ILS自動着陸に挑む
hide
居住地: 兵庫県
投稿数: 650
hideです。
前回はオハイオ州デイトンの、ライト・パターソン空軍基地に到着しました。ラ
イト兄弟は初飛行翌年の1904年、ここに土地を借りて100回以上の飛行実験を行い、
また1917年には、近くにアメリカ陸軍の訓練基地や、初期の飛行テストセンターと
なったマックック飛行場など、計3飛行場が建設され、これらが統合や拡張を続け
て、現在の基地になったそうです。
この基地は約3800mの滑走路を持ち、今も米軍の主要な開発・テストセンターの
一つですので、私もここで何か研究をしてみたくなりました。
テーマに選んだのは、ILS利用のオート・ランディングです。自動的なスロット
ル・オフや、オート・ブレーキングまでやるのは無理ですが、手動のフレア(引き
起こし)を行わず、オートパイロットを使用して降りてみたいのです。
●フレアなしでも、降りられる?:
私は長い間、FlightGearのオートパイロットでは、自動着陸は出来ないと諦めて
いました。ILSで針路保持と降下経路の保持は可能ですが、自動的にフレアを掛け
る仕組みがないため、これまでは接地寸前に必ずオートパイロットを切り、手動で
フレアと軸線の再調整を行って着陸していました。皆さんも多分、同じではないか
と思います。
しかし実機では、フレアは必ずしも着陸の絶対条件ではなく、機種によってはア
プローチ態勢のまま降りてきて、グラウンド・エフェクト(地面効果)を利用して
降下率を抑え、安全に着陸できるそうです。例えば777は本来、フレア操作が不要
ですが、パイロットが不安を感じるため、エアライン納入開始前にマニュアルを修
正し、フレアを取り入れたと聞きます。747もフレアなしで着陸可能だそうです。
またYS-11や川崎C-1の、テストパイロットを務めた長谷川栄三氏は、著書「戦後
国産機開発の苦闘と教訓 パイロットの証言」(別冊航空情報)の中で、特にSTOL
機は滑走距離短縮のため、着地時と同じ約5度のピッチアップ姿勢で進入するよう
に設計し、フレア操作を不要にしなければダメだ、とまで断言しています。これは
私にとって相当、目からウロコでした。
FlightGearには多分、地面効果は存在しないと思いますが、多くの機種は脚の
衝撃吸収能力に余裕があり、少々乱暴に降りても、事故判定は食いません。とする
と案外、ILS自動アプローチのまま接地しても、問題ないのではないかと思い、実
験を試みました。
●セスナ172で、ドシンと降りてみる:
思えば私はここ数カ月、さっぱりILS進入をやっていません。そこで練習を兼ね
て、まず速度が遅くて、操縦の楽なセスナ172で、ライト・パターソン空軍基地に
ILS進入を試みました。
残念なことに、この基地のILSには問題があって、自動進入ではオートパイロッ
トのローカライザ保持(CDI Course)モードが誤作動し、機体が勝手に回れ右し
てしまうことが判明しました。これは滑走路両端のILS周波数が、同一になってい
るためかも知れません。そこで手動操縦で、耐衝撃試験のみ行うことにして、まず
約60Ktで進入し、フレアを掛けずに接地を待ちました。結果は、バウンドしたもの
の、無事に降りることができました。降下率は約300ft/minです。
続いて降下率を400ft、600ftと増やし、最終的には1000ft/minで、機体を地面
に叩き付けるように降りてみました。実機ですと、立派な墜落と言えそうですが、
3回ほど大バウンドしたものの、墜落判定をまぬがれました。ともかく、フレアな
しの着陸は可能である…という概念実証試験には、なったと思います。
●PC7改に、地面効果を与えるには?:
次に私の常用機、ピラタスPC7改で実験します。この機体の公称失速速度は、着
陸形態で65Ktくらいですが、実際は100Ktを割ると、高度が下がり始めますので、
これまでは110Ktくらいで進入していました。降下角3度の標準的なグライドパス
では、進入速度と降下率の間に、概算で次の関係が成立します。
