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Re: 手探り航法・旅日記

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通常 Re: 手探り航法・旅日記

msg# 1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1.1
depth:
17
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2006-3-12 14:40
hide  長老 居住地: 兵庫県  投稿数: 650
hideです。
 前回お話ししました、「かなり本格的なフライトプラン」の立て方
を実地に応用して、短距離の洋上飛行をやってみましょう。私自身、
ここまで本式に、推測航法の計算をしたことがなかったので、果たし
てFlightGearで、どの程度までこの航法が通用するのか、精度を実験
してみるのも目的の一つです。
(厳密に言えば、このアプリケーションが、地球の形をどれだけ精密
に再現しているのか、とか、いろんな要素が絡んできますね)


 ■雲間の湘南フライト・伊豆大島ナビ実験■(その1 立案編)

 神奈川県の米軍厚木基地で、ネイビー・ブルーの双発セスナC310を
借用して、伊豆大島まで出かけましょう。ただし、途中から雲に飛び
込んで、計器飛行を試すつもりですので、人気スポットの湘南海岸や
相模湾の景色は、あまりよく見えないかも知れませんが…。

 C310は、もしパソコンの性能が許すなら、3Dパネル機を使うと視界
がよく、計器を拡大表示することも出来て、快適です。ただし3Dパネ
ル機は、実は燃料を満タンにすることが出来ない仕様になっており、
あまり長時間は飛べそうにありません。いっぽう2DパネルのYASim機
は、C310シリーズで唯一、燃料搭載量を自在に設定したり、燃料消費
を精密に計ることが可能で、長距離飛行にお勧めです。今回の飛行は
短いので、どちらを使われても大丈夫ですが、私は正確な燃費が知り
たかったので、YASim機を選択しました。

 次に、飛行コースの概略を申し上げます。
【第1レグ】厚木基地を南に離陸後、場周経路(VFR発着時の誘導コー
ス。滑走路を左手に見ながら、長方形に一周する、あれ)を旋回しなが
ら、巡航高度まで上昇。基地の真上を通過後、東南東約17nmにある横
須賀NDBまで直進。この区間では、有視界の推測航法に、NDBによる針路
確認と、厚木のTACANによる距離測定を加え、推測航法がどの程度外れ
るかを観察し、必要なら以後のコース・データを補正します。
【第2レグ】その後、横須賀NDB上空で、さらに高度を上げて雲に入り、
南南西へ変針します。ここからは視界ゼロの計器飛行で、しかも一時的
に電波航法をカットし、コンパス頼りの推測航法に絞って、伊豆大島の
三原VORをめざします。同VOR上空の到着予定時刻に、旋回降下で雲から
出て、正確に目的地に着いたかどうか確認。その後、改めてファイナル
・アプローチのためVORとNDBを受信し、高度を下げつつプロシージャ・
ターン(方式旋回)を実施して、南方から大島空港のILSをインターセプ
トします。
 はたしてどの程度、うまくいくでしょうか。楽しみですね。

●注1●:FlightGearメニュー「Weather」の設定は、次の通りにして
     みました。離着陸は楽にこなし、上空では航法精度を検証
     するため密雲の中に入って、わざと強い横風を受けます。

 風向・風速:2000ft未満のレイヤーは、0度(北)の風5kt。
       2000ft以上のレイヤーは、270度(西)の風25kt。
 視   程:2700ft以上のレイヤーは、100m以下。(ほぼ濃霧)
 雲の出し方:2500ft以上のレイヤーのみ、多く厚く。

 同様に、航法の精度を確認するため、飛行中はAtlasのウインドウを
隠しておきます。あとから飛行経路を検証しましょう。
飛行高度は、第1レグを1800ft、第2レグを3000ftとします。

     ○

 では、フライトプラン(区間ごとの航法計算表)を作りましょう。
前回のおさらいをしながら、計算を簡略化する方法や便利なツールを
ご紹介します。まず第1レグ、厚木TACAN・横須賀NDB間から作ります。

 今日はVFRチャート(航空図)の代わりに、Atlas地図画面を使い
ましょう。FlightGearの起動に先立ち、まずAtlasだけを起動。関東
地方から厚木基地を探します。基地にはVORのマークで「Atsugi TACAN」
とだけ書いてあります。これは…DMEと同じもので、距離は分かるが、
VORのラジアルは、発射されていない無線施設のようです。

