セントルイス号の「ふるさと」訪問
hide
居住地: 兵庫県
投稿数: 650
hideです。
今回ご紹介するのはカリフォルニアの、太平洋岸の旅です。エドワーズ空軍基地を離れてロサンジェルス沖の島々を巡り、サンディエゴに進みます。ここからロス経由で、「ウインド・スター測風法」の航法訓練を行いながら、サンフランシスコ(KSFO)を目指します。しかし残念ながらこの日は、時間と燃料の都合でKSFOには届かず、200nmほど南のベーカーズフィールドという街にある、メドウズ・フィールド(KBFL)に降りてしまいました。カリフォルニア州中央を南北に走る、広大なセントラルバレー南端付近の空港で、ANAの訓練施設があるそうです。
サンディエゴはかつて、リンドバーグのスピリット・オブ・セントルイス号が造られた土地ですが、同機が初飛行した飛行場の位置などを、今回初めて突き止めました。またロス沖では大昔に、私が実世界の太平洋横断で船から目撃した、懐かしい島影も確認できました。
まずサンディエゴまでの、フライトプランをお目に掛けましょう。
◎エドワーズ空軍基地(KEDW)北緯34度54分、西経117度52分。
▼210度22nm
★パームデール(KPMD)VOR 114.50 343750N-1180349W
▼238度58nm
★ヴァントゥーラVOR108.20(340654N-1190258W)
▼266度70nm
△チャネル諸島・サンミゲル島西端(340206N-1202658W)
(その東にサンタローザ島、サンタクルーズ島、アナカパ島)
▼93度101nm
★ロサンジェルス空港VOR 113.50(113.60)335600N-1182556W
▼134度92nm
★ミッションベイVOR 117.80 324657N-1171331W
ここからは…
・約60度20nmでミラマー海軍航空基地(KNKX)
・約140度10nmでサンディエゴ国際空港(KSAN)NDB245
・さらに湾をはさんで、南がノースアイランド海軍航空基地(KNZY)
…となります。
以上の記載事項には、以前あった「偏東」「偏西」の磁気偏差がありませんが、現在のPC7改では計器盤に偏差を表示するため省略し、飛行中に計算することにしました。
●追憶の島を求めて:
明け方のエドワーズ空軍基地で、ピラタスPC7改を起動。さすがはカリフォルニアの砂漠、この日も雲量ゼロの上天気です。ただし風は強く、地表で330度21Kt吹いていました。燃料は満タンの4分の1(1000Lbs)として、UTCの1430時(現地6時半)に離陸しました。
ここしばらく、操縦のブランクがありましたので、リフレッシュ訓練のつもりでオーソドックスに、VORに頼ってフライトを組み立てます。高度7500ftで指示対気速度250KIASを保ち、離陸12分後には、砂漠の南にあるパームデールVORを通過。ここでHSIのノブをクリックして、VORラジアルを変更し、ロサンジェルス市街地の西方・ヴァントゥーラVORへ変針しました。
ヴァントゥーラへの予定針路は238度(真方位)ですが、VORラジアルは磁気方位ですので、偏差(偏東約13度)を引いて、ラジアル225度にセット。オートパイロットでCDIコース保持を掛け、機体が安定後にコンパスを見ると、機首方位は(磁気で)233度でしたので、強風のため8度もの偏流が生じていることになります…。
…などと計算を重ねて、だんだん操縦の勘を取り戻しながら、約5000ftの丘陵地帯を越えると、早くもロサンジェルス郊外に差し掛かりました。エドワーズとロスは、航空機の速度で考えますと、意外にも「すぐそば」なんですね。納得しながら左後ろを見ると、ちょうど朝日が昇るところでした。
ここからサンディエゴへは、沿岸を南下する旅になりますが…私はここで回り道をしまして、いったんコースを西に定め、ロス沖に横たわる、チャネル諸島を目指しました。
3年近く前の1月に、私は本連載の第3回で、学生時代に大阪の堺港からロサンジェルスまで、貨物船に便乗して太平洋を横断したお話をしました。この航海で最初に目にしたアメリカ領は、ロスの沖合に浮かぶ島々なのですが、果たしてどこだったのか、正確な記憶がありません。当時は乗組員から、チャネル諸島南部のサンタ・カタリナ島だと聞いたような気もしますが、記憶が曖昧です。私が乗った船は北緯30度線上を東進し、途中で東北東に変針してロスへ直進したので、ロス中心市街地南方のカタリナを見たとするのは、多少不自然な気もします。もっと北寄りに並ぶサンミゲル島、サンタローザ島、サンタクルーズ島、アナカパ島のいずれかではないかと考えると、より自然ですので、ぜひFlightGearで地形を確かめようと、この4島に沿って東西に往復してみることにしました。
