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Re: 手探り航法・旅日記

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通常 Re: 手探り航法・旅日記

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65
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2007-2-4 13:51
hide  長老 居住地: 兵庫県  投稿数: 650
hideです。
 前回はトラブルのご紹介に終わってしまいましたが、今日は本格的に、北海道一周フライトのルポをお届けします。以下、フライトプランは必要に応じ、お読みになりやすいよう、地域ごとに分けて再掲します。

●地球岬から羊蹄山へ:
◎函館空港(VOR 112.30 NDB 388)←無線局の周波数。
     ▼22deg32nm(19deg197Kt)←針路と距離。
           (カッコ内は、風力を補正した針路・速度)
△室蘭・地球岬
     ▼350deg19nm(348deg192Kt)
△洞爺湖(札幌VOR-113.90から218deg30nm)
       ↑カッコ内は参考データ:VORからの方位と距離
     ▼0deg14nm(358deg193Kt)
△羊蹄山
     ▼54deg34nm(51deg202Kt)
★札幌VOR 113.90

 …前回、「越すに越されぬ」トラブルに見舞われた、函館市を後にして北上します。函館VORのラジアル19度に乗って、半島を飛び越えて噴火湾を渡り、室蘭の南端・地球岬をめざします。(ラジアル方位は、風力の補正計算を済ませた、カッコ内の数値を使います)

 地球岬とはロマンチックな名前ですが、もともとは「チキウ」で、アイヌ語の「崖」にあたる「チケブ」に由来するのだとか。この区間を飛びながら、NAV2受信機をあらかじめ札幌VORの周波数に合わせます。VORのラジアル方位は、羊蹄山から札幌VORに向かう、51度のラインにセットしておきます。以後わずかの間、コンパスを頼りに飛ぶ区間が続きますが、万一迷っても北西方向に飛べば、どこかで飛行コースが、この札幌VORのラジアル51度にクロスしますので、現在地をつかむことが出来ます。

 地球岬上空で、コンパス方位348度に変針。山並みの彼方に、凍結した「冬景色」テクスチャーの洞爺湖が姿を現しました。中央にある島の真上でわずかに変針し、今度は羊蹄山へ。地平線にかすむ、とがった独立峰が次第に近づいてきます。山頂はこちらより高く、航空図によれば標高6211ftです。オートパイロットの設定を6500に上げて、すれすれにクリアすることにしました。実機ですと、山頂付近は気流が悪いでしょうから、もっと間隔が必要だろうと思いますが…。

 山頂を飛び越える寸前、VOR2指示器の針が中央に振れて、札幌VORのラジアルを捉えました。山頂で右旋回してこれに乗り、30nm足らず飛ぶと山並みが切れ、石狩平野が始まります。眼下には札幌市街地が広がり、空港も視界に。さらに北の札幌VORをめざします。

●大雪山系を越え、さいはての島と岬へ:
★札幌VOR 113.90
     ▼75deg74nm(73deg206Kt)
△大雪山系・旭岳(旭川VOR 113.50から100deg17nm)
     ▼332deg118nm(331deg190Kt)
★利尻VOR 114.60
     ▼81deg28nm(79deg206Kt)
★稚内VOR 115.30

 札幌上空で燃料の残りを計ると、未使用の機内タンク2070Lbsに加え、補助タンク(満タン4554Lbs)に3516Lbs残っています。青森出発以来、1038Lbs使ったことになり、これは総量の約6分の1ですから、計算上の航続距離は1400nmを超えます。よしよし…この分ですと、後でちょっとした、オプショナル・ツアーが楽しめるかな?
 札幌VORの直上でラジアル73度に乗り換え、大雪山系に機首を向けました。眼下には、凍てついた石狩川(の支流?)が大きく蛇行を重ね、はるかな地平線に向かっており、なかなか旅情を感じます。

     ○

 オリジナルのブロンコには、電波航法計器はHSI(コンパス兼NAV1・ADF指示器)1台しかありません。VOR局を次々乗り継ぐには、VOR指示器を2台交互に使う方が便利なので、以前お話ししましたように、私の改造機にはNAV2用のVOR指示器を増設しています。
 ただし、VOR/NDB局の方角を、直接示す指針の付いたHSIの方が、一般的なVOR指示器よりずっと使いやすいため、最近は変針点を通過するたびに、NAV1の針路設定を変更し、HSIだけで航法を済ませるようになりました。これは本当に、便利な計器です。

