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Re: 手探り航法・旅日記

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通常 Re: 手探り航法・旅日記

msg# 1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1
depth:
25
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2006-4-22 2:56
hide  長老 居住地: 兵庫県  投稿数: 650
hideです。
 今回から、ニュージーランドを後にして、オーストラリア大陸へ渡る
タスマニア海横断飛行に出かけます。この飛行は、給油地点となる絶海
の孤島を、電波航法を使わずに、いかにピンポイントで発見するかが、
私のテーマです。いざ出発!

 ■絶海の孤島を探せ!…チチェスターの航路をたどる■(その1)
 タスマニア海は日本から遠く、大きさも余りピンと来ませんけれど、
実は大西洋の、狭い部分の3分の2くらいある大海原です。
 この海を、初めて飛行機で横断しようとしたのは、フランシス・チチ
ェスター(1901〜1972)というイギリス人冒険家。戦後、英国を代表す
るヨットマンとして知られましたが、戦前のアマチュア飛行家時代も、
冒険の連続で興味が尽きません。たいへん面白い人物なので、今日は彼
の飛行ぶりを、少々ご紹介させていただきます。

 チチェスターは1929年、操縦免許を取ってわずか数カ月で、自家用機
のデハビランド・ジプシー・モス複葉機を駆り、史上2番目のロンドン
・シドニー間単独飛行に挑戦して、みごと成功。その後1931年に、タス
マニア海の単独横断に挑みました。
 ジプシー・モスは120馬力、巡航速度約75Ktの2人乗り練習機です。
主翼を折りたたむことが可能で、「車庫に格納し、マイカーで牽引して
飛行場に運べる」のが売り物の一つと言いますから、かなり小さな飛行
機です。戦前のイギリスでは、民間飛行クラブや、裕福なスポーツマン
層に、たくさん売れました。
 航続力は、補助タンクを付けて750nmですので、約1500nmのタス
マニア海を、無着陸で渡るのは無理。そこで、フロートを付けて水上機
に改造し、途中にある二つの島に寄って、給油する計画を立てました。

 ●独自の天測航法を編み出す:
 ところが、この島々が…とても小さいのです。Atlasで計ると、ニュー
ジーランド北端から北西へ約450nmのノーフォーク島は、直径4nm。さら
に西南西へ約420nm離れた、次の給油地ロードハウ島も、南北5nmしかあ
りません。出発地から見ると、角度にして0・5度くらいの大きさだそ
うで、これ以上針路が狂えば即、遭難です。さて、どうするか。

 当時の小型機用コンパスは、自差(機体固有の誤差。変化する)が数
度に及ぶこともあったそうですから、推測航法で、これらの島にたどり
着くのは不可能です。そこでチチェスターは、六分儀で太陽高度を計っ
て現在地を算出する、いわゆる天測航法を使いました。ただし、船舶で
使う位置の計算法は、飛行機には不向きと判明。独学で、新しい天測航
法を編み出しました。
 細かい点は、私にはよく分かりませんが。事前に準備計算を重ねてお
いて、天測した時点ですぐ、コースからどっちに何度、それているかを
判定するような方法のようです。(ただし船舶の天測でも、推定船位を
もとにして、計算を多少、簡略化する工夫は行われている模様です)

 またチチェスターは、ユニークな工夫を加えました。目的の島を直接
目指すのではなく、やや左寄りに外した針路を設定。島から約75nm離れ
た洋上の一点を仮想的な目標とし、ここから右へ直角に変針して、最終
的に島へ到着するコースを引きました。こうすれば、多少の左右誤差が
あっても、島を見失う恐れが減るわけです。

 後年、零戦のエースとして有名になった故・坂井三郎氏が、長距離の
洋上飛行の際は、誤差を見込んで「目的地を、やや右手に持ってくるよ
うに飛んでいた。こうすれば万一、航法が外れても、探す範囲が半分に
なる」と書いておられましたが、よく似た発想ですね。私は以前、この
連載の始めの方で、「わざと目的地を外す」という話を書きましたが、
あれは、この二人の航法をまねたものです…(^^;)。

 ●沈没…愛機を再生して:
 本番の飛行では、チチェスターは、狭いオープン・コクピットで10時
間、延々と操縦しながら、ひたすら天測と計算を繰り返しました。雲の
切れ間を見つけて、洋上に出来た小さな日だまりに急行し、その中を急
旋回しながら、ほんの数秒ずつ、操縦桿から手を離して六分儀を操るな
ど、苦心の連続だった模様です。
 彼は研究熱心で、友人が試作した、小さな無線電信機(軽くするため
送信のみ、受信機なし)まで積んでおり、ストレスだらけの飛行中も、
ひざに縛り付けたモールス・キーをたたき、定期的に位置などを打電。
パイロットとナビゲーター、通信士の3役をこなし(当時、1人で兼任
は無理と考えられていました)、無事に二つの島を発見しました。

