富士山頂にレドームを(下)
hide
居住地: 兵庫県
投稿数: 650

hideです。富士山レーダーのレドームを山頂へ運ぶ、50年前の歴史再現フライト完結編をお届け致します。前回はユーロコプターEC135p2に自作のレドーム骨格を吊り下げて、一応それらしく飛べるようにしましたが、今回はいよいよ大荷物を抱えて山頂へ向かいます。
●●「空飛ぶクレーン」をテスト:
レドームの骨格は出来たものの、まだ機体にその分の重量を加えていません。なにぶん620㎏(1367Lbs)もありますから、よほど機体を軽くしなければ、山頂まで上昇できそうにありません。
そこで発想を変え、もっとペイロードが大きくて、しかも操縦しやすいヘリコプターを探しました。目に付いたのがシコルスキー S-64 エアクレーンでした。巨大な草食恐竜の骨格模型が、おなかに大荷物を吊り下げて飛ぶような、アレです。多用途の大量空輸を狙った機体で、朝は乗客ポッド(スカイラウンジというバス)を吊って大都市の通勤客を運び、日中は貨物コンテナを空輸。夕方は再び乗客ポッドで帰宅客を運ぶ…という構想だったのですが、このサンダーバード2号みたいなアイディアは、あまりニーズが無くて実現しなかったそうです。
(アメリカの大都市では1960年代、大型ヘリを空港リムジンバスのように使う試みがありましたが、どれも採算が取れず失敗しました。1977年、ニューヨークのパンナムビル屋上で定期便が復活したものの、離陸直前のシコルスキーS61が金属疲労で脚を折り横転。ローターブレードが数人を殺し、ビル街に降り注いだ大量のガラス片や、4ブロック先まで飛んだブレードの断片でも死傷者が出て、事業は打ち切られました)
…エアクレーンをダウンロードしてみますと、大型で適度に動きが鈍く、SASがよく効いて飛ばしやすいです。パネルは素っ気ないものの外観はよくできていて、EC135p2と同様にブレードの挙動なんか相当リアルです。非常に力持ちの機体で、ペイロードは実に2万Lbs(!)。半分の1万Lbsを積んで東京上空でテストしたところ、余裕で高度12000ftを超えました。これならレドーム空輸は問題ありません。
副操縦士席と背中合わせにクレーン(ウインチ?)操作席があり、専用ビューで積み荷の方向を見ることが出来ます。レドーム台座への接近に便利かなと思いましたが、後ろを向いての操縦は、ラジコンヘリの難関「対面ホバリング」と同じで私には到底無理。そこでイレギュラーながら、レドーム底部の中央から1.5m上に空輸専用のビューを新設しました。誰かがレドーム骨格の中に入って、誘導するような視野です。
…しかし。羽田の私設ヘリポートで、着陸帯の円形マークを目標に接近訓練を重ねたところ、エアクレーンの意外な短所が分かりました。まず、ラダー軸によるヨー・コントロールの利きが非常に悪いこと。前進飛行中は、サイクリックのロール操作で旋回するため気にならないのですが、ホバリングに入ると機首を左右に振るのが困難です。次いで機体の慣性重量が大きいため、狙った一点で思うように止まらず、精密なアプローチは難しいことが分かりました。姿勢の制御は楽ですが、位置の制御は困難。いわゆる「操縦性はいいが、運動性は悪い」飛行特性です。結局、エアクレーンの使用は断念しました。
●●最初の試み:
となると、飛ばし慣れたEC135p2が頼りです。まず機体のacファイルをいじって医療装備を外しました。デフォルトの貨物搭載量623Lbsを、この分の重さと見なしましたが、ドームを吊すと更に700Lbsくらい負荷が加わります。サーチライトなどダミーの外部装備も取り外し、両側のスライドドアを撤去。これで20㎏(約130Lbs)稼いだことにしましたが、まだとても足りません。後は燃料を減らすのみです。
となると…発進基地にしようと考えていた芦ノ湖ヘリポートは遠すぎて、とても富士山頂まで往復できそうにありません。もっと近い、例えば御殿場の富士スピードウェイにはヘリポートがあるので、一応正確な位置を調べましたが、できることなら史実通り、三菱電機が仮設ヘリポートを設けた富士宮市から発進したいものです。正確な地名は不明ながら、場所は同市北部の朝霧高原だったことが確認できたので、羽田と同じヘリパッドを高原台地の中央付近、県道沿いの一角に設置して吹き流しを立てました。給油が可能な地点のサインとして、飾りのドラム缶も並べておくことにします。
ここから9合目あたりまで2回上昇テストを行い、一応は富士山頂まで昇れる自信が湧いてきました。この機体にも、レドームの内部から周囲を見る空輸専用ビューが設けてあります。
本番への準備が整ったところで、今春以来ヘリ訓練の拠点にしている羽田から、改めて富士宮ヘリポートまでEC135p2を回航しました。前回の江の島ルートとは趣向を変え、東名沿いに厚木、御殿場、三島、富士宮市街地を経由して、朝霧高原へ向かう77nmのコースを設定。41分で翔破しました。