海上の視界は、あいにく5nm程度で、薄い島影が次々と、左翼の眼下を流れて行きます。離陸後30分で、一番西のサンミゲル島を左アビーム(真横)に確認。ここで南に変針し、高度を600ftまで下げました。私は昔、東に向う船上から、確か左舷に島を見たので、同じ向きから見ようと4島の南側に出て、低空でロサンジェルス空港VORを目指すことにしました。ロスはまだ受信圏外ですので、しばらくは推測航法になります。必要な最新の風向・風速を得るために、60度のウインド・スターを描いて測風しました。
最初は風速の計算値が50Ktと出ましたが、明らかに過大で測定ミスです。偏流角を計り直し、「hideの風見盤」に打ち込むと、2度目は風向8.6度風速17Ktと出ました。正解を調べると10度17.3Ktでしたので、まずは上出来。これを基に、ロサンジェルス空港VORまでの補正針路を計算しておき、じっくり4つの島を観察しました。しかし…どうも今ひとつ、「大昔、船からこれを見た」と確信できる場所は見つかりません。残念です。
諦めて高度を上げ、ロスを目指したところ、はるか南方、サンディエゴのミッションベイVORが先に入感したので、そっちへ直航することにしました。(余談ながら、ここでトラブルを一つ発見。私は離陸以来、フラップを1段下げたまま飛んでいたようです。渡洋飛行でこんなことがあると、ガス欠もあり得ますので、後でフラップ開度計を作りました)
●セントルイス号の「ふるさと」訪問;
1600時、サンディエゴ上空に到着。古くから海軍根拠地の一つで、大小の湾に恵まれて、いかにも良港に見えます。薄いovercastの雲を通して、ミラマー基地の滑走路を視認。以前は、ここに有名な海軍航空兵器学校(トップガン)があったのですが、現在はネバダ州へ移転しているそうです。映画のトム・クルーズを思い出しながら、滑走路上空でロールを打ち、南のサンディエゴ国際空港へ。滑走路に西から進入すると、途中で処理が異様に重くなり、大事を取って負荷の軽そうな海側へ反転しましたが、幸いパソコンは落ちなかったので、再度向きを変えてファイナルに入り、あっさり着陸しました。
サンディエゴと言えば、セントルイス号誕生の地。私は小学生のころから、セントルイス号が初飛行と各種テストを行った、ダッチ・フラッツという小飛行場がどこにあったのか、ぜひ知りたいと思っていました。
http://www.charleslindbergh.com/
あれこれ調べた末、上記のHP(セントルイス号の複製機で、パリ飛行を再現しようというグループ)の奥の方で、製造工場と飛行場の位置を示した地図が見つかりました。昔のダッチ・フラッツは、サンディエゴ国際空港の、東西に延びる滑走路西端の北側あたりと判明。またライアン社の工場は、滑走路東端南側の海岸にあったそうです。
当時のライアン航空は従業員35人。リンドバーグが訪ねた際、「魚の匂いのする」海沿いの工場はかなり老朽化していたものの、スタッフは優秀で、セントルイス号の設計・製造を約束通り60日でこなし、歴史に残る名機を生んだのは、ご存知の通りです。私の見るところ、設計の基礎になった同社の郵便機M−2がすでに、かなり優れた機体のようです。M−2は密閉キャビンの高翼単葉機で、前年の1926年完成ですが、この時代にしては大変スマートな機体。タンデムの乗員席からの視界も極めて広そうで、まるで1940年代の観測機や練習機に見えるほどです。胴体構造と、翼や脚の支柱などからは、まさにセントルイス号に通じるDNAを感じます。
セントルイス号は、軽負荷ですとパワーがあり余って、初飛行の滑走はたったの8秒、約30メートルで離陸したそうです。リンドバーグは離陸後、直ちに湾(というか水路)を横断し、すぐ南に横たわるノースアイランド島の海軍飛行場をめざしていますが、これは恐らく「慣らし」前の新品エンジンが、万が一にも止まる場合に備えたものと思います。最初の基本的なテストの後、海軍のホーク戦闘機が様子を見に接近したため、かつてジェニー複葉機で空戦訓練を受けたリンドバーグは、「おびき寄せて戦う」姿勢を取って、しばし模擬空戦を楽しんでいます。