進入速度(KIAS)×5=降下率(ft/min)
つまり60Ktなら降下率300ft/minですが、110Ktですと550ft/minとなりまして、
毎秒3m(一説には、一般的な脚の設計限界値)以上で落ちることになります。何
とか地表寸前で、降下率を落とす手はないだろうかと思いました。一番いいのは、
もちろんプログラムに、地面効果を書き加えることです。
航空宇宙工学便覧には、式がたくさん書いてありますが、グラフをざっと見た限
りでは、地面効果は、高度がウイング・スパンの半分まで減ったところで始まり、
スパンの4分の1まで降下すると、揚力係数が約1割増しになり、スパンの8分の1で
は約2割増しになります。
そこで例えば、地表からの高度で条件分岐を掛けて、段階的に揚力係数を増やす
手がありそうです。技術のある方でしたら、そう難しくはないでしょう。しかし私
は、現状ではこんな作業は不可能です。もっと簡単で、効果的な手はないか…。
●「見えないサス」を取り付けてしまう:
揚力で吊るのがダメなら、下から支えたらどうでしょうか。
つまり機体の下面に、ウイング・スパンの半分か、3分の1くらいの長さがある、
極端に柔らかい、サスペンションを設けるのです。ギアの接地寸前に、まずこれが
地面と接触して縮み、降下率をいくらか吸収して、地面効果の代役を務めるという
寸法です。揚力増大と比べると、技術的にはいささか野蛮ですが、この方法なら私
にも、プログラムが書けそうです。
FlightGearの機体の空力プログラム(機名.xml)には、ground_reactions と
いうタグがありますよね。脚や、主翼などのストラクチャーが、地面に触れた時の
反発力などを記述している部分ですが、ここにサス(実態は、一種の固定脚)を書
き足せばよさそうです。抵抗ゼロで、ブレーキ機能はなし。バネの反発力は、接地
後に邪魔になるので極めて弱くして、適度なダンピング特性を与えれば、うまく行
くんじゃないか、と思いました。このサスは言うまでもなく、着陸以外の飛行特性
には影響を与えず、目にも見えません。
脚が簡単に、追加できるかどうかが課題だと思いましたが、5本足の747のファ
イルを調べたところ、1本ずつ名称を変えれば問題なさそうでした。
そこでPC7改に、「見えない固定脚」を3本追加しました。長さは、正規のギアよ
り120インチ長くしました。つまり地上約3m、高度10ftあたりから利き始めるわけ
です。名称はそれぞれ「ノーズ地面効果サス」「メイン地面効果サス」と、仮に呼
ぶことにします。
安定性を確保するため、ノーズは本来のギアよりやや前に出し、メイン2本は前
後位置を正規ギアと同一とし、左右のトレッド幅は2倍にしました。スプリングレ
ートは取りあえず、正規のギアの10分の1に、ダンピングレートは正規のギア通り
に、スプリングレートの3分の1としてみました。
以上の設定値は、まったくの手探りですので、最初は残念ながら起動した途端、
機体が派手にバック転を起こし、裏返しになりました。試行錯誤を重ね、取りあえ
ずノーズ地面効果サスの全長を、かなり短くすると同時に、スプリングレートを正
規ノーズギアの1389.1に対し30と大幅に小さくし、ダンピングレートも23に変更。
メイン地面効果は、正規ギアのスプリングレート4630.5に対し210、ダンピングレ
ートは70としたところ、地上姿勢が一応安定して、飛行可能になりました。
●フラップを改修する:
テスト飛行は、ILSに問題のあるライト・パターソン基地ではまずいので、東隣
の、スプリングフィールド・バークレー空港に移動しました。ここは2900mクラス
の滑走路があり、ILSとVORがあります。
まずフライトシム用の空港案内サイト、http://www.fscharts.com/ から空港
マップを取得します。ここは便利なHPで、滑走路や周波数、磁気偏差なども記載さ
れています。このマップを基に、メモ用紙に場周経路の磁気方位図を殴り書きし、
