Re: 手探り航法・旅日記
Re: 手探り航法・旅日記
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居住地: 兵庫県
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hideです。
少々仕事が立て込みまして、なかなかFlightGearを起動する暇がありませんが、今回はABUNAI航法の改善点などについて、ショート・フライトを交えてご報告を致しましょう。
●世界時の時計を、日本時間で読む:
まず、時計のお話をします。しばらく前、ブロンコ改の計器盤に、アナログ時計を取り付けました。適当な3D計器盤用のパーツが見当たりませんでしたので、ジェット曲技機・練習機「MB-339 PAN」からの拝借です。最初、アナログでは不便だと思ったのですが…意外な長所があることが分かりました。
飛行機は交信に、協定世界時(UTC=従来のGMTと同時刻ですが、太陽ではなく原子時計が基準)を使い、FlightGearでも計器盤の時計は、UTCを示すようになっています。別に不便は感じませんが、日没までの時間を知りたい時など、「シミュレーション内の日本時間では、いま何時だろう」と思うことはあります。
日本標準時(JST)への換算は、UTCから9時間引けばいいのですが、もっと楽な方法があります。モーターグライダー(実機)をやっておられる方のHPを拝見しましたら、JSTに合わせたアナログ腕時計の、文字盤の「9時」の位置を、12時と見なして短針を読めばUTCが分かる、と書いてありました。なるほど…。
ということは逆に、UTCに合わせた時計の文字盤の、「3時」の位置を12時と見なせば、JSTで時刻が読めるわけです。FlightGearには、アナログ時計を持つ機体は少ないのですけれども…実際に試してみますと、極めて便利です。いわば時計の文字盤を、アナログ換算装置として使うわけですね。
●アナログ換算を、ABUNAI航法に応用する:
【航跡から、実際の針路を一発で読む】
このアナログ時計の読み方をヒントに、ABUNAI航法を少し改良しました。前回のフライトでは、偏流角(コンパスが指す針路と、風で流されて飛ぶ実針路の差)を求め、これをもとに針路を修正して、正しいコースをたどりましたが、その際、実際の針路を正確に測定するには、Atlas画面上で自機の航跡の方位を計り、この数値に180度足すという方法を取りました。
この方法は、簡単にして正確だと思いますが、出来れば180度の足し算(角度によっては引き算)を省略し、画面上で実際の針路を直読できれば、もっと便利ですね。
ABUNAI航法システムには、以前「マイアルバム」でご覧頂きましたように、フリーウェア「分度器で測りましょ」を利用した、360度の方位盤が付いています。しかし任意の目標への距離と方位は、マウスポインタで指せば分かるため、あまり分度器の出番はありません。そこでこの分度器を、航跡の測定専用に設定変更しました。
原理は簡単で、磁気方位を示していた円形分度器を、180度回転させるだけです。これで自機の航跡の方位を計れば、角度目盛りから直接、(航跡とは反対向きの)実際の進行方向が読めます。言うなれば「犬が西向きゃ尾は東」…(^^;)。
ただし分度器の頂点の目盛りを、正確に「磁気方位の北+180度」に合わせる必要があります。詳しい設定法は以下の通りです。
(1)分度器を右クリックして、「設定」を開く。
(2)「方向」欄の「右回り」と「形」欄の「○」(360度表示)
が選択されていることを確認。「固定する」にチェックが
入っていることを確認。違っていれば選択やチェックを
加え、設定を閉じる。
(3)分度器をドラッグし、中心点をAtlas画面の経度の線
(地図に引かれた垂直線)に合致させる。
(4)分度器外周の「○」マークをドラッグして、分度器を回
転させ、経度の線を目印に、分度器の頂点の角度
目盛りを、ある数値に合わせる。
合わせる目盛りの数値は、飛行地域によって変わる。
<以下は一例>
例えば福島〜中部近畿〜福岡の範囲内を飛ぶ時は
経度の線に「187度」の目盛りを合わせる。これで分度
器は、この地域の偏差(偏西7度)に合った磁気方位
表示を、180度ひっくり返した状態になる。(ゼロが下)
もし北海道中部を飛ぶなら189度、青森〜岩手なら
188度に合わせればよい。
(詳しくは2月18日付本連載「国内フライトの偏差」の