私も空戦はともかく、同じ空域を飛んでみようと、サンディエゴ国際空港でセントルイス号を起動し、久しぶりに、前方視界のない操縦席を使って離陸しました。思いきり燃料を減らし、8秒は無理ながら十数秒で離陸しました。かつてのダッチ・フラッツ飛行場上空を旋回し、ライアン社の工場跡地を飛び、ノースアイランドの海軍基地上空へ。若き日のリンドバーグも、真新しいセントルイス号の、極めて視界の悪い操縦席から、これとほぼ同じ光景を眺めて、自分の夢がいよいよ、実現段階に移ったことを実感し、文字通り「天に昇る心地」を味わったのでしょうね。
私はノースアイランド上空でスタントを試みましたが、FlightGearのセントルイス号は実機同様、主翼スパンが長い割にエルロンが短く、ロールは苦手ですが、宙返りは想像したより容易でした。
●地図の整備や、測風の練習を進める:
サンディエゴ到着後、私は太平洋横断に使う航空図を、あれこれ検討しました。本来は、風向・風速の測定結果や修正針路を作図できるように、推測航法用のプロッティング・チャートを作りたいのですが、有意な精度を出すには小縮尺のメルカトル図が多数必要で、これは断念。代りに「磁気俯角・偏差航法」を能率よく進めるため、ネットで見つけた磁気俯角と偏差の世界分布図から、太平洋地域をそれぞれ切り取って、半透明なレイヤーにして重ね合わせ、等偏差線と等俯角線が一度に読める図を作りました。
元にした世界地図はかなり粗いので、実はこの図では、寄港予定地のオワフ島とウェーク島、硫黄島の位置が正確には分かりません。そこでハワイ諸島については、Atlas画面の映像を張り付け、ウェークと硫黄島は、緯度経度をもとに「+」マークを描き入れました。これで各島の位置と、そこを通過する等俯角線の方位角(=アプローチ針路)が、一目で分かる図が完成しました。あとは出発・目的地の緯度経度と、目的地を通る等俯角線の方位角を、自作ワークシート「まぐなび」に打ち込めば、すぐフライトプランが出来上がります。
…ここまで済ませておいて、サンディエゴからロサンジェルスを経由し、サンフランシスコに向かうコースを飛んで、少し本格的に「ウインド・スター測風法」を練習しました。以下がフライトプランです。
◎サンディエゴ国際空港(KSAN)
▼320度10nm
★ミッションベイVOR 117.80 324657N-1171331W
▼314度92nm
★ロサンジェルス空港(KLAX)VOR113.50-113.60。335559N-1182555W
▼340.6度99nm
★シャフターVOR115.40(セントラルバレー南部)352905N-1190549W
▼309.5度178nm
★サンノゼ空港VOR114.10 372228N-1215640W
▼305.7度25nm
◎サンフランシスコ国際空港(KSFO)。VOR115.80 373710N-1222225W
●測定の実際と、コースの修正方法について:
ここで疑問が生じました。ウインド・スターで得た風向・風速の実測値を、どのタイミングで、針路補正に反映させるべきか…という問題です。
推測航法では、何らかの手段でフィックス(現在地点の実測値)を手に入れた場合、推測位置との比較によって、どの程度風に流されていたか(つまり風向・風速ベクトル)が分かります。もし30分の飛行中、左に3度流されたとしますと、フィックスを得た時点で右に3度修正すれば、以後は誤差の拡大を防ぐことが出来ます。これを針路の「適量修正」と呼びます。また3度ではなく6度修正して飛べば、30分後には本来のコース上に戻ることができますが、この飛び方を「倍量修正」と呼びます。風がしばらく一定と仮定すると、元のコースに戻った時点で適量修正に切り替えれば、正しい針路をたどれるはずです。
このフィックスによる測風では、過去30分間の風の影響の平均値が得られますので、針路修正はそれなりに精度が出るはずです。しかしウインド・スター測風法では、その時点の瞬間的な風向・風速しか得られませんので、いつ風が変わったと見なすべきか…倍量補正を使うとすれば、どのタイミングで適量補正に移るべきか、さっぱり分かりません。恐らく、航程の中間地点で風が変わったと見なして、出発地(または直前のフィックス)で得た風の情報と、ウインド・スター測定値の平均を取って倍量修正すれば、比較的精度が高いのでしょうが、この計算はとても煩雑です。