ILS周波数なども描き入れます。これで準備OK。
天候は概ね晴れ。190度の風4Ktという穏やかな条件で、軽い横風の進入を行いま
す。離陸してオートパイロットでぐるりと回り、ダウン・ウインドレグで、フラッ
プダウン時の低速飛行を実験します。
デフォルトの燃料搭載量(満タンの約7割)では、フルフラップでも90Ktの水平
飛行維持がやっとです。(信じがたいことに、私は今の今まで、PC7は2段フラップ
だと思っていました。実際は3段目があり、100Ktではなく90Ktまで落とせました…
馬鹿みたいです)
燃料を満タン4分の1の1000Lbsまで減らすと、さらに進入速度を下げることが出
来ました。ダウン・ウインドレグと、ファイナルアプローチを飛びながら、様々な
速度で機体の迎角を確認し、先ほどご紹介した長谷川パイロットの言う、機首上げ
5度を確保しようとしたのですが、今回はテスト中の記録メモが混乱していますの
で、このあたりのご報告は省略します。
ともかく、地面効果サスを装備して、フレアなしのILS自動着陸を試すと、1回
のバウンドで安全に着地しました。サスの効果は出ましたが、加速度計を見ると、
瞬間的にプラス2.5Gが掛かっており、まるで空母への着艦です。出来ればもっと、
ソフトに降りたいものです。
そこで降下率低減のため、フラップ揚力を増やして、着陸速度を下げることにし
ました。主翼自体の揚力係数をいじるのは、実機ですと大改修になってしまいます
が、フラップなら少々面積を増したり、翼型変更や、ヒンジ部分の空気の流れ方を
変えたりして、比較的簡単に改修が可能とみられます。pc7.xmlの揚力係数の記述
を調べますと、フラップのvalueは0.01でしたので、これを取りあえず0.05に増や
してみました。
効果は顕著に現れて、燃料1000Lbsでは、ぎりぎりの最小飛行速度は、公称失速
速度より低い58Ktまで可能でした。しかし結果的には、このフラップ揚力係数は過
大で、改造後は機体の空力バランスがやや壊れ、エンジンを絞って機首も下げてい
るのに、異常な上昇をするケースが見られました。
そこでフラップ揚力のvalue を0.025に半減し、この問題を解決しました。ただ
し、せっかく下がった進入速度が80Ktまで増加しましたので、自動着陸を実施する
と軽くバウンドが残り、着地ショックも2Gくらい出ていました。そこで地面効果サ
スの設定を、さらに煮詰めることにしました。
●地面効果サス、ついに成功:
まず、ノーズ地面効果サスの全長を見直します。地上姿勢でバック転を避けるた
め、かなり短くしていたのですが、計画当初の長さ(正規ギア+120インチ)に戻
しました。また取り付け位置も後方に下げ、正規ノーズギアと同位置にしました。
次にスプリングレートを、さらに弱めます。地面効果サスを装備後は、スプリン
グの反力で、機体が空中に押し上げられるとみえて、離陸性能が大幅に「改善」さ
れてしまい、正規より30〜40Kt少ない速度で、離陸してしまう例がありました。そ
こで、すべての地面効果サスのスプリングレートを、さらに大幅に減らすと同時に
ダンピングレートを強化しました。結果的には、次のような設定としました。
・ノーズ地面効果サス スプリングレート10.1(正規ギアの約0.7%)
ダンピングレート20.0(正規ギアの約4.3%)
・メイン地面効果サス スプリングレート75.0(正規ギアの約1.6%)
ダンピングレート100 (正規ギアの約11%)
特にスプリングはスカスカで、正規の値に比べれば無に等しく、ダンパーの値も
ごく小さいのですが、はっきりと効果がありました。
飛行テストを再開。80Ktで進入し、ついにノーバウンド着陸に成功しました。た
だし機外視点で観察しますと、地上10ft程度で地面効果が利いた時、やや機体が前
傾する傾向があって、正規ノーズギアがメインより先に接地してしまい、着地ショ
ックが大きくなっている感じがしました。
メイン地面効果サスは、正規のメインギアと前後位置が同じですので、重心位置