(余談ながら。東名上空を三島へ緩降下中、大昔にホンダVT250Fで、九州目指して同じ場所を走ったことを思い出しました。100㎞/h強の気流を切り裂いて進む、オートバイの夜旅は孤独です。右肩越しに一瞬振り返ると、夕焼けの最後の残照を背に、冷たく壮大な、影絵の富士がのしかかっていました。美しくも恐ろしい光景で、何度も振り返った覚えがあります。…ジョイスティックのハットスイッチで振り返ると、当時と同じ角度で富士が見えて、すごく懐かしい思いをしました)
今回のコースは、毎度お馴染みの書式では次のようになります。
◎羽田N35°33.45' E139°45.35'
▼255° (248°T)16.2nm7.5min
◎厚木基地RJTA
▼254° (246°T)16.5nm7.6min
△松田N35°20.66' E139°8.52'
▼269° (262°T)9.1nm4.2min
△御殿場N35°19.42' E138°57.48'
▼199° (192°T)12.1nm5.6min
△三島N35°7.57' E138°54.39'
▼299° (292°T)15.1nm6.9min
△富士宮N35°13.16' E138°37.33'
▼349° (342°T)8nm3.7min
◎朝霧高原・富士宮ヘリポートN35°20.79' E138°34.32'
Total 77nm35.5min
広大な富士の裾野で、無線標識もないヘリポートを発見するのは大変かと思いましたが、富士宮市街地を起点に、計画通り磁気方位349度へ4分飛ぶと、案外簡単にヒットしました。地形さえ頭に入れておけば、割に見当が付けやすい場所です。あとの区間は大部分、地上目標さえ見ていれば中継点をたどることが出来ます。
富士宮ヘリポートに着いて吹き流しを確認し、県道を避けて北から進入。着陸後、かなり画面処理が重くなっていましたので、いったんパソコンを再起動。いよいよ富士山頂への空輸フライトに挑みます。
燃料はゆとりを見て約920Lbs(満タンの6割強)搭載。さらに貨物重量とパッセンジャー体重のアジャスターを使って、レドーム骨格分の1367Lbsを追加しました。あいにく天候が悪く、リアルウエザー使用は諦めて快晴を選択し、エンジンを掛けて離陸。短時間ホバリングの後、メニューでレドーム骨格を出現させ、FlightGearのローカル時刻を史実通り、午前7時55分に合わせました。さあ上昇です。
季節と天気、そして時刻と地形。いずれも実際と同じですから、私が眺めている景色は光線の具合を含めて、本番で朝日ヘリコプターの神田真三機長が目にした光景とよく似ているはずです。
…山頂に向けて直進し、途中から山体の南へ回って上昇を続け、山腹に見えてきた宝永山第1火口あたりで西向きに反転。このあたりから事前のテスト通り、左ラダー軸の利きがひどく低下しました。空気が薄いことと高負荷によるエンジン出力低下のため、テールローターのトルクも落ちているものと思われます。史実の空輸飛行では、15000ftまで上昇してから剣が峰に近づいたのですが、とてもそんな余力はありません。しかし剣が峰までの所要時間は、史実通り約13分でした。
さて特設ビューに切り替えて、微速でレーダー台座に近づきますが、揚力はギリギリいっぱいで、高度変更も前進や停止も、思うに任せません。5回のアプローチを重ねて、ようやくレドーム骨格を台座から高さ・距離ともに数㍍まで近づけましたが、現状ではこれ以上は無理と思われました。
一応画像を撮ったあと燃料残を素早く確認し、もう一度だけアプローチしようと思って、撮影用の外部視界のまま姿勢を立て直しかけたら…ああやっぱり私は、コクピット視界以外では飛べませんね…想定外の大傾斜を起こし、何かがどっかに接触して、あっという間に墜落判定。しばらくは息も出来ないほど、がっかりしました。とっさにポーズを掛けて、視界を切り替えればよかったのですが。
気を取り直して再挑戦。副操縦士を降ろして燃料も815Lbsまで減らすと、少しだけ操縦が楽になりました。が、まだまだ台座の至近距離に寄るのは困難です。2回の接近後、早くも燃料が285ポンドまで減ってしまい、限界と判断して帰投。前回よりは台座に近づいた画像が撮れたので、ひとまずレドーム設置が成功したことにしようかと、画面表示と搭載重量の両方を「空荷」状態にしました。しかし、頂上を離脱してヘリポートに機首を向け、降下を開始すると「これじゃレドームを投げ捨てて、逃げ帰るのと同じだ」という苦い思いが、どっとわき上がりました。何とかリターンマッチをしなくては。
●●揚力と操縦性の改善:
2回の挑戦を振り返って、問題点を整理しました。
①エンジンの出力が足りず、揚力も左向きヨーコントロールも顕著に不足。
②レドーム下端の特設ビューを使って飛ぶと、うまく目標地点で行き足が
止まらない。幾ら機首を上げても、機体が前進し続ける傾向を感じる。