磁気俯角・偏差航法では原理的に、非常に大きな誤差も吸収できるのですから、ここまでの推測航法精度は必要ないと判断し、取りあえず、
・風向風速は、測定の瞬間に変化したものと
見なし、過去にさかのぼる修正はしない。
・誤差が累積するのは承知で、適量修正だけ行う。
…ということに決めました。
前記のフライトプランに従って飛びながら、実際に10分間隔で測風して、針路修正を行いました。区間距離が短いので、ある程度の飛行時間を確保するため、今回に限り200KTAS(真対気速度200Kt)に減速します。高度10000ftを選んだので、200KTASは計算上、約167KIAS(指示対気速度167Kt)となり、この通りオートパイロットを設定。最初のミッションベイVOR=ロサンジェルスVOR間の92nmでは2回測風し、目標地点付近に到着した時点の航法誤差は、距離にして約12nm、飛行時間で6分でした。
FlightGearにおける12nmは、ほぼ快晴時の最大視程に当たりますので、たった92nmの飛行で、ここまで狂うのはショックです。そこで次の、シャフターVORまでの99nm区間では、面倒でも倍量修正をしようと思いました。同様に2回測風したのですが、幸か不幸か、風速が約5Ktに落ち、倍量修正するほどの偏流は生じませんでした。到着時の誤差は、DME測定でわずか1.8nm。高度による影響を差し引くと、誤差1nm未満のピンポイント到着となり、飛行時間の誤差は、ウインド・スターを描いた遅延時間を差し引くと、ほぼゼロでした。
非常に嬉しい結果ですが、最初の大誤差の原因が、よく分析できていないので、ちょっと困っています(^^;)。まあいずれにせよ、私の太平洋横断の航法は、次第に固まってきました。
●メドウズ・フィールド着陸。追憶の島ふたたび:
ここで燃料計を見ると、低空・低速飛行のため予想より燃料を消費し、KSFOにはわずかに届かないようです。地図代わりにAtlas画面を調べますと、シャフターVORのすぐ南に、メドウズ・フィールドという空港を発見。滑走路はVORに正対しており、ここに降りることに決定し、直ちに進入。滑走路に並行して幹線道路がまっすぐ伸びており、これが絶好の目標となって、アプローチは非常に楽でした。
到着後に調べますと、ここには先にご紹介しました通りANAの訓練基地があり、日本との縁を感じて、ちょっと嬉しい気分でした。次回も恐らく航法の訓練と研究を行い、うまく行けばKSFOに到達して、私の世界一周は新たな区切りを迎えます。
さて…ロサンジェルス沖で私が昔、目撃した島ですが。先ほどは近くまで行かなかったサンタ・カタリナ島を、改めて各種の地図で調べますと、やはり地形上は、有力候補として残る気がしました。最初は航路がもっと北寄りだったかと想像しましたが、ロサンジェルス市は広いので、仮に南部のサンペドロあたりに向けて航行したと考えますと、カタリナの近くを通る可能性も依然、かなり大きいのです。
若かりしころの私が、「陸が見える!」と聞いて甲板に飛び出し、最初に見た島はかなり小さくて、手前に薄茶色の、岩礁のようなものがありました。しばらくすると、さらに大きな島が視界に入り、これは背骨がシャープに盛り上がった岬を持つ、緩いピラミッド状のシルエットでした。
Google Earthの斜め視野機能を使って、船舶並みの超低空からサンタ・カタリナ島を観察しますと…西の端の尖った岬は、この淡い記憶の中の「シャープに盛り上がった」岬と印象がよく似ています。また直前に見た小さな島は恐らく、西にあるサンタバーバラ島で、私が「岩礁のようなもの」とみたのは、この島の南側に浮かぶ赤茶けた岩のかたまり・スーティル島に酷似しており。Google Earthの視点を海面すれすれまで下げてみて…「ああ、これだ!」と思いました。
世界一周フライトの流れからは外れますが、メドウズ到着後、ロサンジェルス国際空港でSV-4複葉機を起動し、これらの島を訪ねてみました。FlightGearのマップデータには、スーティル島はありませんが、サンタ・カタリナ島の西の岬を低空で回ると、どうやらこれが、やはり「ピラミッド状」に見えた地形のようです。長年の疑問に答えが出ました。FlightGearと、インターネットに深く感謝しております(^^)/
