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Re: 手探り航法・旅日記

このトピックの投稿一覧へ

通常 Re: 手探り航法・旅日記

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81
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2007-9-26 19:51
hide  長老 居住地: 兵庫県  投稿数: 650
hideです。
 今回の飛行は、ネパールのカトマンズ空港から、まずインド・デリーのインディラ・ガンジー空港へ移動。北上してカラコルム山脈を越え、タクラマカン砂漠南端のHotan(和田、と書くのだそうです)VORを経て、砂漠を北へ横断します。

 タクラマカン砂漠は、ヒマラヤ・チベット大高原の北西にくっついている「タリム盆地」のほぼ全域を占め、サハラ砂漠に次ぐ世界第2の広さです。砂漠の北端には、東西に走る天山山脈があり、この山脈の南北には、シルクロードの「天山南道」「天山北道」が走っています。NHKの紀行でお馴染みですね。
 飛行コースは砂漠を横断後、天山山脈の南麓にあるKuqa(クチャ=庫車)VORで東方へ変針。しばらく天山南道に沿って飛んだ後、山脈を北東側へ飛び越えて、西域の都会・烏魯木斉(ウルムチ)まで進出します。
 この長丁場では、無着陸飛行は難しいため、どこで給油しようかと迷いながらの出発です。以下フライトプランです。


■熱砂と、雪と山々と…玄奘三蔵の道■
     (カトマンズからインドを経て、カラコルム、
      タクラマカン砂漠、天山山脈、ウルムチへ)
マップデータ:e080n20
       e070n20
       e070n30
       e070n40
       e080n40
カトマンズ出発時の天候:
・高度別の風向風速
9000ft 200deg 8.8kt
6000ft 190deg 8.0kt
3000ft 180deg 7.3kt
・雲量と高度
25170ft scattered 600
2170ft few 65
・針路:以下文中の「Var」または「MagVar」は磁気偏差。
         「RL」はラームラインの針路。
         「GC」は大圏コースの針路。
          ●印は、偏差と風力を補正した
          コンパス針路です。

◎カトマンズ(kathmando)Tribhuvan空港。VNKT
27°41'47.70"N 085°21'32.76"E 4390ft Var000°E
VOR112.30 NDB 318 Rwy 02/20(L=3050m)
     ▼始点GC278.75度(●276.9度)
     ▼中点RL276.8 度(●274.9度)  440nm
     ▼終点GC274.85度(●272.9度)
◎インディラ・ガンジー空港VIDP(デリーVOR 116.10)
28°33'59.40"N 077°06'11.12"E Elev777ft MagVar000°E
Rwy 09/27 9229x150ft 10/28 12500x150ft
     ▼3.6度(●3.4度)370nm
★Leh VOR(115.70)N34.43.53-E77.33.59
(西南西の谷にTholsa空港)
34°39'09.44"N 077°22'32.71"E Elev10046ft MagVar002°E
Runways 10/28 10000x145ft
     ▼RL38.98度(●39.7度)GC38.3度 178nm
★Hotan(和田)VOR(113.10 タクラマカン南端、町と道路)
N37.02.02-E79.51.59
     ▼RL27.3度(●27.3度) GC26.4度 316.3nm
★Kuqa VOR(114.50 砂漠北端)N41.43.00-E83.00.00
     ▼RL56.3度 GC54.8度 236.7nm(差は0.03nm)
◎烏魯木斉(ウルムチ)のDiwopu空港 ZWWW(VOR 115.70)
43°54'25.58"N 087°28'27.28"E Elev2125ft MagVar002°E
Runways 07/25 11811x148ft NDB369 27.0 NM 234.9
空港から約60度30nm先にEukang-VOR(116.30)NDB(369)
(全行程1540nm)

●簡略な大圏コースの使用を実験:
 上記フライトプランの、カトマンズからデリーへの航程には、「始点」「中点」「終点」というのがありますが、これは同区間を3分割して、大圏コースの簡単な近似経路を作り、コンパス針路(ラームライン)とVORが示す航路(大圏コース)のずれを極力小さくしてみよう、という試みです。結論から言えば、パソコンの不調により、今回の飛行ではうまく行きませんでした。