 だがロードハウ島では豪雨のため、港に係留していた水上機が沈没し
て大破。島民の温かい励ましを受け、4枚の主翼を骨組みから組み立て
直し、エンジンをオーバーホール。7週間を費やして、とうとう自力で
機体を再建。ようやくシドニーへ、ゴールインを果たしました。
まあ、たいしたガッツでは、ありませんか。
 タスマニア海の初横断は、実は直前に、他の飛行士に先を越されまし
たが、チチェスターの飛行は、後年になって高く評価され、彼は優れた
飛行士に贈られる「ジョンストン記念杯」の、最初の受賞者に選ばれま
した。海外のHPによると、この飛行で考案した天測航法は大戦中、イギ
リス軍のコースタル・コマンド(沿岸航空隊?)で使われたそうです。

 ●孤独の海と空:
 ついでに言えば、彼はこの飛行後、ジプシー・モスで世界一周を試み
て、島伝いに日本まで飛来。和歌山の那智勝浦で、送電線に突っ込んで
墜落し、重傷を負って計画を断念しました。
 大戦中は、空軍でナビゲーションの教科書を書きまくり、戦後はヨッ
トマンに転身。71歳で、がんで亡くなる直前まで「ジプシー・モス○世
号」と命名した、数隻のヨットを乗り継いで航海を続け、世界早回り単
独航海など、多くの記録を樹立。エリザベス女王から「サー」の称号を
受け、英国ではドレーク船長やクック船長と並ぶ、国民的な英雄。本業
は、裸一貫からたたき上げた実業家なんですが、まあ何というか、実に
すごい人生ですね。

 彼の自伝「孤独の海と空」(The Lonly Sea And The Sky)は、冒険と
創意工夫、優しいユーモアに満ちた名著です。角川が絶版にしたのが、
非常に惜しまれます。また日本語のHPでも、ヨットに関する記述はまれ
にあっても、飛行家としての経歴は、ほとんど紹介されていません。
 チチェスターは、飛行機の好きな人たちには、ぜひ知っておいて頂き
たい人物ですので、長文になって大変申し訳ありませんが、あえて少々
詳しく、ここにご紹介させていただきました。お詫びとともに、どうか
ご理解を頂けますよう、お願い申し上げます。

 ●さて、FlightGearの世界では…:
 このチチェスターのタスマニア海横断を、FlightGearで再現できない
か…というのが実は、私の数カ月来の夢。半分はそのために、せっせと
航法の勉強をしていたのです(^^)。

 FlightGearの世界でも、二つの島が小さいのは同じ。電波航法なしの
推測航法で到達しようとすると、デフォルトでは、コクピットからは約
12nmの視程しかないため、少し誤差が出たら、島を外してしまいます。
さて、どうしたものだろう。
 FlightGearの太陽や月は、正確な軌道を描いているそうです。出来れ
ば史実通りに、天測航法が使いたいのですが、六分儀のように、太陽の
高度と方位を正確に計る手段がありません。
 それに。ちょっと調べたところ、天測というものは、位置を1回出す
ために、3〜6回の測定を繰り返して、海図上に何本もの「位置の線」
を引き、交点を求める必要があります。ゲームとしては少々煩雑に過ぎ
ますし、本物の航海暦(天測計算のデータブック)まで、買わなくては
いけません!

 また、ぜひやってみたかった、チチェスター流の「わざと針路を横に
そらしておき、直角に変針する」航法ですが。FlightGearで推測航法を
繰り返してみると、針路の左右誤差はあまり目立たず、長距離飛行では
むしろ、コースの前後方向に、かなり大きな誤差が出ることが、次第に
分かってきました。私の場合は最大で1割前後、予定到達時刻より早く
目的地に着くこともあります。(原因は、まだ分かりません)
 となると「横にそらす」飛び方は、あまり意味がなく。直線コースで
島をめざし、予定到着時刻よりも早く見張りを始めて、前後誤差を吸収
する方が、ずっと合理的ではないか…という気がしてきました。

 ●とりあえず、簡略な方法で:
 結局のところ私は先日、以下のような方針を立てて、ニュージーラン
ドのオークランド空港から、ノーフォーク島に向けて出発しました。

 ◇まず、推測航法の誤差を小さくするには…
 (1)フライトプラン記入用紙を改良し、数値の読み誤りを防止。
 (2)快晴を想定し、水平線に霧を表示する機能をキャンセル。
    これで12nmの視程が、最大限に利用できる。
 (3)ウイングレベラーを使って、倍速モードで飛ぶと、コースが
    右にそれる場合がある。これを早めに発見し、修正する。