今回ご紹介するのはカリフォルニアの、太平洋岸の旅です。エドワーズ空軍基地を離れてロサンジェルス沖の島々を巡り、サンディエゴに進みます。ここからロス経由で、「ウインド・スター測風法」の航法訓練を行いながら、サンフランシスコ(KSFO)を目指します。しかし残念ながらこの日は、時間と燃料の都合でKSFOには届かず、200nmほど南のベーカーズフィールドという街にある、メドウズ・フィールド(KBFL)に降りてしまいました。カリフォルニア州中央を南北に走る、広大なセントラルバレー南端付近の空港で、ANAの訓練施設があるそうです。
サンディエゴはかつて、リンドバーグのスピリット・オブ・セントルイス号が造られた土地ですが、同機が初飛行した飛行場の位置などを、今回初めて突き止めました。またロス沖では大昔に、私が実世界の太平洋横断で船から目撃した、懐かしい島影も確認できました。
まずサンディエゴまでの、フライトプランをお目に掛けましょう。
◎エドワーズ空軍基地(KEDW)北緯34度54分、西経117度52分。
▼210度22nm
★パームデール(KPMD)VOR 114.50 343750N-1180349W
▼238度58nm
★ヴァントゥーラVOR108.20(340654N-1190258W)
▼266度70nm
△チャネル諸島・サンミゲル島西端(340206N-1202658W)
(その東にサンタローザ島、サンタクルーズ島、アナカパ島)
▼93度101nm
★ロサンジェルス空港VOR 113.50(113.60)335600N-1182556W
▼134度92nm
★ミッションベイVOR 117.80 324657N-1171331W
ここからは…
・約60度20nmでミラマー海軍航空基地(KNKX)
・約140度10nmでサンディエゴ国際空港(KSAN)NDB245
・さらに湾をはさんで、南がノースアイランド海軍航空基地(KNZY)
…となります。
以上の記載事項には、以前あった「偏東」「偏西」の磁気偏差がありませんが、現在のPC7改では計器盤に偏差を表示するため省略し、飛行中に計算することにしました。
●追憶の島を求めて:
明け方のエドワーズ空軍基地で、ピラタスPC7改を起動。さすがはカリフォルニアの砂漠、この日も雲量ゼロの上天気です。ただし風は強く、地表で330度21Kt吹いていました。燃料は満タンの4分の1(1000Lbs)として、UTCの1430時(現地6時半)に離陸しました。
ここしばらく、操縦のブランクがありましたので、リフレッシュ訓練のつもりでオーソドックスに、VORに頼ってフライトを組み立てます。高度7500ftで指示対気速度250KIASを保ち、離陸12分後には、砂漠の南にあるパームデールVORを通過。ここでHSIのノブをクリックして、VORラジアルを変更し、ロサンジェルス市街地の西方・ヴァントゥーラVORへ変針しました。
ヴァントゥーラへの予定針路は238度(真方位)ですが、VORラジアルは磁気方位ですので、偏差(偏東約13度)を引いて、ラジアル225度にセット。オートパイロットでCDIコース保持を掛け、機体が安定後にコンパスを見ると、機首方位は(磁気で)233度でしたので、強風のため8度もの偏流が生じていることになります…。
…などと計算を重ねて、だんだん操縦の勘を取り戻しながら、約5000ftの丘陵地帯を越えると、早くもロサンジェルス郊外に差し掛かりました。エドワーズとロスは、航空機の速度で考えますと、意外にも「すぐそば」なんですね。納得しながら左後ろを見ると、ちょうど朝日が昇るところでした。
ここからサンディエゴへは、沿岸を南下する旅になりますが…私はここで回り道をしまして、いったんコースを西に定め、ロス沖に横たわる、チャネル諸島を目指しました。
3年近く前の1月に、私は本連載の第3回で、学生時代に大阪の堺港からロサンジェルスまで、貨物船に便乗して太平洋を横断したお話をしました。この航海で最初に目にしたアメリカ領は、ロスの沖合に浮かぶ島々なのですが、果たしてどこだったのか、正確な記憶がありません。当時は乗組員から、チャネル諸島南部のサンタ・カタリナ島だと聞いたような気もしますが、記憶が曖昧です。私が乗った船は北緯30度線上を東進し、途中で東北東に変針してロスへ直進したので、ロス中心市街地南方のカタリナを見たとするのは、多少不自然な気もします。もっと北寄りに並ぶサンミゲル島、サンタローザ島、サンタクルーズ島、アナカパ島のいずれかではないかと考えると、より自然ですので、ぜひFlightGearで地形を確かめようと、この4島に沿って東西に往復してみることにしました。
