アンデスの昼と夜(その1)
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居住地: 兵庫県
投稿数: 650
■アンデスの昼と夜(その1)■
hideです。
…毎日暑いですね。今日から2回にわたり、冬を迎えているアンデス山脈を、複葉機
で横断するフライトをご紹介します。本来は雪景色にしたかったのですが、なぜか設定
がうまく行かず、空港の敷地と河川(凍結)だけが白くなってしまったので、元に戻しま
した。マイアルバムで涼をお届けするはずが、残念でした。
コースは前回私が到着した、アルゼンチン西部のメンドーサから、大渓谷をジグザグ
に抜けて、南米最高峰・アコンカグア南方の峠(約13000ft)を越えてチリ領内に入り、
首都サンチャゴへ向かう167nmの道のりで、ほとんど3500ft以上の山岳地帯です。
フランスの航空会社・アエロポスタル社は1930年、初のアンデス横断航空路を開設し
た際、この同じ経路を、メインの飛行ルートに選びました。かつては、ここに両国を結ぶ
「トランス・アンデス鉄道」が走っていましたので、勾配が比較的緩やかなうえ、線路に
沿って飛べばパイロットが迷いにくいことから、飛行ルートに選んだのでしょう。ただし
アンデスの自然は厳しく、空路を開拓したジャン・メルモーズや、定期運航の中心となっ
たアンリ・ギヨメら同社の名パイロットたちは、激変する天候や猛烈な上昇・下降気流、
無線アンテナへの落雷などに苦しめられました。ちなみにトランス・アンデス鉄道自体
も、頻繁な雪崩や崖崩れのため、現在は廃線になっているそうです。
線路そのものは残っており、幸いFlightGearの画面上でも、細い白線で表示されま
すので、私たちもこれをたどれば比較的容易に、山脈をぬって飛ぶことができます。
●アンデスの昼と夜…まず使用機のお話:
この横断ルート開かれた時代は、ちょうど単葉機と複葉機が入り交じって使われてい
たころですが、FlightGearの世界では、当時のラテコエール26型(単葉)や、ポテズ25型
(複葉)などはモデル化されていないため、1937年ベルギー製の複葉練習機・Stampe-
SV4で飛ぶことにします。しばらく前にご紹介しました、スペインとアフリカの郵便飛行再
現にも登場した飛行機です。私は2年半ほど前、FlightGear Ver.0.9.8でも、同じコー
スを通ったことがあり、その時はパイパーカブを使いました。
スタンプSV4は、お馴染みHelijahさんのサイトからダウンロードしました。現バージョン
は、後席にパイロット人形が乗り、外観も以前の白から、鮮やかなブルーに変身してい
ます。尾輪式の機体に特有の、グラウンドループを起こす癖を持っていますが、一度空
中に上がれば、まことに操縦しやすい、楽しい飛行機です。
メンドーサ=サンチャゴ間を飛ぶには、航続力がぎりぎりですので、タンク容積を純正
の142Lbsから、200Lbsに増加。また、なぜかコンパスがありませんので、ブロンコ用の
磁気コンパスを、パネル中央に増設しました。さらに時計も欲しくなり、787用のデジタル
時計を小さく作り替えて拝借。古典機にデジタルは少し変ですが…時刻をメモする時は
やはり便利です。
●地文航法:地図の作り方。
コース最高地点の峠は、山域の中央部より、かなり西にあるため、アルゼンチン側から
西へ抜ける時は、長い「助走」をして高度を稼ぐことになり、上昇力の小さな複葉機でも、
比較的楽に横断が可能です。しかしチリ側から東へ戻るときは、急激に標高が上がりま
すので、復路は70nmほど南方にある、別の谷筋を使うことにします。
最終的には、アンデスを夜間飛行で横断してみたいのですが、スタンプSV4にはVOR
なんて付いていません。そこで今回の一連の飛行は必然的に、昔の郵便機と同様に、
地図とコンパス、それに肉眼が頼りの「地文航法」を使うため、夜間にルートを見分ける
のは、かなり難しそうです。
地文航法とは、あらかじめ地図に描いたコースのどこにいるかを、地形によって確認す