…まず①の対策として、フライトコントロールのnasファイルを調べ、手探りでヨーの操縦ゲインを増しました。テストしたところ、これで平地のホバリングは操縦性が大きく向上しました。しかし高空で左ヨー操縦の利きが悪くなるのは、明らかにパワー不足が原因ですから、単に制御則をいじっただけでは、また上空で苦労しそうです。本来はテールローターの操縦設定を詰め直さないといけないのでしょうが、揚力不足の対策もかねて、まずは少しパワーを上げたいところです。
EC135p2.xml ファイルをじっくり調べたところ、ギアボックスの項目の中に、やっとエンジン出力の記述が見つかりました。
<rotorgear
max-power-engine="616" ←実機よりエンジン出力が不足。
max-power-rotor-brake="100"
rotorgear-friction="1.4"
engine-prop-factor="0.005"
engine-accel-limit="4"
yasimdragfactor="60"
yasimliftfactor="12"
>
デフォルトは616でしたが、実機は667軸馬力なので、遠慮なく667に変更。燃料搭載量はデフォルト、副操縦士は搭乗、レドーム骨格も搭載…という高負荷状態にして、富士宮ヘリポートでホバリング旋回テストを試みました。デフォルト出力では、左360度ヨー旋回の途中で機体が一息ついて、止まってしまう場面があり、一周するのに16~30秒も掛かったのですが、パワー増強後は16秒コンスタントに改善。試しに副操縦士を降ろして(その分の重量を減らして)、メインタンクの燃料も1/3に減らしたところ、12~14秒に短縮されました。たった8%のパワーアップですが、十分に有意な変化が見られました。
●●特殊な照準器を考案する:
②については、ローター回転軸が水平飛行を考慮して、5度前傾していることを計算に入れていなかったのが原因です。そこでレドームの吊り下げ軸も5度傾け、併せて特設ビューのカメラ位置も修正。また特設ビューの画角と俯角を、コクピット視野とまったく同じにしました。こうすれば目標の直前で、コクピットビューのまま機体を安定ホバリングさせたあと、精密接近のため特設ビューに切り替えても何一つ違和感がなく、機体の姿勢が崩れません。
特設ビューで正しいホバリング姿勢が確認できるよう、何らかの照準器が必要だと感じ、レドームの底部に出現する、大きな8角形のわくを制作しました。レドーム骨格自体は絶えず揺れて鉛直を保ちますが、この照準器はレドームとは無関係に、機体と一体になってカメラ下1.5mの相対位置を守ります。台座に接近飛行をする時は、この照準器をスキッドのように、台座にふんわり接触させるつもりで操縦すると、ほぼピタリのはず。こんなものを付けるとリアリティーが台無しですが、副操縦士や地上誘導員の代わりですから、やむを得ないところです。例によって必要な時だけ、メニューから表示する仕掛けとしました。
これでひとまず、思いつく限りの対策は施しました。ヘリパッド上で何度も接近練習を繰り返し、燃費も測定して3回目の挑戦に備えます。
●●「置き逃げ」の謎が解ける:
そうこうするうち、ネットで意外な情報が見つかりました。NHK「プロジェクトX 挑戦者たち」のファンの方が、このレドーム空輸飛行を取り上げた放映第1話の内容を、詳しく紹介していたのです。20KB以上ある文章は基本的に、放送のナレーション文と同じ構成らしく見えます。録画から起こして関係者のスタジオインタビューの内容を付け加え、編集し直したものでしょうか。
この新資料は情報の宝庫で、まず三菱電機が仮設した「富士宮ヘリポート」は、井出という場所にあったことが判明。Google地図には今も富士宮市上井出という地名があり、私の選んだ場所のすぐ隣と分かって、悪くない選択だったなと安心しました。
謎の「置き逃げ」飛行についても、小説より詳しい説明がありました。置き逃げとは…無風の時に目標の真上で、まずホバリングに入れます。高所ですと揚力不足で機体が沈みますが、ここで「沈んだと同時に、レドームを台枠にポンと置き、直ちにロープをカットして、パワーを上げてそこから逃げ出すという方法」だそうです。そうかぁ。さすがはNHK、簡潔で明快です。新田次郎の小説「富士山頂」では、微速で飛ぶヘリが台座上を通過する瞬間、レドーム骨格を切り落とすように読めましたが、実際は機体を沈むに任せて、吊り下げたレドーム骨格をいったん台座に接触させるのですね。ならば確かに、ホバリングが可能になります。
もう一度YouTubeの動画を見ますと、機体はやはり20秒程度ホバリングして見えます。ロングに引いた構図がないため、何が起きたか分かりにくいのですが、要するに「レドームを台枠にポンと置く」操縦によって、まずレドーム下端が台座に接触。この時点ではレドーム骨格が傾いているため、下端のふちの一部しか当たっていないのですが、それでも重量620㎏の一部分を、台座が負担することになります。
これでヘリの負荷が軽くなるため、ホバリングが継続できて、この間に作業員8人が力を合わせ、正確に位置決めをしたもののようです。映像では、レドーム骨格はしばらくあちこちへ傾いたり、ちょっと浮いたり、いろんな動きをしています。