海上の視界は、あいにく5nm程度で、薄い島影が次々と、左翼の眼下を流れて行きます。離陸後30分で、一番西のサンミゲル島を左アビーム(真横)に確認。ここで南に変針し、高度を600ftまで下げました。私は昔、東に向う船上から、確か左舷に島を見たので、同じ向きから見ようと4島の南側に出て、低空でロサンジェルス空港VORを目指すことにしました。ロスはまだ受信圏外ですので、しばらくは推測航法になります。必要な最新の風向・風速を得るために、60度のウインド・スターを描いて測風しました。
最初は風速の計算値が50Ktと出ましたが、明らかに過大で測定ミスです。偏流角を計り直し、「hideの風見盤」に打ち込むと、2度目は風向8.6度風速17Ktと出ました。正解を調べると10度17.3Ktでしたので、まずは上出来。これを基に、ロサンジェルス空港VORまでの補正針路を計算しておき、じっくり4つの島を観察しました。しかし…どうも今ひとつ、「大昔、船からこれを見た」と確信できる場所は見つかりません。残念です。
諦めて高度を上げ、ロスを目指したところ、はるか南方、サンディエゴのミッションベイVORが先に入感したので、そっちへ直航することにしました。(余談ながら、ここでトラブルを一つ発見。私は離陸以来、フラップを1段下げたまま飛んでいたようです。渡洋飛行でこんなことがあると、ガス欠もあり得ますので、後でフラップ開度計を作りました)
●セントルイス号の「ふるさと」訪問;
1600時、サンディエゴ上空に到着。古くから海軍根拠地の一つで、大小の湾に恵まれて、いかにも良港に見えます。薄いovercastの雲を通して、ミラマー基地の滑走路を視認。以前は、ここに有名な海軍航空兵器学校(トップガン)があったのですが、現在はネバダ州へ移転しているそうです。映画のトム・クルーズを思い出しながら、滑走路上空でロールを打ち、南のサンディエゴ国際空港へ。滑走路に西から進入すると、途中で処理が異様に重くなり、大事を取って負荷の軽そうな海側へ反転しましたが、幸いパソコンは落ちなかったので、再度向きを変えてファイナルに入り、あっさり着陸しました。
サンディエゴと言えば、セントルイス号誕生の地。私は小学生のころから、セントルイス号が初飛行と各種テストを行った、ダッチ・フラッツという小飛行場がどこにあったのか、ぜひ知りたいと思っていました。
http://www.charleslindbergh.com/
あれこれ調べた末、上記のHP(セントルイス号の複製機で、パリ飛行を再現しようというグループ)の奥の方で、製造工場と飛行場の位置を示した地図が見つかりました。昔のダッチ・フラッツは、サンディエゴ国際空港の、東西に延びる滑走路西端の北側あたりと判明。またライアン社の工場は、滑走路東端南側の海岸にあったそうです。
当時のライアン航空は従業員35人。リンドバーグが訪ねた際、「魚の匂いのする」海沿いの工場はかなり老朽化していたものの、スタッフは優秀で、セントルイス号の設計・製造を約束通り60日でこなし、歴史に残る名機を生んだのは、ご存知の通りです。私の見るところ、設計の基礎になった同社の郵便機M−2がすでに、かなり優れた機体のようです。M−2は密閉キャビンの高翼単葉機で、前年の1926年完成ですが、この時代にしては大変スマートな機体。タンデムの乗員席からの視界も極めて広そうで、まるで1940年代の観測機や練習機に見えるほどです。胴体構造と、翼や脚の支柱などからは、まさにセントルイス号に通じるDNAを感じます。
セントルイス号は、軽負荷ですとパワーがあり余って、初飛行の滑走はたったの8秒、約30メートルで離陸したそうです。リンドバーグは離陸後、直ちに湾(というか水路)を横断し、すぐ南に横たわるノースアイランド島の海軍飛行場をめざしていますが、これは恐らく「慣らし」前の新品エンジンが、万が一にも止まる場合に備えたものと思います。最初の基本的なテストの後、海軍のホーク戦闘機が様子を見に接近したため、かつてジェニー複葉機で空戦訓練を受けたリンドバーグは、「おびき寄せて戦う」姿勢を取って、しばし模擬空戦を楽しんでいます。