数値から該当地域を選び、180度足すか引いてくださ
い。FlightGearの磁気方位は、2000年現在の偏差
を基に設計されているようですので、ご自分で資料を
探される場合は、可能なら2000年版をお使い下さい)
(5)分度器の半径は、外周の□マークをドラッグすると、
自在に変更できる。(大きいほど誤差は小さいです)
●反転分度器ABUNAI航法のテスト飛行:
…では、この分度器を使って、テスト飛行をしましょう。
偏流角を補正して飛ぶナビ訓練には、色々な風向を体験できる、三角形のコースが使われることが多いようですが、今回は厚木基地への帰還を兼ねて、三角形より1辺少ない、「くの字」型のコースでフライトプランを作りました。
■「くの字」コースで偏流測定■(関東を南下、厚木へ)
(マップデータ:e130n30.tgz )
(磁気偏差は偏西7度で測定)
◎ホンダエアポート
▼114度43nm
◎成田空港
▼255度49nm
◎厚木基地
【ABUNAI航法の、離陸前準備】
念のため、ABUNAI航法システムの起動と利用方法を、もういちど整理しておきます。
(1)Atlasを起動し、見やすい場所に置く。ウインドウの
大きさは初期状態で使う。拡大縮小すると、Atlas
地図の縮尺が変動し、距離測定に支障がある。
(2)「分度器で測りましょ」を起動し、分度器の中心点
を、正確にAtlasの自機マークに合わせる。
(3)Atlas縮尺に合わせた「斜めものさし」起動。小さく
縮めた状態で、ゼロ点を正確に自機マークに合わ
せる。ものさしの角度が、その土地の偏差に合って
いることを確認。(「斜めものさし」設定法は、2月
18日付の本連載に詳述)
また画面上に現れる、小さな方位距離ウインドウを
見やすい場所に置く。
(4)FlightGear起動。各種設定。離陸。
(5)飛行中、任意の目標への方位や距離が知りたい
場合は、Atlas画面をアクティブにして目標にマウス
ポインタを合わせれば、方位距離ウインドウに表示
が出る。
(6)偏流角を測定するには、タスクトレーの分度器アイ
コンをクリックして分度器を表示。航跡と交差する、
分度器外周の目盛りを読めば、実際の針路が直
読できる。これと、コンパス針路との差が偏流角と
なる。コンパス針路を、偏流角の大きさだけ風上に
修正すれば、計画通りの針路が飛べる。
【風を測定しつつ、成田に向かう】
風力は、北の風20Ktにしました。ホンダエアポートのRWY-32を離陸し、そのまま直進しつつ上昇。数マイル進んで右旋回し、上昇しながら滑走路中央に戻って、空港を基点に航法を開始する、いつもの「リバーサル・ディパーチュア」を行います。風の影響がはっきり出るように、速度は150Ktに抑えました。
この条件ですと、機体は結構流されます。きれいな涙滴型の経路を描いて、出発滑走路の真上へ戻るのは、少し難しいかも知れません。こういう時は、滑走路を離れてからターンするまでの直線進出距離を短め(4nm程度)にしますと、出発した空港が視認しやすくなります。その反面、すぐに滑走路が機首に隠れますので、1000ft程度の低空を飛ぶのがコツです。(風向風速を基に、針路の補正計算をしてもいいのですが、操縦が複雑になります)
さて、ホンダエアポート滑走路の真上。ここで成田空港に向けて、針路をフライトプラン通り、コンパス方位114度にセットします。HSIの文字盤で機首方位を1度まで読むのは、少々しんどいですが、まあベストを尽くしましょう。方位が決まったら、CTRL+Wキーでオートパイロットのウイングレベラーを掛け、針路を保持します。
しばらく経ちますと、Atlas画面上で自機の航跡が伸びて、分度器の外周まで届きますので、180度ずらしておいた角度目盛りで、航跡の方位を読んでください。私の場合は、ホンダエアポートから17nm離れた地点で測定して122度でした。これが機体の実際の進行方向です。北の風に流されて、コンパス方位の144度よりも8度、右にそれているわけですね。この「右8度」が、現在の偏流角です。これを打ち消す「修正角」は、マイナス(左向き)8度になります。
●画像のご紹介● 上記の偏流測定のAtlas画面を「マイアルバム」の「その他」項目に、「改良ABUNAI航法」のタイトルでご紹介しています。合わせてご覧頂けましたら幸いです。