(民間用のVORは通常、距離測定用のDMEという施設を併設し、正式に
はVOR/DME(航空関係者の発音はヴォルデメ)と呼びます。軍用飛行場
ではDMEの代わりに、機能の似た軍用のTACANを使うことが多く、VORと
併設の場合はVOR/TAC(ヴォルタック)と呼びます。しかし厚木のよう
に、VORがなくてTACANだけのケースもあるのですね。昔ながらのGCA=
Ground Control Approach=つまり進入機をレーダーで観察し、無線電
話で誘導する着陸方式を使っているのでしょうか。GCAは海上自衛隊も
使っていて、私が会った哨戒ヘリのパイロットには「計器を見るより、
肉声で誘導されるが好き」という人もいました)

 フライトプラン記録用紙の、記入項目を埋めていきましょう。前回、
ダウンロード方法をご紹介した、ワークシートに基づいてお話しします
が、ご自分で、より使いやすい書式を工夫されるのもいいですね。

Date(日付):
Depart(出発空港名):厚木基地
Desatination(目的空港名):大島空港
Cruise TAS(Kts)(巡航速度):130kt
  (C310は公称7500ftで144kt。やや速度を落として、各種の作業に
   時間的余裕を取ります。また130ktなら、上昇速度としても兼用
   できるので、操縦が少し簡単になります)

【第1レグ】
From(区間出発点) :Atsugi Naf(厚木海軍飛行場 RJTA)
           Atsugi TACAN 11510.00 KHz
To(区間の到着点) :Yokosuka NDB 249KHz(YU)
TC(区間の針路)  :真方位(True Course)で152度。

●解説●:このTCを求めるには、二つの方法があります。
     一つは、Atlas画面に分度器を当てる。これは大変、実用的
     な方法です。

     もう一つは、「Virtual E-6B」というツールに、両地点の
     緯度経度を入れて、針路と距離を一度に出す方法です。
     私としては、ぜひ後者を試されますよう、お薦めします。
      「Virtual E-6B」は、zeek52さんが紹介された英語サイト
     「Flight Simulator Navigation」の中にある、フライトプラ
     ンの立て方を詳しく解説した「Plot a course」という章…
     http://www.navfltsm.addr.com/basic-nav-plotcourse.htm
     …の下の方に、ベクトルで横風成分を出す「風力三角形」
    (前回「風向三角形」と書きましたが、誤りでした。ごめんな
     さい)の作図例や、実物の「E-6B」航法計算盤の写真の後に…

    「The Virtual E6-B
     (中略)
     【Click here】 to download this handy utility.」

     …というボタン(リンク下記)があり、ダウンロードできます。
     http://www.navfltsm.addr.com/ve6b.zip

     「Virtual E-6B」は、優れた多用途航法計算機です。全機能は
     別の機会にご紹介しますが、取りあえずは解凍後、起動して
     「Lat/Long」(緯度と経度)というボタンを押してください。
     上段に「Departure Latitude」と「Departure Longitude」
     (出発地の緯度経度)、下段に「Destination Latitude」と
     「Destination Longitude」(目的地の緯度経度)という欄が
     ある、小さな操作ウインドウが現れます。
      ここでAtlas画面をドラッグし、飛行機型のカーソルを厚木
     VORTACの上に合わせると、画面右下に緯度経度が出ます。この
     数字を、「Departure Latitude」と「Departure Longitude」
     に入力してください。同様に、Yokosuka NDBの位置を計って
     「Destination Latitude」「Destination Longitude」に入力
     します。東経と西経を表す「E」「W」ラジオボタンを、忘れず
     「E」にしておいてください。同様に、緯度のラジオボタンが
     「N」(北緯)になっているか、ご確認ください。
      入力後「Compute!」ボタンを押すと「Great Circle」(大圏
     コース)と「Rhumb Line」(ラームライン=等角航路)の両方
     で、目的地への真方位と距離が出ます。今回は出発地と目的地
     が近いので、いずれのコース表記法でも、距離が16・79nm、
     針路が152度(真方位)くらいになると思います。
     ワークシートのTC欄に、この距離と方位を記入してください。

●注2●:ついでながら。Atlas画面で区間距離を計るには、物差しを当て
     て何センチあるか計った後、画面上の縦軸に打ってある、緯度
     の目盛りに照合してください。緯度の1分(1度の60分の1)
     が1nmです。厳密には誤差がありますが、一応実用になります。
      間違って、横軸の経度目盛りを使わないよう、ご注意下さい。
     経度目盛りは、赤道上で緯度目盛りと同サイズですが、緯度が
     増すにつれて、どんどん短くなり、南北極点でゼロになります。
     距離測定に使うと、大きな誤差が出ます。

WIND:Knots・From(区間の風速と風向)
   通常はメニューの「Weather」から、現在の風向・風速を読みます。
   今回は「注1」でご紹介した通り設定しましたので、この区間は
   「5kt・0度」と記入しておきます。