より後方にあります。このためピッチ5度前後の機首上げ姿勢で、メイン地面効果
サスがノーズより先に利き始めた場合、重心まわりに機首下げモーメントが発生す
るのでしょう。そこでメイン地面効果サスの位置を、重心まで前進させました。
これが大成功で、自動着陸しますと、高度10ft前後で自動的にフレアが発生し、
降下率が減少。この時点で、2〜3ft跳ね上がる傾向はありますが、その後は静か
に沈んで、軽いショックでノーバウンド着陸しました。やれやれ、取りあえず成功
です。
この方式による着陸は、
・必ずしもまだ100点満点の、スムーズな着陸ではない。
・機体重量(燃料の分量)の大小によっては、現在の設定は
まだベストではない。
・風が強いと正直、どうなるか分からない。
・手動着陸では、かえって地面効果が邪魔な場合もあるかも
知れない。
…といった課題はありますが、ひとまず、ご報告できる状態になりました。
●PC7改に、待望のRMIを装備する:
出来れば大小のジェット機でも、ILS自動着陸を試したいと思いまして、現行モ
デルのサイテーション・ブラヴォーと、777を飛ばしてみました。しかし残念なが
ら、いずれも改良を経て素晴らしい機体になっているものの、オートパイロットが
複雑で、すぐには飛ばし方が分からず、この日は断念せざるを得ませんでした。同
様に747も試しましたが、操縦は簡単なものの、ダウン・ウインドレグをオートパ
イロットで飛行中、原因不明の失速・墜落を起こし、がっかりしました。
しかし一つ、ラッキーな発見が。現行バージョンの747には、私が欲しくてたま
らなかったRMIが付いており、うまくPC7改に移植できたのです。
RMIとは、ジャイロコンパスの盤面に2本の指針があり、それぞれNAV-1、NAV-2
のVOR方位を、機首からの相対方位で指してくれる計器です(ADFとVORを組み合わ
せたタイプもあります)。セスナに付いているような、CDIタイプのVOR指示器のみ
ですと、コーストラッキングには便利でも、「VOR局は一体どこ? 右か左か?」と
いう場合には非常に不便ですので、ぜひこれが欲しかったのです。以前から装備し
ていた、苦心の自作計器「MRIまがい」は、これでめでたくお払い箱です。
●濃霧のオートランディング:
このRMIは、ILSにも反応しますので、軍用基地のように、ILSはあるがVORもNDB
もない(実際はTACANがあるはずですが、FlightGearでは使えない)空港に降りる
場合、ILSをNDBのように利用できて、非常に便利です。
例えばこの日PC7改で、スプリングフィールド・バークレー空港から、すぐ近く
のジェームス・M・コックス・デイトン国際空港へ移動した、ショートフライトを
ご紹介しましょう。
私は自動着陸の仕上げとして、Zキーで濃霧を出しました。最初はライト・パタ
ーソン空軍基地に降りるつもりだったのですが、今回もやはりILSが異常反応した
ため、基地北西のデイトン国際空港にダイバートすることにしました。
デイトン空港の滑走路は、ほぼ東西方向です。ILS周波数をNAV-1に入力して、
パターソン基地からいったん北上し、RMIの針がゆっくり西へ回転するのを待ちま
す。ADFによる進入と同じ要領で、指針が滑走路方位と同じ238度を指すタイミング
を待ち構え、左に旋回。これで滑走路に正対します。見やすくて単純明快、まさに
便利の一言です。
オートパイロットをILS保持にセットして、減速しながらギアとフラップを降ろ
し、横風ぎみの微風の中、80Ktで降下を続けます。やがて地面効果サスが利き、
私は大きな満足感とともに、ほぼ視界ゼロの滑走路センターライン上へ、自動着
陸を果たしたのでした。
前回はオハイオ州デイトンの、ライト・パターソン空軍基地に到着しました。ラ
イト兄弟は初飛行翌年の1904年、ここに土地を借りて100回以上の飛行実験を行い、
また1917年には、近くにアメリカ陸軍の訓練基地や、初期の飛行テストセンターと
なったマックック飛行場など、計3飛行場が建設され、これらが統合や拡張を続け