となりますと、S62はレドームを「ポンと」置いて「直ちにロープをカット」したわけではありませんから、置き逃げという呼び方には少々抵抗を感じます。新田氏も「ホバーリングではないが、見かけ上はホバーリングと同じ」などと、あいまい極まる書き方をせず、もっと端的に「吊り下げたドーム重量の一部を台座に委ねる、変則的なホバリング」とでも書いてくれれば、苦労せずに済んだのですが…。
ちなみに「置き逃げ」または英語の escape は、一般的なヘリ操縦用語ではないようで、この富士山レーダーの話題以外では、ネットで具体的用例は見つかりませんでした。
ついでに言いますと。レドーム骨格の吊り下げワイヤーを切り離すには、小説では機長が「レバーを左足で踏んだ」ことになっていますが、大変疑問に思います。ヘリは速度を落とすと、機体の風見効果が失われて直進しにくくなり、アンチトルクペダル(ラダー軸)の使用頻度が増えます。S52のメインローターは左回転ですから、特に左ペダルはトルク反動を打ち消す側にあたり、死活的に重要です。地上すれすれに浮かぶ危険な瞬間に、左ペダルから足を離すことを強要する設計は、非常に不自然です。新資料では「操縦桿にあるカットスイッチ」を操作したとありますから、恐らくこちらが正しいでしょう。
●●最後の試み:
3回目の山頂アタックは、リアルウエザーで快晴・西の微風。素晴らしいコンディションになりました。
燃料搭載量は史実通り半時間分で、メインタンクの3分の1、サプライタンクは左右満タンの合計757Lbsとしました。今回は副操縦士も史実通り乗せます(体重分を搭載重量に加えます)。ただしデフォルトでは1人の体重が180Lbsと日本人離れしているので、正副パイロットとも121Lbsにしました。以上で機体のグロス重量は4141Lbs、レドームを足して5508Lbsです。
離陸後約12分で測候所に到着し、台座へアプローチを開始。揚力とヨーコントロールは改善してホバリングがやや楽になり、特設ビューも使いやすく、照準器の具合もよろしいです。3回トライしましたが、あとちょっとの出来映え。ガス欠が迫って反転離脱し、ドーム重量を積んだまま富士宮に帰着。停止時の燃料残は182Lbsでした。まだ台座までかなりクリアランスがあり、さらに近づけたいところです。
史実の燃料半時間分は、やはり非常に厳しい条件と分かりましたので、燃料を約4分の1増しの961Lbsにして4回目の挑戦。富士宮を離陸してから16分32秒後、最初のアプローチを開始しました。これまでよりレドーム下端が台座に寄って、多少サマになる絵が撮れました。燃料残は560Lbsもあったため、さらに2回アプローチ。3回目の接近は歩く程度の微速で、フレアを掛けてさらに減速。レドームが少し後ろへ傾き、台座へ最接近して…まさに、そっと置くような形に誘導できました。万歳っ!
理想を言えば、ここで完全静止させたいところですが、実際にドームを台座の上に置くことは(接触判定がないし、あっても吊り下げワイヤーのたるみが再現できないので)どっちみち不可能ですから、最微速のどんぴしゃりフライパスで、もう十分に「ドーム設置成功」の気分を実感。ここでポーズを掛けて静止画を撮りました。やれやれと安心して帰還準備に掛かります。レドーム骨格搭分の重量と3Dオブジェクト表示を消すと、機体は急に身軽になりました。
十分に山頂を離れ、コレクティブ・ピッチをいっぱいに絞って、真西へ降下を開始。回転計が針割れしてローターのみ増速し、オートローテーション気味に降下を続けます。ヘリポートは5nmくらいまで接近しないと見えませんが、位置は把握しており、安心して凱旋気分で降りていくことが出来ます。ふとビクトリー・ロールを打とうかと思いましたが、ここで事故っては馬鹿丸出しです。7000ftまで来たら、いきなり雲がどっさり出て雲海に近い風景に。切れ目を縫って降下を継続します。ずっと天気が保ったのは幸運でした。
離陸から27分、富士宮ヘリポートに安着。エンジンを切るとさらにシーリングが下がり、雲が裾野一面を這って、あっという間に富士の全身が隠れ、まるで芝居の幕が下りたようでした。1カ月ばかり費やした私の挑戦は高揚感とともに終わり、頭の中では中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」が、ひたすら鳴っておりました。
○付記○
富士山レーダーは35年間活躍し、気象衛星や後継レーダーに道を譲って1999年退役。翌2000年には「電気・電子技術やその関連分野における歴史的偉業」の一つに数えられ、米国電気電子学会から「IEEEマイルストーン」の認定を受けました。レーダーとドームは富士吉田市で永久保存し公開中。
長い歴史を持つ富士山測候所は、今も剣が峰にありますが、2004年から無人観測に移行しました。写真で見るレーダー台座や庁舎は、半世紀に及ぶ風雪に耐えて貫禄十分。私の模型も、壁面は風化した感じにしました。願わくば未来の日本が、さらに素晴らしい技術遺産を残せますように。