 ◇次に、推測航法を補完する手段として…
 (1)天測の代用として、コースの途中で1、2回、HUDの緯度経度
    表示を見て参考にする。
 (2)もし島が見つからなかったら、現在地を起点に「西へ24nm、南
    へ24nm、東へ48nm、北へ48nm…」と、外に向けて四角い渦巻き
    を描く「拡大方形捜索パターン」で飛行する。(なんだか海上
    保安庁の、YS-11みたいな飛び方ですが)(^^;)
 (3)それでもダメなら、最後の手段として電波航法を使う。

 ●大海原へ出発、錯覚とポカミスと:
 さて、愛機C310で離陸です。
前回の、燃費テストで得たデータを使い、高度8000ftで135ktにセット。
プロペラピッチと、ミクスチャーコントロールを、慎重に調整します。
空港の真上を何度も旋回し、第1目標である、NZ北島の先端部に近い、
カイティアNDB局に向けて定針。ここまではADFを使うことにしました。
4倍速で快調に巡航し、一路北へ。

 ここで、変な現象に気が付きました。今回は水平線の霧をカットした
ため、地平線も水平線も、マップデータの断続的なスクロールに合わせ
て、いびつな多角形で表示されます。すると陸上を飛行中は、前方から
山が盛り上がってくるように錯覚するのです。何度も高度を上げてから
間違いに気付いて、苦笑しました。そろそろカイティア付近です。

 ここで、私はポカミスをやりました。C310のRMI(Radio Magnetic
Indicator=ADFとVOR指示器を一体にした計器)を読み違え、ADF指針
の代わりに、使っていないNAV1のVOR指針を眺めたため、カイティア局を
ロストして(通り過ぎて)しまったのです。
 「さっき見たローカル空港が、実はカイティアかぁ」…と、がっかり
しながら、さっそく「天測」。要するに、HUDの緯度・経度表示で、現在
位置を確認。どうやら、予定より11%程度早いタイムで、局上空を通過
してしまったようです。
 ここまでコースの前後誤差が大きいと、やはり「わざと針路を外す」
のは危険と判断。洋上の変針点に向かうのはやめ、急きょノーフォーク
島への、直行針路を取ることにしました。

 以前ご紹介した、航法計算ツール「Virtual E-6B」を起動しまして、
現在の緯度経度と、ノーフォーク島の位置を打ち込み、針路を再計算。
新しい針路323度を入れて間もなく、NZ北島最北端のノース岬が右手に
見えました。数カ月「滞在」したニュージーランドよ、さようなら…。

 ●水平線の彼方から:
 行けども行けども、海また海。
海上に出てから、実時間で16分(シミュレーションで1時間4分)後に
コンパスが約1度、東にずれているのを発見。いったんウイングレベラ
ーを切って、323度に定針し直して、また巡航。ここで本来なら、

 (1)いったん、左へ2度変針する。
 (2)実時間で16分飛んでから、左1度変針に変更する。

 …という手順を踏めば、もとのコースに戻った上で、左右誤差の補正
が出来ます。しかし今の場合は、風が変わったわけではなくて、単なる
アプリケーションの癖でしょうから、補正を掛けると、かえってまずい
ことになります。そこで、本来の針路に戻すだけにとどめました。
 さて、コースの前後誤差を見込むと、そろそろ…かも知れないぞ。

 「あ。あった…島だっ!」
 唐突で、あっさりとした到着でした。左斜め前方、いびつな水平線が
ガタッと後退した瞬間、洋上にポッカリと、丸くて平たい島が出現しま
した。ノーフォーク島です。だって、ほかに近所に島はない。
 なるほど、大変小さな孤島です。いやあ、本当に、計算通りの場所に
あったなあ!
 ここで初めて、Atlasの使用を自分に解禁。島のアビーム(真横位置)
で、コースの誤差を測定したところ、航法の目標にした島の中央部から
9nm、東北東にずれていました。前後方向は20nmくらいの誤差ですが、
これは予測通りだったので、決定的な問題ではありません。もし先ほど
の針路修正をしなかったら、島は視界外にあったかも。でも右へ逸脱す
る傾向は分かっていたので、外れた場合はまず、西へ捜索飛行する計画
でしたから、一応は大成功と言えそうです。

 空港は結構小さいが、国際空港を名乗るだけあって、2本の滑走路を
持っています。滑走路の末端は、断崖絶壁になっていました。風を考え
ながら誘導コースに入り、アイドルに絞って、フラップダウン、ギアダ
ウン。バウンドしたれけど、実にハッピーな気分の着陸でした。
投票数:25 平均点:4.80

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