て、現在の基地になったそうです。
この基地は約3800mの滑走路を持ち、今も米軍の主要な開発・テストセンターの
一つですので、私もここで何か研究をしてみたくなりました。
テーマに選んだのは、ILS利用のオート・ランディングです。自動的なスロット
ル・オフや、オート・ブレーキングまでやるのは無理ですが、手動のフレア(引き
起こし)を行わず、オートパイロットを使用して降りてみたいのです。
●フレアなしでも、降りられる?:
私は長い間、FlightGearのオートパイロットでは、自動着陸は出来ないと諦めて
いました。ILSで針路保持と降下経路の保持は可能ですが、自動的にフレアを掛け
る仕組みがないため、これまでは接地寸前に必ずオートパイロットを切り、手動で
フレアと軸線の再調整を行って着陸していました。皆さんも多分、同じではないか
と思います。
しかし実機では、フレアは必ずしも着陸の絶対条件ではなく、機種によってはア
プローチ態勢のまま降りてきて、グラウンド・エフェクト(地面効果)を利用して
降下率を抑え、安全に着陸できるそうです。例えば777は本来、フレア操作が不要
ですが、パイロットが不安を感じるため、エアライン納入開始前にマニュアルを修
正し、フレアを取り入れたと聞きます。747もフレアなしで着陸可能だそうです。
またYS-11や川崎C-1の、テストパイロットを務めた長谷川栄三氏は、著書「戦後
国産機開発の苦闘と教訓 パイロットの証言」(別冊航空情報)の中で、特にSTOL
機は滑走距離短縮のため、着地時と同じ約5度のピッチアップ姿勢で進入するよう
に設計し、フレア操作を不要にしなければダメだ、とまで断言しています。これは
私にとって相当、目からウロコでした。
FlightGearには多分、地面効果は存在しないと思いますが、多くの機種は脚の
衝撃吸収能力に余裕があり、少々乱暴に降りても、事故判定は食いません。とする
と案外、ILS自動アプローチのまま接地しても、問題ないのではないかと思い、実
験を試みました。
●セスナ172で、ドシンと降りてみる:
思えば私はここ数カ月、さっぱりILS進入をやっていません。そこで練習を兼ね
て、まず速度が遅くて、操縦の楽なセスナ172で、ライト・パターソン空軍基地に
ILS進入を試みました。
残念なことに、この基地のILSには問題があって、自動進入ではオートパイロッ
トのローカライザ保持(CDI Course)モードが誤作動し、機体が勝手に回れ右し
てしまうことが判明しました。これは滑走路両端のILS周波数が、同一になってい
るためかも知れません。そこで手動操縦で、耐衝撃試験のみ行うことにして、まず
約60Ktで進入し、フレアを掛けずに接地を待ちました。結果は、バウンドしたもの
の、無事に降りることができました。降下率は約300ft/minです。
続いて降下率を400ft、600ftと増やし、最終的には1000ft/minで、機体を地面
に叩き付けるように降りてみました。実機ですと、立派な墜落と言えそうですが、
3回ほど大バウンドしたものの、墜落判定をまぬがれました。ともかく、フレアな
しの着陸は可能である…という概念実証試験には、なったと思います。
●PC7改に、地面効果を与えるには?:
次に私の常用機、ピラタスPC7改で実験します。この機体の公称失速速度は、着
陸形態で65Ktくらいですが、実際は100Ktを割ると、高度が下がり始めますので、
これまでは110Ktくらいで進入していました。降下角3度の標準的なグライドパス
では、進入速度と降下率の間に、概算で次の関係が成立します。
進入速度(KIAS)×5=降下率(ft/min)
つまり60Ktなら降下率300ft/minですが、110Ktですと550ft/minとなりまして、
毎秒3m(一説には、一般的な脚の設計限界値)以上で落ちることになります。何
とか地表寸前で、降下率を落とす手はないだろうかと思いました。一番いいのは、
もちろんプログラムに、地面効果を書き加えることです。
