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Re: 手探り航法・旅日記

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通常 Re: 手探り航法・旅日記

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78
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2007-9-2 9:02
hide  長老 居住地: 兵庫県  投稿数: 650
hideです。
 極東の旅を続けます。今回は平壌空港を出発して、黄海に突き出した遼東半島の都市・大連を経由し、北京に向かいます。

 余談ながら…私の住む松山市には今春、司馬遼太郎の小説の記念館「坂の上の雲ミュージアム」が開館しました。私はもちろん戦争はまっぴらですが、歴史の動きや時代の雰囲気が分かるので、戦史などを読むのは好きです。
 開館をきっかけに読み返した「坂の上の雲」にちなみ、今日はコースの途中で、遼東半島にある日露戦争の古戦場・旅順を空から見学してみたいと思います。
 フライトプランは、以下の通りです。


■歴史が眠る、遼東半島をゆく■(平壌〜北京)
 マップデータ:e120n30
        e120n40
        e110n40
 以下は磁気方位。偏差は空港ごとに記載。

◎平壌空港(NDB 402)
     N39°13'26.62"-E125°40'12.54"
     RWY008-188,350-170 偏西8度。
    ▼323度89nm
★Dandong(丹東)VOR(113.90)
    ▼247度150nm
◎大連空港(VOR 112.30 NDB 414)
     N38°57'56.40"-E121°32'18.96"
     RWY10/28 標高107ftm、偏西7度。
    ▼237度16nm
△旅順口(N38.57.59-E121.32.18)
    ▼297度138nm
◎Luanxian VOR(天津市、117.10)
     N39.44.17-E118.43.37
 近くに天津・Binhai空港(Tianjin VOR 112.10)
    ▼289度100nm
◎北京空港(VOR 114.70)N40.04.14-E116.35.52
     RWY18R/36L 18L/36R 標高116ft 偏西6度。
 計493nm。

●平壌を出発、さっそく航法トラブル:
 平壌の天候は、5500ftに「Scatterd」の雲、西寄りの風1Ktと、今回も上天気。燃料は機内タンク(2072Lbs)満タンに加え、補助タンク(4554Lbs)にも、たっぷり4150Lbs残っています。

 国際空港の北滑走路から、北に向けてエンジンを全開。離陸後、場周経路を左回りに一周し、4000ftに昇りながら北滑走路中央の上空に戻って、次の中継地・Dandong VORに向け、コンパスの針を340度にセット。距離を稼ぐため、すぐ2倍速にしました。

 雲の下に広がる北朝鮮の、低い丘の連なりと田園は、日本の地形データとかなり似て見えます。しばらく快適に飛び続けましたが、VOR指示器の振る舞いがおかしい。いくら針路修正を重ねても、局の方位を示す指針が、左へ寄ってしまうのです。
 風の影響はないし。うんと高緯度ですと、飛行時間とともに方位に誤差が出るでしょうが…それでもなし…と、かなり悩んだすえ、やっと計算ミスに気が付きました。「ABUNAI航法」を使って、最初から磁気方位でコースを決めたのに、緯度経度から真方位の針路を算出したと勘違いして、偏差を二重に足していたのでした(前掲のフライトプランでは、修正済みです)(^^;)

 NAV1の設定を、左へ7度修正。急に落ち着いた計器にホッとしながら、Dandong VORへ飛行を続けます。

●鴨緑江を越えて、遼東半島へ:
 飛行コースは、いったん黄海に出て再び陸上へ。広い海岸平野を30nmほど進むと、前方に大河が見えてきました。広大な中州を幾つも抱え込み、ゆったりとうねって流れる、大陸的な顔をした川。これが中朝国境の、ヤールー川(鴨緑江)なのですね。スケールの大きな眺めに、「やっぱり旅は、いいなあ」と呟きながら西へ。この川の源流は、はるか約700キロ先の白頭山だそうです。

 1倍速に落として、中国領に入ります。ふと気が付くと、たくさんの鉄道橋や道路橋が両岸を結んでおり、なるほど北朝鮮と中国は関係が深そうですね。約10nm進むとDandong VORがあり、直前で左に変針して、機首を150nm彼方の大連に向けました。大連のVORは強力で、この距離から感度があり、DMEも時々受信できます。燃料節約のため、10000ftをめざして上昇を開始しました。