る飛び方ですので、カーナビ普及前のドライブや、バイクツーリングと感覚的によく似て
います。機械任せのナビゲーションではないため、とても楽しいのですが、少し気を緩め
ると快晴の昼間でさえ、すぐ現在地が分からなくなります。なにぶん、まず地図が必要で
すね。私は次のような方法で用意しました。
FlightGearの航空図が欲しい場合は、Atlas画面を適当な倍率で印刷するのが手っ取
り早いですが、地文航法の場合は、Atlas上ではほとんど見えない、道路や線路の位置
情報も必要です。そこでAtlas画面に、一般的な地勢図のデータを重ね合わせることにし
ました。手順は以下の通りです。
(1)Atlasをフル画面表示で倍率調整し、両端をメンドーサとサンチャゴにする。
(2)これを画面コピーで保存しておく。
(3)お好みの世界地図サイト(MSNエンカルタなどお勧めです)で、このルートを
3枚くらいに分けて拡大表示し、同様に保存する。
(4)Photoshopなどで、これらを重ねる。Atlasデータと地図データの、それぞれ
同じ2点間の距離を計り、縮小率の比を算出して縮尺を合わせる。またレイ
ヤーごとに、明度とコントラストを調整し、見やすい画質に整える。
(5)フリーウェア「斜めものさし」を起動し、縮尺を合わせ、距離スケールとして配置。
(6)以上を画面コピーして余白を切り、使いやすいサイズにプリントする。
●地文航法:フライトプランの作り方:
次に、フライトプランの作り方もご説明します。
(1)飛行ルートを決める。機上から判別しやすいよう、道路や鉄道の分岐点、川の
出合い、谷の入り口などを変針・中継点にするが、あまり多いと煩雑になる。
(2)鉛筆などで、各中継点を結ぶ線を引く。緩やかに屈曲した谷筋は、或る程度ま
で直線で代用して構わない。
(3)各区間の距離と方位を出す。地図上に作った距離スケールと、定規、分度器で
計ってもいいが、「斜めものさし」をAtlas画面上に表示し、カーソル位置の距離
・方位表示機能で測定すれば、きわめて簡単かつ正確。
この時、現地の磁気偏差に合わせて、「斜めものさし」を傾けて測定すると、
偏差の補正が同時に終了する。例えば…偏西5度なら、斜めものさしの角度
表示が「005度」になるよう調節。偏東3度なら「357度」にする。
(注:FlightGearの世界では実機同様、VORのコースや滑走路方位、パネル
上にあるコンパスの表示はすべて磁気方位ですので、偏差を修正する必要
があります。HUD最上部のコンパス表示だけは、真方位です)
(4)算出結果を、作成した航空図の折れ線コース上に記入する。
(5)実際のフライトでは、中継点を見落とす可能性が高いため、各区間の距離を
巡航速度で割り、予想飛行時間も記入しておくとよい。
(6)風向風速の補正計算は省略してもよい。ただし巡航速度への影響は、大まかに
頭に入れておく必要がある。
…では飛行に移りましょう。フライトプランを、いつものスタイルで書き出したものを
お目に掛けます。
■メルモーズの拓いた道■(メンドーサ=サンチャゴ間・西向きアンデス越え)
単位は真方位。●印は、実際に使う磁気方位と、100Kt巡航とした場合の所要時間。
地名は、谷筋や平野にある集落などの名前です。
◎メンドーサ空港(SAMQ)偏差:FlightGear=マイナス1.28度(偏東)
▼200度8.6nm (●198度6分)
△Lujan de Cuyoの交差点
▼270度11nm (●268度8分)
△Cacheuta
▼314度7nm (●312度5分)
△Portreillos
▼334度20nm (●332度15分)
△Estacion Uspallata(ここから鉄道は西へ。正面に道路)
▼297度6nm (●295度5分)
△道路が西から南南西へ折れる地点。川と合流。
▼227度21nm (●225度15分)
△Punta de Vacas(やや大きな川が2本合流。北からが手前)1525頃。
▼281度15nm (●279度11分)