…次に、コンパス針路に修正角を加えます。前にお話ししました「倍量修正」を使い、偏流角の2倍だけ風上に修正を掛けて、ホンダエアポートから測定点までと同じ17nmを飛びますと、フライトプラン通りのコース上に戻ります。この修正針路は、
114度+(マイナス8度×2)=98度
となります。コース上に戻った後は、単に偏流角を打ち消すため、左に8度だけ修正を掛けます。つまり114度−8度=106度のコンパス方位で飛び続けますと、予定通りに…成田空港の、主滑走路の中心にたどり着くはずです。
実際にやってみますと、滑走路の中心点から、南に0.3nmだけ外れて通過しました。ブロンコのABUNAI航法は、偏流角の測定もコンパス針路の読みも、1度単位のアナログ計測ですから、この誤差でしたら、まずは合格点だと思います。
【注:分度器の半径について】Atlas画面がデフォルト倍率の場合、「ABUNAI航法」システムの分度器の半径は、13.5nm以上をお勧めします。これ以下では角度目盛りの最小単位が、1度ではなく5度になり、測定精度が落ちます。
【成田から厚木へ】
成田空港の滑走路上空で、今度は針路をフライトプランに従って厚木へ、コンパス方位255度に向けます。これは鋭角の大変針ですので、正直に右旋回しますと、旋回半径の影響で、機体は旋回の開始地点から何マイルも離れてしまいます。
これを防ぐには、滑走路を横断して3〜4nm直進し、左に190度前後の大回りをして涙滴型のターンを打ち、次の航程の基点となる、成田滑走路の中央へ向かいます。再び滑走路を越える時点で、針路を厚木に向ければ、正確にコースをたどれます。
今回の、成田から厚木への飛行経路では、成田から15nm離れた地点で、分度器を使って自機の航跡(目盛り上は、実際の針路)を計ったところ249度でした。つまり北風による偏流角は、
255度−249度=左6度
…です。これを打ち消す修正角は、プラス(右)6度です。
そこで本来のコース上に戻るには、
255度+(6度×2)=267度
の針路で、あと15nm飛べばいいわけです。私は千葉県の西岸上空から、目前に東京湾を眺める地点で、この変針を行いました。
ここから15nm飛ぶと、ちょうど目の前に羽田空港が広がります。ここで針路を、偏流角を相殺する255度+6度=261度に修正しました。羽田の空域を横断して、前方の地平線を眺めていますと、無事に厚木基地が見えてきました。
ただし、ドンピシャリではなく。滑走路の南端を、ちょっと外れたあたり…基地の中央からは、約1.5nm南にずれた地点を通過。そのまま南からVFR飛行で進入し、まずまずの着陸をしました。
やれやれ。12月26日以来、3カ月ぶりの厚木基地です。
【注:偏流角の基礎知識】
…ここまでのお話に関して、
「コンパス針路と、実際の針路の違いとは何か」
「そもそも、偏流角とは何か」
との疑問をお持ちの方は、「風力三角形」という概念に触れると、一発でお分かり頂けます。昨年8月4日付の本連載に、図解入りでご説明があります。
説明図は「マイアルバム」の分類「その他」にあります。タイトル表示が消えていまして、申し訳ないのですが、同じ8月4日付です。この時のお話の「針路・対気速度ベクトル」の向きが、ここで言う「コンパス針路」に当たります。同様に「対地ベクトル」の向きが「実際の針路」に当たります。
●紅の翼の世界記録:
ところで…関東平野では戦前、国産機が三角形のコースをぐるぐる飛んで、航続距離の世界記録を作ったことをご存じでしょうか。日本では戦前戦後を通じ、航空関係の世界記録がFAI(国際航空連盟)に公認された例は、恐らくこれ1回です。
1938年5月、旧東京帝大航空研究所で設計した長距離実験機、通称「航研機」が、木更津の旧海軍飛行場を離陸。千葉県銚子市、群馬県太田市、神奈川県平塚市を経て、再び木更津に向かうコースを3日掛けて29周し、周回航続距離の世界記録(1万1651キロ)を樹立しました。
航研機は全長約15m、全幅約29mの単発機で、キリリと引き締まったスマートな機体です。空気抵抗を減らすため、引き込み脚(人力巻き上げ)を装備したうえ、パイロットはスリムな胴体にもぐって操縦。離着陸の時だけ座席を上げて、頭を出す設計になっていました。一応オートパイロットがあり、不時着時に発見しやすいよう、胴体は無塗装の銀色、翼は紅の塗装でした。
正副パイロットと機関士の3人が搭乗し、航続距離と1万キロ飛行の速度記録(186km/h)の、二つの公認記録を生みました。1〜2年後には破られてしまいましたが、当時の日本の技術水準や国力を考えれば、よく頑張ったと思います。