     ○

 カトマンズを離陸。VOR上空から航法を開始。
負荷を軽くするため、今回はAtlasを、FlightGearと同一パソコンで起動するものの、連動させず航空図として使う、という飛び方を試みました。(後で述べますように、これも不調でした)

 カトマンズの周囲は、険しい山々です。夜間飛行はもちろん、昼間でも天候が悪ければ、正規の進入図がない限り、着陸どころか離陸するのも不安な地形です。
 デリー空港への大圏コースで定針し、オートパイロットを「CDI Course」(VORトラッキング・モード)に入れたところ、近くにヒマラヤがあって、計算量が大きいため動作が重く、おまけにVORの受信感度も悪かったため、かなり機体が暴れました。
 特にAtlasの表示倍率を変えたり、手動スクロールしようとすると負荷がひどく。1秒あまりの停止後、機体は左垂直旋回に入って2旋転。あっという間に数千フィート落下し、山に衝突寸前でした。つくづく、高速のパソコンが欲しくなります。

 …というわけで航法の精度が狂ってしまい、先ほどの「簡易大圏コース」の飛行テストは台無しになりましたが、いずれまた、試してみる機会はあると思います。
 国境を越えてインド領へ。途中、お釈迦様の生誕地のそばを通ったはずです。処理を軽くするためAtlasを放棄し、航法の楽なラームライン方位に切り替えて、デリーへの旅を続けました。

●どこまで続く、カラコルム:
 デリーの市街地はさすがに大きく、事前にGoogle Earthで見ると放射状に街路が走り、ヨーロッパの街を思わせました。植民地時代に英国の技師が、張り切って設計したのでしょう。
 インディラ・ガンジー空港上空で変針し、カラコルム山中の「Leh VOR」に機首を向けました。デリーのVORは非常に強力で、230nmくらい離れても、なお時々DMEが入って便利でした。

 平野と農地が山岳に変わり、時々雪景色の交じるパミール高原が続きます。なかなか素晴らしい風景です。ふと気が付くと、谷の形がV字ではなく、氷河にえぐられたU字型の「カール谷」に変わっていました。もうすぐ、インダス川の上流部があるはずです。簡易GPSの代りにHUDを起動して、緯度経度を読みながら北へ。ある谷でインダス川が確認出来まして、ちょっと感動しました。これを越えると、カラコルム山脈が始まります。

 徐々に高度を上げて、すでに20000ftあまり。エンジン全開ですが気速は187Ktがやっとです。機体の揺れは相変わらずで、特に長周期のピッチングがひどく、修正してもすぐ再発し、ほとんど酔いそうな気分です。カラコルムは、チベット高原よりずっと狭いものの、途中に平野がなくて緊張が解けず、非常に疲れました。

●標高10000ftの高地で給油:
 ブロンコ改は峰々の間を抜け、Leh VOR上空に到着。左後ろの谷のどこかに、Tholsa空港があるはずです。
 視界を後下方に振って、Xキーで倍率を上げると、もや越しに滑走路が視認できました。深い谷底ながら、あの空港の標高は10046ftです。空気が薄いのを承知で、慎重に降りるか。安全策を取り、砂漠の都市・和田(ホータン)まで行って、路上で臨時給油するか。ちょっと悩むところです。
 路上給油は以前、アンデス山麓で経験済みです。でも標高10000ftの空港に降りる機会は、めったにありません。やはり、ここに降りてみることにしました。

 谷間の空港だけに、進入は一発勝負です。用心のためフラップを一杯に降ろし、一気に滑走路を狙って降下。ちょっと強引ですが、150Ktで滑走路末端を通過。3000m級滑走路ですので、着陸帯の標識が過ぎても、滑空を続けて減速を待ち、普段より速い120Ktで接地しました。エプロンに入れて、エンジンをカット。腹ペコで操縦してきましたので、給油の後で晩飯を食べました(^^;)。