△Las Cuevas(国境の峠。道路は西側で激しく屈曲)
▼246度17nm (●244度12分)
△Los Azures(鉄道と道路が、西南西から北西へ折れる地点。川は南へ)
(町から72度5nmに、小さなSan Rafael空港SCAN)
▼293度13nm (●291度10分)
△Los Andes 道路分岐点。以後南西へ向かう道に沿って。
▼182度38nm (●180度29分)
△サンチャゴ市 全航程147nm。
●複葉機の離陸のコツと、現在地の確認:
40度の風約3Kt、雲のレイヤーは皆無という、めったに出会わない上天気。メンドーサ
空港で、スタンプSV4のエンジンを始動します。離陸はUTCの1635時、現地時間では正
午過ぎです。
FlightGearの尾輪式機で離陸を試みると、すぐにグラウンドループを起こしてしまいます
が、以前どなたかが掲示板に書かれたように、上げ舵を取って、尾輪を滑走路面に押し
つけておくとよろしいですね。ただし、漫然と昇降舵を引いてもダメで、滑走前に最大舵
角にロックしてしまい、これを維持したまま走って、いつの間にか主車輪から先に浮いた
…といった状態にするのがいいようです。この主車輪を先に浮かせる離陸法を、大戦前
のドイツでは、なぜか「騎士の離陸」と呼んだそうです。
さて、「騎士の離陸」でスタンプを宙に浮かべ、機首を南へ。ブロンコから頂いた磁気コ
ンパスは、大変良くできていて、実にリアルに、コンパスカード(目盛り盤)が揺れまして
少々読みにくいほどです。高度を取るにつれて眼下にメンドーサ市街地が拡がり、南へ
鉄道や道路が延びています。そのうちの1本をたどり、隣町にある鉄道の分岐点を通過。
ここから西へ旋回し、近くにそびえる山脈から、平野へ向けて開いた谷の入り口に飛び
込みました。
FlightGearの地形と地図を見比べて、現在地を割り出すのは、慣れないうちは案外難し
い作業です。本番前の練習飛行では離陸後すぐ、誤って鉄道の支線を追いかけてしまい、
平野から狭い沢に入り込んで、さっそく迷子になってしまいました。また谷間を飛行中も、
無数に支流の谷や沢が口を開けており、慣れないうちは、どれも正しい道に思えます。
この飛行でも1653時ごろ、Portreillos村の付近で一度、眼下にあるはずの線路がないこ
とに気づき、慌てて反転しました。このコースでは、鉄道を見落とさなければ、まず迷いま
せんが、基本的には各区間の大まかな飛行方向と、変針点付近の地形や、途中で目印
になる谷や川などを、しっかり頭に入れる必要があります。これさえ出来れば、後は簡単
です。
現実の登山では、霧の中で尾根歩きをしている最中、コンパスさえあれば、登山道と尾
根筋の位置・方位の関係から、現在地がよく分かりますね。これと同様、このフライトでも
谷の進行方向と経過時間、目標物、それが見える方角などから、かなり正確に現在地を
つかむことができます。
V字に切れ込んだ快晴の大渓谷を、地形を観察しながら複葉機でゆっくり飛び続け、次
第に高度を稼いでいくフライトは、ふだんのFlightGearの操縦とは違う、ふんわりした浮遊
感に満ちて、楽しい飛行でした。まるでコンドルになったような気分です。本物のスタンプ
練習機は胴体幅が非常に狭いので、少し頭を振ったり、機体をバンクさせれば真下付近
も見えるでしょうが、FlightGearは視点の向きは変えられても、位置までは動かせないの
で、どうも下方視界が悪いですね。「シフト+X」キーでやや視界を広げた後、スタンプの
場合「D」キーを押すと、パイロットの両肩脇に小さなサイドドアが開きますので、多少は
下方視界を稼ぐことができます。
●世界最長の分水嶺を越え、サンチャゴへ:
1715時ごろ、Punta de Vacas村の手前で天候を「サンダーストーム」にしてみましたが、
大した変化なし。雲のレイヤーを大量に出そうとも思ったのですが、リアルウエザー機能
がオンになっていると、設定変更が利かないようでした。1722時、プンタ・デ・バッカスを