 …いま飛んでいるのは、遼東半島の付け根です。広い海岸平野の上でZキーを使い、あまりパソコンが重くならない範囲で、もやを少なくして視程を広げました。やがて海に出て、陸岸から付かず離れず、といった感じで西南西へ進みます。

     ○

 黄海に突き出した、サイの角みたいな遼東半島。
その先端に近い南岸に広がるのが、大港湾都市の大連です。現在の市域は半島のほとんどを占め、人口は約650万人。昔から造船などが盛んでしたが、今は携帯電話も量産しているそうです。
 市街地の空港上空でVOR通過を確認、さらに半島の先端方向を眺めると、はるか地平に細く奥深い湾が広がって、その後背地に低い山々が連なっているのが見えました。

       「あれが有名な、旅順かぁ」

 旅順の湾は天然の良港で、清国やロシアの軍港に使われ、日清・日露戦争で激戦地になったところです。
 ここを飛ぶ機会は、めったにありませんので。今日は「なぜ日露戦争で、旅順が戦いの焦点になったのか」「旅順の攻防戦で、203高地と呼ばれる山が、最大の激戦地になったのはなぜか」を、主に地形の面から考えてみたいと思います。

     ○

 FlightGearにポーズを掛け、Atlasを広域倍率にしてみますと、遼東半島は中国の「首都圏」華北地帯を、外洋から隔てる防波堤のような位置にあることが分かります。
 もしあなたが19世紀の、どこかの国の海軍の総司令官なら。半島先端の旅順に強力な艦隊を置けば、華北一帯の海運をコントロールできるばかりか、広く極東一円の海にも、にらみを利かすことができそうです。ただし背後の攻撃から軍港を守るため、堅固な要塞を併設する必要がありますが。

 清国とロシアが試みたのが、まさにこれでした。清国は19世紀の終わりごろ、旅順に近代的な艦隊の司令部を建設。いったん日清戦争で日本がこの清国艦隊を破って、遼東半島を手に入れましたが、その後ロシアがドイツ、フランスと共同で、日本に圧力を掛けて返還させ、今度はロシアが見返りに遼東半島を租借。旅順に太平洋艦隊を置き、背後の山々を要塞で固めました。

●あの「203高地」を空撮:
 ここで「そもそも、なぜ日本とロシアが戦争をしたのか」も、おさらいしておきましょう。ただし両国の関係史に踏み込むと大変ですので、ごく簡単に、

 (1)産業革命で、少数の近代工業国家が生まれ、巨大な資本主義のエンジンが始動。商品とカネとヒト(実は、人口も一気に増えた)を、洪水のように生み始めた。
 (2)そこで工業国には、これらの消費・投資先(いわゆる植民地)と原料供給地を海外に求める、巨大な「浸透圧」のようなエネルギーが発生。仁義なき植民地争奪戦に走った。
 (3)日本とロシアは、遅れてこの競争に参加。まだ割り込む余地のありそうな、中国北部や韓国を目標に選び、やがて満州で両国の利権が激突した。

 …と一応、考えておくことにします。でも、なぜ日本とロシアが戦うと、旅順が注目されるのでしょうか。以下は、ほぼ「坂の上の雲」の受け売りです。

     ○

 日本とロシアの陸軍が満州で戦う場合、ロシア軍はシベリア鉄道で兵士や武器弾薬を補給できますが、日本軍は海上輸送に依存します。もし旅順のロシア太平洋艦隊が海上封鎖に成功すれば、日本陸軍は大陸で孤立し、負けとなります。つまり日本近海の制海権が、戦争全体のカギを握ったわけですね。

 緒戦は主に、旅順のロシア艦隊と日本海軍が戦い、一進一退の攻防のすえ、ロシア艦隊は決戦を避け、旅順港内に立てこもります。ここでロシア政府は、バルト海から大規模な本国艦隊(バルチック艦隊)を増援することにしました。
 両艦隊が合流すれば、日本海軍に勝算なし。そこで陸から旅順を叩こうと、陸軍が攻略しましたが、要塞へひたすら突撃を重ねる古い戦法のため、当時の新兵器・機関銃に阻まれ、多くの戦死者を出して膠着状態に陥りました。