私も空戦はともかく、同じ空域を飛んでみようと、サンディエゴ国際空港でセントルイス号を起動し、久しぶりに、前方視界のない操縦席を使って離陸しました。思いきり燃料を減らし、8秒は無理ながら十数秒で離陸しました。かつてのダッチ・フラッツ飛行場上空を旋回し、ライアン社の工場跡地を飛び、ノースアイランドの海軍基地上空へ。若き日のリンドバーグも、真新しいセントルイス号の、極めて視界の悪い操縦席から、これとほぼ同じ光景を眺めて、自分の夢がいよいよ、実現段階に移ったことを実感し、文字通り「天に昇る心地」を味わったのでしょうね。
私はノースアイランド上空でスタントを試みましたが、FlightGearのセントルイス号は実機同様、主翼スパンが長い割にエルロンが短く、ロールは苦手ですが、宙返りは想像したより容易でした。
●地図の整備や、測風の練習を進める:
サンディエゴ到着後、私は太平洋横断に使う航空図を、あれこれ検討しました。本来は、風向・風速の測定結果や修正針路を作図できるように、推測航法用のプロッティング・チャートを作りたいのですが、有意な精度を出すには小縮尺のメルカトル図が多数必要で、これは断念。代りに「磁気俯角・偏差航法」を能率よく進めるため、ネットで見つけた磁気俯角と偏差の世界分布図から、太平洋地域をそれぞれ切り取って、半透明なレイヤーにして重ね合わせ、等偏差線と等俯角線が一度に読める図を作りました。
元にした世界地図はかなり粗いので、実はこの図では、寄港予定地のオワフ島とウェーク島、硫黄島の位置が正確には分かりません。そこでハワイ諸島については、Atlas画面の映像を張り付け、ウェークと硫黄島は、緯度経度をもとに「+」マークを描き入れました。これで各島の位置と、そこを通過する等俯角線の方位角(=アプローチ針路)が、一目で分かる図が完成しました。あとは出発・目的地の緯度経度と、目的地を通る等俯角線の方位角を、自作ワークシート「まぐなび」に打ち込めば、すぐフライトプランが出来上がります。
…ここまで済ませておいて、サンディエゴからロサンジェルスを経由し、サンフランシスコに向かうコースを飛んで、少し本格的に「ウインド・スター測風法」を練習しました。以下がフライトプランです。
◎サンディエゴ国際空港(KSAN)
▼320度10nm
★ミッションベイVOR 117.80 324657N-1171331W
▼314度92nm
★ロサンジェルス空港(KLAX)VOR113.50-113.60。335559N-1182555W
▼340.6度99nm
★シャフターVOR115.40(セントラルバレー南部)352905N-1190549W
▼309.5度178nm
★サンノゼ空港VOR114.10 372228N-1215640W
▼305.7度25nm
◎サンフランシスコ国際空港(KSFO)。VOR115.80 373710N-1222225W
●測定の実際と、コースの修正方法について:
ここで疑問が生じました。ウインド・スターで得た風向・風速の実測値を、どのタイミングで、針路補正に反映させるべきか…という問題です。
推測航法では、何らかの手段でフィックス(現在地点の実測値)を手に入れた場合、推測位置との比較によって、どの程度風に流されていたか(つまり風向・風速ベクトル)が分かります。もし30分の飛行中、左に3度流されたとしますと、フィックスを得た時点で右に3度修正すれば、以後は誤差の拡大を防ぐことが出来ます。これを針路の「適量修正」と呼びます。また3度ではなく6度修正して飛べば、30分後には本来のコース上に戻ることができますが、この飛び方を「倍量修正」と呼びます。風がしばらく一定と仮定すると、元のコースに戻った時点で適量修正に切り替えれば、正しい針路をたどれるはずです。
このフィックスによる測風では、過去30分間の風の影響の平均値が得られますので、針路修正はそれなりに精度が出るはずです。しかしウインド・スター測風法では、その時点の瞬間的な風向・風速しか得られませんので、いつ風が変わったと見なすべきか…倍量補正を使うとすれば、どのタイミングで適量補正に移るべきか、さっぱり分かりません。恐らく、航程の中間地点で風が変わったと見なして、出発地(または直前のフィックス)で得た風の情報と、ウインド・スター測定値の平均を取って倍量修正すれば、比較的精度が高いのでしょうが、この計算はとても煩雑です。