航空宇宙工学便覧には、式がたくさん書いてありますが、グラフをざっと見た限
りでは、地面効果は、高度がウイング・スパンの半分まで減ったところで始まり、
スパンの4分の1まで降下すると、揚力係数が約1割増しになり、スパンの8分の1で
は約2割増しになります。
そこで例えば、地表からの高度で条件分岐を掛けて、段階的に揚力係数を増やす
手がありそうです。技術のある方でしたら、そう難しくはないでしょう。しかし私
は、現状ではこんな作業は不可能です。もっと簡単で、効果的な手はないか…。
●「見えないサス」を取り付けてしまう:
揚力で吊るのがダメなら、下から支えたらどうでしょうか。
つまり機体の下面に、ウイング・スパンの半分か、3分の1くらいの長さがある、
極端に柔らかい、サスペンションを設けるのです。ギアの接地寸前に、まずこれが
地面と接触して縮み、降下率をいくらか吸収して、地面効果の代役を務めるという
寸法です。揚力増大と比べると、技術的にはいささか野蛮ですが、この方法なら私
にも、プログラムが書けそうです。
FlightGearの機体の空力プログラム(機名.xml)には、ground_reactions と
いうタグがありますよね。脚や、主翼などのストラクチャーが、地面に触れた時の
反発力などを記述している部分ですが、ここにサス(実態は、一種の固定脚)を書
き足せばよさそうです。抵抗ゼロで、ブレーキ機能はなし。バネの反発力は、接地
後に邪魔になるので極めて弱くして、適度なダンピング特性を与えれば、うまく行
くんじゃないか、と思いました。このサスは言うまでもなく、着陸以外の飛行特性
には影響を与えず、目にも見えません。
脚が簡単に、追加できるかどうかが課題だと思いましたが、5本足の747のファ
イルを調べたところ、1本ずつ名称を変えれば問題なさそうでした。
そこでPC7改に、「見えない固定脚」を3本追加しました。長さは、正規のギアよ
り120インチ長くしました。つまり地上約3m、高度10ftあたりから利き始めるわけ
です。名称はそれぞれ「ノーズ地面効果サス」「メイン地面効果サス」と、仮に呼
ぶことにします。
安定性を確保するため、ノーズは本来のギアよりやや前に出し、メイン2本は前
後位置を正規ギアと同一とし、左右のトレッド幅は2倍にしました。スプリングレ
ートは取りあえず、正規のギアの10分の1に、ダンピングレートは正規のギア通り
に、スプリングレートの3分の1としてみました。
以上の設定値は、まったくの手探りですので、最初は残念ながら起動した途端、
機体が派手にバック転を起こし、裏返しになりました。試行錯誤を重ね、取りあえ
ずノーズ地面効果サスの全長を、かなり短くすると同時に、スプリングレートを正
規ノーズギアの1389.1に対し30と大幅に小さくし、ダンピングレートも23に変更。
メイン地面効果は、正規ギアのスプリングレート4630.5に対し210、ダンピングレ
ートは70としたところ、地上姿勢が一応安定して、飛行可能になりました。
●フラップを改修する:
テスト飛行は、ILSに問題のあるライト・パターソン基地ではまずいので、東隣
の、スプリングフィールド・バークレー空港に移動しました。ここは2900mクラス
の滑走路があり、ILSとVORがあります。
まずフライトシム用の空港案内サイト、http://www.fscharts.com/ から空港
マップを取得します。ここは便利なHPで、滑走路や周波数、磁気偏差なども記載さ
れています。このマップを基に、メモ用紙に場周経路の磁気方位図を殴り書きし、
ILS周波数なども描き入れます。これで準備OK。
天候は概ね晴れ。190度の風4Ktという穏やかな条件で、軽い横風の進入を行いま
す。離陸してオートパイロットでぐるりと回り、ダウン・ウインドレグで、フラッ
プダウン時の低速飛行を実験します。
デフォルトの燃料搭載量(満タンの約7割)では、フルフラップでも90Ktの水平
飛行維持がやっとです。(信じがたいことに、私は今の今まで、PC7は2段フラップ