以下のHPには、機長を務めた藤田雄蔵・陸軍少佐(記録達成の9カ月後、中国で不時着・戦死)の長文の手記など、あれこれ資料がありまして、面白い内容です。
http://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/kouken-index.html
航研機は航続力を稼ぐため、プロペラを念入りに設計したのですが、このためか藤田氏は「非常に静かな飛行機だった。これは東京・ロンドン飛行の『神風号』も同じで、すぐそばに来るまで気が付かないほどだった」と書いており、たいへん興味深く読みました。
少々仕事が立て込みまして、なかなかFlightGearを起動する暇がありませんが、今回はABUNAI航法の改善点などについて、ショート・フライトを交えてご報告を致しましょう。
●世界時の時計を、日本時間で読む:
まず、時計のお話をします。しばらく前、ブロンコ改の計器盤に、アナログ時計を取り付けました。適当な3D計器盤用のパーツが見当たりませんでしたので、ジェット曲技機・練習機「MB-339 PAN」からの拝借です。最初、アナログでは不便だと思ったのですが…意外な長所があることが分かりました。
飛行機は交信に、協定世界時(UTC=従来のGMTと同時刻ですが、太陽ではなく原子時計が基準)を使い、FlightGearでも計器盤の時計は、UTCを示すようになっています。別に不便は感じませんが、日没までの時間を知りたい時など、「シミュレーション内の日本時間では、いま何時だろう」と思うことはあります。
日本標準時(JST)への換算は、UTCから9時間引けばいいのですが、もっと楽な方法があります。モーターグライダー(実機)をやっておられる方のHPを拝見しましたら、JSTに合わせたアナログ腕時計の、文字盤の「9時」の位置を、12時と見なして短針を読めばUTCが分かる、と書いてありました。なるほど…。
ということは逆に、UTCに合わせた時計の文字盤の、「3時」の位置を12時と見なせば、JSTで時刻が読めるわけです。FlightGearには、アナログ時計を持つ機体は少ないのですけれども…実際に試してみますと、極めて便利です。いわば時計の文字盤を、アナログ換算装置として使うわけですね。
●アナログ換算を、ABUNAI航法に応用する:
【航跡から、実際の針路を一発で読む】
このアナログ時計の読み方をヒントに、ABUNAI航法を少し改良しました。前回のフライトでは、偏流角(コンパスが指す針路と、風で流されて飛ぶ実針路の差)を求め、これをもとに針路を修正して、正しいコースをたどりましたが、その際、実際の針路を正確に測定するには、Atlas画面上で自機の航跡の方位を計り、この数値に180度足すという方法を取りました。
この方法は、簡単にして正確だと思いますが、出来れば180度の足し算(角度によっては引き算)を省略し、画面上で実際の針路を直読できれば、もっと便利ですね。
ABUNAI航法システムには、以前「マイアルバム」でご覧頂きましたように、フリーウェア「分度器で測りましょ」を利用した、360度の方位盤が付いています。しかし任意の目標への距離と方位は、マウスポインタで指せば分かるため、あまり分度器の出番はありません。そこでこの分度器を、航跡の測定専用に設定変更しました。
原理は簡単で、磁気方位を示していた円形分度器を、180度回転させるだけです。これで自機の航跡の方位を計れば、角度目盛りから直接、(航跡とは反対向きの)実際の進行方向が読めます。言うなれば「犬が西向きゃ尾は東」…(^^;)。
ただし分度器の頂点の目盛りを、正確に「磁気方位の北+180度」に合わせる必要があります。詳しい設定法は以下の通りです。
(1)分度器を右クリックして、「設定」を開く。
(2)「方向」欄の「右回り」と「形」欄の「○」(360度表示)
が選択されていることを確認。「固定する」にチェックが
入っていることを確認。違っていれば選択やチェックを
加え、設定を閉じる。
(3)分度器をドラッグし、中心点をAtlas画面の経度の線
(地図に引かれた垂直線)に合致させる。
(4)分度器外周の「○」マークをドラッグして、分度器を回
転させ、経度の線を目印に、分度器の頂点の角度
目盛りを、ある数値に合わせる。
合わせる目盛りの数値は、飛行地域によって変わる。
<以下は一例>
例えば福島〜中部近畿〜福岡の範囲内を飛ぶ時は