通過。うっかり谷筋を間違えるところを、また鉄道線路に助けられました。昔は五里霧中
に近かったことを思うと、私の地文航法も進歩したものです。ここから山肌の眺めは、雪
交じりになります。1732時、ついに国境の峠越え。スタンプは約18000ftを維持し、右手
にアコンカグアを仰ぎながら、世界最長の山脈・アンデスの分水嶺を越え、「大西洋岸」
から「太平洋岸」に入りました。
前方にチリの谷間が拡がる中、手づくり航空図を見て針路を再検討。目視に頼る地文
航法が、今回は非常にうまく行っているため、少しショートカットをして予定外の谷筋と峠
を越え、サンチャゴ市をめざすことにしました。燃料は、まだ3分の2あります。
新たなルートへの入り口は、国境の峠から西へ約15nm進んだ、Los Azuresという集落
のあたりです。1740時にここへ到着し、慎重に旋回を重ねて地形を確認したあと、確かに
変針点だと確信が持てたので、南へ向かいました。約20分掛けて谷を詰め、稜線を一つ
越え、その先の谷筋を下ってゆくと、平野の彼方、地平線のもやの向こうから、まったく
不意打ちで、壮大なサンチャゴ市街地が姿を現しました。「約束の地」とでも呼びたくなる
ような、まことに劇的な出現ぶりでした。
さあ、アンデス横断の往路は成功です。あとは、無事に降りなければ。サンチャゴ市最
大の空港、Arturo Merino Benitez Intl(SCEL)を探すと、かなり街の西部にあるようです
ね。高度を下げながら広い市街地を横断し、やっと滑走路を発見。SCELの周波数をチェ
ックしてATISを受信すると、「視界15nm、35度の風3Kt、発着滑走路はRWY-35」と言って
いました。右45度から風を受けますが、微風だから大丈夫。風下から滑走路に接近し、
1814時に着陸してエンジン停止。ガスの残りは104Lbsと、ほぼ半分ありました。
1時間58分の飛行中、結局オートパイロットも倍速モードも使わずじまい。そのくらい、
楽しいフライトでした。着陸後、時間設定をいじって、入り日や夜景を試した後、ほんの数
分だけ夜間飛行を試みました。着陸も、PAPIを見ながら完璧に行ったのですが、実はこの
時初めて、スタンプの計器類には、ほとんど照明がないことに気が付きました。
●計器を夜光式に改造する:
うかつでした。私が追加したデジタル時計は光りますが、残りは昇降計以外、夜はまっく
らです。夜間飛行には、もちろん計器照明が必要で、どうしても全計器を発光させたいと思
いました。この改造は当初、私にはまず無理と思ったのですが、acファイルに頻繁に登場
するemission という項目が、恐らくオブジェクトを発光させるパラメータだろうと見当を付け、
昇降計のプログラムを参考にして、他の計器のxmlファイルを書き換えてみました。かなり
の試行錯誤ののち、
<animation>
<type>material</type>
<emission>
<red>0.006</red>
<green>0.0032</green>
<blue>0.0014</blue>
<factor-prop>systems/electrical/outputs/instrument-lights</factor-prop>
</emission>
</animation>
…という記述を、ファイル末尾にある</PropertyList>の直前に入れれば、取りあ
えず計器が光ることが分かりました。RGBの設定数値は、日中でもあまり不自然に見え
ない程度の発光量に抑えています。ただし、この簡略なプログラミングでは、指針と盤面
だけでなく、計器本体のハウジングや、調節ノブまで光ってしまう(笑)のですが、ともかく
夜間飛行が可能になりまして、私なりに、かなりの達成感を味わいました。
次回は、今回のコースの南方約70nmにある、ディアマンテという火山湖を経由するバリ
エーション・ルートを通って、アルゼンチン側へ復路の横断をします。それがうまく行きまし