だと思っていました。実際は3段目があり、100Ktではなく90Ktまで落とせました…
馬鹿みたいです)
燃料を満タン4分の1の1000Lbsまで減らすと、さらに進入速度を下げることが出
来ました。ダウン・ウインドレグと、ファイナルアプローチを飛びながら、様々な
速度で機体の迎角を確認し、先ほどご紹介した長谷川パイロットの言う、機首上げ
5度を確保しようとしたのですが、今回はテスト中の記録メモが混乱していますの
で、このあたりのご報告は省略します。
ともかく、地面効果サスを装備して、フレアなしのILS自動着陸を試すと、1回
のバウンドで安全に着地しました。サスの効果は出ましたが、加速度計を見ると、
瞬間的にプラス2.5Gが掛かっており、まるで空母への着艦です。出来ればもっと、
ソフトに降りたいものです。
そこで降下率低減のため、フラップ揚力を増やして、着陸速度を下げることにし
ました。主翼自体の揚力係数をいじるのは、実機ですと大改修になってしまいます
が、フラップなら少々面積を増したり、翼型変更や、ヒンジ部分の空気の流れ方を
変えたりして、比較的簡単に改修が可能とみられます。pc7.xmlの揚力係数の記述
を調べますと、フラップのvalueは0.01でしたので、これを取りあえず0.05に増や
してみました。
効果は顕著に現れて、燃料1000Lbsでは、ぎりぎりの最小飛行速度は、公称失速
速度より低い58Ktまで可能でした。しかし結果的には、このフラップ揚力係数は過
大で、改造後は機体の空力バランスがやや壊れ、エンジンを絞って機首も下げてい
るのに、異常な上昇をするケースが見られました。
そこでフラップ揚力のvalue を0.025に半減し、この問題を解決しました。ただ
し、せっかく下がった進入速度が80Ktまで増加しましたので、自動着陸を実施する
と軽くバウンドが残り、着地ショックも2Gくらい出ていました。そこで地面効果サ
スの設定を、さらに煮詰めることにしました。
●地面効果サス、ついに成功:
まず、ノーズ地面効果サスの全長を見直します。地上姿勢でバック転を避けるた
め、かなり短くしていたのですが、計画当初の長さ(正規ギア+120インチ)に戻
しました。また取り付け位置も後方に下げ、正規ノーズギアと同位置にしました。
次にスプリングレートを、さらに弱めます。地面効果サスを装備後は、スプリン
グの反力で、機体が空中に押し上げられるとみえて、離陸性能が大幅に「改善」さ
れてしまい、正規より30〜40Kt少ない速度で、離陸してしまう例がありました。そ
こで、すべての地面効果サスのスプリングレートを、さらに大幅に減らすと同時に
ダンピングレートを強化しました。結果的には、次のような設定としました。
・ノーズ地面効果サス スプリングレート10.1(正規ギアの約0.7%)
ダンピングレート20.0(正規ギアの約4.3%)
・メイン地面効果サス スプリングレート75.0(正規ギアの約1.6%)
ダンピングレート100 (正規ギアの約11%)
特にスプリングはスカスカで、正規の値に比べれば無に等しく、ダンパーの値も
ごく小さいのですが、はっきりと効果がありました。
飛行テストを再開。80Ktで進入し、ついにノーバウンド着陸に成功しました。た
だし機外視点で観察しますと、地上10ft程度で地面効果が利いた時、やや機体が前
傾する傾向があって、正規ノーズギアがメインより先に接地してしまい、着地ショ
ックが大きくなっている感じがしました。
メイン地面効果サスは、正規のメインギアと前後位置が同じですので、重心位置
より後方にあります。このためピッチ5度前後の機首上げ姿勢で、メイン地面効果
サスがノーズより先に利き始めた場合、重心まわりに機首下げモーメントが発生す
るのでしょう。そこでメイン地面効果サスの位置を、重心まで前進させました。
これが大成功で、自動着陸しますと、高度10ft前後で自動的にフレアが発生し、
降下率が減少。この時点で、2〜3ft跳ね上がる傾向はありますが、その後は静か