●●「空飛ぶクレーン」をテスト:
レドームの骨格は出来たものの、まだ機体にその分の重量を加えていません。なにぶん620㎏(1367Lbs)もありますから、よほど機体を軽くしなければ、山頂まで上昇できそうにありません。
そこで発想を変え、もっとペイロードが大きくて、しかも操縦しやすいヘリコプターを探しました。目に付いたのがシコルスキー S-64 エアクレーンでした。巨大な草食恐竜の骨格模型が、おなかに大荷物を吊り下げて飛ぶような、アレです。多用途の大量空輸を狙った機体で、朝は乗客ポッド(スカイラウンジというバス)を吊って大都市の通勤客を運び、日中は貨物コンテナを空輸。夕方は再び乗客ポッドで帰宅客を運ぶ…という構想だったのですが、このサンダーバード2号みたいなアイディアは、あまりニーズが無くて実現しなかったそうです。
(アメリカの大都市では1960年代、大型ヘリを空港リムジンバスのように使う試みがありましたが、どれも採算が取れず失敗しました。1977年、ニューヨークのパンナムビル屋上で定期便が復活したものの、離陸直前のシコルスキーS61が金属疲労で脚を折り横転。ローターブレードが数人を殺し、ビル街に降り注いだ大量のガラス片や、4ブロック先まで飛んだブレードの断片でも死傷者が出て、事業は打ち切られました)
…エアクレーンをダウンロードしてみますと、大型で適度に動きが鈍く、SASがよく効いて飛ばしやすいです。パネルは素っ気ないものの外観はよくできていて、EC135p2と同様にブレードの挙動なんか相当リアルです。非常に力持ちの機体で、ペイロードは実に2万Lbs(!)。半分の1万Lbsを積んで東京上空でテストしたところ、余裕で高度12000ftを超えました。これならレドーム空輸は問題ありません。
副操縦士席と背中合わせにクレーン(ウインチ?)操作席があり、専用ビューで積み荷の方向を見ることが出来ます。レドーム台座への接近に便利かなと思いましたが、後ろを向いての操縦は、ラジコンヘリの難関「対面ホバリング」と同じで私には到底無理。そこでイレギュラーながら、レドーム底部の中央から1.5m上に空輸専用のビューを新設しました。誰かがレドーム骨格の中に入って、誘導するような視野です。
…しかし。羽田の私設ヘリポートで、着陸帯の円形マークを目標に接近訓練を重ねたところ、エアクレーンの意外な短所が分かりました。まず、ラダー軸によるヨー・コントロールの利きが非常に悪いこと。前進飛行中は、サイクリックのロール操作で旋回するため気にならないのですが、ホバリングに入ると機首を左右に振るのが困難です。次いで機体の慣性重量が大きいため、狙った一点で思うように止まらず、精密なアプローチは難しいことが分かりました。姿勢の制御は楽ですが、位置の制御は困難。いわゆる「操縦性はいいが、運動性は悪い」飛行特性です。結局、エアクレーンの使用は断念しました。
●●最初の試み:
となると、飛ばし慣れたEC135p2が頼りです。まず機体のacファイルをいじって医療装備を外しました。デフォルトの貨物搭載量623Lbsを、この分の重さと見なしましたが、ドームを吊すと更に700Lbsくらい負荷が加わります。サーチライトなどダミーの外部装備も取り外し、両側のスライドドアを撤去。これで20㎏(約130Lbs)稼いだことにしましたが、まだとても足りません。後は燃料を減らすのみです。
となると…発進基地にしようと考えていた芦ノ湖ヘリポートは遠すぎて、とても富士山頂まで往復できそうにありません。もっと近い、例えば御殿場の富士スピードウェイにはヘリポートがあるので、一応正確な位置を調べましたが、できることなら史実通り、三菱電機が仮設ヘリポートを設けた富士宮市から発進したいものです。正確な地名は不明ながら、場所は同市北部の朝霧高原だったことが確認できたので、羽田と同じヘリパッドを高原台地の中央付近、県道沿いの一角に設置して吹き流しを立てました。給油が可能な地点のサインとして、飾りのドラム缶も並べておくことにします。
ここから9合目あたりまで2回上昇テストを行い、一応は富士山頂まで昇れる自信が湧いてきました。この機体にも、レドームの内部から周囲を見る空輸専用ビューが設けてあります。
本番への準備が整ったところで、今春以来ヘリ訓練の拠点にしている羽田から、改めて富士宮ヘリポートまでEC135p2を回航しました。前回の江の島ルートとは趣向を変え、東名沿いに厚木、御殿場、三島、富士宮市街地を経由して、朝霧高原へ向かう77nmのコースを設定。41分で翔破しました。
(余談ながら。東名上空を三島へ緩降下中、大昔にホンダVT250Fで、九州目指して同じ場所を走ったことを思い出しました。100㎞/h強の気流を切り裂いて進む、オートバイの夜旅は孤独です。右肩越しに一瞬振り返ると、夕焼けの最後の残照を背に、冷たく壮大な、影絵の富士がのしかかっていました。美しくも恐ろしい光景で、何度も振り返った覚えがあります。…ジョイスティックのハットスイッチで振り返ると、当時と同じ角度で富士が見えて、すごく懐かしい思いをしました)