 やがてたどり着いた大雪山系は、あまり高くはありませんが、神奈川県と同じくらいの広さがあるそうで、けっこう雄大でした。
 予定では、この辺で乱気流や雷、吹雪代わりの降雨を出して、大嵐を味わうつもりでしたが、実際にはまだFlightGearの不調が心配で、そこまで気持ちのゆとりがありませんでした。ちょっと薄氷を踏む思いで2倍速に加速し、はるかな利尻島へ旅を続けます。

 利尻島は、円錐形のオブジェが海にポッカリ浮いたような島。途中でかなり2倍速を使いましたので、まだ朝日を浴びています。メニューバーの時刻設定で「noon」を選択し、少し早いですが、お昼の太陽の位置に変更。島を一周して稚内VORへ向かいます。明るい陽光を浴びながら、青い青い洋上を飛んでいると、実にもう爽快でして…

       「北国のぉ〜、旅の〜、そ〜ら〜っ」

 …と、「熱き心に」でも歌いたくなりますね…(^^;)
 かなり昔、対潜哨戒機の元副操縦士とカラオケで同席した折、この歌を聞かされましたが、北の海に青春を燃やした若いパイロットに、あまりにもよく似合う曲なので、しばし聞き惚れたことを思い出しました。
 (余談ながら。昔の旧ソ連海軍は、海自機のソノブイを拾うと、ソナーマンの耳を痛めようとして、がんがん叩いたそうです)

 ここまで来たら、やっぱり宗谷岬を見なくては。ちょっと稚内VORから北上して見物。この向こうはサハリンですね。機首を巡らして、北海道北東岸に沿って、ここからは長い長い東への巡航が続きます。

★稚内VOR 115.30
     ▼142deg101nm(143deg210Kt)
★紋別VOR 112.90
     ▼137deg35nm(137deg210Kt)
★女満別VOR 110.85
     ▼69deg57nm(67deg205Kt)
△知床岬

 凍ったサロマ湖を、接岸した流氷と見間違えて驚いたり、網走の凍てつくような風景を楽しんだ後、知床半島が近づいてきました。
 断崖の多いこの半島は、海に向けて突き出された、巨大な古代の剣のようで、風格満点です。あの峠の向こうが羅臼の浦か…などとつぶやきながら岬を旋回。頭の中では「知床旅情」が鳴っておりました。

●「高田屋嘉兵衛の海」をゆく:
△知床岬
     ▼173deg30nm(175deg207Kt)
△国後(くなしり)島・泊山
     ▼240deg28nm(243deg196Kt)
★中標津(なかしべつ)VOR 111.45

 私のフライトプランでは、知床岬から南下して、中標津VORに向かうまでの間に、ちょいとADIZ(防空識別圏)を飛び越えまして、実世界ではなかなか飛べない、国後島を横断する予定になっています。
 しかし燃料に余裕がありますので、ここで大きく寄り道をすることにしました。国後島に設定した目標点・泊山からそのまま北東へ進み、一気に択捉(えとろふ)島まで、往復してしまうことにします。以下は、フライトプランの追加分です。

 【北方領土オプショナル・ツアー】
△国後島・泊山
     ▼63deg118nm(60deg204Kt)
△択捉島・単冠(ひとかっぷ)湾
     ▼243deg118nm(246deg196Kt)
△国後島・泊山

 …知床岬の先端から、ほぼ真南に進みますと、左前方に横たわる国後島の近さに驚きます。実世界では、北海道を訪ねたことがないのですが、知床岬の展望台からは、この島がよく見えるそうですね。

 低い山々が連なる国後島上空に差し掛かり、泊山(1778ft)の湖上を旋回して一路北東へ。羅臼山の西をかすめて、小さな平野の上を進みます。本物の国後島には空港が設けられ、サハリンから定期便もあったような気がしますが、FlightGearではVOR一つありません。ただし小都市はあって、島内を道路が走っています。
 航空図を眺めると、国後・択捉両島には、柔らかい泥にパチンコ玉を撃ち込んだような、クレーター状の湾や湖が見られます。いずれも火口の跡でしょうね。かつてFlightGearの世界一周でかいま見た、ニューギニアあたりの列島とは、同じ環太平洋火山帯の兄弟分。しみじみと地球の大きさを感じます。