に沈んで、軽いショックでノーバウンド着陸しました。やれやれ、取りあえず成功
です。
この方式による着陸は、
・必ずしもまだ100点満点の、スムーズな着陸ではない。
・機体重量(燃料の分量)の大小によっては、現在の設定は
まだベストではない。
・風が強いと正直、どうなるか分からない。
・手動着陸では、かえって地面効果が邪魔な場合もあるかも
知れない。
…といった課題はありますが、ひとまず、ご報告できる状態になりました。
●PC7改に、待望のRMIを装備する:
出来れば大小のジェット機でも、ILS自動着陸を試したいと思いまして、現行モ
デルのサイテーション・ブラヴォーと、777を飛ばしてみました。しかし残念なが
ら、いずれも改良を経て素晴らしい機体になっているものの、オートパイロットが
複雑で、すぐには飛ばし方が分からず、この日は断念せざるを得ませんでした。同
様に747も試しましたが、操縦は簡単なものの、ダウン・ウインドレグをオートパ
イロットで飛行中、原因不明の失速・墜落を起こし、がっかりしました。
しかし一つ、ラッキーな発見が。現行バージョンの747には、私が欲しくてたま
らなかったRMIが付いており、うまくPC7改に移植できたのです。
RMIとは、ジャイロコンパスの盤面に2本の指針があり、それぞれNAV-1、NAV-2
のVOR方位を、機首からの相対方位で指してくれる計器です(ADFとVORを組み合わ
せたタイプもあります)。セスナに付いているような、CDIタイプのVOR指示器のみ
ですと、コーストラッキングには便利でも、「VOR局は一体どこ? 右か左か?」と
いう場合には非常に不便ですので、ぜひこれが欲しかったのです。以前から装備し
ていた、苦心の自作計器「MRIまがい」は、これでめでたくお払い箱です。
●濃霧のオートランディング:
このRMIは、ILSにも反応しますので、軍用基地のように、ILSはあるがVORもNDB
もない(実際はTACANがあるはずですが、FlightGearでは使えない)空港に降りる
場合、ILSをNDBのように利用できて、非常に便利です。
例えばこの日PC7改で、スプリングフィールド・バークレー空港から、すぐ近く
のジェームス・M・コックス・デイトン国際空港へ移動した、ショートフライトを
ご紹介しましょう。
私は自動着陸の仕上げとして、Zキーで濃霧を出しました。最初はライト・パタ
ーソン空軍基地に降りるつもりだったのですが、今回もやはりILSが異常反応した
ため、基地北西のデイトン国際空港にダイバートすることにしました。
デイトン空港の滑走路は、ほぼ東西方向です。ILS周波数をNAV-1に入力して、
パターソン基地からいったん北上し、RMIの針がゆっくり西へ回転するのを待ちま
す。ADFによる進入と同じ要領で、指針が滑走路方位と同じ238度を指すタイミング
を待ち構え、左に旋回。これで滑走路に正対します。見やすくて単純明快、まさに
便利の一言です。
オートパイロットをILS保持にセットして、減速しながらギアとフラップを降ろ
し、横風ぎみの微風の中、80Ktで降下を続けます。やがて地面効果サスが利き、
私は大きな満足感とともに、ほぼ視界ゼロの滑走路センターライン上へ、自動着
陸を果たしたのでした。
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Re: 北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
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Re: 北半球を一周する「グレート・サークル・バレー」
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Re: 夢の視界100マイル、そして南極からの帰還
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