たら、最終目標である、アンデスの夜間横断飛行に挑みます。
hideです。
…毎日暑いですね。今日から2回にわたり、冬を迎えているアンデス山脈を、複葉機
で横断するフライトをご紹介します。本来は雪景色にしたかったのですが、なぜか設定
がうまく行かず、空港の敷地と河川(凍結)だけが白くなってしまったので、元に戻しま
した。マイアルバムで涼をお届けするはずが、残念でした。
コースは前回私が到着した、アルゼンチン西部のメンドーサから、大渓谷をジグザグ
に抜けて、南米最高峰・アコンカグア南方の峠(約13000ft)を越えてチリ領内に入り、
首都サンチャゴへ向かう167nmの道のりで、ほとんど3500ft以上の山岳地帯です。
フランスの航空会社・アエロポスタル社は1930年、初のアンデス横断航空路を開設し
た際、この同じ経路を、メインの飛行ルートに選びました。かつては、ここに両国を結ぶ
「トランス・アンデス鉄道」が走っていましたので、勾配が比較的緩やかなうえ、線路に
沿って飛べばパイロットが迷いにくいことから、飛行ルートに選んだのでしょう。ただし
アンデスの自然は厳しく、空路を開拓したジャン・メルモーズや、定期運航の中心となっ
たアンリ・ギヨメら同社の名パイロットたちは、激変する天候や猛烈な上昇・下降気流、
無線アンテナへの落雷などに苦しめられました。ちなみにトランス・アンデス鉄道自体
も、頻繁な雪崩や崖崩れのため、現在は廃線になっているそうです。
線路そのものは残っており、幸いFlightGearの画面上でも、細い白線で表示されま
すので、私たちもこれをたどれば比較的容易に、山脈をぬって飛ぶことができます。
●アンデスの昼と夜…まず使用機のお話:
この横断ルート開かれた時代は、ちょうど単葉機と複葉機が入り交じって使われてい
たころですが、FlightGearの世界では、当時のラテコエール26型(単葉)や、ポテズ25型
(複葉)などはモデル化されていないため、1937年ベルギー製の複葉練習機・Stampe-
SV4で飛ぶことにします。しばらく前にご紹介しました、スペインとアフリカの郵便飛行再
現にも登場した飛行機です。私は2年半ほど前、FlightGear Ver.0.9.8でも、同じコー
スを通ったことがあり、その時はパイパーカブを使いました。
スタンプSV4は、お馴染みHelijahさんのサイトからダウンロードしました。現バージョン
は、後席にパイロット人形が乗り、外観も以前の白から、鮮やかなブルーに変身してい
ます。尾輪式の機体に特有の、グラウンドループを起こす癖を持っていますが、一度空
中に上がれば、まことに操縦しやすい、楽しい飛行機です。
メンドーサ=サンチャゴ間を飛ぶには、航続力がぎりぎりですので、タンク容積を純正
の142Lbsから、200Lbsに増加。また、なぜかコンパスがありませんので、ブロンコ用の
磁気コンパスを、パネル中央に増設しました。さらに時計も欲しくなり、787用のデジタル
時計を小さく作り替えて拝借。古典機にデジタルは少し変ですが…時刻をメモする時は
やはり便利です。
●地文航法:地図の作り方。
コース最高地点の峠は、山域の中央部より、かなり西にあるため、アルゼンチン側から
西へ抜ける時は、長い「助走」をして高度を稼ぐことになり、上昇力の小さな複葉機でも、
比較的楽に横断が可能です。しかしチリ側から東へ戻るときは、急激に標高が上がりま
すので、復路は70nmほど南方にある、別の谷筋を使うことにします。
最終的には、アンデスを夜間飛行で横断してみたいのですが、スタンプSV4にはVOR
なんて付いていません。そこで今回の一連の飛行は必然的に、昔の郵便機と同様に、
地図とコンパス、それに肉眼が頼りの「地文航法」を使うため、夜間にルートを見分ける
のは、かなり難しそうです。
地文航法とは、あらかじめ地図に描いたコースのどこにいるかを、地形によって確認す
る飛び方ですので、カーナビ普及前のドライブや、バイクツーリングと感覚的によく似て
います。機械任せのナビゲーションではないため、とても楽しいのですが、少し気を緩め