今回のコースは、毎度お馴染みの書式では次のようになります。
◎羽田N35°33.45' E139°45.35'
▼255° (248°T)16.2nm7.5min
◎厚木基地RJTA
▼254° (246°T)16.5nm7.6min
△松田N35°20.66' E139°8.52'
▼269° (262°T)9.1nm4.2min
△御殿場N35°19.42' E138°57.48'
▼199° (192°T)12.1nm5.6min
△三島N35°7.57' E138°54.39'
▼299° (292°T)15.1nm6.9min
△富士宮N35°13.16' E138°37.33'
▼349° (342°T)8nm3.7min
◎朝霧高原・富士宮ヘリポートN35°20.79' E138°34.32'
Total 77nm35.5min
広大な富士の裾野で、無線標識もないヘリポートを発見するのは大変かと思いましたが、富士宮市街地を起点に、計画通り磁気方位349度へ4分飛ぶと、案外簡単にヒットしました。地形さえ頭に入れておけば、割に見当が付けやすい場所です。あとの区間は大部分、地上目標さえ見ていれば中継点をたどることが出来ます。
富士宮ヘリポートに着いて吹き流しを確認し、県道を避けて北から進入。着陸後、かなり画面処理が重くなっていましたので、いったんパソコンを再起動。いよいよ富士山頂への空輸フライトに挑みます。
燃料はゆとりを見て約920Lbs(満タンの6割強)搭載。さらに貨物重量とパッセンジャー体重のアジャスターを使って、レドーム骨格分の1367Lbsを追加しました。あいにく天候が悪く、リアルウエザー使用は諦めて快晴を選択し、エンジンを掛けて離陸。短時間ホバリングの後、メニューでレドーム骨格を出現させ、FlightGearのローカル時刻を史実通り、午前7時55分に合わせました。さあ上昇です。
季節と天気、そして時刻と地形。いずれも実際と同じですから、私が眺めている景色は光線の具合を含めて、本番で朝日ヘリコプターの神田真三機長が目にした光景とよく似ているはずです。
…山頂に向けて直進し、途中から山体の南へ回って上昇を続け、山腹に見えてきた宝永山第1火口あたりで西向きに反転。このあたりから事前のテスト通り、左ラダー軸の利きがひどく低下しました。空気が薄いことと高負荷によるエンジン出力低下のため、テールローターのトルクも落ちているものと思われます。史実の空輸飛行では、15000ftまで上昇してから剣が峰に近づいたのですが、とてもそんな余力はありません。しかし剣が峰までの所要時間は、史実通り約13分でした。
さて特設ビューに切り替えて、微速でレーダー台座に近づきますが、揚力はギリギリいっぱいで、高度変更も前進や停止も、思うに任せません。5回のアプローチを重ねて、ようやくレドーム骨格を台座から高さ・距離ともに数㍍まで近づけましたが、現状ではこれ以上は無理と思われました。
一応画像を撮ったあと燃料残を素早く確認し、もう一度だけアプローチしようと思って、撮影用の外部視界のまま姿勢を立て直しかけたら…ああやっぱり私は、コクピット視界以外では飛べませんね…想定外の大傾斜を起こし、何かがどっかに接触して、あっという間に墜落判定。しばらくは息も出来ないほど、がっかりしました。とっさにポーズを掛けて、視界を切り替えればよかったのですが。
気を取り直して再挑戦。副操縦士を降ろして燃料も815Lbsまで減らすと、少しだけ操縦が楽になりました。が、まだまだ台座の至近距離に寄るのは困難です。2回の接近後、早くも燃料が285ポンドまで減ってしまい、限界と判断して帰投。前回よりは台座に近づいた画像が撮れたので、ひとまずレドーム設置が成功したことにしようかと、画面表示と搭載重量の両方を「空荷」状態にしました。しかし、頂上を離脱してヘリポートに機首を向け、降下を開始すると「これじゃレドームを投げ捨てて、逃げ帰るのと同じだ」という苦い思いが、どっとわき上がりました。何とかリターンマッチをしなくては。
●●揚力と操縦性の改善:
2回の挑戦を振り返って、問題点を整理しました。
①エンジンの出力が足りず、揚力も左向きヨーコントロールも顕著に不足。
②レドーム下端の特設ビューを使って飛ぶと、うまく目標地点で行き足が
止まらない。幾ら機首を上げても、機体が前進し続ける傾向を感じる。
…まず①の対策として、フライトコントロールのnasファイルを調べ、手探りでヨーの操縦ゲインを増しました。テストしたところ、これで平地のホバリングは操縦性が大きく向上しました。しかし高空で左ヨー操縦の利きが悪くなるのは、明らかにパワー不足が原因ですから、単に制御則をいじっただけでは、また上空で苦労しそうです。本来はテールローターの操縦設定を詰め直さないといけないのでしょうが、揚力不足の対策もかねて、まずは少しパワーを上げたいところです。