経度の線に「187度」の目盛りを合わせる。これで分度
器は、この地域の偏差(偏西7度)に合った磁気方位
表示を、180度ひっくり返した状態になる。(ゼロが下)
もし北海道中部を飛ぶなら189度、青森〜岩手なら
188度に合わせればよい。
(詳しくは2月18日付本連載「国内フライトの偏差」の
数値から該当地域を選び、180度足すか引いてくださ
い。FlightGearの磁気方位は、2000年現在の偏差
を基に設計されているようですので、ご自分で資料を
探される場合は、可能なら2000年版をお使い下さい)
(5)分度器の半径は、外周の□マークをドラッグすると、
自在に変更できる。(大きいほど誤差は小さいです)
●反転分度器ABUNAI航法のテスト飛行:
…では、この分度器を使って、テスト飛行をしましょう。
偏流角を補正して飛ぶナビ訓練には、色々な風向を体験できる、三角形のコースが使われることが多いようですが、今回は厚木基地への帰還を兼ねて、三角形より1辺少ない、「くの字」型のコースでフライトプランを作りました。
■「くの字」コースで偏流測定■(関東を南下、厚木へ)
(マップデータ:e130n30.tgz )
(磁気偏差は偏西7度で測定)
◎ホンダエアポート
▼114度43nm
◎成田空港
▼255度49nm
◎厚木基地
【ABUNAI航法の、離陸前準備】
念のため、ABUNAI航法システムの起動と利用方法を、もういちど整理しておきます。
(1)Atlasを起動し、見やすい場所に置く。ウインドウの
大きさは初期状態で使う。拡大縮小すると、Atlas
地図の縮尺が変動し、距離測定に支障がある。
(2)「分度器で測りましょ」を起動し、分度器の中心点
を、正確にAtlasの自機マークに合わせる。
(3)Atlas縮尺に合わせた「斜めものさし」起動。小さく
縮めた状態で、ゼロ点を正確に自機マークに合わ
せる。ものさしの角度が、その土地の偏差に合って
いることを確認。(「斜めものさし」設定法は、2月
18日付の本連載に詳述)
また画面上に現れる、小さな方位距離ウインドウを
見やすい場所に置く。
(4)FlightGear起動。各種設定。離陸。
(5)飛行中、任意の目標への方位や距離が知りたい
場合は、Atlas画面をアクティブにして目標にマウス
ポインタを合わせれば、方位距離ウインドウに表示
が出る。
(6)偏流角を測定するには、タスクトレーの分度器アイ
コンをクリックして分度器を表示。航跡と交差する、
分度器外周の目盛りを読めば、実際の針路が直
読できる。これと、コンパス針路との差が偏流角と
なる。コンパス針路を、偏流角の大きさだけ風上に
修正すれば、計画通りの針路が飛べる。
【風を測定しつつ、成田に向かう】
風力は、北の風20Ktにしました。ホンダエアポートのRWY-32を離陸し、そのまま直進しつつ上昇。数マイル進んで右旋回し、上昇しながら滑走路中央に戻って、空港を基点に航法を開始する、いつもの「リバーサル・ディパーチュア」を行います。風の影響がはっきり出るように、速度は150Ktに抑えました。
この条件ですと、機体は結構流されます。きれいな涙滴型の経路を描いて、出発滑走路の真上へ戻るのは、少し難しいかも知れません。こういう時は、滑走路を離れてからターンするまでの直線進出距離を短め(4nm程度)にしますと、出発した空港が視認しやすくなります。その反面、すぐに滑走路が機首に隠れますので、1000ft程度の低空を飛ぶのがコツです。(風向風速を基に、針路の補正計算をしてもいいのですが、操縦が複雑になります)
さて、ホンダエアポート滑走路の真上。ここで成田空港に向けて、針路をフライトプラン通り、コンパス方位114度にセットします。HSIの文字盤で機首方位を1度まで読むのは、少々しんどいですが、まあベストを尽くしましょう。方位が決まったら、CTRL+Wキーでオートパイロットのウイングレベラーを掛け、針路を保持します。
しばらく経ちますと、Atlas画面上で自機の航跡が伸びて、分度器の外周まで届きますので、180度ずらしておいた角度目盛りで、航跡の方位を読んでください。私の場合は、ホンダエアポートから17nm離れた地点で測定して122度でした。これが機体の実際の進行方向です。北の風に流されて、コンパス方位の144度よりも8度、右にそれているわけですね。この「右8度」が、現在の偏流角です。これを打ち消す「修正角」は、マイナス(左向き)8度になります。