 日本陸軍は作戦を見直し、要塞地帯のうち港内が一目で見渡せる、標高203mの小さな山・通称「203高地」に着目しました。ここを奪って観測点を置けば、測量による間接照準で、山越しに市街地と、港内の艦隊を砲撃できるのではないか…。
 凄惨な戦闘のすえ203高地は占領され、市街地への砲撃で戦いの流れが変わり、要塞全体が陥落。日本側がにらんだ通り、203高地こそ旅順の「アキレス腱」だったのですね。
 港内に停泊中のロシア艦隊も、砲撃を受けて全滅。長らく湾口に張り付いていた日本艦隊は、ようやく佐世保に帰って整備を行い、バルチック艦隊との決戦に臨んだ…と、司馬氏は語ります。

     ○

 FlightGearの地形データは、わりに正確ですので、この有名な203高地とは、一体どんな場所で、港はどう見えるのか、私はぜひ一度、機上から眺めてみたいと思いました。
 幸いGoogle Earthの衛星画像に、203高地の正確な地点が載っていました。Atlas画面やFlightGearの風景と見比べて、それらしい山を特定。海から降下しつつ湾を渡った私は、この小さな山頂を南から1000ftで飛び越え、スナップショットを撮りました。

 203高地は想像したよりも、なだらかな丘陵で。ここから市街地をはさんで望む港内も、予想より遠くに見え。「見下ろす」と言うより「はるかに眺める」感じです。
 ロシア太平洋艦隊が立てこもった湾は長さ2nmで、湾口は幅0.4nmしかありません。日本海軍は、ロシア艦隊が出てこないなら、出口を封鎖して閉じこめようと暗夜、数隻のボロ汽船で突入して自沈する作戦を展開しましたが、失敗。指揮官はロシアに駐在武官として滞在した経験があり、ロシア語が堪能だったので、ブリッジにペンキで「ロシア海軍の諸君。自分は日本海軍の○○である。閉塞作戦が成功するまで、何度でもやって来るぞ」と大書して脱出し、ボートで退却中に戦死しましたが、この時代はまだ、ある種の「騎士道」が残っていたのでしょうね…。

 しかし日本とロシアが、他人の領土=中国領=に出かけて行って、勝手に大げんかをするというのは…幾ら外交ルートで「正式に中国に断った」とは言え、すごいお話です。
 晴れた空のもと、「夏草や、つわものどもが、夢の跡」…といった雰囲気の、静かな風景の中を飛ぶと、両軍の兵士や、巻き添えとなった多くの中国の人に、花束を投下したい気分でした。

●五輪バンザイ? 超巨大な…北京の空港:
 旅順の後背地から急上昇に転じ、天津にコースをセット。今回もVOR指針が大きくずれるので、しばらく悩んだすえ、周波数の設定ミスと判明。どうも勘違いが多いフライトです。しかしそれ以外にも、どうもコースのドリフトを感じます。次回以降の飛行で、このへんを詰めてみる必要がありそうです。

 渤海を飛び越えて、中国本土の海岸線を横断。あと100nmで北京です。引き続き10000ftを2倍速で、さまざまな色合いの耕地や、川の上を飛んでいきます。まっ平らで、広大な平野。日本では関東以外には、こんな眺めはないでしょう。
 北京国際空港の30nm手前から、高度を下げて1500ftをめざし、1倍速に落とします。眼下には、いつの間にか鉄道線路や道路が増え、それがみな、北京に向かって伸びています。私はコンパスに頼るのを止め、線路に沿って飛び始めました。

 まさに「どっかーーーん」という感じで、地平線に大都会が出現しました。北京市街地の手前で北に変針し、VORを捉えて空港へ。滑走路が2本、南北に伸びています。東側の主滑走路(3800m)を選び、目視で進入。スムーズに着地してエプロンに乗り入れ、エンジンを停止しました。
 今日使った燃料は2107Lbs。飛んだのは493nm。1Lbsあたり0.2339nm。ここから最大航続力を出すと、約1540nm。小さなプロペラ機としては、なかなか優秀ですね。

     ○

 ところで、この北京空港がまた、でっかいのです。
西隣の滑走路(3500m)までは約1.5km。FlightGearの中では、両滑走路の間に標高数十mの丘がありますが、実世界ではこれは取り払われ、すでに全長3キロ(!!!)に及ぶ、巨大なターミナルビルが建っています。
 衛星写真で観察すると、建物だけで松山空港の敷地くらいありまして、オリンピックを前に、いかに中国が張り切っているか、よく分かります…。(しかし、深刻な水不足や食糧の安全性、それに公害。だいぶ悪口を言われていますが、大丈夫かな?)

 次回は、みっちりと航法の練習をしながら、黄河流域を西に向かう予定です。
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