EC135p2.xml ファイルをじっくり調べたところ、ギアボックスの項目の中に、やっとエンジン出力の記述が見つかりました。
<rotorgear
max-power-engine="616" ←実機よりエンジン出力が不足。
max-power-rotor-brake="100"
rotorgear-friction="1.4"
engine-prop-factor="0.005"
engine-accel-limit="4"
yasimdragfactor="60"
yasimliftfactor="12"
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デフォルトは616でしたが、実機は667軸馬力なので、遠慮なく667に変更。燃料搭載量はデフォルト、副操縦士は搭乗、レドーム骨格も搭載…という高負荷状態にして、富士宮ヘリポートでホバリング旋回テストを試みました。デフォルト出力では、左360度ヨー旋回の途中で機体が一息ついて、止まってしまう場面があり、一周するのに16~30秒も掛かったのですが、パワー増強後は16秒コンスタントに改善。試しに副操縦士を降ろして(その分の重量を減らして)、メインタンクの燃料も1/3に減らしたところ、12~14秒に短縮されました。たった8%のパワーアップですが、十分に有意な変化が見られました。
●●特殊な照準器を考案する:
②については、ローター回転軸が水平飛行を考慮して、5度前傾していることを計算に入れていなかったのが原因です。そこでレドームの吊り下げ軸も5度傾け、併せて特設ビューのカメラ位置も修正。また特設ビューの画角と俯角を、コクピット視野とまったく同じにしました。こうすれば目標の直前で、コクピットビューのまま機体を安定ホバリングさせたあと、精密接近のため特設ビューに切り替えても何一つ違和感がなく、機体の姿勢が崩れません。
特設ビューで正しいホバリング姿勢が確認できるよう、何らかの照準器が必要だと感じ、レドームの底部に出現する、大きな8角形のわくを制作しました。レドーム骨格自体は絶えず揺れて鉛直を保ちますが、この照準器はレドームとは無関係に、機体と一体になってカメラ下1.5mの相対位置を守ります。台座に接近飛行をする時は、この照準器をスキッドのように、台座にふんわり接触させるつもりで操縦すると、ほぼピタリのはず。こんなものを付けるとリアリティーが台無しですが、副操縦士や地上誘導員の代わりですから、やむを得ないところです。例によって必要な時だけ、メニューから表示する仕掛けとしました。
これでひとまず、思いつく限りの対策は施しました。ヘリパッド上で何度も接近練習を繰り返し、燃費も測定して3回目の挑戦に備えます。
●●「置き逃げ」の謎が解ける:
そうこうするうち、ネットで意外な情報が見つかりました。NHK「プロジェクトX 挑戦者たち」のファンの方が、このレドーム空輸飛行を取り上げた放映第1話の内容を、詳しく紹介していたのです。20KB以上ある文章は基本的に、放送のナレーション文と同じ構成らしく見えます。録画から起こして関係者のスタジオインタビューの内容を付け加え、編集し直したものでしょうか。
この新資料は情報の宝庫で、まず三菱電機が仮設した「富士宮ヘリポート」は、井出という場所にあったことが判明。Google地図には今も富士宮市上井出という地名があり、私の選んだ場所のすぐ隣と分かって、悪くない選択だったなと安心しました。
謎の「置き逃げ」飛行についても、小説より詳しい説明がありました。置き逃げとは…無風の時に目標の真上で、まずホバリングに入れます。高所ですと揚力不足で機体が沈みますが、ここで「沈んだと同時に、レドームを台枠にポンと置き、直ちにロープをカットして、パワーを上げてそこから逃げ出すという方法」だそうです。そうかぁ。さすがはNHK、簡潔で明快です。新田次郎の小説「富士山頂」では、微速で飛ぶヘリが台座上を通過する瞬間、レドーム骨格を切り落とすように読めましたが、実際は機体を沈むに任せて、吊り下げたレドーム骨格をいったん台座に接触させるのですね。ならば確かに、ホバリングが可能になります。
もう一度YouTubeの動画を見ますと、機体はやはり20秒程度ホバリングして見えます。ロングに引いた構図がないため、何が起きたか分かりにくいのですが、要するに「レドームを台枠にポンと置く」操縦によって、まずレドーム下端が台座に接触。この時点ではレドーム骨格が傾いているため、下端のふちの一部しか当たっていないのですが、それでも重量620㎏の一部分を、台座が負担することになります。
これでヘリの負荷が軽くなるため、ホバリングが継続できて、この間に作業員8人が力を合わせ、正確に位置決めをしたもののようです。映像では、レドーム骨格はしばらくあちこちへ傾いたり、ちょっと浮いたり、いろんな動きをしています。