WCA(R+ L-):
  (風向・風速に応じた、区間針路の修正角)
●注3●:前回は、わざわざ「風力三角形」のベクトルを作図しましたが
     きょうは「Virtual E-6B」が、再び大活躍します。
     「Winds」というボタンを押してください。4つの入力欄が現れ
     ますから、上から順に数値を入力しましょう。

     Wind Direction:風向を「0」(度)と打ち込み。
     Wind Speed  :風速を「5」(Kt)と打ち込み。
     True Course  :TC欄に書いた針路「152」(度)を打ち込み。
     True Airspeed :巡航速度の「130」(kt)を打ち込み。
      …最後に「Compute!」を押すと、
     Ground Speed(対地速度)   :134.4kt
     True Heading(風修正済み針路):151度
     WCA(風による針路の修正角)  :1度Left
      …と、修正値の計算結果が出ます。その結果は…

     北の風5ノットによって、飛行速度は約4ノット得をします。
     右へ1度流されるので、針路を左へ1度補正して飛びます。
     非常に細かい補正値ですが、今回はオートパイロットを使い、
     精密に飛んで、ナビ計算の成果をみることにしましょう。

TH: (前述のTrue Heading。TCにWCAを加算したもの)今回はすでに
   E-6Bで算出したので、そのまま「151」と記入しましょう。

VAR W+ E-:コンパスの偏差(Variation=真北とのずれ)。
     (ごめんなさい! この項目は前回、落ちていました)
     偏西(西へのずれ)なら、その数値を真方位に足す。
     偏東(東へのずれ)なら、その数値を真方位から引く。
     湘南海岸方面の偏差は…
      http://www.geo-orbit.org/sizepgs/magmapsp.html
     …を参照しますと、おおむね偏西6度くらいです。

MH: (磁気コンパス針路=Magnetic Heading)
     THの数値に、偏差を足すか引くかして算出します。本欄には
     前述のTH(151度)に6度を加えた、157度を記入します。

Total nm:
  (区間の距離。Nautical Mile)
   これも冒頭に近い「解説」で、Virtual E-6Bを使って「TC」を
   計算したとき、すでに答えが出ていますね。16.8nmくらいです。

GS Knots:(対地速度)これも、すでに算出しました。約134ktです。

Total Time:
  (区間の飛行時間。Total nm÷GS Knots)計算すると、0.125時間。
  つまり7分半です。

Fuel Rate:
  (時間当たりの燃料流量)C310の場合、スペックでは17.1 USGal/hr。
  これはベスト条件ですから、今回のような低空ではもっと悪いはず。

Total Fuel:
  (区間の使用予定燃料。Total Time×Fuel Rate)計算では約2.1gal。
  とりあえずの参考数値です。これも、かなり悪化するはずです。

 …やっと計算が終わりました。ごちゃごちゃするので、必要な部分だけ
もう一度書き出します。
========================================<完成したフライトプラン>
Date:
Depart:厚木基地(RJTA)
Desatination:大島空港(RJTO)
Cruise TAS(Kts):130kt

【第1レグ】高度1800ft
From:Atsugi Naf(RJTA) Atsugi TACAN(NJA)11510.00 KHz
To: Yokosuka NDB(YU)249KHz
TC: 152deg(度)
WIND Knots・From:5kt・0deg
WCA(R+ L-) :1deg Left
TH:151deg
VAR W+ E-:6+
MH:157deg
Total nm:16.8
GS Knots:134kt
Total Time:0.125hr
Fuel Rate:17.1 USGal/hr
Total Fuel:2.1gal

 頑張って、次の区間も計算しましょう。

【第2レグ】高度3000ft
From:Yokosuka NDB(YU)249KHz
To: Mihara VOR/DME(OSE)109.85MHz
  (Oshima RJTO RWY-03 ILS-109.35MHz)空港も、書いておきます。
TC: 206deg
WIND Knots・From:25kt・270deg
WCA(R+ L-) :9.9deg Right
TH:215.9deg
VAR W+ E-:6+
MH:221.9deg → 222deg
Total nm:27.6
GS Knots:117.1kt
Total Time:0.236hr(14.1min)
Fuel Rate:17.1 USGal/hr
Total Fuel:4gal

【総計】
所要時間 約24分半
消費燃料 約6.1ガロン
 …実際は、上昇と進入・着陸があるので、これより時間も消費量も、
かなり増えるはずです。

 上昇経路と降下経路を設定して、それぞれ1つのレグにするのが本当
ですが、今回は航法計算の実証試験ということで、あっさり省略します。
 大長文になりました。次回はいよいよ、フライト・リポートです。
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