 標高5976ftの爺爺山(何と読むのでしょう?)を左に見て、島の北端の安渡移矢岬を通過。いよいよ択捉島に向けて、幅約15nmの国後水道に差し掛かります。

     ○

 この択捉島への航路を開いたのは、私の知る限りでは、江戸後期に活躍した海商の、高田屋嘉兵衛(1769〜1827)です。
 淡路島に生まれ、苦心して船乗りになった彼は、弁財船(大型和式帆船)の船主船長に出世し、やがて大商船隊を建造して蝦夷地開拓に活躍。ロシア海軍に拿捕され、日露外交史にも顔を出す波瀾万丈の人生は、司馬遼太郎作「菜の花の沖」でお馴染みです。

 嘉兵衛は国後・択捉を探検し、漁場を開拓。択捉島に多くの漁港や水産加工場を開いたそうですので、日本が「国後・択捉は、固有の領土だ」と主張するのは、まあ自然だと思います。
 ただ、旧ソ連の実効支配が始まって60年以上が経ち、ここを故郷とするロシア人がすでに大勢いるのですから…もう返還は無理かな?という気もしますが。一体どうなるのでしょうね。

 ところで嘉兵衛の探検前、すでに択捉島にはアイヌの人たちが渡っていたようです。彼らは独自の航海術と、海上交易ネットワークを持っていたとも聞きますけれど、一体どんな船を使い、どのようにナビゲーションをしたのでしょう。これも非常に興味がわきます。
 …そんなことを考えながら、3000ftの低空で、さらに北東へ。

●パールハーバーへの道:
 区分航空図の端に、小さく別窓を設けて記された、択捉島の地図を眺めながら、私は島の中央・太平洋岸にある、単冠湾をめざしました。ようやくたどり着いてみると、荒涼とした山々を背に広がる、幅約5nm、奥行き3nmほどの湾です。
 ここは流氷の押し寄せない、天然の良港。また、絶対に「人目に付かない場所」であることから、1941年の11月、旧海軍の空母群がハワイをめざして密かに集結したのは、ご存じの通りです。

 パールハーバーから太平洋全域を経て、沖縄や「ヒロシマ」「ナガサキ」、そして東京湾(の降伏調印式)に至る、長い長い旅路の始まりがこの、うら寂しい湾だったのかと思うと、例えバーチャル世界の中でも、感無量です。しばし白い翼を傾けて、何度も旋回しました。

     ○

 高度を4000ftに上げて、いま来た道を、どんどん後戻り。海上のADIZは通常、領空の端よりもずっと広く設定すると思いますが、国後島や歯舞諸島に面した一角だけは、北海道の海岸線から、わずか数nmしか離れていません。
 むろん境界線から、ロシア側の海の方が広いのです。このへんは単純明快に、両国の「腕力の差」を感じますね。日本側の識別圏内に戻り、海岸線を飛び越えると、わけもなくホッとしました。

 今回は、あれこれ歴史のお話に脱線しまして、申し訳ありません。
FlightGearの地形を淡々と眺めていますと、どんどん想像力がふくれ上がって、ついあれこれ、お話をしたくなります。
 現実世界でも(サンテグジュペリとか)一部のパイロットは、長旅の途中に、けっこう夢想の世界に入り込んだようですので…どうか、ご容赦をいただけましたら幸いです。

     ○

 中標津VORの上空で、いったんセーブ。燃料の残りは、手つかずの機内燃料2070Lbs+補助タンク293Lbsでした。
 この時点では計894nmを4261Lbsの燃料を使って飛んでおり、平均燃費は1nmあたり4.7Lbsとなります。単純計算では、総航続距離は約1400nmですが、次第に機体が軽くなる分、最終的にはもう少し長い距離が飛べるはず、と期待しています。

 北海道の旅は、今回で終わるつもりでしたが、余りの広さに予定が狂いまして、もう一回だけお届けします(^^;)。次回は根釧台地を越えて帯広方面に向かい、新千歳にゴールインします。
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