ると快晴の昼間でさえ、すぐ現在地が分からなくなります。なにぶん、まず地図が必要で
すね。私は次のような方法で用意しました。
FlightGearの航空図が欲しい場合は、Atlas画面を適当な倍率で印刷するのが手っ取
り早いですが、地文航法の場合は、Atlas上ではほとんど見えない、道路や線路の位置
情報も必要です。そこでAtlas画面に、一般的な地勢図のデータを重ね合わせることにし
ました。手順は以下の通りです。
(1)Atlasをフル画面表示で倍率調整し、両端をメンドーサとサンチャゴにする。
(2)これを画面コピーで保存しておく。
(3)お好みの世界地図サイト(MSNエンカルタなどお勧めです)で、このルートを
3枚くらいに分けて拡大表示し、同様に保存する。
(4)Photoshopなどで、これらを重ねる。Atlasデータと地図データの、それぞれ
同じ2点間の距離を計り、縮小率の比を算出して縮尺を合わせる。またレイ
ヤーごとに、明度とコントラストを調整し、見やすい画質に整える。
(5)フリーウェア「斜めものさし」を起動し、縮尺を合わせ、距離スケールとして配置。
(6)以上を画面コピーして余白を切り、使いやすいサイズにプリントする。
●地文航法:フライトプランの作り方:
次に、フライトプランの作り方もご説明します。
(1)飛行ルートを決める。機上から判別しやすいよう、道路や鉄道の分岐点、川の
出合い、谷の入り口などを変針・中継点にするが、あまり多いと煩雑になる。
(2)鉛筆などで、各中継点を結ぶ線を引く。緩やかに屈曲した谷筋は、或る程度ま
で直線で代用して構わない。
(3)各区間の距離と方位を出す。地図上に作った距離スケールと、定規、分度器で
計ってもいいが、「斜めものさし」をAtlas画面上に表示し、カーソル位置の距離
・方位表示機能で測定すれば、きわめて簡単かつ正確。
この時、現地の磁気偏差に合わせて、「斜めものさし」を傾けて測定すると、
偏差の補正が同時に終了する。例えば…偏西5度なら、斜めものさしの角度
表示が「005度」になるよう調節。偏東3度なら「357度」にする。
(注:FlightGearの世界では実機同様、VORのコースや滑走路方位、パネル
上にあるコンパスの表示はすべて磁気方位ですので、偏差を修正する必要
があります。HUD最上部のコンパス表示だけは、真方位です)
(4)算出結果を、作成した航空図の折れ線コース上に記入する。
(5)実際のフライトでは、中継点を見落とす可能性が高いため、各区間の距離を
巡航速度で割り、予想飛行時間も記入しておくとよい。
(6)風向風速の補正計算は省略してもよい。ただし巡航速度への影響は、大まかに
頭に入れておく必要がある。
…では飛行に移りましょう。フライトプランを、いつものスタイルで書き出したものを
お目に掛けます。
■メルモーズの拓いた道■(メンドーサ=サンチャゴ間・西向きアンデス越え)
単位は真方位。●印は、実際に使う磁気方位と、100Kt巡航とした場合の所要時間。
地名は、谷筋や平野にある集落などの名前です。
◎メンドーサ空港(SAMQ)偏差:FlightGear=マイナス1.28度(偏東)
▼200度8.6nm (●198度6分)
△Lujan de Cuyoの交差点
▼270度11nm (●268度8分)
△Cacheuta
▼314度7nm (●312度5分)
△Portreillos
▼334度20nm (●332度15分)
△Estacion Uspallata(ここから鉄道は西へ。正面に道路)
▼297度6nm (●295度5分)
△道路が西から南南西へ折れる地点。川と合流。
▼227度21nm (●225度15分)
△Punta de Vacas(やや大きな川が2本合流。北からが手前)1525頃。
▼281度15nm (●279度11分)
△Las Cuevas(国境の峠。道路は西側で激しく屈曲)
▼246度17nm (●244度12分)