     ○

 満タン後の離陸には、気を遣いました。40秒以上滑走して、ようやく150Ktまで加速。上げ舵を取っても機首が浮かず、とっさにフラップを全開にして地面を離れました。
 機体が重いうえ、空気が希薄で上昇力が不足し、なかなか谷から出られません。片方の山腹に寄り、谷間を幅一杯に使ってUターン。次の中継地へ機首を向けるまでは、迫り来る山頂を、左に右に避けながら、稜線の低い部分を狙っては飛び越える、必死の上昇が続きまして、非常にスリルがありました。

●砂漠に刻まれた、河床と道路:
 LehのVORは出力が弱く、すぐ表示が途切れがちに。23000ft付近を、アップアップしながら飛んでいますと、地形データの継ぎ目か、パソコンの負荷が溜ったのか、どかんと機体が揺れて機首が跳ね上がり、あっという間に失速しました。
 とっさにフラップを全開、ポーズを掛けてセーブし、後で高度と速度の数値を書き直そうと思いながら、試しに飛行を再開したところ、機体は水平姿勢のまま落下して(これはブロンコの特性)、ピンぼけの山腹が迫って来ました。

     「ああ、こうして人知れず、死ぬのか」

と、実機でしたら思うのでしょうね。ところが機体は、山腹に潜った後、間もなく正常な空中へ飛び出しました。なぜかここは、衝突判定がなかったようです(^^;)。
 …肩で息をしている間に、機体は無心に飛び続け…目の前を塞ぐ高山が姿を消し、緩やかな丘陵地帯の上に出ました。やっと、カラコルムが終わったのです。

     ○

 緑の平野が、入り江のように湾曲し。そこから白っぽい「海」が広がっています。砂の「海」は間もなく、サーモンピンクの砂丘群に姿を変え、タクラマカン砂漠の始まりを告げます。
 砂漠の南の街、和田(ホータン)は、割に大きな地方都市。そこから一筋の川が砂漠に伸びて、やがてグレーの枯れ川に変わり、微かに蛇行しながら北へ向かいます。
 これは毎春、カラコルムの雪解け時期だけ水が流れる、ホータン川です。砂漠に飲まれて海には届かない、内陸河川というやつですね。河道の横には自動車道路が延びていて、たまに村落があります。私はそれらに導かれるように、北上を続けました。「タクラマカン」とは、「死の世界」といった意味らしいですが、どこで故障しても、道路に降りれば助かるな、という安心感があり。スナップショットを撮って、たっぷり旅情を楽しみました。苦心はしますが、やっぱり旅は楽しいです…。


●三蔵法師の足跡:
 やがて道路や河床と別れ、サーモンピンクの砂の海を、飛び続けること250nm。緑の大地が広がって、その彼方に天山山脈が姿を現しました。Kuqa(クチャ)VORを通過して北東へ変針し、烏魯木斉(ウルムチ)へ。右翼の下に、一本の道が併走しています。これはシルクロードの一部、天山南道です。
 三蔵法師は、ここから東へ3000キロあまりの長安(現在の西安)を発って密出国し、はるかインドをめざしました。眼下に見えるのは、彼が往きに通った道です。
 ブロンコ改はやがて、天山山脈を翔破。険しい山並みで、三蔵法師が多くの従者を失った、というのも分かります。彼自身、生還の可能性は1割程度とみていた、という説を読んだことがありますが、経典を持ち帰って人々を救済するという、極端に利他的な旅だったからこそ、逆に耐えられたのでしょう。(唐突ですが、どこか「宇宙戦艦ヤマト」にも似ているような…)

 …私はゴダイゴの「ガンダーラ」と、ヤマトの「真っ赤なスカーフ」を小声で歌いながら、最後の178nmを飛んで、烏魯木斉(ウルムチ)へ到着しました。実世界では人口200万人の街で、空港の輸送扱い量は、中国でも五指に入るのだそうです。

 このあと、カザフ共和国方面へ出ますが、その前にもう少し、タリム盆地を探検してみようと思っています。
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