●画像のご紹介● 上記の偏流測定のAtlas画面を「マイアルバム」の「その他」項目に、「改良ABUNAI航法」のタイトルでご紹介しています。合わせてご覧頂けましたら幸いです。
…次に、コンパス針路に修正角を加えます。前にお話ししました「倍量修正」を使い、偏流角の2倍だけ風上に修正を掛けて、ホンダエアポートから測定点までと同じ17nmを飛びますと、フライトプラン通りのコース上に戻ります。この修正針路は、
114度+(マイナス8度×2)=98度
となります。コース上に戻った後は、単に偏流角を打ち消すため、左に8度だけ修正を掛けます。つまり114度−8度=106度のコンパス方位で飛び続けますと、予定通りに…成田空港の、主滑走路の中心にたどり着くはずです。
実際にやってみますと、滑走路の中心点から、南に0.3nmだけ外れて通過しました。ブロンコのABUNAI航法は、偏流角の測定もコンパス針路の読みも、1度単位のアナログ計測ですから、この誤差でしたら、まずは合格点だと思います。
【注:分度器の半径について】Atlas画面がデフォルト倍率の場合、「ABUNAI航法」システムの分度器の半径は、13.5nm以上をお勧めします。これ以下では角度目盛りの最小単位が、1度ではなく5度になり、測定精度が落ちます。
【成田から厚木へ】
成田空港の滑走路上空で、今度は針路をフライトプランに従って厚木へ、コンパス方位255度に向けます。これは鋭角の大変針ですので、正直に右旋回しますと、旋回半径の影響で、機体は旋回の開始地点から何マイルも離れてしまいます。
これを防ぐには、滑走路を横断して3〜4nm直進し、左に190度前後の大回りをして涙滴型のターンを打ち、次の航程の基点となる、成田滑走路の中央へ向かいます。再び滑走路を越える時点で、針路を厚木に向ければ、正確にコースをたどれます。
今回の、成田から厚木への飛行経路では、成田から15nm離れた地点で、分度器を使って自機の航跡(目盛り上は、実際の針路)を計ったところ249度でした。つまり北風による偏流角は、
255度−249度=左6度
…です。これを打ち消す修正角は、プラス(右)6度です。
そこで本来のコース上に戻るには、
255度+(6度×2)=267度
の針路で、あと15nm飛べばいいわけです。私は千葉県の西岸上空から、目前に東京湾を眺める地点で、この変針を行いました。
ここから15nm飛ぶと、ちょうど目の前に羽田空港が広がります。ここで針路を、偏流角を相殺する255度+6度=261度に修正しました。羽田の空域を横断して、前方の地平線を眺めていますと、無事に厚木基地が見えてきました。
ただし、ドンピシャリではなく。滑走路の南端を、ちょっと外れたあたり…基地の中央からは、約1.5nm南にずれた地点を通過。そのまま南からVFR飛行で進入し、まずまずの着陸をしました。
やれやれ。12月26日以来、3カ月ぶりの厚木基地です。
【注:偏流角の基礎知識】
…ここまでのお話に関して、
「コンパス針路と、実際の針路の違いとは何か」
「そもそも、偏流角とは何か」
との疑問をお持ちの方は、「風力三角形」という概念に触れると、一発でお分かり頂けます。昨年8月4日付の本連載に、図解入りでご説明があります。
説明図は「マイアルバム」の分類「その他」にあります。タイトル表示が消えていまして、申し訳ないのですが、同じ8月4日付です。この時のお話の「針路・対気速度ベクトル」の向きが、ここで言う「コンパス針路」に当たります。同様に「対地ベクトル」の向きが「実際の針路」に当たります。
●紅の翼の世界記録:
ところで…関東平野では戦前、国産機が三角形のコースをぐるぐる飛んで、航続距離の世界記録を作ったことをご存じでしょうか。日本では戦前戦後を通じ、航空関係の世界記録がFAI(国際航空連盟)に公認された例は、恐らくこれ1回です。
1938年5月、旧東京帝大航空研究所で設計した長距離実験機、通称「航研機」が、木更津の旧海軍飛行場を離陸。千葉県銚子市、群馬県太田市、神奈川県平塚市を経て、再び木更津に向かうコースを3日掛けて29周し、周回航続距離の世界記録(1万1651キロ)を樹立しました。
航研機は全長約15m、全幅約29mの単発機で、キリリと引き締まったスマートな機体です。空気抵抗を減らすため、引き込み脚(人力巻き上げ)を装備したうえ、パイロットはスリムな胴体にもぐって操縦。離着陸の時だけ座席を上げて、頭を出す設計になっていました。一応オートパイロットがあり、不時着時に発見しやすいよう、胴体は無塗装の銀色、翼は紅の塗装でした。