となりますと、S62はレドームを「ポンと」置いて「直ちにロープをカット」したわけではありませんから、置き逃げという呼び方には少々抵抗を感じます。新田氏も「ホバーリングではないが、見かけ上はホバーリングと同じ」などと、あいまい極まる書き方をせず、もっと端的に「吊り下げたドーム重量の一部を台座に委ねる、変則的なホバリング」とでも書いてくれれば、苦労せずに済んだのですが…。
ちなみに「置き逃げ」または英語の escape は、一般的なヘリ操縦用語ではないようで、この富士山レーダーの話題以外では、ネットで具体的用例は見つかりませんでした。
ついでに言いますと。レドーム骨格の吊り下げワイヤーを切り離すには、小説では機長が「レバーを左足で踏んだ」ことになっていますが、大変疑問に思います。ヘリは速度を落とすと、機体の風見効果が失われて直進しにくくなり、アンチトルクペダル(ラダー軸)の使用頻度が増えます。S52のメインローターは左回転ですから、特に左ペダルはトルク反動を打ち消す側にあたり、死活的に重要です。地上すれすれに浮かぶ危険な瞬間に、左ペダルから足を離すことを強要する設計は、非常に不自然です。新資料では「操縦桿にあるカットスイッチ」を操作したとありますから、恐らくこちらが正しいでしょう。
●●最後の試み:
3回目の山頂アタックは、リアルウエザーで快晴・西の微風。素晴らしいコンディションになりました。
燃料搭載量は史実通り半時間分で、メインタンクの3分の1、サプライタンクは左右満タンの合計757Lbsとしました。今回は副操縦士も史実通り乗せます(体重分を搭載重量に加えます)。ただしデフォルトでは1人の体重が180Lbsと日本人離れしているので、正副パイロットとも121Lbsにしました。以上で機体のグロス重量は4141Lbs、レドームを足して5508Lbsです。
離陸後約12分で測候所に到着し、台座へアプローチを開始。揚力とヨーコントロールは改善してホバリングがやや楽になり、特設ビューも使いやすく、照準器の具合もよろしいです。3回トライしましたが、あとちょっとの出来映え。ガス欠が迫って反転離脱し、ドーム重量を積んだまま富士宮に帰着。停止時の燃料残は182Lbsでした。まだ台座までかなりクリアランスがあり、さらに近づけたいところです。
史実の燃料半時間分は、やはり非常に厳しい条件と分かりましたので、燃料を約4分の1増しの961Lbsにして4回目の挑戦。富士宮を離陸してから16分32秒後、最初のアプローチを開始しました。これまでよりレドーム下端が台座に寄って、多少サマになる絵が撮れました。燃料残は560Lbsもあったため、さらに2回アプローチ。3回目の接近は歩く程度の微速で、フレアを掛けてさらに減速。レドームが少し後ろへ傾き、台座へ最接近して…まさに、そっと置くような形に誘導できました。万歳っ!
理想を言えば、ここで完全静止させたいところですが、実際にドームを台座の上に置くことは(接触判定がないし、あっても吊り下げワイヤーのたるみが再現できないので)どっちみち不可能ですから、最微速のどんぴしゃりフライパスで、もう十分に「ドーム設置成功」の気分を実感。ここでポーズを掛けて静止画を撮りました。やれやれと安心して帰還準備に掛かります。レドーム骨格搭分の重量と3Dオブジェクト表示を消すと、機体は急に身軽になりました。
十分に山頂を離れ、コレクティブ・ピッチをいっぱいに絞って、真西へ降下を開始。回転計が針割れしてローターのみ増速し、オートローテーション気味に降下を続けます。ヘリポートは5nmくらいまで接近しないと見えませんが、位置は把握しており、安心して凱旋気分で降りていくことが出来ます。ふとビクトリー・ロールを打とうかと思いましたが、ここで事故っては馬鹿丸出しです。7000ftまで来たら、いきなり雲がどっさり出て雲海に近い風景に。切れ目を縫って降下を継続します。ずっと天気が保ったのは幸運でした。
離陸から27分、富士宮ヘリポートに安着。エンジンを切るとさらにシーリングが下がり、雲が裾野一面を這って、あっという間に富士の全身が隠れ、まるで芝居の幕が下りたようでした。1カ月ばかり費やした私の挑戦は高揚感とともに終わり、頭の中では中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」が、ひたすら鳴っておりました。
○付記○
富士山レーダーは35年間活躍し、気象衛星や後継レーダーに道を譲って1999年退役。翌2000年には「電気・電子技術やその関連分野における歴史的偉業」の一つに数えられ、米国電気電子学会から「IEEEマイルストーン」の認定を受けました。レーダーとドームは富士吉田市で永久保存し公開中。
長い歴史を持つ富士山測候所は、今も剣が峰にありますが、2004年から無人観測に移行しました。写真で見るレーダー台座や庁舎は、半世紀に及ぶ風雪に耐えて貫禄十分。私の模型も、壁面は風化した感じにしました。願わくば未来の日本が、さらに素晴らしい技術遺産を残せますように。
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