磁気俯角・偏差航法では原理的に、非常に大きな誤差も吸収できるのですから、ここまでの推測航法精度は必要ないと判断し、取りあえず、
・風向風速は、測定の瞬間に変化したものと
見なし、過去にさかのぼる修正はしない。
・誤差が累積するのは承知で、適量修正だけ行う。
…ということに決めました。
前記のフライトプランに従って飛びながら、実際に10分間隔で測風して、針路修正を行いました。区間距離が短いので、ある程度の飛行時間を確保するため、今回に限り200KTAS(真対気速度200Kt)に減速します。高度10000ftを選んだので、200KTASは計算上、約167KIAS(指示対気速度167Kt)となり、この通りオートパイロットを設定。最初のミッションベイVOR=ロサンジェルスVOR間の92nmでは2回測風し、目標地点付近に到着した時点の航法誤差は、距離にして約12nm、飛行時間で6分でした。
FlightGearにおける12nmは、ほぼ快晴時の最大視程に当たりますので、たった92nmの飛行で、ここまで狂うのはショックです。そこで次の、シャフターVORまでの99nm区間では、面倒でも倍量修正をしようと思いました。同様に2回測風したのですが、幸か不幸か、風速が約5Ktに落ち、倍量修正するほどの偏流は生じませんでした。到着時の誤差は、DME測定でわずか1.8nm。高度による影響を差し引くと、誤差1nm未満のピンポイント到着となり、飛行時間の誤差は、ウインド・スターを描いた遅延時間を差し引くと、ほぼゼロでした。
非常に嬉しい結果ですが、最初の大誤差の原因が、よく分析できていないので、ちょっと困っています(^^;)。まあいずれにせよ、私の太平洋横断の航法は、次第に固まってきました。
●メドウズ・フィールド着陸。追憶の島ふたたび:
ここで燃料計を見ると、低空・低速飛行のため予想より燃料を消費し、KSFOにはわずかに届かないようです。地図代わりにAtlas画面を調べますと、シャフターVORのすぐ南に、メドウズ・フィールドという空港を発見。滑走路はVORに正対しており、ここに降りることに決定し、直ちに進入。滑走路に並行して幹線道路がまっすぐ伸びており、これが絶好の目標となって、アプローチは非常に楽でした。
到着後に調べますと、ここには先にご紹介しました通りANAの訓練基地があり、日本との縁を感じて、ちょっと嬉しい気分でした。次回も恐らく航法の訓練と研究を行い、うまく行けばKSFOに到達して、私の世界一周は新たな区切りを迎えます。
さて…ロサンジェルス沖で私が昔、目撃した島ですが。先ほどは近くまで行かなかったサンタ・カタリナ島を、改めて各種の地図で調べますと、やはり地形上は、有力候補として残る気がしました。最初は航路がもっと北寄りだったかと想像しましたが、ロサンジェルス市は広いので、仮に南部のサンペドロあたりに向けて航行したと考えますと、カタリナの近くを通る可能性も依然、かなり大きいのです。
若かりしころの私が、「陸が見える!」と聞いて甲板に飛び出し、最初に見た島はかなり小さくて、手前に薄茶色の、岩礁のようなものがありました。しばらくすると、さらに大きな島が視界に入り、これは背骨がシャープに盛り上がった岬を持つ、緩いピラミッド状のシルエットでした。
Google Earthの斜め視野機能を使って、船舶並みの超低空からサンタ・カタリナ島を観察しますと…西の端の尖った岬は、この淡い記憶の中の「シャープに盛り上がった」岬と印象がよく似ています。また直前に見た小さな島は恐らく、西にあるサンタバーバラ島で、私が「岩礁のようなもの」とみたのは、この島の南側に浮かぶ赤茶けた岩のかたまり・スーティル島に酷似しており。Google Earthの視点を海面すれすれまで下げてみて…「ああ、これだ!」と思いました。
世界一周フライトの流れからは外れますが、メドウズ到着後、ロサンジェルス国際空港でSV-4複葉機を起動し、これらの島を訪ねてみました。FlightGearのマップデータには、スーティル島はありませんが、サンタ・カタリナ島の西の岬を低空で回ると、どうやらこれが、やはり「ピラミッド状」に見えた地形のようです。長年の疑問に答えが出ました。FlightGearと、インターネットに深く感謝しております(^^)/
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