのサイト集」にご紹介のある
http://www.gidenstam.org/FlightGear/JSBSim-LTA/
へ行きまして、空気より軽い機体を片っ端からダウンロード。まず現代版・ハイテク飛行船の「ZLT-NT」を使ってみましたが、私の環境では残念ながら、AI機としては起動できませんでした。試行錯誤の末、試しにディリンガム飛行場の上空に、元祖ツェッペリン硬式飛行船のうち、最後に建造されて史上最大のサイズとなった「LZ 129」ヒンデンブルグ号を出現させ、レーダーに映ることを確認しました。
ついでながら、同時にダウンロードした成層圏気球「Excelsior」を、ディリンガムでちょっとだけ、飛ばしてみました。なかなか、面白かったですよ。実機は1960年に高度10万フィートを超え、ここから乗員がパラシュート降下に成功。降下開始高度や、「乗り物を使わない最大大気中速度」などの世界記録を作ったそうです。
FlightGearの機体は、起動すると開放型ゴンドラに、高度計と昇降計、時計、無線パネルがあり、操作はもちろんバラスト投下とガス放出のみ。外観を見ると、地上ではまだエンベロープ(ガス袋)が縮んで、ナスビ型をしておりまして、高々度に昇るとガスが膨張し、初めて球状に膨らむようです。リアルですね。
飛行機と違って、自力では前進せずに高度だけ上がり、雲を間近からじっくり見る感覚は新鮮で、微風に乗って15分ほどの間に1〜2nm移動しました。浮力調整は相当難しく、最後はかなり乱暴に、ディリンガム飛行場の裏山に降り(落ち?)ました。バラストやガスはそれなりの微調整が可能で、地上では浮力と重量のバランスを測定する機能もあるため、熟練すれば、非常にデリケートな操縦も出来そうです。風を自在に読んでクロスカントリー飛行ができたら、さぞ楽しいでしょうね。もちろんヨットと同様、無風ではどこにも行きませんので、短気な人には、絶対に向かない航空機ではありますが…(^^;)。
●遙かなるウェーク島へ:
様々な実験を楽しんだ、ハワイのディリンガム飛行場を出発します。駐機場に並べた、多くの飛行機に別れを惜しみ、ホノルル国際空港へ移動。このショートフライト中、はるか東方の高度13000ftにレーダー反応があり、前回の飛行で設定した、マウナケア山頂を旋回するセスナだと分かって懐かしく、見送られているような気分になりました。これらの機体を記述したシナリオは、以後フライトの負荷を軽くするため、この時点をもってお蔵入り。またハワイに来たら、ぜひ使いたいものです…。
ホノルル国際空港では、いったんドラゴンフライを起動。ろくに見る暇がなかった、ワイキキビーチとダイヤモンドヘッド、アラモアナ・ショッピングセンター周辺を、慌ただしく見物してきました。空港に戻るとピラタスPC7改に増槽を取り付け、夜明けを選んで起動し、出発準備に掛かります。
NOAAのサイトを確認しますと、あまり天気が良くありません。特に500mb等圧高度(標準大気で約18000ft相当)の実況天気図は、向かい風がばんばん吹いています。24時間予報図では、どうも前線が通過する気配。高々度飛行に支障はないでしょうが、途中で大きく風が変わって、慌ただしい航法になるかも。しかしホノルルとウェークの、シミュレーター内の天候を確認すると、わずかながら追い風成分が勝っています。よーし、行こう!!
燃料満タン、やや後ろに傾いて沈み込んだ機体を始動し、1712時(現地0712時)に離陸。愛機はさすがに重く、上昇率は1200ft/分がやっとです。がんばって高度30000ftへ。
●「東経」の世界へ帰還し、空の巨船と遭遇:
左後方に太陽が昇る中、ひたすら偏流の修正を続け、速度や燃費を確認しながら巡航。長い道中が、少々しんどくなってきた1948時ごろ、レーダースクリーンの真正面、同高度に感度がありました。コース中点を基点に、50Ktでウェーク島に向かう、航法ターゲットのヒンデンブルグ号です。
当方は針路を維持したまま進み、2022時に飛行船の左アビームを追い越しました。レーダー測定では、PC7改との横間隔は5.6nmです。飛行船の速度と時刻から、ここまでの総飛行距離を1220nmと確定し、推測航法の左右誤差を計算したところ0.4%で、我ながらすごい精度だと思いました。飛行中に0.2度単位で、綿密な針路修正を重ねた成果が出たようです。実機の航法の許容誤差は、古い「航空宇宙工学便覧」によりますと、クロストラック(左右方向)で2%。大戦中の日本海軍機の推測航法では5%だったと思います。実機では精密な偏流測定や保針が、パソコン上に比べて格段に難しいためで、私が本職よりうまいわけではありません。
ともかく今回は、レーダーによるAI機探知が、位置確認手段として非常に有効であり、また面白いことが分かりました。驚いたのは、飛行船との会合の難しさです。ぜひ近くで見たかったのですが、いったん旋回中に見失うと、機外視野でワイドに引いても見つからず、とうとう間近には行けませんでした。あんなに大きなものが、しかもレーダーにも映っているのに、なぜ見えなくなるのか。私の探し方がよほど間抜けなのか(大いにありそうですが)、或いは何かシステム上の理由で消えたのかと、しばし考え込んでしまいました。