△Los Azures(鉄道と道路が、西南西から北西へ折れる地点。川は南へ)
(町から72度5nmに、小さなSan Rafael空港SCAN)
▼293度13nm (●291度10分)
△Los Andes 道路分岐点。以後南西へ向かう道に沿って。
▼182度38nm (●180度29分)
△サンチャゴ市 全航程147nm。
●複葉機の離陸のコツと、現在地の確認:
40度の風約3Kt、雲のレイヤーは皆無という、めったに出会わない上天気。メンドーサ
空港で、スタンプSV4のエンジンを始動します。離陸はUTCの1635時、現地時間では正
午過ぎです。
FlightGearの尾輪式機で離陸を試みると、すぐにグラウンドループを起こしてしまいます
が、以前どなたかが掲示板に書かれたように、上げ舵を取って、尾輪を滑走路面に押し
つけておくとよろしいですね。ただし、漫然と昇降舵を引いてもダメで、滑走前に最大舵
角にロックしてしまい、これを維持したまま走って、いつの間にか主車輪から先に浮いた
…といった状態にするのがいいようです。この主車輪を先に浮かせる離陸法を、大戦前
のドイツでは、なぜか「騎士の離陸」と呼んだそうです。
さて、「騎士の離陸」でスタンプを宙に浮かべ、機首を南へ。ブロンコから頂いた磁気コ
ンパスは、大変良くできていて、実にリアルに、コンパスカード(目盛り盤)が揺れまして
少々読みにくいほどです。高度を取るにつれて眼下にメンドーサ市街地が拡がり、南へ
鉄道や道路が延びています。そのうちの1本をたどり、隣町にある鉄道の分岐点を通過。
ここから西へ旋回し、近くにそびえる山脈から、平野へ向けて開いた谷の入り口に飛び
込みました。
FlightGearの地形と地図を見比べて、現在地を割り出すのは、慣れないうちは案外難し
い作業です。本番前の練習飛行では離陸後すぐ、誤って鉄道の支線を追いかけてしまい、
平野から狭い沢に入り込んで、さっそく迷子になってしまいました。また谷間を飛行中も、
無数に支流の谷や沢が口を開けており、慣れないうちは、どれも正しい道に思えます。
この飛行でも1653時ごろ、Portreillos村の付近で一度、眼下にあるはずの線路がないこ
とに気づき、慌てて反転しました。このコースでは、鉄道を見落とさなければ、まず迷いま
せんが、基本的には各区間の大まかな飛行方向と、変針点付近の地形や、途中で目印
になる谷や川などを、しっかり頭に入れる必要があります。これさえ出来れば、後は簡単
です。
現実の登山では、霧の中で尾根歩きをしている最中、コンパスさえあれば、登山道と尾
根筋の位置・方位の関係から、現在地がよく分かりますね。これと同様、このフライトでも
谷の進行方向と経過時間、目標物、それが見える方角などから、かなり正確に現在地を
つかむことができます。
V字に切れ込んだ快晴の大渓谷を、地形を観察しながら複葉機でゆっくり飛び続け、次
第に高度を稼いでいくフライトは、ふだんのFlightGearの操縦とは違う、ふんわりした浮遊
感に満ちて、楽しい飛行でした。まるでコンドルになったような気分です。本物のスタンプ
練習機は胴体幅が非常に狭いので、少し頭を振ったり、機体をバンクさせれば真下付近
も見えるでしょうが、FlightGearは視点の向きは変えられても、位置までは動かせないの
で、どうも下方視界が悪いですね。「シフト+X」キーでやや視界を広げた後、スタンプの
場合「D」キーを押すと、パイロットの両肩脇に小さなサイドドアが開きますので、多少は
下方視界を稼ぐことができます。
●世界最長の分水嶺を越え、サンチャゴへ:
1715時ごろ、Punta de Vacas村の手前で天候を「サンダーストーム」にしてみましたが、
大した変化なし。雲のレイヤーを大量に出そうとも思ったのですが、リアルウエザー機能
がオンになっていると、設定変更が利かないようでした。1722時、プンタ・デ・バッカスを
通過。うっかり谷筋を間違えるところを、また鉄道線路に助けられました。昔は五里霧中
に近かったことを思うと、私の地文航法も進歩したものです。ここから山肌の眺めは、雪