正副パイロットと機関士の3人が搭乗し、航続距離と1万キロ飛行の速度記録(186km/h)の、二つの公認記録を生みました。1〜2年後には破られてしまいましたが、当時の日本の技術水準や国力を考えれば、よく頑張ったと思います。
以下のHPには、機長を務めた藤田雄蔵・陸軍少佐(記録達成の9カ月後、中国で不時着・戦死)の長文の手記など、あれこれ資料がありまして、面白い内容です。
http://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/kouken-index.html
航研機は航続力を稼ぐため、プロペラを念入りに設計したのですが、このためか藤田氏は「非常に静かな飛行機だった。これは東京・ロンドン飛行の『神風号』も同じで、すぐそばに来るまで気が付かないほどだった」と書いており、たいへん興味深く読みました。
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手探り航法・旅日記
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Re: 手探り航法・旅日記
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Re: 手探り航法・旅日記
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コンコルドのバーチャル・クルーたち
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コンコルドのマニュアル訳(前回の続きです)
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コンコルドで初の超音速飛行
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Re: コンコルドで初の超音速飛行
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ベルリンを経て、仏ツールーズへ
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サンテグジュペリの郵便飛行
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サンテグジュペリの郵便飛行
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ベルリンを経て、仏ツールーズへ
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Re: コンコルドで初の超音速飛行
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コンコルドで初の超音速飛行
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コンコルドのマニュアル訳(前回の続きです)
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コンコルドのバーチャル・クルーたち
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新しいブロンコ3種でブラジルを南下
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天測航法に挑む(前編)
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天測航法に挑む(後編)
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- ホンダジェット試乗と大瀑布 (hide, 2008-6-27 21:01)
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天測航法に挑む(後編)
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