諦めて先を急ぎ、天気予報通りに風向・風速の変化をかいくぐって飛び続けたところ、2117時ごろAtlas画面に、実際の航跡に加えて、画面を左右に横切る、架空の航跡が現れました。西経から東経に移行したため、地球を半周するノイズが発生したのでしょう。ついに、東半球に帰ってきました。
2256時、再びレーダーに感度がありました。ウェーク島のエプロンに駐めた、ターゲット用セスナのエコーです。測定によると、この時点の航法誤差は1.4%に拡がりましたが、これは長距離飛行の際、後半戦に入ると疲れてきて、つい(針路が少々ずれるのに)ウイングレベラーに切り替えて、倍速モードを使いまくる癖のためです。やがてVORも入感し、針路保持をCDIロックに切り替えて空港へ。高度を下げ、風を知ろうとATIS周波数を探しましたが、ここには無線が全然ないことが分かりました。吹き流しを確認すると、ちょいと嫌な横風です。幸い最終進入を行う時点では、向かい風に振ってくれました。2328時に着陸。
ウェーク島は、珊瑚礁の上に空港が乗っかっているだけの、それこそなーんにもない小島です。19世紀は海底電線の、20世紀には飛行機の中継地として注目され、大戦中は日本が占領しました。戦後もしばらく、太平洋を横断する軍民の航空機の給油地でしたが、長距離ジェット機の普及に加え、ベトナム戦争や冷戦が終結したため、基地としては衰退しました。もっと北にあるミッドウェー島も事情は似ており、戦後長らく重要な米軍基地の一つで、なかなか民間機には着陸許可が下りなかったようですが、10年ほど前に米軍が撤退し、今はウェーク島よりも人口が少ないと聞くと、いささか驚きです。
洋上では、ヒンデンブルグ号をじっくり眺められなかったのが残念で、着陸後に改めて空港上空に出現・旋回させて、至近距離を飛んで見物しました。私が実世界で飛ぶのを見たのは、グッドイヤー社の軟式飛行船だけですが、ヒンデンブルグ号は同じ飛行船と言っても、まったく別の印象を受けました。非現実的なほど巨大で、威風堂々としてしており、どんな角度から見ても、不思議な感動を覚えました。大阪の海遊館で、初めてジンベエザメを見たときの印象と似ています。さすがに現代に通用する乗り物だとは思いませんが、ある種のロストワールドからやってきた生き物みたいな「恐竜的なオーラ」を感じます。
●ついに日本領へ…零戦の出迎えを受ける:
日を改めて、小笠原の硫黄島に向け、夜明けのウェーク島を出発します。
高度6000ftは110度20.5Ktの風。結構なことに追い風です。この航程は1445nmしかない(とはいえ、遠い!)ので、増槽を一応付けているものの、燃料は機内タンクだけに入れました。これまでの実績では、この距離で航法が大きく外れる不安はありませんので、今回は中間地点のレーダー・ターゲットAI機は省略です。
1926時(現地0726時)に始動。正面の空がオレンジに染まる中を離陸し、反転して硫黄島へ機首を向けました。さすがに機体が軽く、パワーが余っている感じで、快調に上昇します。前日と同様の航法で、ひたすら針路修正と、記録メモの打ち込みを進めながら航行。2117時には、南鳥島のNDBを受信しました。太平洋戦争の古戦場・サイパンも遠くはありません。
風向が時々変化する中、さらに航法を続けて飛ぶうちに、HSIに組み込んだ偏差計の表示が、偏東から偏西に切り替わって、ますます日本が近く感じられました。
2257時、硫黄島の周波数に合わせたADFが、いつの間にか正面を指しています。その4分後、レーダーに待望のエコーを発見。160nm先を旋回する、誘導役のターゲット機です。機影は正面から左1度くらい逸れていますが、ちょうど左に機首を向けているためで、おおむね予定通りの位置に出現したと言えます。約30分掛けて接近し、同高度を取って、目を皿のようにして捜索しますと、かすかな黒点が移動するのが見え、旋回方向の頭を抑えるように操舵。私は減速してフラップを1段降ろし、ゆっくり左後方から誘導機に接近しました。
機種は零戦です。ちゃんとプロペラも回してあります(笑)。硫黄島上空で出迎えてもらうなら、やはりこの飛行機しかありません。
私は編隊飛行が極端に苦手ですが、ディリンガム飛行場で重ねた練習が実って、何とか一緒に緩旋回を続け、あれこれツーショットを撮影しました。少しでも気を抜くと、零戦はスルリと身をかわして、浮いたり沈んだり、はるか遠くへ離れたり。もちろん私が、フラフラしているだけなんですが(笑)、まるでAI機にもパイロットがいて、機体のわずかな挙動で、あいさつを送っているような気分がして、擬似的な「親近感」さえ覚えたほどです。そんな錯覚が起こりうるほど、フライトシムの大空は孤独だ、と言うことでしょうか…(^^;)。いずれにせよ、仮想の空にも「他機」が存在するのは、とても楽しいものですね。
2345時着陸。勾配の大きな滑走路で、東から着地すると、かなりの登りでした。滑走路は1本しかなく、島の全長の約4分の1を占めています。大戦中は島内に3カ所も飛行場があったのですから、当時と比べると現代の滑走路が、いかに大規模になったか分かります。
次回は小笠原諸島伝いに、取りあえず羽田を目指すことになりそうです。
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