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Re: 手探り航法・旅日記

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通常 Re: 手探り航法・旅日記

msg# 1.1.1
depth:
2
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2006-1-23 13:06
hide  長老 居住地: 兵庫県  投稿数: 650
 こんにちは、hideです。

 ゲストさん、書き込みを大変ありがとうございました。
連載第1回は思いも掛けず、多くの方々にお読み頂きましたようで
感激です。少しご無沙汰をいたしましたが…さっそく続きを。
今回は少々、航法技術に特化したお話です。

 ■地文航法(Pilotage flight)続き■
 前回は説明不足でしたので、補足させて頂きます。地文航法は、
順を追って書きますと、以下のようになると思います。

 地図上に、出発地から目的地(または中継点)まで線を引く。
この飛行コースの方位(真北をゼロにして右回り)を計って、磁気
コンパスでどの方角(何度)に向けて飛んだらいいか調べる。また
コース上の都市や、交差する川などの目標物に印を付け、予想到達
時刻を書き込んでおく。
 実際の飛行では、磁気コンパスの指示に従って飛ぶが、正しいコ
ースに乗っているか、風に流されているならどの程度か、コース上
をどこまで飛んだか…は、地上の目標を見て判断し補正する、とい
う仕組みです。
 応用編として、主要道や鉄道に沿って飛べば楽なのは、前回ご紹
介した通り。欧米でも日本でも戦前は、道に迷うと線路を探し、超
低空に降りて駅名を読み取った、などと聞きます。(FlightGearで
も、これに近いことができると便利だなあ、と思っていましたが、
必要に応じてAtlasを使うことで解決ですね)

 では夜間や洋上飛行、悪天候を避けて雲海上に出るなど、地上の
目標が見えない場合はどうするか。それが次の推測航法です。

 ■推測航法(Dead Reckoning)■
 これは、大洋を航行する船舶のナビゲーションで磨かれた技術で
す。電波航法が普及する前は、飛行機でも渡洋飛行などに、盛んに
使われました。
 地上の目標を参照せず、磁気コンパスに頼って進み、飛行速度と
経過時間の積算によって、現在位置を推測する飛び方で、当然なが
ら、風に流された分の誤差(偏流と言います)を計算し、補正する
必要があります。
 推測航法は誤差との戦いです。まず最初に、コース図を非常に精
密に描かねばなりません。リンドバーグが1927年に行った、ニュー
ヨーク=パリ間・大西洋単独無着陸横断飛行を例に挙げましょう。
 彼はまず、飛行機の設計技師と図書館へ行き、地球儀の上にぴん
と糸を張って、ニューヨーク・パリ間の最短距離(いわゆる大圏コ
ース)を、ざっと3600法定マイルと見積もりました。大ざっぱ
な話ですが、燃料搭載量の目安を付けるには、これで十分意味ある
データが取れたそうです。むろん、実際の航路図を書くには、次の
ような精密な方法を使いました。

 リンドバーグは、あらゆる大圏コースを直線で描くことのできる
心射図法の地図(通常は北極点が中心。世界地図帳に載っている場
合があります)を使って、まずニューヨーク・パリ間を直線で作図
しました。心射図法は、機上で方位が読み取りにくいため、この点
で優れたメルカトル図法(小学校の壁に貼ってある「世界全図」で
お馴染みの長方形)の海図に、このコースを転記しました。

 メルカトル図法では、大圏コースは北に張り出した、弓なりのカ
ーブとして描かれます。リンドバーグは作図と操縦の便宜上、コー
スを36等分して転記したため、最終的に書き上げたコースは、36の
変針点を持つ折れ線になりました。彼は最終的に、この図面の精度
を、球面三角法という数学的手法で検算しています。
 リンドバーグの愛機「スピリット・オブ・セントルイス」号の巡
航速度は、約100法定マイルですから、この折れ線に従って約1時間
に1回、飛行方位をわずかに変更しながら、通算33時間半を飛び続
けたわけです。さぞや、眠かったでしょう…。

■ご参考■
 手軽に大圏コースを求めるには、「世界地図を作ろう」という
サイト(http://homepage1.nifty.com/ptolemy/index.htm)で
「世界地図・MERCATOR」というシェアウエアをダウンロードするの
が簡単です。これは、心射図法やメルカトル図法など、25種の図法
の世界地図が任意倍率で表示でき、カーソルで始点と終点を指定す
ると、自動的に大圏コースを描いて距離を表示します。

 FlightGearはご存じの通り、GPS機能を使うと、大圏コースを
自動的に飛んでくれます。飛行を観察していると、ときどき機体が
動揺しますが、あれが大圏コースに合わせるための、変針点通過の
瞬間だと思われます。「a」キーを使って飛行速度を上げていくと、
機種によっては、5倍速程度で変針時の揺れが非常に激しくなり、
スピンに入って墜落する恐れがありますので、ご注意を。

     ○

 推測航法の、誤差のお話を続けます。
 ご存じのように、磁気コンパスは真北ではなく、少し離れた磁北
極を指す(これを磁気方位と呼びます)性質があり、真方位との間
に誤差(偏差と呼びます)が生じます。加えてコンパス自体に、周
囲の金属の影響による誤差(自差と言います)があり、実際の飛行
では、これらを全部補正しないと、正しい進路が得られません。ま
た風の影響(偏流)の補正ですが、これは実機の場合、海面を観察
するなどの方法で、風向・風速を判定し、自機の飛行速度のベクト
ルと合成することで、偏流角(風で横滑りする角度)や到着予想時
刻を算出しています。専用の計算尺もあり、丸い「E6Bコンピュー
タ」が有名です。
 FlightGearでは幸いにして、磁北極が存在しないようで、HUDを
始め計器類の表示は、すべて真方位になっています。従って基本的
には、コンパスの偏差・自差は考える必要がありません。ただし、
滑走路の方位は実際と同様、磁気方位で扱われており、計器の指示
とは合わないので要注意です。(例えば、ニュージーランド・ウエ
リントン国際空港の16番滑走路上では、機種方位は165度のはず
ですが、計器上は183度になります。これが偏差の影響です)
 また風については、FlightGearでもランダムに吹かせることがで
きるので、何らかの方法で効果的な偏流測定が出来れば、本格的な
推測航法で孤島を目指す、といったゲームも可能でしょう。

 リンドバーグのような、昔の大記録飛行をシミュレートすると、
飛行時間がめちゃめちゃ長いので、オートパイロットを多用せざる
を得ません。となると誤差が入らず、無事に目的地に着くに決まっ
ているので、実飛行にはふんだんにあるスリルが、ほぼ完全に失わ
れます。何とかして「ナビに失敗したら、遭難する」という要素を
加えられないか…といったことを、よく考えています。
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