交じりになります。1732時、ついに国境の峠越え。スタンプは約18000ftを維持し、右手
にアコンカグアを仰ぎながら、世界最長の山脈・アンデスの分水嶺を越え、「大西洋岸」
から「太平洋岸」に入りました。
前方にチリの谷間が拡がる中、手づくり航空図を見て針路を再検討。目視に頼る地文
航法が、今回は非常にうまく行っているため、少しショートカットをして予定外の谷筋と峠
を越え、サンチャゴ市をめざすことにしました。燃料は、まだ3分の2あります。
新たなルートへの入り口は、国境の峠から西へ約15nm進んだ、Los Azuresという集落
のあたりです。1740時にここへ到着し、慎重に旋回を重ねて地形を確認したあと、確かに
変針点だと確信が持てたので、南へ向かいました。約20分掛けて谷を詰め、稜線を一つ
越え、その先の谷筋を下ってゆくと、平野の彼方、地平線のもやの向こうから、まったく
不意打ちで、壮大なサンチャゴ市街地が姿を現しました。「約束の地」とでも呼びたくなる
ような、まことに劇的な出現ぶりでした。
さあ、アンデス横断の往路は成功です。あとは、無事に降りなければ。サンチャゴ市最
大の空港、Arturo Merino Benitez Intl(SCEL)を探すと、かなり街の西部にあるようです
ね。高度を下げながら広い市街地を横断し、やっと滑走路を発見。SCELの周波数をチェ
ックしてATISを受信すると、「視界15nm、35度の風3Kt、発着滑走路はRWY-35」と言って
いました。右45度から風を受けますが、微風だから大丈夫。風下から滑走路に接近し、
1814時に着陸してエンジン停止。ガスの残りは104Lbsと、ほぼ半分ありました。
1時間58分の飛行中、結局オートパイロットも倍速モードも使わずじまい。そのくらい、
楽しいフライトでした。着陸後、時間設定をいじって、入り日や夜景を試した後、ほんの数
分だけ夜間飛行を試みました。着陸も、PAPIを見ながら完璧に行ったのですが、実はこの
時初めて、スタンプの計器類には、ほとんど照明がないことに気が付きました。
●計器を夜光式に改造する:
うかつでした。私が追加したデジタル時計は光りますが、残りは昇降計以外、夜はまっく
らです。夜間飛行には、もちろん計器照明が必要で、どうしても全計器を発光させたいと思
いました。この改造は当初、私にはまず無理と思ったのですが、acファイルに頻繁に登場
するemission という項目が、恐らくオブジェクトを発光させるパラメータだろうと見当を付け、
昇降計のプログラムを参考にして、他の計器のxmlファイルを書き換えてみました。かなり
の試行錯誤ののち、
<animation>
<type>material</type>
<emission>
<red>0.006</red>
<green>0.0032</green>
<blue>0.0014</blue>
<factor-prop>systems/electrical/outputs/instrument-lights</factor-prop>
</emission>
</animation>
…という記述を、ファイル末尾にある</PropertyList>の直前に入れれば、取りあ
えず計器が光ることが分かりました。RGBの設定数値は、日中でもあまり不自然に見え
ない程度の発光量に抑えています。ただし、この簡略なプログラミングでは、指針と盤面
だけでなく、計器本体のハウジングや、調節ノブまで光ってしまう(笑)のですが、ともかく
夜間飛行が可能になりまして、私なりに、かなりの達成感を味わいました。
次回は、今回のコースの南方約70nmにある、ディアマンテという火山湖を経由するバリ
エーション・ルートを通って、アルゼンチン側へ復路の横断をします。それがうまく行きまし
たら、最終目標である、アンデスの夜間横断飛行に挑みます。
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